甚八達が寄って来るのを見た幸村は、馬から降り兄・信之を見た。
「この……馬鹿が」
「小言はあとで聞くとしよう」
「……」
明日花を見つめる信之……その背後に、優助と紫苑の姿が映った。
「明日花」
「何も言わなくていい。
徳川に就いてる奴の言葉なんか、聞きたくない」
「……」
「幸村様と信之様は、六郎に守られてる内にもっとお下がりくだされ!ここは某等が」
突如水鏡胞が解かれ、十蔵達の後ろにいた六郎は鼻から血を流し倒れた。
「六郎!!」
「六郎さん!!」
「力を使い過ぎです!
元々、蒼玉髄は水の御神体……人の身の中に入れて、使役するなど負担がかかりすぎる……だからあまり使わぬ方が良いと!
それにもまして『神』の依り代など、貴方」
「七隈!!」
六郎の怒鳴り声に、七隈は口を閉じた。六郎は鼻から出ていた血を拭い、平然とした顔で立ちあがった。
「よくも焼いたな……この妾を!!」
黒いオーラを放ち、暴れ狂う伊佐那美……
「火は嫌いじゃあ!!
許さぬ許さぬ許さぬ!!」
黒いオーラはポロポロと崩れ始めていた。
「今が好機ですよ」
「っっ……伊佐那海ィィィ!!」
「ああああああ!!」
「……!?
才蔵!!ダメぇ!!」
何かの気配に気付いた明日花は、才蔵に呼び掛けた。だが次の瞬間、彼の足が着いた先から雲が出てきた。
(まさか!!)
黒い煙は爆発音を上げ、空へと登って行った。
「感謝するぞ月読に天照!素戔嗚尊を殺してくれて!
これで、愛しい我が子は黄泉の荒神となった完璧な破壊神だ!!」
黒い雲と共に、地から這い出てきた素戔嗚尊は大剣を才蔵に向かって振り下ろした。才蔵はすぐに剣で大剣を防いだが、素戔嗚尊は大剣を振り上げ勢いよく振り回した。
その瞬間、能舞台が破壊され辺りに土煙が舞い上がった。
素戔嗚尊の攻撃を、近くにいた佐助は半蔵を持ちながら飛び避け、十蔵は地面に伏せ甚八は明日花を守りようにして跨り地面に伏せ避けた。六郎は力を振り絞り、幸村達の周りに水鏡胞を張り守った。
「才蔵は!!」
空を見上げる幸村……そこには鎌之介の鎖に巻かれ宙を舞う才蔵がいた。鎌之介は鎖を振り才蔵を半蔵達の元へ投げ飛ばした。
「俺とヤるまでは、くたばんじゃねぇぞ才蔵!!
由利鎖鎌奥義巨旋風!!」
巨大な風の渦が、素戔嗚尊を攻撃した。
「テメェなんざ、俺の風で!!」
鎌之介が大声を上げた時、目の前に素戔嗚尊が迫っていた。素戔嗚尊が攻撃しようとした時、彼の腕に数本のクナイが飛んできた。見上げると、クナイを構える佐助の姿があり、素戔嗚尊は彼に向かって攻撃しようとしたが彼の手足に明日花が放った木の根が絡み付き拘束され、さらにその体に数弾の銃弾が撃ち込まれた。そして仕上げに甚八が雷を起し攻撃した。
「どうよ!」
どろどろに溶けた素戔嗚尊の身体……彼の周りには異様な熱が蒸発し、煙が上がっていた。
「この熱!!」
「尋常ではない!」
「ヤベ……」
素戔嗚尊が雄叫びを上げると、黒くドロドロとした液体が上へと上がり、才蔵達目掛けて振ってきた。
(この火力!!)
「皆、下がれ!!」
雨の様に降ってきた火玉は、容赦なく才蔵達に向かって降り注いだ。佐助は土の屋根を明日花は木の屋根を作り火玉を防ぎ、六郎は力を振り絞って幸村達を水鏡胞で防いだ。
「破られる!時間の問題」
「アナはどうしたんだ!!この火力に対抗するには、アイツが足りねぇんだよ!!」
空を見上げる明日花……深く息を吸いながら、目を閉じ首から下げていた幸魂を強く握った。
(父さん……力を貸して)
ゆっくりと目を開ける明日花……
「半蔵!!私を飛ばせ!!」
「ハァ?!何を」
「さっさとしろ!!」
仕方なく半蔵は手を構えた。明日花は勢いをつけ半蔵の手に足を乗せ、半蔵は腕を上げ彼女を投げた。
空に上げられた瞬間、数個の火玉が明日花の体に当たり、彼女は火傷を負った。その様子を、才蔵は見上げ叫んだ。
「明日花!!テメェ何を考えてやがる!!」
「見縊んじゃないよ才蔵!!
