「鎌之介!!」
串刺しにされた鎌之介を、伊佐那美は空へと上げさらに深く刺した。
「邪魔じゃ、己」
宙に浮かせていた黒い槍を、才蔵は切り裂き落ちてきた鎌之介を受け止めた。
「しっかりしろ!!鎌之介!!」
「痛ってぇ……」
意識があるのにホッとしていたのもつかの間……才蔵達の背後に、あの黒い槍が無数に迫っていた。槍が二人を襲う瞬間、突如水の盾が二人を守った。
「怒(ヌ)ううぅ!!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!妾の邪魔をするな!!
この世に渦巻く憎しみの怨情が、妾をこの世に呼び起こした!!妾の裁きを必要としておるのだ!!
伊佐那海……伊佐那海と……それ程までに救いたいか、この『器』を。
この者がどう生まれ落ちたか知っておるか?
こやつの最初の記憶は『絶望』よ。産まれてすぐ親に捨てられ、無自覚に……この世を恨み呪った。
その強い無垢な絶望は、妾を引き寄せるのに十分であった。それはもう根から繋がるように……
出雲の神主は聡くもそれを見抜き、『伊佐那海』として赤子を育て上げ妾を封じた。同じ器に光と陰……只々、陰に気付かぬように明るく育った。笑って、闇を撥ね退ける事が巫女の運命だと言い聞かせてな。
我が事ながら維持らしく、巫女としての責務を全うし様としておったわ。
あのまま、守られる幼子であれば良かったものを……強くなる事を望んだこの女は、妾の手を取った。
自分の愛すべき場所、人の為に……何より才蔵、お前の為に」
『才蔵……アタシ、強くなったんだよ』
「知っているか?照らす光が強ければ、闇はより深く影を落とす」
「!!」
「我が名は『伊佐那美』。闇より出でし『死をもたらす神』である!
戦の繰り返しで、死と怨念が渦巻く混沌たる現世を、闇でもって洗い清めるためにここに在る!!
それ以外の何者でもありはしない」
伊佐那美の体から黒いオーラが放たれ、六郎はすぐに能舞台で拘束されている信之と七隈を水鏡胞の術で囲い守った。
「道敷大闇(チシキノオオヤミ)!!」
黒いオーラは辺りを闇へと包み込んだ。
真っ暗な世界……
「どうじゃ、漆黒じゃ」
その時、黒い世界に皹が入った。皹が入った箇所から一気に割れ、そこから剣を持った才蔵が姿を現した。
「テメェから与えられる『死』何ざ、欲しくねぇんだよ!!」
「ならば、妾を斬ってみよ」
「いくらでも」
飛び上がっていた才蔵の背後に、鎌之介がいた。
「由利式風術天照神風!!」
竜巻を起し、伊佐那美を攻撃した。
「は!!」
「地上を、お主の好きにはせんのよ。
ここは我等の生きる世界……漏れて出てしまった神等迷惑この上ない。早々に退場して頂こう」
「馬鹿め!!まだ分からぬか!!妾を呼んだのは、主等人間よ!!
この戦世の禍々しい絶望の渦が、妾を産み落としたのよ!!
妾は力を生み出す母よ!!「神生み」!!」
斬られた箇所から、禍々しい黒い煙が上がりその煙から黒い雷が浮き出てきた。
「ホンット、邪魔なクソ女!!」
才蔵の剣に黒い雷が触れた……触れたと同時に、黒い雷は才蔵の体へと侵食していった。それを見た才蔵はすぐに剣を離し、その衝撃で足場を崩し座り込んでしまった。
「鎌之介!!雷に触れんな!!体を侵食す…痛!!」
「風を起す暇など与えぬ!!」
雷は飢えへと上がり、伊佐那美は上げていた手を勢いよく下へ下ろしその合図と共に、雷は地上へ落ちて行った。
才蔵達に当たる瞬間……彼等の真上に、木の根と土の壁が黒い雷の攻撃を防いだ。
(妾の子(雷)が!!
それにこの木……もしや!!)
