「ここがダイモンエリアかぁ」
遊星とその仲間という何でも屋と呼ばれる雑賀、後は遊星がセキュリティに捕まってるときに収監所で出会った氷室と矢薙のじいさんと共にダイモンエリアへとやってきた。
けど、周りも見ればマーカー付きの見るからに荒くれ者という連中がデュエルをしたり喧嘩したりと荒れ放題だ。
どうやら雑賀は、きっちりサテライト行きの船に乗る話をつけたらしく、現在俺たちはこの場所をうろうろとしている。
「……ん?」
「……お?」
遊星がいきなり立ち止まる。
すぐ先にデュエルをしてる奴らがいるらしく、そいつらを取り囲むように観衆がわんさかといる。
そして観衆の左側を見た遊星、右側を見た俺が声をあげる。
遊星が見てるほうには緑色の髪をした少年とメガネをかけた少年。
そして俺の見る方にいる、あの服装は……アカデミア生じゃないか、しかも女の子二人組み。こんなとこに来たらダメだろどう考えても。
「ゆ、雪乃さぁん……こんなところ来たら危ないですよぉ」
「うふふ、今話題の黒薔薇の魔女、見てみたいじゃない」
一人は紫っぽい髪の女の子。なんか大人っぽい見た目をしてるな。
そしてもう一人は……栗色の髪でー、ほんわかオーラを出しててー?
……って。
「ゆまじゃねぇかぁぁぁぁ!!!」
「はうっ!?」
女の子2人組の元へと走って行き、ゆまの肩を掴む。
まさかこんなとこにゆまがいるわけないと頭からゆまの可能性を消していたが、どう見てもゆまだ。
全く、こんなとこにいるなんてな。
「ったく、こんなとこで何してんだ?」
「あわわ、コナミさん!?」
「あら、あなた確か……」
っ!? な、なんだ今一瞬走った寒気は。
この紫髪の女の子に見られた瞬間走ったが……気のせいかね。
「お前は初対面だよな。今度からほぼ間違いなく教師としてデュエル実技を教える、コナミだ。んで、アカデミア生ともあろうお二人が、こんなところに何の用だ?」
「コナミね……お姉さんは藤原雪乃よ。よろしくねボウヤ」
「あうぅ……あの、今ここで話題の黒薔薇の魔女という人を探しに来たんです」
ボウヤておい。生きた年数だけなら俺はもうクソジジイだぞおらぁ……はぁ。
さて、黒薔薇の魔女ねぇ。昨日新聞で読んだだけだが……。
確かこのダイモンエリアにたまに出てきて、デュエルした相手を傷つけるとかいう奴だったな。
こんなところに現れる奴が精霊の力を使うのか、それか闇のデュエルをしてるのか……アテムとデッキ作りながら息抜きに喋ってたな。
まあそれはおいといて。
「そんなことアカデミアの生徒が、それも女の子がしたらダメだろ……って言うところだろうが、こういうとこから色んな経験をして強くなるんだ。危険は避けながら行動するんだぞー」
「はいっ!」
「ふふっ、お姉さんの魅力に周りの男は群がるから危険はやってくるのよ」
「お、おう」
なんだこの子は……自分に自信があるのか? まあバランスのいい体に顔も美人で妖艶なフェロモン的なのでてるし……初対面の孔雀舞的な。
「ま、魔女だぁぁ!」
「えっ!?」
「魔女が出たの!?」
いきなり、男の声が響き渡る。
今の焦ったような声に、すぐ近くからは風圧も感じる。
どうやら、本当に出たようだな。たまにしかでないのに今日出るなんて、俺も運がいいのか悪いのか。
「ゆま、雪乃! お前らは危ないからここにいてろ!」
「こ、コナミさん!?」
ゆまと雪乃をおいて、この風圧の発生源のほうへと走る。
「遊星!」
「コナミか」
少し走ると、どうやらデュエルをしてるらしく観衆が群れていて、男とフードを被って顔には変な仮面を被った奴が戦っている。観衆の中には遊星たちもいた。
「っておい遊星! お前腕が光ってるぞ!?」
「これは――」
「シンクロ召喚!」
仮面女が何らかのモンスターを出す。声からやはり女であることがわかるな。
そして、モンスターがでる反動か、地面にひびが入り辺りの建物も軋みだす。おまけに風もさっきより強くなっている。
何を出したか見ようにも、魔女の辺りは砂埃で覆われていて肝心のモンスターが見えない。
「うわぁぁ! 逃げろぉぉ!」
「お、おいお前ら待て!」
「うおっ!? 棘か!?」
恐怖に飲まれて観衆のほとんどが逃げ出していく。
さらに地面が割れて、大量の太い棘が襲ってくる。
あぶねぇな……俺や遊星ならうまくかわせるが矢薙のじいさんなんか――やっぱ転んでるし。
「コナミさん!」
「私たちをおいていくなんてボウヤも罪ね」
「なっ!? お前らあっちにいろって言っただろ!」
「ぐっ!?」
「あんちゃん!」
おいてきたはずのゆまと雪乃がすぐ傍に来てることに驚きを隠せない。チッ、咆哮が聞こえてくるから恐らく魔女のモンスターはドラゴンだ。砂埃も晴れてきてもう姿もシルエットは見えてきた、やはりドラゴン系のモンスター。
あんなのが攻撃したら、ここにいる全員がどうなるか……。なのにこの2人までくるなんて。
この2人をどうするかと考えようとしたとき、遊星が片腕を抑えてうずくまる。さっきの光ってたとこが痛むのか?
