BRAVE10S   作:花札

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甚八を捜しに、淡路国へ来た十蔵。捜索中に、突然自身の名を知る二人の女に出会った。


「……十蔵様!」

「そうです!奥様!旦那様です!」

「……


今はもう、夫婦ではない……藤次」

「で、でも」

「……


申し訳ありません、お侍様。

当家の女中が、失礼を致しました。私の前の主人と人違いをしたようでございます」

「奥様!」

「いや、某が人を訪ね呼び止めたのだ。怒ってやるな」

「捜し人がおありなんですか?それでこの地に?」

「うむ……しかしこの地にはおらんようでな」

「でしたら、そこの山の上の神社……そこに参って行かれてはいかがでしょう?

お武家様に、ゆかりの深い軍神・経津主神(フツヌシノカミ)が祀られております。捜し人を見つける助力となるやも知れません。


願いが叶うと評判なんですよ。よろしければご案内いたします」

「じゃあ私、お魚買って先帰ってますねぇ!」

「おい、藤」


呼び止めようとしたが、残った女は笑みを浮かべて自分を見ていた。


森を歩く十蔵と女……すると女は口を開き話し出した。


「昔、お武家様によく似た背中をよく見ていましたわ」

「……」

「独り言です。

その方は、とても真面目で誠実で、立派なお方でございました。火縄の扱いに長けていて、数々の武功を上げていらしたの。


でも、余りに誠実過ぎて国を追われてしまった」


『駄目だ!米が全滅じゃあ』

『このままじゃ、皆飢え死にしてしまう』

『上納米が多すぎるんじゃ!殿は俺等百姓に死ねと言うとるんか!!』


飢えで泣く子供を目にした、若い頃の十蔵はすぐさま殿に申し出た。


『殿!

今年は例年にない不作!!上納米を減らすべきです!!
このままでは、百姓が飢え死にしてしまいます!!そうなれば、国は成り立たぬのですぞ!!』

『嫌じゃ。

百姓など、米を作るしか脳がない者共が、それすらも出来ぬとは……情けなど無用ぞ、十蔵』

『……殿!』


数日後、百姓による一揆が起き数名の百姓が捕まった。


『侍に盾突く身の程知らずが!!首謀者は斬首にせよ!!』

『此度の一揆の首謀者は、この十蔵です!!

責は某一人にあり!!』


「そのお方が首謀者ではないのは明白……

処分に困った主家は、そのお方を追放なさったの。


私にも迷惑が掛かるからと離縁して……

たった一人で、全て背負い国を離れて……残された私のこと何か考えてもくれなかったんですよ」

「……」

「今のは恨み言です。

ああ、着きましたよ」


森に囲まれた小さな社に、十蔵達は辿り着いた。女は社の奥へと行った。そして縁の下にあった物を取り出した。


「鹿(カ)……!?

そ、それは……まさか」

「別れた夫が置いていった物なのです。主から賜った物は持っていけないと……

とても大切にしておりました……


これ……お持ちいただけませんか?」

「いや……しかし……」

「お持ちにならなければなりません。何か大事があるのでしょう?

でなければ、この国に寄るなどとなさらないはず」

「……




すまん」

「共に連れていって頂けましたら、この主を失った銃も救われます」


女から銃を受け取った十蔵は、肩に掛け後ろを振り返った。そんな彼に女は声を掛けた。


「あの……


貴方様は、どなたかにお仕えに?」

「ああ……信に足る素晴らしいお方に出会えた」

「……そう……

それはよかった」

「風が冷えてきた。早く家に戻られよ」


振り返らず、十蔵は歩み出した。去って行く十蔵を眺めていると、後ろから十蔵によく似た少年がやって来た。


「母上!!

藤次が母上を迎えに行ってくれと!いいものが見られると言っていましたが、何かあるのですか?」

「まあ……藤次ったら……」


その時、冷たい風が吹いた。風を防ごうと少年が手を挙げるとその手に冷たい水が当たった。


「母上?」

「ほんに冷たい風……目にしみること……


一人で背負って、どうしようもない方……」



某所廃寺……

岩に書かれていた字を読んだ才蔵に、六郎は話した。


「才蔵……何か考え違いを……」

「してねぇ!六郎さんも識ってんだろ……

いいや、アンタは一番分かってたはずだ。失くしたあの眼……あれは全てを記憶する、真田の古文書も俺が見た出雲文字も、憶えていただろう全部」

「……


若」

「……


才蔵」
「「で?どうする?」だろ?