(ま……さか)
才蔵はゆっくりと後ろを振り返った。木の根に立つ明日花と根の国に引き摺り込まれたはずの佐助の姿があった。
「佐助!!」
「明日花!!」
「我は根の国から還りし者……黄泉平坂に落ちはしない」
「チィイイ!!」
「よくもまあ暴れまくったねぇ……
大事な勇士達にはもう、傷を付けさせないからな!!」
「儂の元に集った勇士達は、そなたを抑え込む力を持つ。
佐助が力を依るのは、あの大国主(オオクニヌシノミコト)よ」
「なぜだ!?なぜお主が!!久久能智神!!」
「お前が蘇ったら、木々が育たなくなるから。
って、言ってたけど」
不敵な笑みを浮かべながら、明日花は伊佐那美を見た。そして佐助から離れた彼女は、幸村の元へと降り立ち彼を睨んだ。
「……よくぞ戻ってきた。明日花」
「……ったく、世話の掛かる殿様ですこと」
「……」
「六郎、手ぇ貸して」
そう言いながら、明日花は六郎の手を握った。その瞬間、彼の体に異様な力が流れてきた。
「こ、これは……」
「私の力を少し分けただけ……」
「……明日花…あなた」
「もう、失いたくはないからね。
特にお前等は」
幸村達に笑みを浮かべると、明日花は槍をケースから出し才蔵達の元へと駆けて行った。
その一方、佐助は素早く動き伊佐那美を攻撃しようとした。
「キャアアアア!!」
「!!」
「やめて……佐助」
涙を流し、佐助に訴える伊佐那海……その姿を見た佐助は、一瞬攻撃の手を緩んでしまった。
「馬鹿!!止まんな!!佐助」
才蔵の叫び声と共に、佐助の肩に黒い槍が貫いた。
「フフフフフ……感謝するぞ真田幸村!お前が伊佐那海を大事にしてたおかげで、この者達は手を下せぬ!
伊佐那海は伊佐那海のまま終わればよかったのになぁ……貴様先を見る目が無いのう」
「佐助を離しな!!この尼が!!」
伊佐那美に向かって、明日花は髪に着けていた簪を彼女の肩に刺した。痛みに怯んだ彼女は、黒い槍を佐助から抜き、怒りの剣幕で明日花の腕を狙い槍を投げた。
「火術迦楼羅炎!!」
槍が刺さる瞬間、伊佐那美の下から炎が燃え上がり彼女を攻撃した。
(この炎は!!)
「この俺を、火の勇士にしたなんてホント見る目ありますよ。
テメェなんざ、この『火之迦具土(ヒノカグツチ)』の炎で、苦も無く焼き尽くせる」
(半蔵!!)
「半蔵!!テメェ!!私を焼こうとしやがったなぁ!!」
「礼の一つも無いんですか?酷いですねぇ、せっかく助けてやったのに。
そういや伊佐那美さん、陰部(ホト)焼かれるのお好きでしたっけ?」
「火……ヒィ!!」
「遅え!!
奥義紅蓮炫炎!!」
激しく燃え上がる炎が、伊佐那美を攻撃しさらに能舞台を焼き壊した。
「スゲェ……(神の力を与える必要は無いか……)
佐助、手ぇ貸して」
傍で座り込んでいた佐助の手を明日花は握った。六郎と同様に、佐助の体に異様な力が流れてきた。驚いた佐助は、手を離した明日花を見つめた。
「伊佐那海を取り戻そう、佐助」
「……!」
ふと佐助の目に、幼き頃の明日花の姿が映った。明日花は笑みを浮かべると能舞台の方へと行った。
明日花が浮かべる笑み……それは、昔彼女が良く見せていた笑顔だった。
能舞台を見る小十郎達……
「おい……あの炎」
(政宗様……)
「ハイハイ、いつまでも腑抜けてんじゃねぇですよ。
何チンタラやってんすか?アンタ等あの女『止めるん』だろ?」
「っっ」
「だな!
コイツ等も助けた事だし、後は殺るだけだな」
能舞台には、水鏡胞に守られながら信之を担ぐ甚八と七隈を支え歩く十蔵の姿があった。信之を担ぐ甚八の元へ、明日花は駆け寄り手を貸した。
「ったく、遅ぇぞ明日花」
「色々片付けてたんだから、しょうがないでしょ!」
「言い方が、紫苑に似てきたぞ」
「当たり前でしょ!
紫苑と優助の子なんだから」
誇らしげな笑みを浮かべながら、明日花は甚八にそう言った。そんな彼女の笑顔を見た甚八は鼻で笑いながら、明日花の頭を雑に撫でた。