生まれた時から、父の話を聞かされた。色々な人から、父の武勇伝を聞かされた。
(そんな話を聞いても……僕は父上の様になれないよ)
幼い自分の心に、穴が開き始めた……成長につれ、どんどん大きくなっていった。さらに自由自在に、水が出せるようになっていた。
誰にも相談が出来ず、一人で抱え込んでいた……無口無表情。その雰囲気から、やがて軍の中から孤立していった。
(このまま、孤独に戦場で死ぬのか……父上の様に、名を上げることなく……)
『名前なんて言うの?』
一人でいた時、声が聞こえた。振り返ると、そこにいたのは真っ白な髪を伸ばした自分と同い年の少女だった。
『名前!教えてよ!』
『……山本…優助』
『優助……へ~、いい名前ね。
私、光阪紫苑!よろしくね!』
紫苑は笑顔で、僕に手を差し伸べてきた……その手はとても暖かった。
彼女は、僕の能力を見てもチッとも怖がらなかった。それどころか、とても喜んでいた。
『もしかしたら、優って私達と同じかもね!』
『え?同じって?』
『私達光坂一族は、特殊な能力を持っているの!
火の能力、水の能力、土の能力、氷の能力、雷の能力、草の能力、風の能力、金の能力って全部で八つのあるの!
因みに、金の能力は、あらゆる銃を使いこなせるのよ!カッコイイでしょ!』
『え、えぇ。
紫苑はどの技が得意なんですか?』
『それがねぇ、私の能力は結構特殊なのよ』
『特殊?』
『この八つの力に無い力……木の能力なの』
『木?
その辺に生えてる、木の事ですか?』
『そう!
でも、一族の皆私の術のおかげで、スッゴイ大助かりしてるって感謝されてるんだ!』
笑顔で紫苑は嬉しそうにそう言った。その時思った……この人は、僕が守って行こうって……
月日は流れて行き、僕等は結婚を約束した……一族のお頭も、晃三も、僕等のお頭も、皆……祝福してくれた。
だが、運命は残酷でした……
闘いの中、紫苑は僕を庇いお腹に敵の矢を受けた。急いで彼女を連れて、アジトへと戻った。
どうにか命は助かった……けど。
『……産めない?』
医療班に回っていた一族のくノ一から、お腹にいた子供は亡くなり、さらにもう子供は産めないと紫苑は聞かされた。その時、僕も一緒に聞いていた。くノ一が去った後、紫苑は体に掛けていた羽織を強く握った。
『……紫苑』
『何で……何で……』
『紫苑……』
『ゴメン、優……あなたの子供……私達の子供……産めなくなっちゃった』
手で顔を覆い、紫苑は泣いた。決して人に涙を見せない紫苑が……悔しそうにして泣いていた。
それからしばらくして武田は滅んだ……
僕等の約定は破棄……光阪一族が世話になっていたという、神社へ僕と紫苑は移った。
そこから、僕等の体には硬い……硬い鎖が絡み付いた。
けど……あの子が来てくれたから……鎖は解かれた。
明日花……僕と紫苑の……
額から血を流し、息を切らす優助……目の前には不敵な笑みを浮かべる紫苑が槍を構え立っていた。
「しぶといわね……」
「あなたのお陰で、随分としぶとくなりましたから」
「父さん!」
「余所見しない!!」
額を抑える優助を心配した明日花は彼の方に目を向け呼び叫んだ。そんな彼女の隙を狙い、晃三は刀を振り下ろし攻撃した。彼の攻撃を、明日花はすぐに槍で抑え槍を台にし、飛び蹴りを晃三に喰らわせた。
『明日花!!』
「!!(甚の声?!)」
「仲間の声が聞こえるか?」
「?!」
「早く行かねぇと、せっかく揃えた勇士達が死んじまうぜ?」
「アンタ達を倒さない限り、アイツ等の所へなんか行けない」
「そうかい……そんじゃあ、ここで親子揃って死にな!!」
明日花に向かって、晃三は飛び上がり刀を振り下ろした。明日花は槍で彼の刀を振り払い地面に手を付けた。手におおじるかのようにして、地面から鋭く尖った木の根が生え晃三の胸を貫いた。晃三は口から血を吐き出し、顔を上げ明日花を睨んだ。
「ハァ……ハァ……」
「いつまでも、弱い明日花じゃない」
「?」
「アンタは、弱い私しか見えてなかった……
その代償が今だ」
「明日花……お前……」
「……」
「ここで……死ぬわけにはいかねぇんだ!!」
木の根を無理矢理引き抜いた晃三は、明日花をなぎ倒し彼女の首を絞めた。
「俺はな!!生まれて間もなく、母親に捨てられた!!
