就寝から一時間後くらいの話。三人称にて。
「只今帰りましたー」
「お帰りなさい」
玲亞が寝た(寝させられた)直後に紫の式、八雲 藍が帰ってきた。
「今日も今日とてお疲れね」
「そう思うなら少しは手伝って下さい」
はぁ、とため息を吐く藍。靴を脱ぎ居間に向かうが、その行動の一つ一つに疲労が見え隠れしている。
「あら、私だって色々仕事があるのよ?」
「いつも寝てるか遊んでるかじゃないですか……」
「今日はたまたま仕事があったのよ」
「たまたまあったって……」
ジトー、っとした目で紫を見つめる藍。だが紫は特に気にせず話を続けた。
「そうそう、今日はもうご飯出来てるわよ」
「え!?まさか紫様が作ったんですか!?」
「……失礼ね、私だって料理ぐらい出来るわよ。今日はしてないだけで」
「それは出来ない人の台詞です。ってあれ?それなら、誰が……」
「……あのね、藍。今日こんな子が幻想入りしたんだけど―――」
ー少女説明中ー
「―――どう思う?」
話し終わると、紫は少し不安そうな表情で藍を見つめた。
見る人が見れば驚くだろう。妖怪の賢者と呼ばれるあの八雲紫が迷っているのだから。
「どう思うって言われましても…まあ、とりあえず可哀想だなー、って。」
「そうよねぇ……」
「それと、紫様は基本はとても優しい方だと思いますよ?」
「基本ってなによそれ……ってそんなことはどうでもいいのよ」
ふぅ、と一呼吸置いて話を続けた。
「どう思う?」
「いや、だから、どう思うと言われましても……可哀想だな、とか…」
「……玲亞は、ずっと一人で生きてきたのよね。誰にも助けられず、人から疎まれながら」
玲亞が寝ている部屋の方を見て、しっかり寝つけているだろうかと少し心配に思う。
――何故だろう、感情移入し過ぎている。
「……紫様、この際紫様の式にしちゃえばいいんじゃないですか?」
「……え?」
「丁度良いじゃないですか。玲亞君には居場所ができるし、紫様に似た能力だから使い方は紫様がアドバイスすればいい。一石二鳥じゃないですか」
「……でも藍。式になるって奴隷になるような物じゃない。玲亞が可哀想よ?」
「そう思うなら私の仕事も減らして下さい……じゃなくて、えっと……ほら、紫様は式のことをちゃんと家族として扱ってくれるじゃないですか?」
ニコッと微笑む藍。その言葉からは、二人の強い絆を感じられた。
「…そうかしら?」
「まあ、時々酷いときもありますけどね。今日みたいに」
「あら、これでも優しいつもりよ?」
ふふっ、と笑う紫。その顔からは不安はもう消え失せていた。
「――藍、ありがとう」
「いえいえ。式として当然の助言ですよ」
笑顔で答える藍。その笑顔の裏には、「式が増えれば仕事が減るかも!」という思惑も混じっているのだが……まあそれはそれだ。
「まあ詳しくは明日話しましょうよ」
「そうね。私ももう寝るわ……」
紫は大きな欠伸をして、スキマを開いた。
「私はもう少しゆっくりしてから寝ます。お休みなさい」
「おやすみ」
スキマを開き、その中へ潜り込む。そしてその中で一人、少女が呟く。
「幻想郷が……少し賑やかになりそうね」
恋する少女のような微笑みを浮かべながら、明日からの生活に思いを馳せていた。