BRAVE10S   作:花札

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二つの道

木の槍の柄の部分を、優助は息を切らしながら強く掴み引き抜こうとした。そんな彼に、明日花は駆け寄ろうとした……だが、それを紫苑が阻止するかのようにして前に立ち、木の刀を作り彼女を攻撃した。

 

 

「明日花!!(クッ……出血量が多すぎて、うまく力が!!)」

 

「さぁ、早く器になりなさい!!明日花!!」

 

「嫌だ!!お前の器になんか、ならない!!」

 

「聞き分けのない子ね!!大人しく言う事を聞きなさい!!」

 

 

刀を振り下ろし、紫苑は明日花を攻撃した。明日花は転がり避け、紫苑の背後へ回り背中に槍を突き刺そうとした。紫苑はすぐに振り返り、振り下ろしてきた槍を蹴り飛ばし防いだ。

 

 

「大人しく……言う事を聞きなさい。

 

そうすれば、優助を助けてあげるわよ」

 

「……器になんか、ならない」

 

「……薄々感じているけど……

 

あなた、元に戻ったの?」

 

「……」

 

「やっぱりね……闇を感じないもの」

 

「……何で、私に勇士達(才蔵達)の姿を見せたの?」

 

「会えば、あなたの心の底に眠っている『闇』の力が目覚めると思ってね。

 

そしたら、見事に目覚めてくれたわ。おかげで私は、この通り蘇ることが出来た」

 

「……」

 

「話を聞いて、言葉も出ない?母親に利用されていた気持ちはどう?明日花」

 

「……フフ……フフフフ……ハハハハハ!!」

 

 

腹を抱え、明日花は大笑いした。

 

 

「何がおかしい!?」

 

「おかしいよ……お前、人の力なめてるでしょ?」

 

「……」

 

「私の闇がどうなろうと知ったこっちゃない。

 

 

アイツ等に会えたから、今の私がここにいる。寧ろ、お前には感謝してるよ」

 

「……」

 

「母さんが死んで……私にはもう、何もないもんだと思ってた。

 

何も残っちゃいないもんだと……

 

 

けど、幸村達が私を待っててくれてた……悲しみで、心を閉ざした私を……幸村達は、温かく迎えてくれた」

 

 

鎖で体を巻かれ、蹲る自分……触れていいのは、甚八ただ一人。甚八はどの鎖にも触れることなく、只々彼女の背中に凭り掛かり座っていた。

 

頑なに蹲っていると、自分の肩に何かが触れてきた。顔を上げた……そこにいたのは、笑みを浮かべた幸村だった。

 

彼の脇から六郎と佐助が現れ、両腕に絡んでいた鎖を解いた。

次に首に絡んでいた鎖を、十蔵が解いた。

頭に絡んでいた鎖を、鎌之介が解いた。

腹に絡んでいた鎖を、アナスタシアが解いた。

両脚に絡んでいた鎖を、清海と弁丸(大助)が解いた。

両足に絡んでいた鎖を、伊佐那海が解いた。

 

 

全ての鎖が解かれると、目の前に手が差し出された。顔を上げるとそこにいたのは、才蔵だった。明日花はゆっくりと立ち上がった……凭り掛かっていた甚八も彼女と一緒に立ち上がると、軽く明日花の背中を押した。明日花はチラッと後ろを向き彼を見つめ、そして目の前にいた才蔵の手を握った。

 

 

いつの間にか目から涙を流していた明日花は、紫苑を睨んだ。

 

 

「皆、伊佐那海を連れ戻すために戦ってる!!

 

ここで私が死ぬわけにはいかない!!お前を倒し、私は父さんと……才蔵達の元へ行く!!」

 

 

明日花の怒りに応えるかのようにして、彼女を囲う様に木が生えた。木は先を尖らせ、紫苑の体を串刺しにした。

 

 

「光坂流木術奥義呪縛永葬!!」

 

 

串刺しにされた紫苑の下から、何本もの木が生えてきた。

 

 

「……!!まさか」

 

「闇に染まったお前など、もう母親でもない……

 

無に帰れ!!」

 

 

目に涙を溜め、明日花は弓矢を出し矢を放った。矢は紫苑の額に当たり、それと共に紫苑は生えてきた木に挟まり圧死された。

 

 

 

大樹を目の前に、明日花は地面に座り込んだ。息を切らしながら大樹を見上げた。その時、幹に切れ目が入り、中から穴だらけになった紫苑が這い出てきた。

 

 

「!!」

 

「まだ……死ぬわけには……行かないのよ……

 

この地を……自然に戻すのよ……人がいなかった、自然にね!!」

 

 

最期の力を振り絞るかのようにして、紫苑は手から木の槍を作り出し動けなくなっていた明日花に向かって突進した。明日花は何とか避けようと足を動かすが、体力が限界を超え足を動かせず避けることが出来ずにいた。

 

 

その光景を、優助は意識朦朧として見ていた。

 

 

(明日花……助け…なければ)

 

『優……明日花を守ってね』

 

 

耳元から紫苑の声が聞こえ、優助はハッと顔を上げ声がした方を見た。そこにいたのは、笑みを浮かべた紫苑だった。

 

 

「紫苑……」

 

『明日花を守ってあげてね……優。

 

私達の娘を……守って』

 

 

優助は渾身の力を振り絞り、腹を貫いていた槍を引き抜いた。よろめきながら、優助は地面に転がっていた晃三の刀を手に駆け出した。

 

 

 

“ザシュ”

 

 

「!!」

 

 

明日花の目に映る光景……

 

 

自分の前に立ち、紫苑の首に刀を貫かせる優助……彼の胸に槍を貫かせる紫苑……

 

