一回戦目は、三好清海入道対本多平八郎忠勝。
舞台へ上がった忠勝のもとへ、長槍を持った数人の家来がやって来て、彼に差し出した。忠勝は差し出された槍を受け取り、一振りした。
「……あれが、本多殿の蜻蛉切……
噂に聞く、名槍だが何ともデカい!」
「あんなデカい槍、初めて見た」
「あんなので突かれたら、いくらお兄ちゃんでも……」
「槍の間合いを掴めれば、何とか……」
「案ずるな!!我が妹よ!!
あのような槍、拙僧の肉体に傷一つ、付けることはできん!!」
「お兄ちゃん!」
「オホ!面白い!」
「世迷い言を!!
我が槍に、突き通せぬものはない!!」
「第一死合い、始め!!」
審判の声と共に、太鼓が鳴り響き始まりの合図が送られた。
合図の音に合わせて、忠勝は清海の腹目掛けて槍を突いた。清海は避ける余裕などなく、その突きをもろに喰らってしまった。
(速ぇ!!)
(速!!)
「きゃあ!!」
「うわ!諸……」
だが、忠勝は槍に手応えが無くふと顔を上げると、鼻で笑い余裕の顔を浮かべる清海が立っていた。
「(我は神仏の使い!!信ずれば必ず救われる!!)
フハハハ!!槍の穂など、通さぬ!!」
腹に刺さらなかった槍を、手で払いのけ高笑いをする清海に、見ていた幸村達は一息つき安心した。
「見せてくれるわ、清海!」
「さっすが、筋肉馬鹿……」
「あの槍を通さないなんて……」
「お兄ちゃん、凄ぉい!!」
「さぁ!!神の制裁を受けてみよ!!アーメン!!」
清海が攻撃しようとした時、忠勝は槍を振り回し、清海の頭へ激突させた。激突した清海は、そのまま気を失い舞台の上で倒れてしまった。
「え!?」
(油断禁物……)
「殴りましたね……」
「……」
「長槍とは本来、叩きつけるものなり!!」
「勝者、本多忠勝殿!!」
「何度も戦場に立った大物を相手に、筋肉一本じゃ無理か……」
「さすがは、徳川最強……」
闘いが終わり、舞台を降りる忠勝……
「これでよいな?」
「お見事です!!義父上!!」
「では儂はもう帰る」
「は!ありがとうございました!」
「あら?私の闘いは、見て行かれぬのですか?」
『弐』と書かれた紙が貼られた籠から、女性の声が忠勝を呼び止めた。忠勝は足を動かしながら、籠に目を向けて話した。
「お前なら楽勝であろう。見るまでもないわ」
「仰る通りですわ!お任せ下さいまし!!」
「い、今の声……まさか……」
籠から聞こえてきた声に、幸村の顔は青ざめた。
「第二戦!!両者前へ!!」
審判の声と共に、『弐』と書かれた紙が貼られた籠が中から八つ裂きにされ、中から女性が薙刀を構えて出てきた。
「さぁ!!参りますわよ!!」
「小松!!お主の薙刀は天下一だが、手加減無用だぞ!!」
「無論ですわ!!
信幸様のために、妻としてしっかり務めさせていただきますわ!!」
信幸にそう言うと、小松は舞台へ上がった。
「あ、義姉上(アネウエ)まで出してくるとは……
何としても、勝ちに来ておる!」
「い、いかに小松殿が薙刀の名手とは言えど、信幸様の御内儀を傷つけるわけには……」
(あれで妻?ガキくせぇ……)
(あの人苦手だわ……)
(参った……これは、やりにくい!!)
心配する幸村の目に、白いマントを頭から羽織った者が立ち上がり、舞台へ上がった。
「随分、可愛らしい奥方ね」
そう言いながら、その者は覆面とマントを取り、素顔を晒した。
「お手柔らかにどうぞ」
小松の対戦相手は、アナスタシアだった。彼女の姿を見た観客はざわついた。
(アナまで、素顔さらしやがった……)
「まぁ!」
アナスタシアの姿を見た小松は驚き声を上げた。
「その髪、その眼……
何と面妖な!!」
「そうね……面妖でしょうね……」
アナスタシアの体や顔を見た小松は、幸村の方へ顔を向き怒鳴った。
「こ、このような異人を抱えているなど……
あなた(幸村)の女癖には、呆れ果てますわ!!明日花という子供がいるというのに!!」
「え…えぇ!?」
(あのクソ妻……
誰が子供だ!?)
