「ふわぁ……もう何時だこれ」
「朝の八時だな」
『すぅ……すぅ……』
マナが俺の寝るはずのベッドで堂々と眠り、俺とアテムはテーブルの椅子に座りながらデッキ編集と新カードの確認。
だが、気づけばもう明るい。というか、八時まで気づかないってのもどうなんだよ。
「でも、かなりデッキは仕上がってきたな」
『ああ。だが驚いたぜ……《ティマイオスの眼》やその効果で出るモンスターが登場してるなんてな』
「それは俺に感謝しろよー? 特別に、ペガサスに頼んで作ってもらったんだからな」
あれはアテムが消えてからだったな。アテムがいた証に、そしてエジプトが起源のこのデュエルモンスターズになら、その昔エジプトでアテムがファラオとしていたときに起きた出来事をカードにしたり、《ティマイオスの眼》とかの特別なカードを特別にカードとして描いてほしい。俺はそう、ペガサス会長に頼んだ。
限定一枚だけという条件で、特別にあの人は作ってくれた。俺や遊戯に貸しがあったってのもあるだろうけど。
そのカードたちはすべて俺がもらい、こうして今ではどういうわけかアテムの手で、デッキの中に入れられたんだ。
『ああ、あの時のような特別な力はないが、効果はどれも強力だ。ありがたく使わせてもらうぜ』
「おう……さあて、ちょっと寝るかな。動き出すのは昼からでいい……誰か来たか?」
いざ寝ようと思って動いた瞬間、部屋にインターホンの音が響く。こんな朝っぱらから誰がくるんだ?
「あっ……おはようございますコナミさん!」
「ゆま……おはよーさん」
ドアを開けるとそこには、アカデミアの制服に身を包んだゆまがいた。しかも手には通学鞄と……弁当箱か?それらしき物を包んだような袋も見える。
「えっと……コナミさん住むとこもないって言ってたのでご飯大丈夫かなって思って……お弁当作ってきました!」
「弁当? 俺にか?」
「はいっ! あの……迷惑でしたか?」
満面の笑みで言っていたかと思うと今では申し訳なさそうな顔をして俺の顔を窺ってる。
まさか弁当を作ってきてくれるなんてな……。
「迷惑なんてそんなわけないだろ? サンキュー、ありがたく食べさせてもらうよ」
「は、はいっ! 喜んでもらえてよかったです、えへへ」
お礼を言いながら、ゆまの頭に手を置いて軽く撫でる。
ゆまもまた満面の笑みになって少し恥ずかしそうに笑ってる。
やっぱりこの子可愛いよなぁ……いや変な意味じゃなくて子供っぽい的な意味で。
「あっ、私もう学校の時間なので……いってきます!」
「おう、頑張ってこいよー」
手を振りながら去って行くゆまに俺も手を上げて応える。
アカデミアかぁ……昔はあんな離島にあったのに今じゃ町中にあるもんな。今の子供たちはいいことで。
『コナミー?』
「うっ!?」
後ろから、声だけでもうニヤニヤしてるのが伝わってくる。そんな言い方で女の子の声がする。
マナめ……いつの間に起きやがった。
「なにかなマナさん」
『青春してたねー?』
「ハッハッハ、私にそんなことがあるわけないだろう、嫌だなぁ全く」
弁当箱は背中で隠しながら部屋の中へと戻っていく。
「そのお弁当、私も半分ちょうだいね?」
「……はい」
ご丁寧に実体化して「いつでも杖で殴って脅せます」という威圧と共に言われたら答えは一つ。イエスだろ。
まあせっかくだし皆で分けた方がいいか、今日の昼飯はこれだな。
『そういえばコナミ。新しい仕事に教師はどう?』
「教師-?」
『だってコナミ、昔クロノス先生の勧めで取ってたよね?』
「あー、そんなこともあったなぁ」
あれはアカデミアを卒業する前に進路相談か何かで。
クロノス先生から、「シニョールコナミ、教師になる気はないノーネ?」とか言われたんだよな。
あの時は元々やることも決めてなかったし、卒業したらとりあえずはまた双六さんの店でバイトの予定だったし……なんならまた遊戯の旅につき合おうかなとも思ってたな。あいつある意味俺より人外なことしてたし。
と、とにかくなにも決めてなかったから何となく教員免許は取ったんだよなぁ。
「そうだな、教師ってのもよさそうだな」
『まあそんな昔のが今でも有効か分かんないけどね』
「あー、それはあるなぁ……というか俺、就職なんかできるのか? サテライトから出てきたのに」
考えてみれば俺に住民票的な物はあるのか? 昔は海馬とペガサスが裏で手を回して俺の経歴とか住民票は問題ないようにしてくれてたんだが……ちょっと気になるな。市役所的なとこのデータベースに侵入して経歴書き換えとくか。
「ふわっ……」
……寝てからやろう。ついでに今日はノーパソでも買いに行くか、ネカフェばっかも行きたくないし……お金足りるかな。