まだお前等に見せてない力があるんだよ!!」
「?!」
(力?)
「フゥ……
山本流水術水砲弾!!」
息を整えた明日花の手から、突如水が噴き出し素戔嗚尊の火玉を消し飛ばした。
「消した!!」
「ありゃあ……優助の技だ」
「!?」
「よっし!!消し」
次の瞬間、彼女の口と鼻から大量の血が噴き出した。明日花は手で抑えながら、恐る恐る下を見た。腹を貫く素戔嗚尊の大剣があった。
「嘘……でしょ」
「明日花!!」
(こんな所で……死ぬわけには)
『こちらに来るのにはまだ早い……
やり遂げなさい。明日花』
地面に落ちた明日花だったが、彼女は鼻に付いた血を拭いながら息を切らし咳き込みながら立ち上がった。素戔嗚尊は大剣を引き抜き、明日花に突っ込んだ。
「明日花!!」
振り下ろしてきた大剣を、明日花は持っていた槍で防いだ。その瞬間、槍は真っ二つに折れ明日花は素戔嗚尊の背後へ回り水の攻撃を放った。
背中に傷を負った素戔嗚尊は、振り返り大剣を明日花に向かって突いた。突いてきた大剣を、明日花は腰に下げていた鞘から刀を抜き大剣を防いだ。
「まだ死ねないんだよ!!
山本流水術奥義百弾水爆!!」
放たれた無数の水滴が、素戔嗚尊の前で爆発した。素戔嗚尊は爆発で吹き飛び、明日花は爆発と共に地面へ落ちた。
「やったか!?」
「……!
いや、まだだ」
体を再生させながら起き上がる素戔嗚尊……息を切らしながら、明日花は立ち上がった。
「立つな!!明日花!!」
叫ぶ才蔵を無視しながら、明日花は突進してくる素戔嗚尊を見つめた。
「(……まだ、力はある……皆から得た力が)
光坂流土術岩石砲弾!!」
『土はな、この世で最も大事なもんだ』
『一族や家族よりも?』
『応よ!
土がなきゃ、人は生きていけぇからな』
地面から巨大な岩が現れ、岩は突進する素戔嗚尊を攻撃した。
脚に着けていたケースから、鉄扇を取り出した明日花風を起した。
「光坂流風術真空風刃!!」
『風は人に安らぎを与える自然の力……
風が吹くと、心が落ち着きませんか?』
『うん!』
『風は人を心地よい気持ちにさせます……けど、時としては恐ろしい敵にもなります』
明日花を中心に、鋭い風が起き素戔嗚尊の体を傷付けて行った。風に傷付けられた鉄扇の紙は斬れ、粉々に斬れた紙は風に舞った。
「(まだまだ!)
光坂流雷術閃光千鳥!!」
『雷はな、神の怒りと昔から言い伝えられてんだ』
『怒り?雷は、何に怒ってんの?』
『さぁな……各地で国を治めてる、殿様じゃねぇかな』
『殿様……』
『怒りを買うようなことをしない方が身のためだ。
でも、雷は自然の敵でもあり味方でもある』
鳥の姿をした雷が、素戔嗚尊の体に当たり彼の体から煙が上がった。
「(利くかどうか分からないけど……アナが来るまでの時間稼ぎには)
光坂流氷術氷剣砲弾!!」
『氷は水が無ければ、できないもの……それに、寒くなければ作れないもの』
『だから、冬になると川が凍るの?』
『そうです。
けど、微かな冷気と水……二つがあれば、熱い所でも氷は作れます。
一瞬の命……けど、その命は綺麗な花です。自然がくれた……冬だけに咲く、綺麗な花』
宙に氷の剣が無数に飛び交い、素戔嗚尊を攻撃した。
『一族全てを殺し、力を得よ。
力を得れば、お前に敵う奴などいやしないよ』
笑いながら、晃三は明日花の頭を撫でた。
彼の言葉を思い出した明日花は微笑した。
(晃三……ありがとう)
「オォォォォオオ!!」
「明日花、退けぇ!!もう戦うな!!」
「退く?んな事するわけないでしょ!!
