「………ふふふ、ダメですよレミリアさん……僕の血液はトマトジュースじゃありません…」
「いや、分かってるわよ」
「やめてくださいよぉ……トマトジュースの代わりに僕の血を飲むの………」
「寧ろ血の代わりにトマトジュースを飲んでるんだけど?煽ってるの?」
「ふふふ………………あ。ああっ!?」
「何よ、煩い奴ね」
一気に意識が覚醒し、慌てて起き上がる。キョロキョロと周りを見ると、所謂天蓋付きのベッド、有名そうな絵画の数々、高価っぽいアンティークの品々。隣にはキョトンとした顔のレミリアさん。そしてここはベッドの上。
………うん、何があったんだっけ?
「もう、大変だったのよ?あなたが倒れちゃうから…」
「た、倒れたの!?」
「試合に勝って勝負に負ける、って感じ?ばたんきゅーっていうか……とにかく、大変だったのよ?異変を解決する主人公が、敵陣で倒れてどうするのよ」
やれやれ、という風に呟くレミリア氏。あれ、ていうことは……
「まさか、レミリアさんが運んで来てくれたんですか!?」
「いや、それは咲夜だけど」
「流石に大変でしたよ?」
「ちょ、心臓に悪いっ!?」
いつの間にかいた咲夜さんが恨めしそうに言う。彼女の能力上、というか職業上、そういった不遇な役割が多いんだろう。
「……あの、色々とご迷惑をおかけしたみたいで、すいませんでした」
「何よ改まって、そんなのいいって。色々、楽しかったしね」
レミリアさんは笑顔で答えた。その真紅の瞳が見据えるのは、窓の外。そこからは、雲一つない晴天が覗けた。
「……ねえ?」
「………?」
虚空に向かって、話しかける様に呟くレミリアさん。あれ、そういえば前にもこんなことが………
「そうね、たかが天気に囚われるなんて愚かな話だものねえ」
「ゆ、紫しゃまっ!?」
あ、噛んだ。すごい恥ずかしい……
そして、紫様は優しげな微笑みを浮かべて僕に言った。
「ええそうよ、紫しゃまよ。………お疲れ様、玲亞。頑張ったわね」
「……はいっ!」
わしゃわしゃと、頭を撫でてくる紫様。子供扱いされてる感じだけど、どこか心地よかった。
「おーおー、お熱いねぇ」
「あら、居たの?」
「いるわよ、私の家だもの。スキマは立ち入り禁止、って札でも表に立てようか?」
「なら裏から入るわ」
「……あのー、お邪魔な様でしたら僕達は帰りますよ?」
「そうね、帰りましょうか♪」
「貴方は帰っちゃダメ。貴女は帰って」
「あら、式の不祥事が無いか見守らせて頂こうかと思ったのだけれど」
「過保護な保護者ね。寧ろ不祥事が見たいのよ、私は」
「散々な言われ様じゃないですか、僕……?」
なんかすごいダメダメな子みたいになってるよ……いや、確かにそうかもしれないけどさぁ………
「……ていうか、もしかしてこれから何かやるんですか?」
その問いに、レミリアさんが答える。
「ええ、異変解決記念の宴会を……」
「博麗神社で」
「紅魔館で」
だが、締めの部分で二人の声が重なる。
「……どっち?」
「紅魔館」
「博麗神社」
「ちょっと、首謀者が責任を取って自宅に招いてあげるっていってあげてるのに、それは無いんじゃないの?」
「首謀者だからこそ、招かれて自分の足でいらっしゃいな」
「……どちらかと言えば、紫様に賛成です」
「ふふふ、そうよね♪」
「……ふん、まあいいか」
最終的にはレミリアさんが折れる形となり、場所は博麗神社に決まった様だった。
「んで、日時は?」
「え、今日よ?」
「え、今日っ!?」
いくらなんでも早すぎじゃない!?
「宴は、異変が解決してすぐに行うものだって霊夢ちゃんが言ってたわ☆」
「なにが言ってたわ☆よ。ただ騒ぐ口実が欲しいだけでしょう?」
呆れた様に呟くレミリアさん。
「貴女は騒ぎたくないのかしら?」
「当然、騒ぎたいわ」
「みんな宴好きなんですねー」
「妖怪も人間も、賑やかなのが好きなのには変わりがないんでしょう」
紫様の言葉に、少し考えさせられる。妖怪も人間も、根っこの部分は同じ――――じゃあ、妖怪と人間の境界って? 人と、妖の違いって?