「私が、叩きのめして差し上げますわ!!」
薙刀をアナスタシア目掛けて、小松は振り下ろし攻撃した。アナスタシアは難なくその攻撃を避け、彼女に不敵な笑みを溢した。
「あら、おっかない」
「覚悟しなさい!!」
振り下ろした薙刀を、横へ振りアナスタシアに攻撃した。その攻撃を避けながら後ろへ下がったアナスタシアだが、舞台の縁へ足がついてしまった。
(取った!!)
「ああ!!」
「アナスタシア!!」
薙刀を横へ振ったが、そこにアナスタシアの姿は無く、ハッと上を見上げるとアナスタシアが飛び上がり、宙を舞っていた。
宙を舞ったアナスタシアは、クナイを引き抜き小松に投げ放った。だがそのクナイは、小松に届く前に小松が薙刀で振り払った。
「そのような飛び道具など、通じません!!
私の薙刀に、死角はない!!」
宙を舞っていたアナスタシアに、小松は薙刀を振り払った。薙刀は、アナスタシアの足に傷をつけ、小松は機転を変えアナスタシアを叩き落とした。
「何と弱い!!
さてはあなた、幸村の只の遊び女でしょ!!
このような者を、死合いに出すとは!!
幸村!!恥を知りなさい!!」
「待て、義姉上!
何か、勘違いを……」
「そうよ。
私、幸村様だけ、相手してるわけじゃないもの」
アナスタシアは、勘違いをしている小松に答えた。その答えを聞いた甚八は皆を覗き込むように見ながら質問した。
「誰か相手してもらったことあんのか?
俺様はいつも、フラれてるぜ?」
(アホ……)
「汚らわしい!!
同じ女として、許せませんわ!!」
アナスタシアの答えを聞いた小松は、怒りに満ち薙刀でアナスタシアを容赦なく叩いた。
叩かれていき、色気ついた格好をしてきたアナスタシアに、見ていた甚八は興奮していた。
「おお!こりゃスゲェ!」
「アナ……」
「あのお姉ちゃん、あんな弱かったっけ?」
「さぁ!!参ったとお言いなさいませ!!」
「……
参ったわ」
一瞬、幸村を見たアナスタシアは、何かを察したかのように降参した。
「男を、誑かすだけの女子は、真田に入りません!!」
「よくやったぞ!小松!!」
「当然ですわ!信幸様!
あのような遊び女と、一緒にしないでくださいませ!
しかし、実に手応えのない!
これなら、明日花の母である紫苑を相手にしたいくらいですわ!!」
(紫苑って……)
(対決したら、アンタは一発で負けだ)
「情婦を私に当ててくるなど……!?」
薙刀を地面へ着こうとした瞬間、何かが割れるような音が聞こえてきた。
音が聞こえた薙刀の方に目を向けると、薙刀の持ち手が凍り付にされ、凍り付にされた持ち手が粉々に割れ折れていた。
「な……」
「何だ、これは!」
「ひとつ言っておくわ。
私、幸村様の情婦なんかじゃないから」
ケロッとした顔で、起き上がりアナスタシアは小松にそう言うと、舞台を降りた。
「ご苦労」
「仕事はしたわよ」
「ハナっから、捨て死合いかよ」
「さぁね」
「アナスタシア!
お前、殿様以外の相手もするんなら、俺様ともいいだろ!?
いつも断りやがって!!」
「甚八!!」
(馬鹿……)
「用が済んだなら、行くわ」
近付いてくる甚八から逃げるようにして、アナスタシアはその場から立ち去った。
「しっかし……アナは仕方ねぇとしても、もう二敗かよ」
「この辺で勝たないと、ヤバいんじゃないの?」
「心配無用だ。
次は勝つ」
「第三戦!!両者前へ!!」
「行って参ります」
幸村の隣にいた六郎が、自信満々とした顔で舞台へと上がった。
「六郎様ぁ!!」
「頑張ってぇ!!」
舞台へ上がってきた六郎に、観客席にいた女性たちが声をあげて応援してきた。
「その余裕、いつまでもつやら」
覆面をしていた者は、そう言いながらその覆面を取り顔をさらした。六郎の対戦相手は信幸に仕えている七隈だった。
「澄まして、いられるのは今のうちですよ」