信之達が政宗に捕まった頃……
優助は奥州の森の中にいた。森の中にある広場へ出た時、一人の者が空から降りてきた。その者の姿を見た優助は目を疑った。降りてきた者は、彼を見ながら不敵な笑みを浮かべ、そして口を開いた。
「久し振りねぇ……優」
「まさか……紫苑…ですか?」
「さぁ……
あなたがそう思うなら、そう思っていればいいわ」
「……紫苑ではありませんね。
彼女の体を借りて、あなた何を企んでるんですか?」
「闇の増幅」
「闇?」
「伊佐那美がもし、黄泉の国へ帰ったら私がこの世を元の自然だけの世界にするのよ。
人などいなかった自然の世界にね……」
「……その夢を叶えるが為に、紫苑の体を借りたと?」
「……あなたもそうでしょう?」
「……」
二人の姿を、移動していた明日花は足を止め、背中から生やしていた木の根の羽を引っ込ませ、その光景を見た。
(母さん……何で、父さんが?)
顔に着けていた面を外し、明日花は二人を見つめた。その時、背後の木から後を着いてきていた晃三が、鞘から刀を抜き明日花に攻撃した。彼の気配を感じた明日花は、すぐに腰の鞘から刀を抜き攻撃を防いだが、受け止めた勢いのまま優助の元へと飛ばされた。
突如飛んできた明日花を、優助は慌てて受け止め前を見た。茂みから出てくる晃三……
(晃三さん?!)
「晃三……何で?」
「よくやったわ、晃三……
いいえ……蛭子(ヒルコ)」
「蛭子……!?まさか」
「そう……伊佐那美が産み落としそして、神になれずに死んだ哀れな子」
悪戯笑みを浮かべながら、晃三は紫苑の隣に立ち並んだ。明日花は優助から離れ、彼の横に立ち晃三を見た。
「全ては計画通り……
お前(明日花)が、伊佐那美に会ってくれたおかげで、俺の手間が省けた」
「どういう……事?」
「闇を増幅させるには、闇の女神の傍にいた方が手っ取り早い……出雲大社に妙な力を持った赤子が拾われたって聞いてねぇ」
「闇を増幅って……」
「昔……戦場に一人の赤子が捨てられていたわ。
泣き叫ぶ赤子の上には、血塗れになり動かなくなった人が一人……赤子は、この世を恨んだ。命の火が消えかかっていた時、私は赤子に質問した。
『私の力が欲しいか?』って……赤子は答えた。『欲しい』と……私はその赤子の魂に付き生きた」
「まさか……その赤ん坊が」
「そのまさか……お前達二人がよく知っている。
光阪紫苑だ」
「!?」
「さぁ明日花……こちらへいらっしゃい。
その体を、私に頂戴」
手を伸ばし不敵に笑う笑みに、明日花は怯えた様子で後ろへ下がった。
「どうしたの?
あなたは、久久能智神と融合したんでしょ?」
「……」
何もない白い空間……そこに明日花は立っていた。目の前にいたのは、悲しそうな目で自分を見るもう一人の自分……
その事を思い出した明日花は、首を左右に振り目付きを変えて紫苑達を睨んだ。
「……蛭子、あの子融合してないみたいよ」
「おかしいなぁ……確かにしたと思ったんだけど」
「融合はしてる!でも、この力は伊佐那海を止めるため……上田に彼女を戻すための力だ!!」
「戻す?
アハハハハハハハハ!!」
「何がおかしい!!」
「おかしいわよ!
今持ってるあなたの力が、伊佐那美を止めるですって?そんな力、久久能智神にあるわけ無いでしょ?」
「!?」
「あなたのその力は、私に相応しい身体を作るために手に入れたもの……その力を優助と紫苑、更に神主まで見抜き、あなたにその首から下がっている幸魂(サキミタマ)で封じた」
「……」
黙り込む明日花……その時、隣りにいた優助は彼女の前に立ち紫苑達を睨みながら言った。
「あなたが明日花の闇だというのであれば、僕はあなたを消すまでです」
「!」
「罪滅ぼしとは言いません……
一度でいいですから、父親らしいことをさせて下さい」
振り返りながら、優助は明日花を見た。彼の顔をキョトンとした顔で、明日花は見つめた。
「……私の邪魔をするのであれば、ここで始末するまでよ。
もちろん、殺すのは優助だけだけど……」
「そんなの、私がやらせない!!」
槍を持ち構え、明日花は紫苑に槍を振り下ろした。その攻撃を晃三は腰に掛けていた鞘から刀を抜き取り受け止めた。
「!?」
「悪いねぇ……もう、目は見えてんだ」
(そんな!)