「じゃあ、多分もうそろそろ霊夢達も準備が出来てる筈だし……ちょっと早いけど、向かいましょうか」
時間としては、現在午後三時半。
「こういう時に、あなたたちの能力って便利よね」
「 ? なにいってるのよ、そんな横着しないわ。しっかり歩いて行くわよ?」
「え?」
紫様の言葉に、僕も戸惑う。え、歩くの? でも……
「……私は、後で向かうわ。日傘差して歩くの、好きじゃないのよね。憎っくき太陽から逃げてるみたいで」
「逃げてても、解決にはならないでしょう?」
パチン、と紫様が指を鳴らす。鳴らしたのは良いんだけど……?
「え、今の何ですか?」
「おまじないよおまじない。これで多分大丈夫よ、表に出ても」
「ほ……本当に?」
「ええ、多分。まあ一応、ある程度肌を隠しておいた方が良いとも思うけど」
存在の境界を弄らせてもらったのよ、と紫様。吸血鬼が日に弱いのは、そういう風に認識されてしまっているから。妖怪は人の認識で性質を変えるので、その認識の境界を少し弄ったそうだ。
「……全く、頼んでもないのに有難迷惑よ」
とか言いつつも、少し嬉しそうに見える。
「親切は押し売りする物だもの」
不敵に微笑む紫様。なんだかんだで、二人は仲良さそうだ。
「よーし、じゃあ行きましょうかっ」
「ええ。スキマ移動に頼らずに歩けば、太らなくて済むしねえ………?」
……視線が痛くなり、思わず目を逸らす。確かにそんなこと言ったけどさぁ………
「……なんかすいません」
「まあいいわよ。じゃあ行きましょうか?」
「咲夜ー、先に行ってるからみんなをよろしくね」
「かしこまりました」
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「……頭痛い」
頭痛に魘されて目を覚ますと、もう少し明るくなり始めている位の様だった。アルコールの力というのは恐ろしい物で、昨日の記憶がほとんど無い。何もやらかしてないといいんだけどなぁ……
見渡すと、数々の妖怪(紅魔館の方々とか)が赤い顔をして飲んでたり倒れてたりする中で、余裕そうな女性が二人。
「あら玲亞、起きたの」
「紫様……まだ飲んでたんですか………」
少し頬が赤い感じがするけど、紫様はまだまだ元気そうだ。
「全く、酌をさせられる奴の身にもなって欲しいわよね」
そう呟くレミリアさんも、まだまだ余裕な様子。
「あ、レミリアさん」
「……レミリアでいいわよ。なんか、さん付けされるの嫌だし。敬語もやめてほしいわ」
「……実はさ、僕も何となく敬語やめたいなぁ……って思ってたんだよね」
弾幕ごっこで生まれた絆なのかも?
「じゃあ改めてよろしくね、レミリア」
「うん、玲亞。……で、なに?」
「あのさ、今度一緒に日なたぼっこしよう?」
「うん?何よそれ?」
「日なたぼっこっていって、太陽の光を浴びながらお昼寝することだよ。ちなみに紫様と僕の日課だよ」
「私は日なたぼっこよりは日陰ぼっこの方が好きなんだけど?」
「私もそうかも。……でも、たまには悪くないかもね」
「でしょ?」
改めて考えるとくだらない提案で、くだらない話だ。なんだよこの年でみんなで日なたぼっこって。
「……その時は、あの子も一緒に………」
「ん、レミリアなんか言った?」
「いや、何でもないわ」
宴は暁から宵まで、宵から暁まで、三日三晩続けられた。恐るべし、幻想郷の宴。それより恐ろしいのはその間ずっと飲み続けてた紫様だけど。端折るけど、その間に他の紅魔館の方々とも仲良くなることができた。
正直、こんな感じなら寧ろまた異変が起きないかなぁ……なんて、軽いことを考えてしまっていた。
――――異変が起きることには理由があって、異変を起こす並々ならぬ事情がある。このことをしっかり理解していなかった僕は、後々痛い目をみることになるのだがーーそれは大分先の話。