一ヶ月ぶりの更新ですが、多分また三週間くらい間が空くんじゃないかなあ。この作品なんぞを楽しみにしていらっしゃる方、どうもすいません(多分いないけど)
紫様に付いた割と困ったちゃんっていう二つ名に笑いを堪えられない。何だそれ可愛い。命名者とはお友達になれそう。
何やかんやあってかれこれ三日が経った。つまり約束の日。ふと木陰から萃香さんの様子を窺うと、暇そうにぐてっと地面に転がっていた。まあそれはそうだろう。未だに誰一人挑戦者が来ないのである。しかも萃香さんは律儀にここでずーっと誰かが来るのを待ち続けているのだ。なんかもうそれは律儀というか馬鹿正直というか。流石に深夜に来るような馬鹿はいないと思うんだけどなあ……いやでも、妖怪の多い幻想郷だからそれは分からないのか。馬鹿も多いし。
「……はあ…」
「差し入れ持ってきましたよ」
「おー、ありがとう……って、あんぱんと牛乳ってなにさ。私別に張り込みしてるわけじゃないんだけど」
「多分似たような物ですよ、はい」
まあいいけどさ、と呟き萃香さんはあんぱんの包みを開きモグモグとそれを食べ始めた。しかし牛乳に手を付けずに手元の瓢箪の酒をぐびぐび飲むのは少し良くないと思う。折角持ってきたんだしあんぱんにお酒が合うとも思えないから牛乳飲んでほしいんだけど。
瓢箪の中身を一気にガブガブとそれこそ浴びるように飲み、萃香さんは瓢箪を地面に叩きつけて文句を言い始めた。
「っていうかさ!全く誰も来ないじゃん!」
「は、はい」
たった一杯飲んだだけなのに早くも酔っ払ってる様に見える。というかこの三日間ほぼずっとオールナイトで四六時中お酒を飲んでいた筈なんですが。何故ここで急に酔い始めたんだ。
「なに!?なんなの紫は!?私を担いだの!?あんなに自信満々に言ってたのは何だったの!?」
「まあまあこれでも飲んで落ち着いてください」
丁度良いタイミングなので萃香さんが放置してた牛乳を手渡す。しかし蓋に手をつけ何故か左に回そうとしたり右に回そうとしたり悪戦苦闘している。その蓋ただ上に力を加えるだけで開くんですが。まあ面白いから放置してみる。
「あーもう開かない!」
「ぐはあっ!?」
蓋が開かないのが相当イライラしたのか、投げられた牛乳瓶が僕のお腹に飛んできた。直撃した。一瞬朝飲んだ牛乳が出そうになるくらいのダメージを受けた。
「……よってたかって皆に苛められてる気分……」
「でも牛乳瓶開かなかったのは自分のせいじゃないですか?」
「玲亞まで私を苛めるのか!」
「勿論そうだよ!!」
そう言った途端急に萃香さんが黙りこんで、無言で唇の端を噛み締めている。瞳にも水滴が溜まってきており、明らかに泣く何秒前かって感じだ。
「えっ、いやその、う、嘘です!冗談ですよ!」
「本当に?」
「本当ですよ」
「鬼は嘘が嫌いだよ?」
「本当は嘘でした」
「ていっ!!」
「あべしっ!?」
瓢箪で頭を殴られた。ちょっと待ってこれ滅茶苦茶痛い、余りの痛みに地面をゴロゴロ転がり気を紛らせる。
「うわぁぁぁ痛いよぉぉぉぉ!!」
「嘘ついた罰だよ」
涙目でチラリと萃香さんの方を見ると、べーと舌を出してこちらを見つめている。これはちょっとキレそう。悲しくなったので少しでも気を惹こうと試しに死んだフリをしてみる。その状態で軽く五分経過。ばたん、と何かが倒れる音がしたので顔を上げると、萃香さんが鼾をかいて眠っていた。
「……うん、まあ疲れも溜まってたんだろうししょうがないんだろうなあ……」
起こさないように優しく萃香さんに触れた。腰に手を回しそのまま真下にスキマを開く。境界を越え自室へと辿り着く。敷いておいた布団にゆっくりと萃香さんを寝かせ、毛布を被せた。これでこの前の借りは返した。満足して頷く。
「……これでよし」
「良いわけあるか」
「玲亞君が紫様以外の女の子を連れて帰ってきた……」
「えっ!?」
振り返ると襖の隅から藍さんと橙ちゃんが覗いていた。どうやら運び込む一部始終を見られていたらしい。
「紫様がいるのにそういうことをするのはよくないと思うよ!」
「誤解されている様ですが、ただその辺で倒れるように眠っちゃったから運んできただけです」
「いやそれもあるけどそんなことより」
はあ、と藍さんが嘆息した。
「そんなことしたらその鬼と紫様との賭けが確実に鬼の勝ちになっちゃうだろう?」
「ん………あっ」
確かにそうだ。例え本当に誰かしらがやって来たとしても、萃香さんが見ていないのなら証明のしようがない。んー、どうすれば……
「……僕が証人になります」
「いや、証人がいても証拠がないだろ」
「大丈夫です、僕は嘘をつきません!」
「この前私のプリンが無くなったとき、玲亞君は知らないって言ってたけど紫様に聞いてみたら本当は玲亞君が食べてたってことがあったよね……」
「………………僕は嘘をつきません」
「「絶対嘘だ」」
二人してジトーっと紫様のことを見るような胡散臭げな目付きでこちらを見ている。
「……多分萃香さんは僕のことを信じてくれますよ!」
「それは信じてるというより騙してるって言った方が正しいな」
「騙される方が悪いんですよ」
「それは悪者ですよ……」
悪者という言葉は耳に刺さるが、まあ我慢。制止させようとする二人の声を聞き流し、境界を越えた。
******
「………………」
段々日が傾き、空気がひんやりしてきた。夕方の五時くらいだろうか。橙に染まりゆく空が綺麗だな、何て思いながらぼんやり考える。
――あれ、まさかマジで誰も来ない……?