既にふたたびベッドに寝転がったマナを一瞬見て、仕方なく俺はベッドにもたれるようにして眠りについた。
「おはようございますっ!」
「みんなおはよー。このクラスの担任だった先生が、家庭の都合でこのアカデミアをやめられたので、新しい先生が見つかるまでは、私がこのクラスの朝と帰りのHRに来ますね」
デュエルアカデミア高等部。
そのとある教室での朝のHR。みんなが席に座り教壇に立つ教師からの連絡などを聞いている。
だが、どうやら今までの担任がいなくなったらしく、普段は初等部担当の加藤友紀がこのクラスの臨時の担任となっている。
「それでは出席を取りますねー……青葉あげはさーん」
「……はい」
「いますねー……海野幸子さーん」
「あっ、加藤先生。海野さんはお仕事でお休みですっ!」
「はーい。じゃあ次はー……大庭ナオミさーん」
「はい」
「はい、出席っと……」
そこから次々と名前を呼んでいき出席の確認をしていく。
「ツァン ディレさーん」
「……はい」
前日コナミと出会ったツァンも、このクラスの一人だった。
「えー、宮田ゆまさーん」
「はいですっ!」
「はーい。じゃあ最後、レイン恵さん」
「ん……」
このクラスの最後の一人、レイン恵が静かに挙手して応える。
全員で20人のこのクラスは、海野幸子のみ欠席という出席状況であった。
「えー今日も一日頑張って行きましょうねー。それと、アカデミアからのお願いなんですが……」
「お願い?」
アカデミアからのお願いという言葉に、生徒たちが少し反応する。
「皆の周りに、プロデュエリストとか教員免許を持っててデュエルも強い! みたいな人がいたら教えてくれないかな? デュエル実技担当の先生がいないから……先生たちの方でも、求人してはいるんだけど」
こんなことを生徒にお願いすることは間違ってるかもしれないが、現在デュエルアカデミアは教師不足。そのため、こうしてスカウト的なやり方で人材を求めているのだ。
「デュエルが強い……あっ!」
デュエルが強い。その言葉だけに反応して、ゆまの頭の中に1人の男が思い浮かぶ。自分の危機を救ってくれて、カードショップも救ったデュエリスト──
「コナミさん、家がなかったなら仕事もありませんよね……」
──コナミの姿が。
教員免許を持っているという条件など頭から省き、デュエルが強いという理由だけで、ゆまは学校が終わればコナミにこの話をしに行こうと決めたのだった。
「デュエルアカデミアで教師ぃ!?」
「はいっ!」
時刻は3時過ぎ。マンションの前の道をアカデミア生がチラホラ通ってると思ったら、このマンション目がけて走ってくる1人の女の子がいた──ゆまだ。
何やら用事があるかのように急ぎながら走ってきて、ベランダから見えない死角に入ってどこに行ったのかと思えばインターホンが鳴り。
出たらそこにいたのは少し息を切らしたゆまで。
とりあえず部屋に上げてお茶を恵み、息が整ったと思えばゆまの口から出てきた言葉は──
「コナミさん! デュエルアカデミアで教師しませんか!」
そしてさっきの俺のセリフへと戻る。
というか、なんでいきなり教師に……。俺の疑問に答えるように、ゆまが笑顔で話し出した。
「実は、前までデュエル実技担当の先生がアカデミアを辞めてしまったんですよぉ……それで先生が足りないから、知り合いにデュエルの腕が立つ人がいれば紹介してほしい! と言われまして」
「ほおーん……それで、俺のとこに?」
「はいっ! コナミさん、デュエルの腕は抜群ですから!」
「でもさゆま……それって教員免許いるんじゃないのか?」
「あ……」
教員免許。その言葉を聞いてゆまが固まった。しかも「あ」って……まさかそこだけ聞いてなかったか忘れてたのか。
「そ、そうでした……教員免許を持っててデュエルの腕が抜群が条件でしたよぉ」
「ちゃんと聞いとかないとなそれも……まあ、俺教員免許持ってるんだけどな」
「へ?」
頭を抱えだしたゆまに、少し意地悪い笑みを浮かべながら言うと、ゆまは驚いたような表情になった。
まあまさか持ってると思わないよな、絶賛無職の人間だし。しかも住むとこが昨日までなかった謎の人間だし。
「こ、コナミさん教師できるんですかぁ!?」
「できるぞー、1度もやったことないけど」
そうなんだよなぁ、免許取ったけど教師として働いたことはない。アカデミア在学中に取ったけど、その間にダークネスとの戦いはあるわ卒業したら結局十代と旅して最後は双六さんから店引き継いで店長だしな。
