紅の一。異変は突然起きるもの。ただし傍迷惑。
それは、唐突な出来事だった。
「暇だなー……」
縁側でゴロゴロする僕。午後三時のおやつの時間日当たりも良く、お菓子を食べながらダラダラと過ごすのには絶好の場所だ。
「……んん?」
さっきまで晴れていたというのに、急に雲が太陽を覆った。いや、雲……なのか? よく見たら赤いあれは……
「……霧?」
「れーいあ君?」
「はい?」
いつの間にか隣には紫様が寝ていた。なんかもう紫様の登場には大分慣れてきた。
「あら、珍しいわね。紅い霧なんて」
「珍しいなんてもんじゃないでしょう……環境問題とかそういうアレの引き起こした現象じゃないですか?」
「何も無い幻想郷の唯一の取り柄は、空気が綺麗で水が美味しいことよ」
「唯一と言いつつ二つ言いましたね」
間の抜けた答えだったが、とりあえず原因が環境問題とかそういう“どうしょうもない物“ではないようで、一安心。
「それなら霊夢さんか魔理沙さん辺りが率先して動きそうですし、大丈夫ですね」
「そうねー」
「ちょ、それ僕の芋羊羹です」
「若い癖に年寄り臭い物食べるわね。あと主を敬って譲っていただけないかしら?」
「若い癖にって紫様は何歳何ですか?」
「女性にそれを聞くの?デリカシー無いわねぇ……
あ、ご馳走様ー♪」
「あ!?」
いつの間にか紫様は僕の持ってきた和菓子を全て平らげてしまっていた。
「……昼寝でもしようかなぁ」
「一緒に寝る?」
「ぶっ!?」
飲んでいた抹茶を噴き出しそうになった。
「遠慮しときましょう」
「あら残念」
そういって大きな欠伸をした紫様は、立ち上がってとぼとぼと歩き出した。恐らく昼寝しに行くんだろう。
「ああそうそう」
立ち止まった紫様は振り返って言った。
「吸血鬼」
「……はい?」
「いや、だから吸血鬼よ……この紅の霧の原因」
「はあ、でも吸血鬼がどうして…?」
「ほら、お天道様がすっぽり隠れてるじゃない。そして、その霧は風で動く気配も無い」
紫様が空のさっきまで太陽があった辺りを指差して言った。確かに、先程からそこそこ強い風が吹いていたが、霧が動く気配はない。それどころか、先程までより量が増えているような……?
「どうやってるのかは分からないけど、多分吸血鬼でしょうね。なんか、一泡吹かせてやるー、っていうかこのままじゃ終わらない!って顔してたし」
「え、知り合いなんですか?」
「面識があるだけよ。はあ、鬼って言うのはなんでこう厄介なのが多いのか……」
「知り合いなら、紫様が止めて下さいよこの霧出してるの」
「知り合いではあっても友達ではないわ。それに、友達だったとしてもあの子が聞いてくれるとは思えないわねぇ」
「はあ……」
そして、少し何かを考えている様子の紫様。
「……玲亞」
「はい?」
「この異変の首謀者を、巫女や魔法使いと協力して止めに行きなさい」
「いや……でも僕なんかが行っても、」
「謙遜はやめなさい。一回霊夢にも勝ってるでしょう?」
「………」
「大丈夫よ。真剣に闘うわけじゃなくて、スペルカードルールを用いた弾幕ごっこですし」
「いや……なんか、胸騒ぎがする……っていうか」
いやすいません嘘です行きたくないだけです。
いつの間にか僕も、このだらけきった自堕落な生活を受け入れ適応してしまっているようだ。
「……はあ、しょうがないわね」
そう言って紫様はスキマを開き、そこから朱色のパーカーと藍色のズボン、紫色のTシャツを取り出し、僕に手渡した。
「はい」
「はい?」
え、なにこれ?
「勝負服よ勝負服。決戦には持ってこいでしょう?」
「…え、いやこれは……」
良く見ると、パーカーの後ろには八雲家と大きく太文字で刺繍が入っており、Tシャツの前には大きく“紫推し“と書いてあり、後ろには「紫ファンの心得ー!」という書き出しの、謎の文章が入っている。
「……これ、モノノフ用ですよね?」
「ほら、紫と紫、漢字だけなら同じじゃない」
「感じだけですね」
と、言いつつも試しにTシャツとパーカーに着替えてみる。
「……うん、やっぱり似合ってるじゃない?」
「あーそうですかー?」
何故かサイズピッタリだけど気にしない。
「で、どう?行く気になった?」
「あはははは、いや、確かにこの服は格好良いですけどやっぱり異変解決は霊夢さんと魔理沙さんで十分じy」
「つべこべ言わずにいってらっしゃい♪」
言い終わる前に感じる浮遊感。何となくデジャヴだな、と思った時には既にスキマの奥深くだった。