「一族全員を殺してくれたおかげで、俺の目にようやく光が戻ったんだ……」
「まさか……私の力を呼び覚ますんじゃなくて、晃三の目を戻すために、皆を……頭を」
「その通り。いやぁ、初めは紫苑にやらせるつもりだったけど、まさか彼女に力が無くなるとは思わなかった……どうしようか途方に暮れてた時だよ……お前が紫苑達の所へ来たのは」
「……」
「けど、お前……まさか、一人を残すとは思わなかったよ」
「っ」
「一族を全員殺したその日の夜、お前生き残してた奴の所に行っただろ。そして治療し、そこから逃がした……」
「……」
『何……で』
血塗れになった刀と槍を両手に握る明日花……彼女の前には、顔と胸を斬られた銀之助が、目に涙を溜めその場に倒れた。目の前には一族の血塗れになった死体が、いくつも転がっていた。息を切らしながら、明日花は頬についていた血を手で拭い、刀に突いた血を振り落とし鞘へと戻すと、晃三の元へと行った。
『全員……殺したよ』
『……よくやったな、明日花。
もう少ししたら、お前にも準備に掛かってもらう』
『……うん』
その日の夜……晃三が寝ている隙を突き、明日花は起き一族達の死体が転がる場所へと急いだ。悪臭が漂う中、明日花は一人一人地面に埋め、墓を作った。作り終え花を添え終えると後ろを振り返った。
横になる意識の無い銀之助……彼の胸に耳を当てると、微かに心臓の音が聞こえた。禁術を使い彼を治した。
夜が明け、銀之助は顔と胸に傷跡が残った彼は道筋を見つめながら、振り返り明日花を見た。
『……』
『……もう、会う事はない』
『……』
『これだけ言っておく……もう、一族を名乗っちゃダメ。
別の名前を名乗って、生きて……』
『……』
『それから……もう、一族特有の技は使えない』
『……お前はこれからどうするんだ、明日花』
『……分からない。
けど、やらなきゃいけない事があるから、それ片づける』
『……待っててやる』
『え』
『やり終えたら、俺の所に来い。待っててやるから』
『……』
それだけを言うと、銀之助はそのまま振り向き道を歩いて行った。彼の後ろ姿を、明日花は見えなくなるまで見送った。
その事を思い出した明日花は、悔しそうな表情で晃三を睨みそして、槍を下ろした。その隙を狙い、晃三は刀を振り上げ彼女目掛けて勢いよく振り下ろした。彼の攻撃を、優助は刀を引き抜き受け止めそして手から水の技を出し吹き飛ばした。振り返った優助は明日花の頬を思いっきり叩き、そして抱き締めた。
「戦いの最中は……何があっても隙を作ってはいけないと教えましたよね?」
「……」
「過去の事を忘れろとは言いません……けど、敵の前で隙を作るという事は、命を失うという事です。
もう……失いたくないんです」
肩に一滴の水が落ちた……それに気付いた明日花は優助を見た。
「……父さん」
「紫苑を失った時、胸が張り裂けそうでした……ずっと、傍にいてくれたのに……何一つしてやれず、感謝の言葉もかけられず……」
「……」
「君まで失ったら、僕はこれからどうすればいいんですか……」
「……」
「親子水入らずで、話してる中申し訳ないんだけど……そろそろ始めていいかしら。こっちにもね、時間が無いのよ」
「父さんは母さんの相手を。私は晃三をやるから」
「分かりました」
立ち上がり、二人はそれぞれ武器を手に取った。それを見た晃三は刀を構え直し、そして紫苑は手から木の槍を出し構えた。
「さぁて……始めますか」
晃三の声と共に、三つの鉄が当たる音が森に響き渡った。闘う彼等の様子を、コノハは木の上から見つめていた。