「これは……!」
「痣か?」
「これがシグナーの印だよ、龍の痣なんだ」
「おいおい、遊星の腕に変なのができてるじゃないかよ」
遊星の腕に、妙な形をした赤い痣が浮かんでいる。矢薙のじいさんはシグナーとか言ってるが……なにかあるってことか?
「くっ!」
「おい遊星!?」
いきなり遊星が魔女のいるほうへと走っていく。痛そうにうずくまってたくせにどうしたっていうんだ?
遊星の後を追って俺たちも走る。
「だからお前らはあっちにいろって!」
「こうなったらどこにいても危ないですよぉ!」
「そうよ、それならお姉さんたちを守ってみなさいボウヤ」
ったく、この2人は……まああちこちに棘があるから危険と言えば危険か。
「……っ! お前も……」
ついに砂埃が晴れて、再び魔女の姿がくっきり見える。紅色っぽい髪の毛がフードの隙間から見える。
仮面のせいで表情は見えないが、遊星の腕の痣に視点が動くとギリギリ聞き取れるぐらいの声で何かを言った。
「お前も……?」
「お、おい遊星」
遊星がフラフラと魔女のほうに歩いていく。
あんな無防備に近づいたら危険だろ!
「忌むべき印だ!」
「なっ!?」
魔女の上を飛んでいたドラゴンが、口から炎を吐き出してくる。
あんなの食らったら死ぬじゃないか……くそっ!
「頼む出てくれよ――《月華竜 ブラック・ローズ》!」
魔法や罠を探してる暇はない、それにあの炎には精霊の力のような不思議なパワーを感じる。
それに対抗するには一か八か、ディスクを展開させて一枚のシンクロモンスターをセットする。
モンスターカードを使うのは、カードが見えなくなった時からだからもう十何年ぶりだが――
「なんだこのドラゴンは……!」
「出てくれたか!」
炎を遮るようにその進む先に現れた赤を基調とした色のドラゴン。
まさか、出てくれるなんてな……これも俺が変わってきたからだろうか。
「久しぶりだが頼んだぜ! ローズ・レクイエム!」
俺の思いに応えてくれているのか、小さく吼えてブラックローズが魔女のドラゴンと同じように口から炎を吐く。
拮抗した力がぶつかり合い、その瞬間にその力は爆発する。
「くっ……!」
「2人とも掴まってろよ!」
その衝撃で、凄まじい風圧が襲ってくる。
俺の傍にいたゆまと雪乃を抱きよせ、俺が2人を庇うように踏ん張る。
こんな風圧、精霊の力がないと耐えられないな……!
「……終わったか」
「っつぅ~~……2人とも大丈夫か?」
「は、はい……あぅ」
「抱き寄せるなんて大胆ね……少しドキドキしちゃったわ」
「あっと、悪いな」
2人を抱き寄せてた腕を放す。緊急だったから仕方ないよな、うん、決して邪な気持ちなんかないし。
「あれ? いないぞさっきの」
「姿を消したか……」
再び舞い上がった砂埃も晴れて、辺りを見渡すとさっきまでいた魔女は消えていた。
さて、俺ら3人は大丈夫だったが他の奴らは……。
「コナミ、無事だったか」
「ああ、他の皆も大丈夫そうだな」
遊星が声をかけてきて無事だとわかり、すぐ近くには雑賀、氷室、じいさん、少年二人と全員揃っている。
なんとか全員無傷だったか。
「痣が……」
「消えてる!?」
「なんだってー!? もったいない!」
「あの魔女にも、痣がある」
「なにっ!?」
……話についてけない。一体何なんだ痣やらシグナーやら。
遊星の奴変なことに巻き込まれてるのか?