店長なってから何十年かしたらゼロ・リバースが起きて店に今まで来てた子供たちの姿もなくなって。あの時はまだ子供たちの純粋なデュエルを見て心が弾んでたが、子供たちが来なくなるわ、その時にはもうデュエルはほとんどしてなかったのもあって、最後にはあんなことにもなって本格的にデュエルは止めたんだが。まあ客がほとんど来なかったからそれはいいけど。
っと、話がそれたな。
「すごいですよぉ! コナミさん、アカデミアの先生になりましょうよっ!」
「うーん……」
うーんなんて言ってるけど心は決まってる。応募一択だろこんなん。公務員になれるチャンスだし、昼間に俺の住民票的なのは作っておいたし。何もかもネットで管理すことの恐ろしさがここに現れてるねぇ全く。
つまりは履歴書みたいなのも書けるし就職するのも問題なし。
なのに考える振りをする理由は……即答するとか恥ずかしいからである、アカデミアの子の前でぐらい見栄張りたいじゃないか。
「よし、なってみるかな」
「わぁ、頑張ってくださいねコナミさん! えっと、これがアカデミアの番号ですよ」
ゆまが制服のポケットから生徒手帳らしきものを取り出しながら、それに書かれてるアカデミアの電話番号を見せてくれる。
えーっと……ふむふむ、よし、メモはできた。
「サンキューゆま。今晩にでも電話して面接してもらうよ」
「はいっ! それから、コナミさんが受かれば担当になるのはデュエル実技っていうのになると思いますっ!」
「デュエル実技? ってことは……デュエルのこと担当ってことか」
「そうですよ! 私たちにデュエルのプレイングを教えたり、後、時にはデュエルもするんですよぉ!」
「ほ、ほう……」
デュエルのルールを教えるのは簡単だろうし俺の得意分野ではあるな。店をやってるときに子供たちに色々教えてたし……けどデュエルするのはちょっと問題だな。アテムに負担が大きくなりそうだ……いや、デュエルできるからありがたいかもな。
「まっ、とりあえずは受からないとな。あっ、そうだゆま」
「はい……?」
少し首を傾げるゆま……なんだが中々可愛い、絵になるな。こんな可愛い子がいて同級生のうらやましいこと……俺のときなんかアテムラブの杏子に獏良ラブのミホに城之内ラブっぽい舞に、後はお兄ちゃんライクの静にマハードラブ?っぽいイシズに……俺の周りの女の子はほとんど好きな人いたからな。
アカデミアになると明日香はボンッキュッボンッの神スタイルだが強気だし3年生のころには完璧十代に惚れてたし、レイは言わずもがな十代ラブ……なんだよ、どうせ俺は誰からも特別に好かれてませんでしたよー。
っと、また話が逸れた。ゆまにあのことを言わないと。
「弁当、サンキューな。美味しかったよ」
「あっ……美味しかったならよかったですぅ、えへへ」
台所で乾かしていた弁当箱を持ってきて、ゆまに手渡す。
昼飯に美味しくいただいたが……マナに8割方持っていかれた。食べれたの玉子焼きと白飯を少々だからな。けど玉子焼きは俺好みの醤油の味が濃くて美味かった。
「ほんと助かったよ」
「好きで作っただけですよぉ、気にしないでください!」
「そうか……っと、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」
「あうっ……そうですね」
時間は5時か。まだ外も明るいが……前のこともあるし。
「せっかくだし、家まで送ってくぞ?」
「そんな悪いですよ! 一人で帰れますからっ!」
「弁当くれたお礼だって、またD・ホイールに乗れるぜ?」
「あうぅ……じゃあお言葉に甘えて……」
「んじゃ、行こうぜ」
ゆまのかばんと弁当箱を持って、一緒に部屋から出る。鍵は……閉めなくてもいいか、盗られるものもないし。
ガレージに止めてあるホイールに乗り込み、前のように後ろにゆまが乗り手を回してくる……やっぱり暖かい。
「ちゃんと掴まっとけよー?」
「はいです……」
少しゆまの抱きついてくる力が強まって、必然的に密着度が増すわけで……と、変なこと考えずに発進させないと。
邪な考えは頭の片隅においておき、俺はゆまの家へと向けてD・ホイールを発進させた。
『いってらっしゃーい』
……帰ったらまたマナにからかわれるな。
次回は、アカデミア教師になるための面接という形になります。実技試験をするなら誰と戦うことになるのか……!
また途中で住民票の編集やらしてますが、コナミ君は万能というご都合主義。コナミ君は遊星以上に機械に強いです。
そして、途中でコナミ君がデュエルをやめたきっかけのフラグのようなものが……これは後々明らかになりますので。これに関してはまだまだとってつけたような理由が出まくるかと思いますが。