「……ん」
チュンチュンと、雀の鳴き声が聞こえる。布団を蹴り飛ばし、大きく伸びをしてから立ち上がる。
「んー……」
寝間着を脱ぎ捨て、部屋の端にある棚からTシャツとジャージを出し、素早く着替える。
「……よし」
最初に向かうのは洗面所。顔を洗い、目を覚ます。
次に向かうのは、既に良い匂いの漂ってきている台所。
「おはようございます、藍さん」
「ん、おはよう……といっても、早くはないか」
藍さんが見つめた先にあるのは、時計。その針は頂点……12時を指していた。
「どうだ、体の調子は?」
「まあ大丈夫……だと思います」
「そうか、良かった」
心配そうな表情を浮かべていた藍さんは、少し安心した様に微笑んだ。
「じゃ、朝ご飯食べるか」
「ええ」
いただきます、と呟き、もぐもぐと朝食(昼食?)を食べながら考えるのは、ここ数日で変化したこと。
最初の違和感は、生活サイクルの変化だった。霊夢との弾幕ごっこの翌日、僕が起きたのは午前10時。しかも、霊夢に叩き起こされる形で、だ。
初めは疲れてるのかな、なんて思っただけだったが、八雲家に帰った翌日からも、起床時間は11時前後。因みに就寝時間は午後10時前後だから、毎日平均13時間は寝ていることになる。能力を使わない日だってそうなのだから、なにか他に原因があるということになる。
紫様の出した結論は、「徐々に玲亞の能力も“越える“だけでは無く“操る“に近づいているのかもね」とのこと。その時に浮かべた、紫様のどこか不安そうな表情が気にかかってはいるが、とりあえずは気にしててもしょうがないので、普通に過ごしている。
もう一つ変わったことと言えば――
「――そう、そこだ。その綻びにありったけの力を加えるイメージで……」
「みゅうううぅぅ………はぁ、はぁ」
「……うん、良い感じだな。大分霊力の扱いにも慣れてきた様だな」
「藍さんの教え方が上手いからですよ」
「ははっ、そうかもしれないな」
照れている様子の藍さん。狐耳がひょこひょこと動いていてなんか面白い。
ここは八雲邸の一室、今行っていたのは“結界の綻びを直す“という練習。藍さん曰く、零から結界を生み出すよりも、元からある物に手を加える方が分かりやすく、覚えやすいのだとか。それがゆくゆくは境界を操ることにも繋がる――とか何とか、兎に角そんな感じらしい。
目の前には、星の形に設置されたお札が五枚。最初はここに一枚欠けていて、結界が成り立っていなかった。結界とは様は回路の結果であり、霊力という電流を流さなければ成立しないのだとか。最も、これは一番初歩的な形らしいが。
「……あッ!?」
「藍さん?どうしました!?」
急にドサリと何かが倒れる音が聞こえた。慌てて振り返ると、藍さんが顔を真っ赤にして倒れていた。
「ん……あ、ああ…大丈夫だ……」
「どうしたんですか、なにかあったんですか!?」
「い、いや……ちょっと目眩がして倒れちゃっただけだ」
「過労ですよきっと!ちょっと失礼します!」
「……んっ!?」
藍さんの足と腰に回し、一気に抱え上げるように持ち上げる。所謂、お姫様抱っこだ。
「な、なにもここまでしなくても……」
「ダメです。普段お世話になってるんですから、こういう時ぐらい恩返しさせて下さい」
「……うぅっ」
藍さんの部屋に運び、ベッドの上に寝かせる。
「今日の仕事はやっときますから、休んでて下さい」
「そ、そうは言ってもな……」
「大丈夫ですよ。後は家事ぐらいでしょう?そのぐらいなら僕にも出来ますから」
「むー……なら、お願いしよう」
「了解ですっ。では、お大事に」
ぺこりと一礼して、部屋を出ていった。
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「――紫様、出てきて下さい」
「あら、どうしたの?」
「とぼけないで下さい。あの時、私の耳に息を吹きかけて私の尻尾の敏感な部分を優しく撫でて膝かっくんが出来る人物なんて紫様しかいないじゃないですか?」
「あらごめんなさい。何故か、とても苛々した物だから♪」
「――はあ」
それはヤキモチというかジェラシーというか、嫉妬の感情ですよ。なんて教える勇気は、無論藍にはあるはずが無かった。
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「おっ買い物、おっ買い物」
どこかで見たCMのフレーズを口ずさみながら、人里で食材を購入する。和服を着ている人里の人達の中では僕の存在は若干浮いているようにも思えたが、人里の方々は普通に気さくな方が多く、そんなことは気にならなかった。
「油揚げお願いします」
「はいよっ。いつも大変だねぇ、お使いなんて。ほい、これはオマケだよ」
「あ、ありがとうございますっ」
いつも大量に油揚げを購入するので、すっかり常連として馴染んでいる。オマケもくれる、優しい店長にお礼を行って、人里を後にした。
「お、もしかしてお前が例の紫の式か?」
声をかけられ振り返ると、そこにいたのは白黒の服に魔女の様なとんがり帽子を被った少女。
「え?あ、そうですけど貴方は……」
「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ」
あ、この人が例の魔理沙さんか。ん、あれ?でもなんで僕のことを……
「あ、もしかして霊夢さんから聞いたんですか?」
「いや、これだぜ」
魔理沙さんが出したのは、“文々。新聞“という名前の新聞。見出しには、『スクープ!スキマ妖怪に新たな式!?』というタイトルで、あること無いことめちゃくちゃ書かれている。
「うわ……なんだこれ」
「ここを見てみな」
魔理沙さんが指差した部分には、『事情を知っている楽園の巫女にインタビュー!』という書き出しで、質問に答える霊夢が書かれていた。
「……よし、殺ろう」
「おい落ち着けよ。どうせこんなの、まともに読んでる奴いないぜ?みんな面白半分だし」
「残り半分で紫様に迷惑がかかると、困ります」
「んー……よし、それなら提案だ。もし弾幕ごっこで私に勝てたら、この記事が嘘っぱちだってことをしっかり執筆者の天狗に書かせるのを手伝ってやるぜ」
「魅力的な提案だけど、もし僕が負けたら?」
「その時考えるぜ」
ニヤッと笑う魔理沙さん。
「……その提案、乗りましょう」
「よし、じゃあ弾幕ごっこ開始だ!」