テメェの言う事は、もう分かってんだよ。

俺に委ねているように見せかけて……それしか答えがねぇと知っていて選ばせる。それが、どんな険しい道でもだ」

「うむ……」

「……でもな、どうするもこうするも、もうねぇんだよ!!

俺は!伊佐那海を叩き起こして、蕎麦の借りを返すだけだ!」

「?」

「蕎麦?」


才蔵の言葉を理解できない大助と半蔵は首を傾げたが、思い出したのか六郎と幸村は大笑いした。


「そういえば、まだ返してなかったか」

「是!不甲斐ない!」


探索から帰ってきた佐助は、話を聞いていたのか才蔵を見たながら言った。


「うっせぇな佐助、これから返すんだよ!」

「よーし、それでは皆で才蔵が借りを返すのを見届けよう!」

「ついでにオッサンの兄貴も助けてやるよ」


能舞台

紀州・九度山……

 

 

「頭、痛ぇ……

 

飲み過ぎた……か……」

 

 

頭を抑えながら、幸村達を見張っていた侍は起きた。だがそこにいるはずの幸村達の姿は無く、急いで家中を探し回ったが、既に物家の空だった。

 

 

「真田は!?真田幸村はどうした!?」

 

「……真田ぁ?いねぇのかぁ?」

 

「こりゃあ大変だ」

 

 

幸村達の脱走は、すぐに江戸に住む徳川の耳に届いた。

 

 

「逃げられただと!?」

 

「……その様でございます!!」

 

「小癪な奴め!」

 

「丁度いいじゃありませんか。自ら脱走の罪を犯したのなら、申し開きも出来ませんし、堂々と処刑できる。

 

それに奴は、きっと奥州に向かったのです」

 

「お前に言われずとも、分かっておるわ!!」

 

「……」

 

「真田と伊達は互いにつぶし合えばいいのだ!目の上のコブが、一気に取れるというもの!!

 

 

コブが取れたら……後は詰むのだ」

 

(俺が絵を描いたんだろうが……

 

クソ親父が……いつか殺す)

 

 

 

奥州・青葉城。

 

真田信之陣。

 

 

「伊達、未だ陣を布かず。動きが全くありません!!」

 

「どういうつもりでしょう……籠城でもするつもりでしょうか」

 

「あの男がか?あり得んな」

 

『ヌリィな!!テメェ等!!』

 

「そうでございましょうね」

 

「……優助はどうした?」

 

「先程までその辺りにいましたが……姿が見えません」

 

「こういう時の策略は、あいつが一番適しているのだが……どこへ行きおった」

 

 

「申し上げます!!青葉城の城門が、ひ……

 

 

開きました!!」

 

「!?」

 

「誰かが門の上に登っています!!」

 

「何者だ!?」

 

 

「オーオー、見事に陣張ってやがる。

 

 

遠路はるばるご苦労だな!!

 

狸爺に言われて、わざわざ俺にヤキ入れて来たってか?

 

パシリとは情けねぇな!!真田信之!!」

 

「……アイツ」

 

「テメェと一戦交えてもいいんだけどよ!!生憎、俺は今結構忙しくてな!!わざわざ陣立てとか、やってらんねぇのよ!!」

 

「知ったことか!!」

 

「そもそも下っ端の兵隊戦わせて、勝ち負けが決まるってぇのも面白くねぇ!!

 

侍ならよ!!己の剣に総てを掛けて、雌雄決するのが乙ってもんだろう!!」

 

「……」

 

「戯言です」

 

「大将ってのは、上から指図するばかりで、己で戦えねぇ腰抜けばかり!!狸爺何て最たるものだ!!

 

その使いっ走りやってるテメェなんざ、それ以下だよ!!その無駄にデカイ図体は飾りか!!」

 

「……よかろう!!」

 

「信之様!!」

 

「奴には借りもある!一騎打ちは望むところ!」

 

「そう来なくっちゃなぁ」

 

 

その時、信之と七隈の足下の影が伸び二人を闇の中へと引きずり込んだ。

 

 

「テメェ等、招き入れてやるぜ!」

 

 

 

城で待つ小松……その時湯飲みに皹が入り、その皹を見た彼女は不安を感じた。

 

 

 

青葉城の中へ連れ込まれた信之と七隈……七隈は手に持っていた長刀を構え起き上がった。

 

 

「ここは!?」

 

「妖の力を手に入れたというのは、誠であったか……」

 

 

「なかなか面白い能力だろ?」

 

「!!」

 

 

背後に立っていた政宗は、刀を二人に向かって振り下ろした。

 

 

「舞台に迎え入れてやったぞ!!舞えよ!真田!!」

 

 

振り下ろしてきた刀を、傍にいた七隈は持っていた長刀を突き出し攻撃を防いだ。

 

 

「軽い!!