「俺の痣を見たとき、お前も、と言っていた」
「あー、言ってたな。あれはそういう意味か」
「そんなの聞こえたんですか?」
「2人ともすげぇ……」
え、緑髪少年よ。デュエリストならあれぐらいは聞き取れないとだろ。
というか誰だこの2人は……まあ後で聞けばいいか。
「それよりもあんちゃん!」
「うん? どうしたじいさん」
「さっきのドラゴン! ありゃなんだい!」
「そうだコナミ。あんなカード、見たことがない」
「あー、あれかぁ……」
どう説明するかなぁ。
実はこのカードは、ペガサスが俺にくれた世界に一枚しかないカードだ。
シンクロ召喚。この新たな召喚方法を考えたのはペガサスと遊星のお父さんの不動博士って人だ。だが、元はといえばシンクロのきっかけとなったのは、俺のある発言なのだ。まあそれはおいといて。
そしてシンクロ召喚が段々と形になってきて、ペガサスはある12枚のシンクロモンスターのカードを作った。
遊星の持つ《スターダスト・ドラゴン》、キングであるジャックの持つ《レッド・デーモンズ・ドラゴン》、そして所有者不明の《ブラック・ローズ・ドラゴン》・《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》・《パワー・ツール・ドラゴン》・《ブラックフェザー・ドラゴン》。まずはこの6枚。この6枚は、ペガサス曰く奇跡のカードらしい。どんなに汚れても気づけば綺麗になるし、折れてもすぐに直ってると……「まるで、いつか正しい者の手に渡るのを待っているかのようデース」とか言ってたな。
次に、残りの6枚。これは全て俺が持っている。ペガサスが「コナミボーイのおかげでシンクロは生まれました。この6枚は、先ほどの6枚と呼応するように作ったカード……私の直感が、あなたに持たせるように言っていマース」とか言ってくれた。
それぞれの名前は、《閃光竜 スターダスト》・《閻魔竜 レッド・デーモン》・《月華竜 ブラック・ローズ》・《妖精竜 エンシェント》・《機械竜 パワー・ツール》・《玄翼竜 ブラック・フェザー》。物の見事に最初の6体と呼応している。
そして、最初の6枚なんだが、これはペガサスがどこかへと流した。カードというのはデュエリストに導かれるものと言って世界のどこかに撒いたのだ。
とまあこんな長い説明はしたかないから……。
「昔外国のでかい大会に出た俺の父親が優勝商品にもらったのを頂戴した」
「……そうか」
俺の説明に、少し納得いかなそうな顔をした遊星だが今は深く聞くつもりはないのか、それっきり黙って腕を組んでいる。
一瞬沈黙になったと思いきや、さっきから正体不明の少年の一人、緑髪の少年が元気な声で話しかけてくる。
「コナミって言うんだ! 俺は龍亜! こっちは友達の天兵!」
「よ、よろしくお願いします」
「おう、よろしくなー。俺はコナミだ」
龍亜に天兵か、覚えとかないとな。
さてと、魔女も消えたしさっさと帰るか。この2人もこんな所にいつまでもいさせられない。
「じゃあ遊星。俺はこいつらを連れて帰る。明後日の大会頑張れよ、客席から応援してるわ」
「ああ、任せておけ」
遊星と軽く頷き合って、ゆまと雪乃の方を向く。
ったく、こいつらは……こんなとこに来るなんて今思うと大問題じゃないかよ、俺は別にいいけど。
「ほら2人とも、さっさと帰るぞー。明日も学校だろ?」
「はい……コナミさんさっきのモンスターすごかったですよっ!」
「うふふ……《ブラック・マジシャン》に加えて、あんな不思議なドラゴンまで。ボウヤのこと、もっと知りたくなったわ」
「一端の学生がそんな変な言い回しすんな。ほれいくぞー」
黒薔薇の魔女。たまに現れるというそいつと出会ったこのエリアでの出来事は、仲間たちには大した被害もなく終わった。
ただ1つ怖いのは、雪乃の俺への視線が何とも言えない恐怖心と震えを与えてくるようになったということだ。
「ふふっ……」
「……うぅ」
「コナミさん?」
……ものすごく嫌な予感がする。
作中登場した閃光竜スターダストの『せん』及び閻魔竜レッドデーモンズの『えん』は変換できないため上記の漢字にさせていただきます。
またシンクロ召喚の誕生した経緯はこの作品ではコナミの言ったようになっていますのでご了承ください。