居眠りしている中国娘の顔に瀟洒なメイド長が稚拙な落書きをしている。吸血鬼姉妹が寄り添って盃を酌み交わしている。白黒と七色と七曜の魔法使いが何やら小難しい話をしている。猫と狐が戯れている。亡霊と半人半霊が笑いあっている。鬼と巫女が月光の下、拳と弾幕と言葉を激しく撃ち交わしている。それを見ながら、隣の美女にそっと呟く。
「平和ですね」
「そうね。でも、それは一時の物に過ぎなかったのだった……」
「不吉なモノローグ!?」
何か思うことがあるのか、月を映す杯を揺らしながら紫様は肩を竦めた。
「平和なんて物は別の時代と今を見比べたからこそ言えることなのよね。絶対的ではなく相対的。今の外の世界は平和だというけれど、犯罪が無いわけではないし、絶対安全と言い切れる訳でもない。詰まるところ、それは現代よりも前の時代と比較しているからこそ言える。未来から見たら、現代も十分野蛮なのかもしれないわね」
「難しいことは分かりませんし、先のことは読めませんけど」
まあそういうのは、理屈より感覚で考えるものでしょう。平和だと思うなら平和なんですよ。そう言うと、紫様は空を仰ぎ目を細めた。
「ふふ、確かにそうかもしれませんわ。感覚で味わうからこそ、自然は色を得、幻想は淡く輝くのでしょう」
「……いつにもまして胡散臭いですね、今日」
「酔ってるのよ」
空になった盃に無言で酒を継ぎ足す。最近は言葉など無くても、何となく紫様の望むことが分かるようになってきたような気がする。そこまでの信頼関係を築くことが出来たのが、何だか妙に誇らしい。
「……玲亞」
「はい?」
「ワインが飲みたかったわ」
「あ、すいません……」
前言撤回。まだまだ藍さんレベルの以心伝心な感じにはなっていないようだ。しょうがないので、自分の盃にワインを注ぎ、紫様に差し出す。
「じゃあそのお酒は僕が貰うので、紫様はこっちを飲んでください」
「え……でもそっちって、さっきまで貴方が」
「え?」
「いや……うん、頂くわ……」
何故か戸惑った様子の紫様は、僕から受け取った盃を見つめ、ゆっくりと口に含んだ。頬が先程までより赤くなっている気がするのだが、飲み過ぎだろうか。
「……そういえば紫様」
「何?」
「僕、アレのお詫びまだされてないんですけど……」
「あー」
アレ、というのは先日の、今宴会に参加しているメンバーに僕が集団リンチされた話だ。確かに勝手なことをした僕も悪かったとは思うが、アレは酷い。で、何かしらその分の埋め合わせをしてくれるっていう話になっていたのだが、何をして貰うかまだ決めてなかった。
「私に出来ることなら何でもいいわよ?」
何でもいい、と言いつつも挑発的に見えるのは何故だろう。僕が無理難題を頼むはずがないとでも高を括っているのだろうか。若干胸元の見えるドレスから目を逸らした。
「んー、そうですねえ……」
改めて考えてみると、今の状態が既に幸せすぎて、改めて望むような物がない気がする。
ふと周りを見ると、地に片膝をついた萃香さんと、少し汚れがつき所々が破れた巫女服を着て堂々と立った霊夢さんの姿が見えた。
「してほしいことって別に今じゃなくてもいいんですよね?」
「ええ」
「じゃあこの権利は温存しときます」
「えー」
「何で微妙に不満そうなんですか」
「玲亞の欲する物に興味があったのよ」
「あはは。それならもう、貴女に十分過ぎる程頂きました」
きょとん、という効果音が似合うような、普段からは想像もつかないような間抜けで無防備な表情を浮かべた主殿は、戸惑った様に笑う。
「私は何もしていませんわ。ただきっかけを与えただけ」
「きっかけを与えてもらわなかったら、今の僕はいませんでした」
「……全くもう、良く出来た子ね」
頭をくしゃりと撫でられる。細く、それでいて温もりを持った手の感触が心地好かった。
「玲亞ー!酌しなさい酌ー!」
「はーい!ただいまー!」
いつの間にか飲み始めていた霊夢さんに呼ばれた。行ってらっしゃい、という声が聞こえ、振り返るともう紫様の姿は無かった。と思いきや萃香さんの所に移動していただけだった。
見上げると、傾き始めた三日月が見えた。全くもう、幻想の住人の宴は眠ることを知らない。
間空きすぎて何書きたかったか全く分かんない()