東方界縫伝(旧)   作:織葉 黎旺

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萃の十。紅い夜には素敵な晩餐

「腰打った……」

 綺麗な着地に失敗してしまった。患部を摩りながら立ち上がると、目が痛い程の紅の館、紅魔館の門前だった。

 

 「はー」

 こう見るとやっぱり立派な建物だなあとしみじみ。誰が建築したんでしょう。色々とすごいセンスだな。

 さて中に入るか、と門を潜ろうとすると、止まりなさい!という声が聞こえてきた。振り向くと、目を瞑ってうとうととした様子の門番が寝惚けた声でふらふらしていた。

 

 「ここは悪魔の館紅魔館、人間がそう易々と入っていい場所では……」

 「あ、美鈴さんお久しぶりです」

 「あ、玲亞さんですかお久しぶりです」

 声をかけた瞬間、ぱっちりと目を開けて敬礼をしてくれた美鈴さん。こちらも敬礼し返して門を潜る。まあ、こんなにぽかぽかした陽気なら居眠りしちゃってもしょうがないよね。よくよく考えるとわざわざ紅魔館を襲撃しにくる妖怪なんていないんだし門番いる意味あるのかな……?

 

 「ごめんくださーい」

 「いらっしゃいませ」

 庭を抜け扉を開け、誰もいない玄関に声を響かせると、瞬間、目の前にメイド服が似合う幻想少女ランキングトップ3に入りそうな完全で瀟洒なメイドさん、十六夜咲夜さんがいた。ちなみに一位には紫様が入る予定である。いつか着てみてほしい。ギャップ萌えという奴だ。

 

 「こちらです、どうぞ」

 「ありがとうございますー」

 すたすた歩く咲夜さんにとぼとぼ着いていく。何というか、こう見ると隙のない人だなあとしみじみ思う。佇まいというか風格というか、微塵の油断も無さそう。常に気を張ってて疲れないのかなあ。

 

 「着きましたよ」

 「ありがとうですー」

 ここはレミリアの部屋なのだが、何故こんなにも無駄に扉がデカイのだろう。レミリアの身長だしあと一回り二回りちっちゃくても問題なさそうだけどなあ。でもそうすると咲夜さんとか僕とかが入れなくなるか。ぷっ。

 

 「きっとまだ伸びる余地はあるから気にしてないわ」

 「気にしてないなら僕の頭に飛び乗ってポカポカと頭を殴るのをやめてください」

 澄ました顔をしるが内心で気にしてるようだ。可愛い。

 

 「はいはい、いつか伸びますよね」

 「……貴方最近、私を子供扱いしてないかしら?」

 可愛いので頭をぽんぽんして撫でてあげたのだが、レミリアは不満そうだった。不満そうなので今度はわしゃわしゃする。わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。

 

 「でも満更でもなさそうだよね」

 「まあ嫌ではないけれど……」

 咲夜さんがシャッターチャンスとばかりにカメラを取り出して連写しているがレミリアに気づく様子はない。流石咲夜さん、盗撮すらお手の物とは。さりげなくピースしてみる。

 

 

 

 

 

 

 「……で、この八雲家出張デリバリーサービスに何の用でしょう」

 「いや、特に何もないけど」

 「あ、それなら最近食糧が足りてなかったのでちょっと献血をお願いしたいのですが」

 何処から取り出したのか、咲夜さんは細い注射器を手に持って言った。準備がいいなオイ。

 

 「いや、わざわざ献血なんかしなくていいぞ」

 近づいてきた咲夜さんをレミリアが制した。

 「レミリア……」

 「そんな事しなくても直接吸えるし」

 「ふぁっ!?」

 レミリアが視線をこちらに向けた瞬間、後ろ手に拘束された。恐らく咲夜さんの仕業だろう。普通の人間な筈なのに、抵抗できないほどがっちりと僕の腕を押さえている。

 

 「咲夜、もうちょっと低姿勢にしてくれるかしら」

 「かしこまりました」

 「ぷっ、既に若干屈んでるのに、それでも僕の身長に届かないんですね」

 「咲夜、締め落としてくれる?」

 「かしこまりました」

 「いたたたた!?」

 腕を捻り上げられ、その上体重をかけられて地面に落とされた。

 

 「じゃあ早めのディナーを頂こう」

 「待って!分かったから!ちゃんと献血するから!だからやめて!!」

 「血を吸わせてあげるのも立派な献血ですわ」

 「そうね、咲夜の言う通りだわ」

 レミリアの鋭い牙が光る。僕に迫る。献血の注射針よりも明らかに太いレミリアの牙に刺されるのは痛いから嫌なのだ。

 

 「十六夜シェフ、今日の前菜は何かしら?」

 「本日の前菜は血液生搾りでございます、お嬢様」

 「やったー、いただきまーす」

 「うわああああ助けてゆかりん!」

 絶望的な状況に、信頼する主の名を叫んでみるが、何も起きない。助けてゆかりん(切実

 

 「はいゆっくり出てきました」

 「ちっ、何の用だ」

 「いや、呼ばれたから出てきただけですわ。続きをどうぞ」

 「ふん、ならいいわ」

 「いやよくないよくない!!」

 首筋に鋭い痛みが走った。首筋を舐められながら、ゴクゴクと血を吸われる感触。心地よいものではないし正直気持ち悪いので早く離れてほしい。

 

 「今日のところはこのくらいで勘弁しておいてあげるわ」

 「…このくらい……って言われても、これ以上量が増えたら僕流石に危ないと思いますよ……?」

 レミリアも咲夜さんも離れてくれたので立ち上がってみたが、貧血でふらふらする。足元がおぼつかなくなり、たまたま紫様の方へと倒れた。

 

 「あら、大丈夫?」

 「……紫様が受け止めてくれなかったから大丈夫じゃないです」

 いや、倒れたのは本当に偶然なんだけど、丁度紫様の胸元に向かって倒れたのだ。まあ手で受け止められるだろうけど、あわよくばそのまま倒れられたら良いなー、なんて思ってたから意外と天罰かもしれない。というか実は僕は紫様に嫌われてたのかもしれない。

 

 「八雲家デリバリータンクもう用済みなんだけど」

 「だから僕は血液タンクじゃないっ!」

 「今後ともご贔屓にお願いしますわ」

 「もう指名しないでください……」

 というか、執事として呼ばれたんじゃなかったっけ僕。何故またもや血液タンクと化しているんでしょう。

 

 「じゃあ帰りますね」

 「待ちなさい」

 スキマを開こうとした手を紫様に掴まれた。

 

 「まだ紅魔館からは報酬を貰ってませんわ」

 「あー…何も用意してなかったわね」

 「お嬢様、それでしたら晩餐をご馳走するというのは」

 咲夜さんの提案を聞いて、お腹が空いてきた。紫様の方をチラッと見ると目が合って、少し不満そうにため息を吐いた。

 

 「まあうちの式が構わないなら、私はそれでいいわ」

 「やったー」

 「今日のメインは人の丸焼きでございます」

 「やっぱり帰りますね」

 「冗談よ、普通のものを出すわ」

 普通のものと言いつつフォアグラやらキャビアやらステーキやらが出てくる紅魔館は色々と凄いと思うのです。空腹感を料理へのスパイスにして、素敵な夜を過ごしました。

 

 

(……ところで紫様)

(何かしら?)

(そういえばゆかりん、って変なニックネームで呼んじゃってすいません)

(貴方がそう呼びたいならそれでもいいわよ?)

(遠慮しときます)

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