「何だったか忘れたけど確か誰も来なかったら紫様に何か罰があったような……」
まあそれはそれで面白いのかな、とか考えちゃう僕は式失格。
「………………」
帰りたいけど帰れない。約束を破れないって辛いんだな、と思ったところで気づく。
――そっか、萃香さんは一人ぼっちでずっと待ってたのか。辛かったのだろうか。そうでもないのだろうか。とりあえず紫様が中々良い性格をしてることは確かだった。何という長期放置プレイだろう。
「…………………………ん?」
鳥肌がぞわりと逆立つ様な感覚がした。夜も近いし目覚めた紫様がやってきたのだろうか、と思考を張り巡らせていると、遠くから誰かの足音が聞こえた。
それも一人や二人ではない。数十人の足音。四方八方から聞こえるそれは、どうやらこちらに向かってきているようだった。
「…………えーっ……」
嫌な予感がする。冷たい汗が首元を流れる。段々と近づいてくる足音とともに、誰かの話し声が聞こえてきた。
「本当にここで合ってるんだな?」
「多分ね。紫の言うことが正しければ、だけど」
「スキマは信用ならないけどこと重要な場面では嘘を吐かない筈よ」
「私はお嬢様が信じるものを信じるだけですわ」
「私は静観させてもらうわね。喘息が酷いの」
「どうします幽々子様?」
「面白そうな事になりそうね。萃香もこれはキツいんじゃないかしら?」
「……………………は?」
全員来た。幻想郷の強者がほぼ全員。しかし、話から察するに紫様助言してるじゃん絶対……反則だけど良いのだろうか。
全員僕の存在に気づいた様で、一部は戸惑ったり、一部は驚いたり、そしてまた良い性格のごく一部の人は扇子を口元に当てて楽しげに笑った。
「紫の話だと確か、ここにいるのが黒幕って事だったわよねー♪」
「出たな黒幕!私達の宴会を返してもらうぜ!」
「私のお酒を返してもらうわ!」
「私のワインを返しなさい」
「私の暇は返さなくて良いわよ♪」
「えっ、えっ!?」
各々武器を取り出し始める。物騒なことこの上ない。どうにか釈明しなければ。
「ぼ、僕は犯人じゃないですよ!犯人は別にいます!」
「へえ、言ってみろよ」
「犯人はちっちゃくて、」
「(玲亞だな)」
「可愛くて、」
「(これは玲亞ね)」
「お酒が好きだけど酔いやすくて、」
「(多分玲亞さんですね)」
「寂しがり屋な、」
「(絶対玲亞ね)」
「女の子です!」
「(確実に玲亞じゃないけど玲亞にしといた方が面白そうだわ)」
「(確実に玲亞じゃないけどもう玲亞でいいわ)」
「(こんなにも月が見えないから犯人は玲亞だ)」
言い終えた瞬間に何故か殺気を感じた。何故だろう。僕じゃないことは証明したはずなのに。信用されていないのだろうか。
「玲亞」
「えっ?」
皆がにっこりと笑った。素敵な笑顔なのに何故鳥肌が立つんだろう。
「酔いに酔って境界を崩すがいいわ、隙間の式!」
「動くと撃つ!間違えた、撃ったら動く!」
「加速させたくなるような素敵な時間をお約束するわ」
全員が懐からスペルカードを取り出したときに、これは無理だなと悟った。虐めだなと思った。虐めいくない、しょうがないから帰ろうと思ったけどスキマが開けなかった。開こうとしたスキマを閉じようとする華奢な腕が見えた。鬼の角も見えた。狐の尻尾も見えた。猫の耳も見えた。一家総出で虐められてるんですが、これはどうすれば良いんでしょう。潤んだ瞳で現実を見てみると、迫りゆく弾幕の嵐が見えた。
最近投稿した新作、「やんでれびより」もご一読くだされば幸いです!