「よし、じゃあ始めるか」
「お願いしますっ!」
僕と魔理沙さんがいるのは、人里から少し離れた森の開けた場所。ここなら人を巻き込む心配も無いし、ゆっくり弾幕ごっこを楽しめる。
「先手は譲るぜ?」
「おっと、ならお言葉に甘えて」
挑発する様に言う魔理沙さんから一歩離れて、通常弾幕を放つ。
僕の掌からのろのろとした大きな光球が生まれ、魔理沙さんに向かっていった。
「……ん?うおっ!?」
僕の真意を読み取ろうとその場にとどまっていた魔理沙さんだったが、魔理沙さんから1mくらいの距離のところで弾けた光球に驚き、浮き上がったようだった。
しかも、その光球は分裂し、半分に分かれ、二個に増えた。
「はっ、少しは驚かされたが、タネが分かればもう怖くないぜ?」
「それはどうでしょう?」
一つ、また一つと同じサイズの光球を放つ。それらは分かれ、縮まり、どんどん増えていく。そしてそれは、不規則な動きと共に、ゆっくりと魔理沙さんに向かっていく。
「……チッ、速度は遅いが隙間が狭くて避けにくいぜ……あーもう、しゃらくさいっ! 恋符『マスタースパーク』!」
魔理沙がスペルカードの発動を宣言し、小さな八卦路を翳すと、そこから一直線に図太いレーザーが飛び出し、僕の弾幕もろとも付近の森の木々を抉り取っていった。
「…うわぁ……」
その破壊の後をまじまじと見つめながら、藍さんの言ってたことを思い出した。うん、レーザーって怖い。
「あー、余所見してる余裕があるのか?今度はこっちの番だぜ!」
そういうと、魔理沙さんは雨粒のような細かい通常弾幕を広範囲に渡って撃ってきた。
ちょこまかと走りながら避けるが、徐々に疲れてくる。何より、スキマが開けないのが痛い。頭に浮かぶのは、霊夢さんの一言。
『ご主人様を悲しませたく無いんなら、あまり無茶はしないことね』
思い返せば、なんでこんなに紫様に気を遣い、紫様の為に必死に動いているのかよく分からなかったけど――
「さあ、そろそろ終わらせるぜ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」
「境符『八雲式二重結界』!」
――負けたくない。そう思い、スペルカードの発動を宣言した。
魔理沙が放った弾幕は、大小様々な流れ星の様な弾幕。
僕の元に向かって降り注いで来るが、そこでスキマを開きその中へ飛び込む。
「おい、それは反則だぜ!?」
スキマを開いて回避した僕に向かって、驚きの声を漏らす魔理沙さん。だけどどうやら僕の移動先までは分かっていないようで、キョロキョロと周りを見渡している。その隙に数枚お札を放つと、それぞれ予想通りの位置で静止し、そこに霊力を流し込む。
「こっちです!」
「なに!?」
頭上の声に気づいた魔理沙さんは、弾幕を放ちながら上昇するが、途中で違和感に気づく。
放った弾幕が、自分に返ってきているのだ。
「なっ、く……!」
咄嗟に弾幕を放つのはやめたようだったが、未だ魔理沙さんの放った弾幕は跳ね返り続けている。僕から見ると、魔理沙さんは三角形のピラミッドの様な形をした、薄暗い結界に囲まれている。当然、原因はさっき放ったお札だ。あれを軸に結界が成り立っており、どうやら通常弾幕を跳ね返す程度の強度はあるようだった。
「だったらあそこを……!」
どうやら魔理沙さんは結界の比較的弱い部分に気づいた様だ。それはつまり、お札の部分。結界の中と外の境界に存在するそれこそ一番脆い部分で、真っ先に狙うべき箇所なのだ。
「そのための“二重“結界なんだよな……」
そう呟くと、結界を構成しているお札の延長線上にお札を同じ枚数放ち、それを繋げる。丁度魔理沙さんの弾幕が一つ目の結界のお札を破壊し、僕に向かって弾幕を放っているところだった。
だがしかし、一つ目の結界を囲い込む様に作った二つ目の結界に阻まれ、またもや魔理沙さんの元へ跳ね返る。
辛うじてかわすも、狭い結界の中で跳ね返って来る弾幕をよけ続けるのは難しい。これは勝ったかな、と少し油断した時のことだった。
「すごいスペルカードだが……一つ欠点があるぜ」
「何でしょう?」
「弾幕ごっこに必要なのは技術でも策でも無い。弾幕は、パワーだぜ!魔砲『ファイナルスパーク』!!」
八卦路から放たれたのは、さっきの数倍太く数倍早いレーザー。結界なんてすり抜けるように軽く破壊し、気づいた時には目の前はもう、眩い光に包まれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おーい、大丈夫か?」
「んー……ん?」
目を覚ますと、そこは草の上で、目の前には魔理沙さんがいた。
「あ……そっか、僕は負けたんだったっけ……」
「まあ、相手が悪かったな。戦術自体は良かったぜ」
ニッと笑う魔理沙さん。さりげなく褒めてくれる辺り、気遣いの出来る優しい人なんだな、と感心した。
「あの、魔理沙さん……その……」
「あー、賭けの話か。まあ、あの記事の撤回については手伝ってやるよ。私もあいつにはイラついてたし、丁度良いぜ」
「あーーありがとうございます!」
と、ここで重要なことに気がついた。
「――あ、ヤバイお使いの途中だった! すいません失礼します!」
「おう。んじゃ、またな!」
立ち上がり、スキマを開く。これ絶対藍さん怒ってるよ、と思いつつそこに飛び込む。
「……ただいまー」
「お帰りなさい。料理にする? 調理にする? それとも――料理してあげましょうか?」
「すいません本当にお待たせいたしました!」
スキマから出て玄関に着くと、目の前には仁王立ちした紫様が立っていた。
「もうお腹ペコペコなのよ。パパッと出来るものでいいから、早くなにか作ってくれない?」
「はい只今。……あ、紫様。藍さんの調子はどうですか?」
「……藍?」
それを聞いた瞬間、紫様の表情が少し変わったように見えた。
「あー……貴方は主人より式を優先するのね、なるほど」
「なにか言いました?」
「いえ、なにも? そんなことより、早くお願いねー」
「はーい」
早めに作れる物……うん、冷凍食品でいいかな。なんて考えながら台所に向かった。