――誰かに呼ばれている気がした。誰かに求められている気がした。
「―――いあ、玲亞!」
ゆっくりと重い瞼を開いた。そこにあったのは、心配そうに僕を見つめる紫様の顔だった。
「――ゆかり、さま?」
「ええ。その…ごめんなさい。急に取り乱して」
「い、いえ……大丈夫です。僕にも非がありますし……って、あれ?そういえばここは……?」
そしてこの感触は……?
「ここは霊夢の家よ。そしてそこは私の膝の上よ」
「だ、大丈夫ですよ!僕はもうこの通りピンピンしてますから!」
「だーめ」
慌てて立ち上がろうとするが、紫様に押さえ込まれてしまった。
「でも、この体勢じゃ紫様も疲れちゃいますし……」
「嫌よ。これは、貴方を傷つけてしまった私への罰でもあるの。しばらく大人しく寝てなさい。
それとも、玲亞は私の膝枕、嫌……なの?」
上目遣いで瞳を潤ますという、男が逆らえない禁断の技を使われてしまった。
「うー…では、お言葉に甘えて……」
「ふふっ、それでよろしい」
紫様は優しく微笑んだ。
「……あの、紫様……」
「なにかしら?」
「そういえば、さっき何を言いかけたんですか?」
さっき――霊夢さんとが来て途絶えてしまった会話。その時何が言いたかったのか、知りたかった。
「…それは、ね……」
紫様は少し困ったように苦笑しながら神社の境内を見つめた。
「……いや、何でもないわ。気にしないで頂戴」
「は、はい……」
何でもない、というのは明らかに嘘だろうけど、話したくないなら無理に話す必要はないだろう。日が沈んできたなぁ、なんて思いながら鳥居から見える夕日を眺めていた。
「……あ、ごめんなさい」
「え、え!?」
いきなり膝の上から突き飛ばされる。やっぱり膝が疲れたのかなぁ、なんて思いながら振り向くとそこには誰もいなかった。
「あーもう、ドタバタとうるさいっ!」
背後から声が響き、振り向くとそこに居たのは霊夢さんだった。
「って玲亞、起きたんだ……」
「あ、今さっき起きました。なんか迷惑かけちゃったみたいで、すいませんでした…」
「あー、別に良いわよ。ちゃんと紫から貰ったから」
聞いた瞬間は何が言いたいのかよく分からなかったけど、霊夢さんの手の形で察した。
……なんか申し訳ないな、あと霊夢さん汚いすごい汚い。
「あ、玲亞。今日は泊まっていきなさい」
ふと思い出したようで、お茶を啜りながら霊夢さんが言った。
「いえ、大丈夫です。もうそろそろ帰りますし……」
「多分無理よ?」
「え?」
無理?
「玲亞が寝てる間に色々話してたんだけど、多分さっきあなたが境界を越えられなかったのは、体がオーバーヒートしちゃったからよ」
「オーバーヒート……ですか?」
いや、でも今までそんなことは……
「多分、境界を越えるというのはそれだけで大きな負担をもたらすんでしょうね。妖怪であり、能力になれている紫だって、一日の半分は寝てる上に冬眠までしてる。それをただの人間が、何回も何度も乱用出来るわけないのよ」
「……つまり、ある程度制限があるってことですか?」
「……ある程度、なんてもんじゃないわよ。乱用したら、多分命に関わるわよ?」
「え、そうなんですか!?」
「まあ、紫の式だから霊力が上乗せされて少しは負担も軽減されてるみたいだけど……一日の使用回数は考えた方が良いわよ」
まるで用法用量を守らなきゃいけない薬みたいだ、と思った。ご主人様を悲しませたくないなら少しは考えなさい、と言って霊夢さんは再びお茶を啜った。そういえば僕の分は無いのかな?
「……なに?あげないわよ?」
「……最初から貰えるとは思ってませんでした」
なんでこの人巫女なんだろうなぁ…とふと思った。
「……もうこんな時間か。ご飯作ってくるから待ってなさい」
柱時計は丁度6時を指していた。お願いしますー、と呟いた途端に急に眠くなった。
ダメだ……ここで寝るわけには――
―――――――――――
「――コラー!さっさと起きろー!!」
「…うぇっ!?ちょ、なにするんですか!?」
「寝るのがいけないのよ、寝るのが。起こしてあげたんだから感謝してほしいぐらいだわ」
「寝させて下さいよ……」
中途半端なところで叩き起こされたから、なんかすごくモヤモヤするというかイライラする。
「はいこれ夜ご飯。折角作ったんだから、温かいうちに食べなさいよ?」
「……ありがとうございます。いただきます」
ちゃぶ台の上の夜ご飯を食べ始めた。
「あ、美味しいです霊夢さん!」
「まあ当然ね」
そういった霊夢さんの顔は少し誇らしげだった。
「あ、玲亞。そういえば紫は紫で、今ダウンしてるらしいわ」
帰るときなんかフラフラだったわねー、と霊夢さんは言った。
そっか…一日の半分は寝てる、とさっき霊夢さんが言ってたな……じゃあ今までは僕のために無理して――
「……ということで、今日は泊まっていきなさい」
「うー……よろしくお願いします」
「ん。じゃあ、さっさとご飯食べて先にお風呂入ってきなさい」
「はーい」
サバサバしてるだけで、霊夢さんって結構いい人だね。そんなことを考えながら、風呂場へと向かった。