一族の名を汚すようなことは、死んでもやるか!!」
背に背負っていた包みを手に、包んでいた布をはぎ取った。中から出て来たのは、大型の火縄銃だった。
(火縄銃?!)
『デッカい火縄銃』
『デカい分、威力は天下一だ!』
『淒ぉい!!』
『でもな、欠点があるんだ』
『欠点?』
『大きさが大きさだから、撃てる弾は一発……
しかも放った瞬間、銃が破裂して自分に危害が及ぶ』
『何か良いのか悪いのか……』
『けど、さっきも言ったが威力は天下一だ。
どんな甲冑も、撃ち抜く』
狙いを定め明日花は引き金を引いた。その瞬間、銃から鉄の塊が放たれ素戔嗚尊の腹部を貫いた。それと共に火縄銃は暴発し火花が明日花の体に当たった。
「久久能智神!!お主、一体いくつの神力を持っておるのだ?!」
「……さぁね…
そんなの知る訳無いじゃん……大勢の命、奪ったんだから」
腹部を貫かれた素戔嗚尊……腹部はどろどろに溶け熱気を放っていた。
「もう動けないでしょ?
さっさと死に…!!」
腕を抑えながら地面に降りた明日花の目の前に、大剣を構えた素戔嗚尊の姿があった。刀の束に手を添えたがその瞬間、大剣が体に当たり明日花は飛ばされた。
「明日花!!」
吹き飛ばされた明日花を、半蔵は受け止め一緒に飛ばされ近くの木に叩きつけられた。
「半蔵!!」
「明日花!!」
「痛……」
「ったく……何で…私を」
「さぁねぇ……勝手に体が動いたんでね」
「……」
半蔵は立ち上がり、明日花の手を引き立たせた。
「……ありがと」
小さい声で、明日花はそう言った。半蔵は何も答えず、ただ鼻で笑い彼女と一緒に才蔵達の元へと駆けて行った。
明日花が素戔嗚尊に攻撃している時、六郎は目と鼻から血を流しながらも決して力を弱めることなく水鏡法を出し続けていた。
「六郎、無茶だ!!無茶だったんだ!!だってもう」
「退かぬ!!
十勇士が欠けたとて、成さねばならぬのだ!!ここで我等が引けば全てが滅ぶ!!」
「でも!!」
「儂等が守らねばならぬ人の世を!!
これが定め(運命)よ」
その時、六郎の腹部に黒い槍が貫いた。
「お前のその守り、実に邪魔よの月読。
主を守るのに、力を回し過ぎたな」
口から血を吐き出す六郎……すると目の前に雲が浮き出てその中から素戔嗚尊が姿を現した。だがその時、六郎の足元に火縄銃を構えた十蔵が寝転び銃口を、素戔嗚尊に向け弾を撃ち放った。撃たれた素戔嗚尊の体の一部が溶岩となり十蔵の体に当たり、彼の体は酷い火傷に負われた。撃たれた事に激怒した素戔嗚尊は、彼の左胸に体験を刺し込んだ。
「十蔵!!」
「下がれ六郎!!お前は守りの要!!欠けるわけにはいかん!!」
「十蔵!!」
「十蔵!!」
「明日花……すまなかった」
「……え」
その声は皆には聞こえない様な小さな声だった……だが、声は才蔵達の元へ着いた明日花の耳にはっきりと聞こえた。
「おおおおおおおお!!
人の世を頼みましたぞ!!幸村様!!」
「筧のオッチャン!!」
「某は先に、逝かせて頂きます」
「うむ」
「奥義……一擲炸裂破!!」
引き金を引き、弾を撃ち飛ばした。その瞬間、十蔵の銃は砕けそれと同時に素戔嗚尊の片腕が撃ち落された。
砕けた銃は火花を放ち爆発し、十蔵の体を焼き尽くした。
「十……蔵(馬鹿みたい……アイツ……私に謝ったよ……
謝んなきゃいけないのは……私の方なのに)」
大粒の涙を流しながら、明日花は静かにそう思った。