蛭子もそうだ!!未完成だからという理由で、神の地位を与えられずそのまま死に絶えた!!
今でも覚えてんだよ……男作って、俺捨て去って行く女の姿がな!!
捨てられてから数日後、俺は光坂一族のお頭に拾われた。だが成長した時、俺の目に映ったのは……真っ暗な世界だ。
光りが消え、真っ暗な世界に俺は一人取り残されたんだよ……孤独だった……
何も無かったんだからな……そんな時、アイツが現れた」
「アイツって……ガハ……母さん…の事?」
「そうだ……紫苑を抱いた時、声が聞こえた。
『光が欲しいか?』って……俺は欲しいと答えた……声は『一族を全員、殺しなさい』って言った」
「じゃあ……母さんが……やろうとしてた……事って……一族の殲滅……」
「死ぬ前に教えてやるよ……
光坂一族は、八つの力……神の力を受け継いだ者が、十勇士となる言い伝えがあった。
その勇士が見つかるまでのガラクタだ……一族の中で、勇士になった奴はいなかった。
お前が生まれたせいでな」
「……」
「それからもう一つ教えてやるよ……
優助はな……海の神の力の持ち主なんだ」
「海の……神?」
「海神だ……あいつの水は、海神の力なんだ」
晃三の声が遠退いて行く……
意識も遠退いて行く中、明日花は目から涙を流し思い出していた。
暗い空間……明日花は一人、そこを泣きながら歩んでいた。
その時、背後から肩を叩かれ振り返った。そこにいたのは、人の姿をした白い靄だった。すると靄から声が聞こえた。
『望は何だ?』
『……傍にいたい』
『誰の?』
『母さんと父さんの……』
靄の背後から突如、閃光弾の様にして眩しく光った。
それと共に、明日花は意識を取り戻した。自分を抱き、晃三の目に短刀を突き刺す優助の姿が目に映った。
「個人の恨みを、他人に向けるなど外道がやる事」
「あ……ああ……目がぁああああああああ!!」
「今すぐ死になさい!!
山本流水術黄泉送り」
晃三の足元に、光り輝く水溜りが浮き出し、そこから白い手がいくつも伸び晃三を掴み引き摺り込んでいった。
「止めろ!!俺はまだ!!
助けてくれ!!明日花!!明日花ぁぁあああ!!」
手を伸ばす晃三……明日花は、優助に抱き着き彼の胸に顔を埋め目を塞いだ。優助は抱き着いてきた彼女を抱き締め、晃三を見つめた。彼と目が合った晃三の心に、声が届いた。
『もう一度、人として生きたいのなら、願いなさい……
願いが届けば、お前はまた人として生きられる』
その時晃三の目に、青い空が映った。
『悩んだり、生き辛くなった空を見ろ。
な~に、見えなくともお前の心の目にはしっかり見えとる。空はな、誰の目にも見えるんだ。
目が不自由でも、どんなにくすんだ目を持っている奴でも……空は、青く見えるんだよ』
(……お頭……
俺にも……やっと空が見えたよ)
晃三を飲み込んだ池は跡形も無く消えた……明日花は、池があった場所へ駆け寄り地面を見た。そこには彼岸花が咲いていた。
「蛭子を……晃三まで殺すとは……」
背後から怒りに満ちた声が聞こえ、二人はすぐに後ろを振り返った。次の瞬間、優助の腹部を木の槍が貫きその勢いのまま、近くの木に突き刺さった。
「父さん!!」
陽の光が顔に当たった……
恐る恐る目を開けた……見た事ない景色。どこに父さんと母さんはいるのだろうか……
?
足音?
『紫苑!来てくれ!』
あ……父さんの声だ……
父さんの温もり……母さんは?母さんは……あ…母さんだ……
父さんと母さんに会えたんだ!
父さん……母さん……私の名前ね……