優助は腰に着けていた短刀を抜き、紫苑の胸に止めを刺した。紫苑は口から大量の血を吐き、そして脚から木の葉となり木の葉は風と共に舞い散り消え、地面に落ち残ったのは紫苑の白い骨だけだった。

 

 

「父さーん!!」

 

 

胸を貫かれた地面に仰向けに倒れた優助の元へ、明日花は傍に駆け寄り呼び叫んだ。優助は口から血を吐き出しながら、明日花を見た。

 

 

「明日……花」

 

「父さん!!……ごめん…私が油断したせいで……」

 

「君の……せいじゃ……ありません。

 

僕は……紫苑と一緒に……君を守ったんです。

 

 

君に会えて、僕等は……本当に……救われました……

 

 

明日花は……僕と紫苑の……自慢の……娘……」

 

 

弱々しく上げてきた手を、明日花は握り自分の頬に触れさせた。

 

 

「父さん……死なないで……

 

 

闘いが終わったら……一緒に、銀の所へ行こう。それで……三人で静かに暮らそう」

 

「銀……それは……誰ですか?」

 

「お頭が……私の許婚だって言って……紹介してくれた男の子」

 

「……君の……顔を見れば……

 

その子が……どんな人か……分かります……」

 

「死なないで……一緒に行こうよ……父さん」

 

「明日花……悔いのない道を……歩んで……ください……

 

 

我慢して……歩んでいると……気付かない内に……大事なものを……失ってしまいますから」

 

「うん……ちゃんと、歩むから……歩むから、生きて!!生きて、私を見届けて!!父さん!!」

 

「(紫苑……すみません……この子の傍には……もう)

 

 

 

 

……明日花……

 

 

生まれて……くれて……あり……が……とう」

 

 

笑みを浮かべる優助……すると彼の上げていた手が、力なく地面へ落ち倒れた。開いていた眼は、生気を失くし半開きとなったまま動かなくなった。

 

明日花は目から大量の涙を流し、優助の体に顔を伏せ泣き叫んだ。

 

 

「!!ゲホ!!」

 

 

激しい痛みと共に、明日花は咳き込んだ。咳き込んだ際口を抑えていた手を退かすと、そこには赤い血があった。

 

 

「……血ぃ?何で」

 

 

「タイムリミット」

 

「?」

 

 

聞き覚えのある声に、明日花は後ろを振り返った。そこにいたのはコノハだった……次の瞬間、コノハは姿を変え自分と瓜二つの姿になった。

 

 

「コノハ?」

 

「それはアンタが着けた名前……

 

私は久久能智神」

 

「!!」

 

「安心して……

 

あれは、私の奥深くに眠っていた人に対する恨みの塊……」

 

「じゃあ、お前は……」

 

「やはり忘れているか……

 

無理もない。人は生まれる前の記憶を忘れると言うからな」

 

「生まれる前の記憶?」

 

 

久久能智神は、明日花に寄り彼女の額に指を当てた。すると明日花の脳裏に、ある映像が流れてきた。

 

 

目に映る人の姿をした靄……

 

 

『アンタが父と母と共に生きるには、条件がある』

 

『条件?』

 

『アンタの父と母、二人共死んだ時……アンタはこちらの世界へ戻される』

 

 

「……」

 

 

その言葉を思い出した明日花は、顔をゆっくりと上げ久久能智神を見た。

 

 

「……明日花。

 

アンタに二つの道を与える。選ぶのはアンタの自由だ」

 

「……」

 

「勇士達……才蔵達と共に過ごした日々の記憶を全て消し、生き延びる事が出来る」

 

「……何で……

 

何で生き延びるだけで、才蔵達と過ごした思い出が消されるの?!」

 

「この地に留まるための代償だ……

 

何かを得るには何かを失わなくてはならない」

 

「そんな……

 

 

もう一つの……もう一つの選択肢は?!」

 

「……私の力で、アンタが今思い残している事を全てやり遂げさせてやる。

 

思い残す事がなくなった時、アンタは粒となり徐々に消えていく……」

 

「……」

 

「どちらかを選ぶのはアンタ次第だ。

 

アンタが選んだ道で、私はアンタに手を貸す……」

 

「……」

 

 

明日花は再び咳き込み、口から血を吐き出した。手に吐き出された血を明日花は眺めた。

 

目に映る幸村達の姿……

 

 

その時、強い風が吹いた。強風の中明日花は久久能智神に、答えを言った。

 

 

「……本当にそれでいいのね」

 

「構わない……」

 

「……分かった」

 

 

着ていた羽織を明日花は、紫苑の骨と死んだ優助に掛け、近くに生えていた花を添え手を合わせた。

しばらくして、明日花は立ち上がり地面に刺さっていた槍を抜き、地面に転がっていた刀を手に、彼女はそれぞれの武器を鞘とケースにしまい、どこかへと行った。




心地良い風が吹いた……生い茂る竜胆畑の花が、風に揺られた。

その中に眠る優助……彼はゆっくりと目を開け、起き上がった。


(……竜胆畑……)


立ち上がり辺りを見回した。すると向こうの丘からこちらへ駆け寄ってくる人影が一つ見えた。

駆け寄ってくるのは紫苑だった……紫苑は優助に駆け寄ると彼に抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、優助は強く抱き締めた。


「……無茶ばっかり」

「……」

「見てたよ……

ずっと……二人の事」

「……えぇ、分かってましたよ。

そんな気がしましたから」


風が吹き、竜胆の花びらが舞い上がった。


舞い上がった花びらは、別の場所へと飛び一枚の花弁が誰かの手の上へと落ちた。花弁を見ると、その者は笑みを浮かべ空を見上げた。


空は青く、どこまでも広がっていた。
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