「……みゅ………?」
春眠暁を覚えず。とは言うけれど、暖かくなれば流石に気づいて起きます。だって毛布と布団を被ってたんだから、いくらなんでも暑くて寝てられない。
「……………」
対照的に暑くなんか無いのか気持ち良さそうに眠っているのは隣の紫様。……ん、紫様?
「っていうかなんで冬なのにこんな暑いのっ!?」
布団を蹴り飛ばし飛び起きる。一気に窓を開け外の景色を窺う。
「……なんだ、まだ冬か」
外には雪が積もっていた。ほっとして胸を撫で下ろす。っていうかたかが一晩寝ただけなのにそんな春になってるはずなんてないよね。厚着し過ぎて暑かったんだよ。あー安心した。よし寝直そう。そう思い再び布団に潜る。
「……ん?」
なんか忘れてるような気がする……?まあ大丈夫か。うん大丈夫だ。きっと。……あーそうか、朝ごはん作らなきゃ。今日は誰が当番の日だったかは覚えてないけど、もし僕だったら大変だしね。
紫様はまだ寝てるみたいだし、三人分だけで大丈夫かな……
「って、えぇぇえええぇぇえ!?」
え、え、なんで僕の布団に紫様!?いや違うここ紫様の布団だ。っていうかここ紫様の部屋だ!?
「……何があったんだっけ」
昨日のことを思い出そうとがんばってみるけど、それがすごく昔のことのように全然思い出せない。それでも断片的な記憶を繋げて思い出してみると、どうやら寝ぼけて紫様の布団に潜り込んでたみたいだ。
「……まあ、紫様はまだ冬眠してるみたいだし………」
出来ればバレずに隠し通せれば良いなぁ。と思いながら、大きく伸びてから立ち上がり居間に向かう。
居間に着くと、大きな狐耳と九本の尻尾が視界に入ってくる。トントントンとリズム良く包丁を動かし手際良く料理をしているのは、言うまでもなく藍さんだった。
「あ、藍さんおはようございます」
「ああ、玲亞か……遅かったな。紫様基準で考えれば結構早いけど」
「??」
遅いって言っても今は六時だ。確かに普段よりは少し遅いけど、言う程では無いはずだ。
「あ、そっか。朝起きて二度寝したからー……結果的に丸一日寝てたのか」
あー、それなら寝過ぎだね。二十四時間位ねてるじゃん。
「丸一日?何言ってるんだ?」
「え?」
「丸一冬寝てたんだぞ?」
………え……
「えぇぇえええぇぇえ!?」
ちょ、丸一冬!?え、寝過ぎじゃないいくらなんでも!?
そんなの、まるで冬眠……あ、そうか。
「え……まさか冬眠してたんですか、僕?」
「多分そういうことだろうな。そう気づいたから安心して放置しておけた」
「?」
「ほら、冬眠だったら紫様に手を出せないだろ?」
喜色満面、と言った表情で此方に振り向き、料理中にも関わらず何だかすごい楽しそうな藍さん。心なしか包丁の使い方が危なっかしくなっている。
「え、いやいやあのあれはそのなんか能力が暴発した感じでその別に他に他意は無いんです!はい!」
「いやー、女性の布団の中に潜り込むってなんか夜這いみたいだよなー」
味噌汁をかき混ぜるのが楽しいのかとっても笑顔な藍さん。いやー味噌汁作るのって楽しいもんねしょうがないよね!(棒読み
「まあ、まあ別に?そんな?疚しい事なんて?別に無いんで?特に問題は……な………い………?」
そうだよ頬っぺたふにふにしてたじゃんめちゃくちゃ疚しい事あったよ!
動揺が顔に出てしまったようで、藍さんも料理を中止し、怪訝そうな顔で腕を組みながら僕に厳しく問う。
「……まさか玲」
「は、はい?」
「……もしかして、触っちゃった?」
「はい!?」
ちょ、ちょっと待って!触るってことは……やっぱり……
「い、いやいやいやいや!断じてそんな酷いことはしてないです!はい!」
「え?」
「…え?」
「玲亞君、今何を想像したんだ?」
「うぇっ………」
顔が火照って、赤くなっていくのを感じる。落ち着け、落ち着くんだ僕。
「べ、別に何も想像なんかしてませんよ?疚しい事なんてありませんよ!?」
「ああ、そういうのならきっとそうなんだろう」
慈しむような優しい笑みを浮かべているように見えるが、どう考えてもこの人めちゃくちゃ楽しんでる。やだこの人ドSだ……
「そ、そんなことより」
「ん?」
コホン、と軽く咳払いをして仕切り直す。
「僕、どのくらい寝てました?」
「んー、三が日が終わった日ぐらいからだから……三ヶ月位かな?」
「え?」
「え?」
ってことは今四月か?いやでも、それにしては……
「え、今四月何ですか?」
「ああ、うん」
「おかしくないですか?」
「え?」
「え!?」
「何がだ?」
「いや、ほら四月なのにまだ冬が終わってないみたいじゃないですか、これ……」
「ああ……いやでも、きっと春もまだ寒いから動きたくないのかなぁ。って」
「呑気!?」
え、誰か動けよ!?四月なのに雪が降ってて寒いって完全に異常気象だよ!?
「全くもう……こういうのを解決する為に巫女さんとかがいるんじゃないんですか?」
「いや、『ただ春が来ないだけだから別に良いのよ!』とか言ってたかな」
「呑気!?」
うーん、春ならお花見とかしたいしなぁ。どうにかしようかなぁ。
「いやいいや。うん、藍さん朝ごはんお願いします」
「はーい」
火を点けて、料理を再開した藍さん。
……そういえば、藍さんの尻尾にダイブしたのが始まりだったなぁ………いや、まあでもこういうのは言わぬが花、っていうかシンプルに言ったらなんかされそうで怖いからいいか。
「うーん、でもアレだな」
「どうしました?」
料理は終わったようで、藍さんは盛り付けを始めている。
「いや……このまま春が来なかったら、もしかして紫様は目覚めないんじゃないかなぁ、とか思って」
「え……?」
紫様が……目覚めない?
「ちょ、それってどういう……」
「あ、悪い。時間だ、私は行かなきゃいけないから、後片付けよろしく」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
藍さんはスタスタと部屋を出て行った。走って追いかけたが、何処に行ったかは見当がつかない。
「……しょうがないなぁ」
まずご飯を食べて、そのあと異変解決。とりあえず霊夢さんと合流かな?
「……いただきます」
色々と考えることはあるけど、まずはご飯だ。
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「……ふう」
八雲藍は廊下の物陰から現れた。帽子を外して髪を掻き回し、はぁ、と一息。
「……これで良いんですよね、紫様。しかし、此度の異変は………」
思い浮かべるのは主の顔。まあ、彼女の指示で動いたわけでは無いのだが。
「……冥界の亡霊姫、紫様の旧友であるあの人が主犯だとすれば………私も動いた方が良いのかもしれない」
明かりが無いからだろうか。藍の表情が暗く見えた。
「……全く。まあ、しっかり帰ってきたら………尻尾くらい触らせてやるか」
そう呟き、あの時のことを少し思い出して微笑んだ。
窓の外には、まだしんしんと雪が降り続いていた。