台所に着いた僕は、少し……というか大分困っていた。
「…え、えー………」
一言で言うなら惨事。
火がつけっぱなしだったようで、煮えっぱなしだった味噌汁は焦げて真っ黒。炊いていたお米も真っ黒。ていうか、炊飯器じゃなかったんだ……なんか、文化の違いというか文明の違いを感じる……
「まあ、火事にならなかっただけ良かった……のかな?」
良くない。絶対良くない。これを食べれる人はいないだろう。となると……
「作り直し……?」
材料があればいいけど、なんて思いながら周りを見渡して気づく。
「……なんか冷蔵庫ある!?」
味噌汁もご飯もわざわざ釜戸で作るのに、何故か冷蔵庫はある。
「あれかな、なんか氷をたくさん詰め込んで冷却しておくっていう………」
最初の印象が強かったので、どうにも古い知識を持ち出してしまう。
「…って……やっぱりそれはないか……」
普通に電気で動くやつだった。何だろう、古い景観の町の中に近代的なビルが建ってる感じというか……
「……違和感を感じるなぁ」
いちいち悩むのはめんどくさいからもういいや。うん。
「冷蔵庫の中はっと……」
……微妙。野菜は余りない上に、肉や魚もない。ご飯は炊く時間がないからパス。残るはパンだけど……
「……無いなぁ…」
僕の料理スキルでは作れる料理が思い浮かばない。
「どう?捗ってるかしら?」
「うわっ、驚かさないで下さいよ!?」
突然背後から紫さん登場。相当心臓に悪いと思う。
「あら、藍なんかはもう慣れたものよ?私の登場を察知するもの」
「それ修得するまでに何年かかったんでしょうね……」
「少なくとも玲亞の年齢の3倍以上……ってなに言わすのよ」
ジトー、とした目でこちらを見る紫さん。年齢を気にしてるのかな……?
「……あの、失礼ですが紫さんっておいくつでしょうか…?」
「玲亞、あなたいい度胸してるわねぇ……」
「はいすいませんでした僕が悪かったです」
背筋にゾクゾクと寒気が走るような素敵な笑顔を向けられてしまった。
「……で、どうなの?捗ってる?」
「んー……捗ってる、というかそれ以前の問題というか…」
未だ片付けていなかった使用済みの調理器具類や料理のような黒い何かを見渡しながら言った。
「あら、片付けなら簡単よ?」
紫さんがそう言って、パチン!と指をならすと、食器や料理(のような生ゴミ)がいきなり消失した。
「え……あ、そっか…スキマか……」
「ご名答」
紫さんはいつの間にか、扇子で口元を隠しながら微笑んでいた。
「……もしかして紫さん、めんどくさくなったらスキマに捨てたりしてます?」
「そしてご明察ね」
「……もったいないので僕がちゃんと洗います」
「え、そんないちいち洗う必要あるかしら?」
「まさか毎回食器総取り替えですか!?」
「いつもは藍にやらせてるから問題ないわ」
この人……相当めんどくさがり屋だなぁ……
「はぁ、とりあえず料理を作りたいんですが、食材がないんです…」
「何がほしいの?」
「んー……手っ取り早くパンで」
「はい」
「痛っ!?なんでフランスパンを頭上に落とすんですか!?ていうか何この固さ!?」
「なんとなく……?」
試しに食べてみようと思って、床に落ちたフランスパン(当然床に接してない部分)を千切って食べようとしたのだが、硬すぎて切れなかった。
「か、硬い……」
「美味しいわよ?」
「食べれるんですか!?」
最早人間じゃない気が……
「だって妖怪だもの」
「心を読まないで下さい…」
紫さんと喋ると全然話が進まないなぁ……
「まあ要するに、材料が無いの?」
「はい……あの、紫さん。もう普通にスキマから料理とか出せません?」
「出来なくはないけど……スキマを四次元ポケットみたいに使いたくないのよねぇ」
「どこでもドアとして使ってるじゃないですか…」
「どこでもドアだから使いたくないのよ」
分かるような分からないような変な理由だなぁ……
「兎に角、なんか作って。もうお腹がペコペコなのよ?早起きしたせいで」
「起きるのって体力使います?」
ダメだ、話がどんどん脱線していく…
「……兎に角、なんか食材を下さい」
「これでいいかしら?」
そう言ってスキマから落ちてきたのは、冷凍食品だった。
「え、えー………」
「もうこれでいいからお願いね」
「それぐらい自分でやって下さい……」
藍さんがどれだけ苦労しているのか容易に想像出来る……
まあある意味作る手間が省けてラッキーだったなー、なんて思いながら電子レンジの中に冷凍食品を入れた。