BRAVE10S   作:花札

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黄泉の中へと引きずり込まれる伊佐那美……その時、才蔵は彼女の腕を掴み共に黄泉へと入って行った。


「才蔵!!何を!?」


花簪

「憎き!!憎き光の男よ!!」

 

 

才蔵は、ズボンのポケットに手を入れそしてある物を出した。

 

それは、伊佐那海に着けていた簪……奇魂(クシミタマ)だった。

 

 

「は!今更、奇魂などで妾は抑えられんわ!!」

 

「……これから始まった。

 

奇魂を着けた伊佐那海と出会ってから俺は……「生きて」来られたんだ。

 

 

目まぐるしく、色々な事に巻き込まれて……上田に辿り着いてオッサンや佐助、皆に出会って……

煩わしい時もあったけど、俺の居場所が出来た。

 

 

帰るぞ、伊佐那海」

 

 

手を差し伸ばす才蔵……そんな彼に、伊佐那美は黒い槍を彼の左肩に刺した。

 

 

「ああ、帰るとも。世を滅ぼすために」

 

 

その時、黒い槍が白く燃え出した。燃えた槍はやがて、桜の花弁を舞い散らした。

 

 

「出雲の地下で、神主のオッサンが言ってた。

 

俺がお前の『光』だと……お前が闇に落ちようと、いつでも俺が照らしてやる!」

 

 

才蔵の言葉に反応するかのようにして、奇魂は花弁となり舞い散り伊佐那美の周りを回るかのようにして、風に乗った。

 

 

(この花……)

 

 

「……才蔵は、出雲で自分が光だと悟った」

 

「そしてその光が花となり、奇魂と合わさって……

 

幸魂(サキミタマ)になる」

 

 

そう呟くと、明日花が首から下げていた幸魂は花弁となり消え、風に乗り空へと舞った。

 

 

すると彼女の体が、光の粒へとなり始めた。

 

 

(……せめて、伊佐那海が帰ってくるまで……)

 

 

背後をチラッと見ながら明日花はそう願った。背後には木の枝に立ち幹に凭り掛かりながら立つ久久能智神がいた。

 

 

花弁を触る伊佐那美……彼女は、才蔵の服の裾を掴みながら言った。

 

 

「……思い出した……キラキラしたあの日々……

 

あの日……アタシの世界に、強烈な光がさしたあの瞬間……あの日から、アタシは幸せだった。

 

 

才蔵」

 

「伊佐那海」

 

 

目から涙を流しながら、伊佐那海は顔を上げ才蔵を見つめた。

 

 

「只々、大切なものを守りたくて忘れてた……とても大事な事だったのに」

 

「思い出したじゃねぇか」

 

「……うん

 

 

でもね……アタシは地上にいちゃいけないの。

 

分かっちゃった……」

 

 

才蔵から離れる伊佐那海……

 

 

「そんな顔しないで才蔵。アタシもう、怖くないよ。

 

大好きな上田……大好きな皆……大好きな才蔵……

 

皆がアタシを幸せにしてくれて、アタシを伊佐那海にしてくれた。

 

 

だから今度は、アタシの番」

 

 

目に涙を溜め笑みを浮かべながら、伊佐那海は言った。そんな彼女を、才蔵は力強く抱きしめた。

 

 

「それじゃ、俺の借りは貯まる一方じゃねぇか」

 

「そうだね……お蕎麦の借りも、まだ返して貰ってなかったよ……

 

 

いつか返しに来てくれる?いつか、巡り会えた時に」

 

「……ああ……必ず……行く……」

 

 

才蔵から離れる伊佐那海……彼から離れた伊佐那海は、才蔵を現世へと押し戻した。

 

 

「ありがとう…才蔵」

 

 

現世へと戻ってきた才蔵……同時に、黄泉の扉は閉まった。そして、花弁となりその形は消え去った。穏やかな風が吹き、花弁は宙を舞った。宙を舞う花弁を幸村達は見届け、明日花は頬に涙を流しながら空を見上げ、大助は大量の涙を流して空を見上げた。

 

 

『ありがとう……皆……

 

 

さよなら』

 

 

 

 

「結局……救うことは出来なかったか……」

 

 

その言葉に、幸村は明日花の方を向いた。

 

 

「!!」

 

 

彼女の身体は、光の粒となり消えかかっていた。その状態に才蔵達は気付き目を向けた。

 

 

「明日花……お主」

 

「もう思い残すことは無い……

 

これでようやく、母さん達の元へ逝けるよ」

 

「お前、何」

「コイツの定めだからだ」

 

 

その声と共に、幸村の隣りに明日花と同じ姿をした久久能智神が降り立った。

 

 

「お主は」

 

「我が名は久久能智神。

 

とはいえ、もう定めは終わった」

 

「もうちょい時間、くれない?」

 

「無理だ。

 

もう、時間だ。体が悲鳴を上げている……立っているのがやっとだろ」

 

「そうかもね……」

 

「どういう事だ?説明してくれぬか?」

 

「元は根の国の者……

 

それを私が、命を与えたのだ」

 

「命を与えた?」

 

「十年以上前……泣きながら、根の国へ続く道を歩いていた赤子として死んだ子供が一人いた。

 

私はその子供に興味を持ち、話し掛けた……『何故泣いているのか』と。

 

 

そしたらその子供は言った……『母さんと父さんに会えなかった』って。

 

どういう風の吹き回しかは分からなかった……なぜか、私の胸が痛くなった。そして言った……

 

