文章のおかしなところ、デュエルのルールの矛盾などあるかもしれませんが、これからよろしくお願い致します。
戦いの儀。そう呼ばれるデュエルが、今、俺の目の前で繰り広げられていた。
三千年前のエジプトの王(ファラオ)の魂──アテム──とその魂の入った千年パズルを組み立てた少年──武藤遊戯──のデュエルだ。
オベリスク・オシリス・ラーの三幻神、アテムの相棒とも言える《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》…それら全てを倒し、デュエルは今、武藤遊戯の勝利が決まろうとしていた。
「もう一人の遊戯君の場に、壁となるモンスターはいない…」
「サイレント・マジシャンの攻撃で勝利が…決まる…」
「遊戯…」
《死者蘇生》を使って神(オシリス)を蘇らそうとしたアテムだが、遊戯の《封印の黄金櫃》の効果で発動を止められていた。結果、今の状況は──
遊戯
LP:1000
場:《サイレント・マジシャンLV8》ATK3500
アテム
LP:2500
場:なし
そして今は遊戯のバトルフェイズ。当然、ここからの展開は決まっている。
「…くっ……。サイレント・マジシャンのダイレクトアタック!」
「……」
遊戯の命令を受けて、サイレント・マジシャンがアテムに杖を向けた。
「サイレント・バーニング!!」
そして、杖から光が放たれる。
ピーというライフの0になる音が、このデュエルの決着を教えていた。
「う…く…うぅ……」
遊戯の勝利…それはアテムがこの世からいなくなることを意味していた。それを分かっているから遊戯は、勝者の方が膝を折って泣いていた。
「オレの負けだ、相棒…立て、勝者が跪いてどうするんだ」
「うっ…うぅ…」
敗者のアテムが、遊戯の元へと歩いていく。まだ泣いている遊戯の肩に、そっと手をのせる。
「オレがお前なら、涙は見せないぜ?」
「ボクは弱虫だから…ボクにとって君は目標で…君みたいに強くなりたくて……」
「お前弱くなんかない…ずっと誰にも負けない強さ、優しさって強さを持ってたじゃないか。オレはそれを、お前から教わったんだぜ…相棒」
「……!」
優しさという強さ…確かにそれは、遊戯の持つ強さと言えるな。アテムの方には、優しさは確かに少し欠けてる。
けれど遊戯は、優しさの塊と言ってもいいな。いじめていた相手を庇ったこともあり、命を賭けてアテムを守ったこともあった…そして俺も、あいつの優しさに助けられた。
「コナミ」
「……ん?」
アテムが俺を呼ぶ声がした。
いつの間にか、アテムが俺の前に来ていた。遊戯も立ってるから話はもう終わったんだろう。
「お前に、このデッキを受け取ってほしいんだ」
「なっ!? アテム、それは今使ってた…」
デュエルディスクからおもむろにデッキを取り出したかと思えば、それを俺に差し出してくる。
今、遊戯とのデュエルで使っていた、アテムのデュエリストとしての魂ともいえるデッキを。
「コナミ、お前は相棒の同級生で、ライバルでもあり…相談相手でもあり…最高のパートナーだった。そんなお前にこそ、オレがこの時代に生きていた証のデッキを持っててほしいんだ」
「アテム…分かった、お前の魂のデッキ、俺が受け取るよ」
「ああ、頼む。…不思議な事に、お前とはまた出会える気がするぜ」
「ははっ、変なフラグ建てんなよ。俺も死んだら過去に行くのかよ」
「いや、逆だ…未来で、また一緒にデュエルしてる気がな」
「……なら、その時を楽しみにしてるよ」
「おう!」
アテムのデッキをデッキホルダーに仕舞い、アテムと別れの餞別の意味も込めてハイタッチをする。そしてついでに──
「そうだ、俺からはこれをやるよ」
アテムの頭に強引に俺の被っている赤色の帽子を被らせる…ってやっぱり遊戯の髪型にはキツいか。
「これは…コナミの赤帽子か」
「デッキのお返しとしては安いけど、俺の魂みたいもんだからな」
「ありがとうコナミ…お前との繋がり、大切にするぜ」
キュッと帽子の先を押さえていつもの力強い顔で言ってくる。
そう言われると、嬉しくなるねこっちも。
俺が軽く笑って頷くとアテムは俺から離れる。
「ファラオの魂よ! ウジャト眼に王の名を!」
いつの間にかもう、アテムとの別れが近づいてきてるようだ。
イシズに言われてアテムは、変な眼の様なマークの入った壁に向かって自分の名を叫ぶ。
「…アテム!」
王の名を聞いた壁、いや扉が真ん中からゴゴゴという音と共に横に開いていく。
そしてアテムは、光の漏れるその扉に向かっていく。
「遊戯!」
「…!」
城之内に呼ばれた遊戯がその歩みをピタリと止めた。
「本当に行っちまうのかよぉぉ…あの世になんか行かなくていいんじゃねぇか、ていうか行くなぁぁ!」
「もう一人の遊戯…ううん、アテム。その光の向こうに、あなたの帰るべき場所があるのは分かってる…でも、ずっと一緒に仲間だったあなたがいなくなるなんて、意味がわからないよ!」
「杏子!」
本田、杏子とアテムの別れを悲しんでいる。だが、城之内だけは、涙を流しながらも力のこもった声で杏子の名を呼んだ。
「分からなくていいんだよ…わかんねぇから頭ん中で必死にそいつと過ごした時間…想いを…絶対忘れねーように刻み込むんだよ!」
「…っ!」
「だから…今はあいつを見送ってやろうぜ、あいつの未来へ」
「うん…忘れないよ、アテム…あなたのことを」
城之内の奴…良いことを言いやがる。忘れないようにか…アテムのヤロー、変なフラグ建てやがったからな、忘れたくても忘れられないが。
「遊戯! 王だろーがお前は遊戯だ! 千年経とうが俺たちはずっと仲間だ!」
城之内の言葉に、アテムの背中からでもあいつが喜んでるのがわかる。
「ああ!」
再び歩き出したアテム。俺たちに向けてサムズアップをしながら颯爽と光の扉の中へと入っていく。
「……またな、アテム」
消えていくアテムの背中に、俺からの最後の言葉。
そしてついに、扉が閉まり始めて、光が途切れた。
ここに、三千年前のエジプトの王の魂は、あるべき場所に帰ったのだ。
そしてそれから、数十年が経った。
俺の名はコナミ、現在20歳…ネオ童実野シティから外れた、サテライト在住。