 

何事も軽い男よ!!伊達政宗!!己が今、何をしているのか省みてみよ!!」

 

「弟と違って随分説教臭ぇなぁ!!」

 

「お主の所業は、欲しいものをズルをして手に入れようとしている童(ワッパ)のそれだ!!

 

無暗やたらに、方々の国に戦を仕掛け、手中に収めるなど単なる野蛮な行い!!

 

だがら紫苑と優助から嫌われるのだ!!」

 

「あ!?」

 

「粛正は当然!!」

 

 

七隈の手に持っていた長刀の束を握り、鞘から刃を抜いた。

 

 

「いいねぇ!!

 

やれる男は好きだぜ!!」

 

 

振り上げてきた政宗の刀を、信之は握っていた長刀で振り払った。

 

 

「剣筋も軽い!!薄っぺらい剣だ!!

 

己をよく表しているな!!政宗!!」

 

(速っ!!)

 

 

ガラ空きになっていた政宗の肩から腹に掛けて、長刀を勢い良く振り下ろした。切り裂かれた体から血が噴き出し、束を握り替えた信之は、横に振った。だがその瞬間、長刀は政宗の背後から姿を現した成実(シゲザネ)の槍に止められており、そして背後から槍を持った綱元が信之目掛けて振り下ろそうとした。その男を七隈は、六郎と同じ技を使い攻撃した。

 

 

「「海野」か!!」

 

「信之様に手は触れさせません!」

 

「諸に食らってんじゃねぇよ!この馬鹿が!!

 

 

 

 

おい……政宗!?」

 

 

ピクリとも動かない政宗に、成実は大声を出した。

 

 

「おい!!返事しろ!!」

 

「無駄だ……

 

 

私の剣が、しっかりと肉を捉えた。起き上がるのは、まま成るまい」

 

 

「この阿呆が……」

 

 

その声が聞こえ、成実が後ろを振り返ると怒りを露わにした小十郎がいた。

 

 

「調子に乗るから、この様な事になるのだ……」

 

「小……」

「伊達三傑か……無能な主に仕えるには、惜しい男達よ。

 

大人しく江戸に参上して申し開きをせよ。そして己等武士らしく腹を斬れ!」

 

「小十郎!この出血はヤバイ!」

 

「殿が倒れられたら……」

 

 

その時、背後から異様な気配を感じた七隈は、信之を押し倒しどこからか放たれた攻撃に当たった。

 

倒れた七隈に気を取られた信之の背後から、七隈を攻撃した同じ技を背中に当てられた。

 

 

(見え……な……

 

何だ!?)

 

 

後ろを振り返ると、雲と共にあの素戔嗚尊が姿を現した。倒れていた七隈は、すぐに立ち上がった。

 

 

「お逃げ下さい!!信之様!!」

 

「七隈!!」

 

 

「もう遅いわ……もう逃れられぬ」

 

 

七隈と信之が座る床が黒い影に覆われ、そこから黒く染まった棘が生え伸び、信之達を串刺しにした。

 

 

「フフフフ……捕まえた」

 

 

棘の山を操る伊佐那美……

 

 

「いーい具合に、引っ掛かってくれたなぁ」

 

「ん?」

「へ?」

 

 

聞き覚えのある声に、綱元と成実は後ろを振り返った。出血で倒れていたはずの政宗が、何事もなかったかのようにして起き上がっていた。

 

 

「政宗!?」

 

「ふいー」

 

「おま……それ」

 

「血・の・りの詰め物。いーい演技だったろ」

 

 

真実を聞きキレた成実は、政宗の頭を思いっ切り殴った。

 

 

「身内まで騙してどうすんだ!!この阿呆!!」

 

「てぇな!!シャレぐらい分かれよ!!」

 

「殿……」

 

「……お膳立てだよ、お膳立て!!

 

 

この俺を滾らせんのはコイツじゃ、物足りねぇんだよ」

 

「……真田幸村ですか。奴は九度山で不抜けたと専らの噂。この奥州に来るはずもない!殿は奴を買い被りすぎているのです!」

 

「分かってねぇなぁ。

 

 

あいつは来る!

 

あの女共を「神」と分かってて最初から、懐に入れてた様な奴だぞ!そんな男が黙っているかよ。

 

 

奴は絶対に来る!!曲者が曲者引き連れ、この奥州に!!

 

関ヶ原何て、生温い茶番なんかじゃねぇ!!こっから真の戦だ!!」

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