 

『生き返らせる……望みは何だと?』聞いた……

子どもは答えた……『父さんと母さんの傍にいたい』って」

 

「まさか……その子供と親って」

 

「アンタ等が思ってる通り……

 

明日花は……優助と紫苑の間に出来た子供。そして紫苑の腹の中で死んだ赤子だ」

 

「!!」

 

「……せっかく会えたのに、幸せな時間は……長くは続かなかった……

 

六歳の時に、父さんと別れてあの十番勝負まで会うことは無く……

十二の時に、母さんを半蔵に殺された。

 

 

この地にいるにはね……条件があるの」

 

「条件?」

 

「……父さんと母さん……二人が、この世に生きてなきゃ、私はこの地にいられない。

 

 

だからもう……私はこの世にはいられない」

 

 

明日花の言葉に耳を疑った信之は、彼女を見た。

 

 

「……ま…まさ…か」

 

「父さんは死んだ……

 

闇に染まった久久能智神と戦った時にね」

 

「!?」

 

「……それに、一族も全員死んだ。

 

力を得るために、私がこの手で殺した」

 

「……嘘…だろ」

 

「……クッ!

 

生き延ばす方法か何かはなかったのか!?」

 

 

怒りが抑えられなかった信之は、久久能智神の胸倉を掴み上げた。久久能智神は、スッと彼から姿を消すと才蔵の隣に立ち口を開いた。

 

 

「もちろんあった……

 

だが選べば、この場にこの子はいない」

 

「え?」

 

「生き延びるなら……

 

アンタ達の記憶を消して、無となり再びこの地に蘇る」

 

「俺等の記憶を消すって……」

 

「……何かを得るには何かを失わなくては成らない。

 

生き延びる代償として、アンタ達の記憶を消すんだよ」

 

「……」

 

「お前等の事、忘れてまでここに留まりたくなかった……

 

だったら……限られた中で、一族全員から貰い受けた力で、お前等の力になろうと思った」

 

「……そうか……」

 

 

光の粒となり、消えかかっていた自身の手を見つめる明日花……

 

 

「たださ……親の傍にいたいって願っただけだったのに……

 

 

死人が欲張るなって事だったのかな?」

 

「……」

 

「けど……生き返られてよかった。

 

お前等に会えたから……お前等に……」

 

 

目から出る大粒の涙……明日花は腕で拭うが、涙は勢いを止めずポロポロと流れ落ちた。

 

 

「明日花……」

 

「本当は……もっとお前等と居たかった……伊佐那海とも居たかった……

 

 

もっと……わがまま言えばよかった……我慢なんてしなきゃ……こんな……辛い思い…!」

 

 

泣きじゃくる明日花を、いつの間にか彼女の前に歩み寄っていた甚八は抱き締めた。

 

 

「だから言っただろ……我慢すんなって」

 

「……」

 

「我慢すりゃあ、後悔しか残んねぇって」

 

「……」

 

「我慢したせいで、優助も紫苑も散々辛い思いをした……

 

オメェだけでも……伸び伸び育って欲しかったよ。

 

 

俺様の願いでもあり、紫苑達の願いでもあった……」

 

「……」

 

「けど……

 

オメェが居てよかった。

 

 

優助も紫苑も、見違えるようにして生きてたからな」

 

「……

 

 

またどっかで……別の形として生まれたら……お前等の所に…行ってもいい?」

 

 

甚八から離れた明日花は、幸村達の方を見ながら言った。

 

 

「いつでも来い。

 

儂等は待っておる。

 

 

お主と伊佐那海が来るのをな」

 

 

その言葉に、明日花は涙を浮かべながら嬉しそうに笑った。やがて体は消えて行き、明日花は甚八から離れ全員が見回せる位置へと立った。

 

 

「お前等に会えて本当によかった……

 

 

ありがとう」

 

 

満面な笑みを浮かべ、明日花は光の粒となり消えてた……粒は宙を舞い、空へと舞い上がった。

 

その笑みは、かつて明日花が幸村達に見せていた、あの笑顔だった……

 

 

「何故かのう……あの子の笑い声がどことなく聞こえる」

 

「……」

 

(またいつか会おうな……

 

 

伊佐那海…明日花)




目を開ける明日花……


目に映ったのは、竜胆の花……


(この竜胆……)


起き上がり、辺りを見回した。周りは辺り一面竜胆が生え巡っていた。


「……ここは……昔、母さんと父さんに連れて着て貰った…竜胆畑……

?……!!」


前を見る明日花……そこには見覚えのある姿……
白い羽織を腕に通し、雪の結晶が着いた簪で銀髪を纏め上げ、耳に桜の花弁のピアスを着けた女性と、黒い羽織を腕に通し長めの黒い髪を耳下で結った男性……

その二人の姿を見た明日花は、目に涙を溜めて立ち上がった。


「……父さん……母さん」

「明日花」
「明日花」


呼ばれた明日花は、一目散に駆け出し二人に飛び付いた。飛び付いてきた娘(明日花)を紫苑は受け止めそして抱き締めた。二人を囲う様にして優助は二人の肩に腕を回し抱き締めた。


「……よく頑張ったわね……明日花」

「うん……」

「もう……離しませんから」

「……うん」


目から涙を流し、明日花は二人に強く抱きついた。

その様子を、久久能智神は見届けると花弁となり宙を舞い、どこかへと消えて行った。
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