赤帽子と王の行く遊戯王5D's   作:ヒキヘッド

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サテライトへ

《新チャンピオンはサテライト出身?》《地に堕ちたキング、ジャック・アトラス》《現れた黒薔薇の魔女!スタジアムを破壊し姿消す》《空に現れた謎の赤き竜!ソリッドヴィジョンシステムに不備か?》

 

「ふわあぁぁ……どの新聞も昨日の大会のことばっかだな」

 

昨日のフォーチュンカップ。遊星対ジャックのデュエルは途中に変なことは起きたが、遊星が見事に勝利を収めた。

変な事というのは、遊星のエースモンスター《スターダスト・ドラゴン》とジャックのエースモンスター《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の二体がぶつかり合ったとき、空に巨大な赤い竜が現れ、ライディングデュエル中のスタジアムを眩い光が覆った。俺は帽子をうまく利用して見えたが、どうやら二人は何らかの映像を見ていたようだ。俺には何が見えたかまではわからなかったが、恐らく見ていた。俺の観察眼と勘からの判断だけど。

 

『だねー……でも遊星君のコメントがないから逃げたのかな?』

「そうだろうな。サテライト出身であんま歓迎されないだろうし、変な事を言えば袋叩きにあうかもだし」

『ほえー、怖いねぇ』

 

マナが新聞をパラパラめくりながら言う。まあそんなもんだろうからな……ただでさえサテライト民を嫌う傾向があるのに、カリスマ的存在のジャックを倒したんだ。コアなファンからは叩かれるだろうな。

それをわかってるのとあとは単純にめんどくさいからだろうな。

 

「はぁぁ、紅茶うめ」

『紅茶ならもうちょっと優雅に飲もうよ、じじくさい』

「ぐふっ……マナ、中身は50か60か70か80かもう分かんないけどじじいの見た目若者にそんなこと言うのは傷つくだろ」

『あっ、ごめーん』

 

てへっなんて感じに舌をだしながら謝ってくる。うむ、可愛いから許す。ちなみに俺の年齢なんてもう知らぬ、25ぐらいから数えるのやめたしな。

朝ごはんに適当に焼いた食パンに紅茶、それをのんびり食べながら過ごしてると、部屋のドアがノックされる音がした。

 

「お? 誰だこんな時間に……」

 

まだ朝の八時だというのに……うーん、見当もつかないな。今日はアカデミアも休みだから通学してくるゆまとかでもなさそうだし。

 

「はいはーい……って、これはこれはチャンピオン様ではないですか」

「やめてくれ、そんな大層なものではないさ」

 

いたのは、昨日キングとなった時の人遊星だった。

まあ茶化すように言ったけど、遊星はあんま言われるのは嫌だろうな。

 

「ハハッ、悪い悪い。んで、こんな朝からどうした?」

「ああ……まずは、上がらせてもらう」

「ほいほい」

 

ここは玄関だからな、こんなとこで立ち話もなんだよな確かに。

部屋の中へと遊星と入って、一つだけぽつんと置かれてるテーブルを挟んで座る。

 

「では、仕切り直して……こんな朝からどうしたんだよ」

「昨日、いや今日の夜中。俺はダークシグナーという奴に襲われた」

「ダークシグナ-? 遊星たちシグナーとかいう奴の悪い版ってか?」

 

シグナー。この前黒薔薇の魔女に襲われたときに遊星の腕が光って変な模様が浮かんでたんだが、何でもそれがシグナーとやらの証らしい。シグナーとは何かは詳しくは知らん。

で、それの悪い版が登場か……。

 

「恐らくそうだろう。そいつの目は黄色く、頬には紫のマーカーのようなものが」

「黄色い瞳に、紫のマーカー……? 遊星、俺もそれに心当たりがあるぞ」

 

遊星の言葉に割って入って復唱すると、それに当てはまる人物がすぐにでてきた。その特徴に当てはまる奴と、昨日戦ってるからな。

 

「なに!? コナミも、ダークシグナーを知っているのか?」

「名前は当然今知ったけど……昨日の大会中、俺の生徒が一人どっかへ行ってな。見つけると、そいつの状態も今遊星が言ったのと全く同じだった」

「あの最中にか……それで、どうだったんだ?」

「そりゃしっかり元に戻せたぞ。デュエルで倒したら元通り……後俺が知ってるのは、操ってたのは蜘蛛みたいな小さい闇の力の塊だ」

 

昨日のことを思い出しながら、遊星に伝えていく。

雪乃を操っていたのは間違いなくあの蜘蛛、闇の力だろう。

 

「そうか……恐らく、俺を襲った奴と黒幕は同じだろう」

「かもな。んで、これだけか?」

「そうだ、一応気をつけるように伝えに来た。まだ奴らの目的が分からないから、俺と関係のある人たちは何かあるかも知れない」

「うーん……それで言うなら俺よりサテライトの奴らだろ。俺ならまだ自分でなんとかなるけど、ラリーとか危なくないか?」

 

事実デュエルとなればそうそう負けないし肉弾戦を挑もうものなら俺がフルボッコにしてやる。

となると、心配なのは龍亜とかのシティの奴らとサテライトの遊星の仲間のラリーや後は昔の仲間のクロウとかか。

もっと言えばシティだとすぐニュースになるのに対してサテライトなんか人が一人ふたり消えたって誰にもバレない。なら、ラリーたちの方が気がかりだよな。

 

「それは俺も分かってる……だから、今日か明日にサテライトへ一度戻るつもりだ」

「ほぉん……なら、俺も一回戻ろうかな。店の方も気になるし」

 

元はと言えばシティに出てきたのはフォーチュンカップに出るため。それが終わったんだし目的は一段落した。都合の良いことに明日明後日はアカデミアは休みだから俺の仕事もない。一度店がどうなってるのかも気になるし帰るか。

 

「そうか……なら、詳しくはまた夜に連絡する。念のためいつでも出れる用意だけしておいてくれ」

「りょーかい」

 

軽く敬礼をしながら了承する。まあディスクさえ持ってたらいいし今からでも行けるんだけどな。

出してやった紅茶を少しだけ飲んで、遊星は部屋から出ていった。

ふぅむ……ダークシグナーか。

 

「どう思う? アテム」

『やはり、オレたちが危惧していたことが起きるかもしれない。きっとここから、さらに厄介なことになるはずだ』

「だよなぁ……はあぁぁ、やっぱり俺と誰かがセットになると何か事件が起きるんだな」

 

まあ過去の出来事のどれもが、俺というよりはアテムを巡っての争いとかアカデミア時代には十代を巡っての事件、今なら遊星やジャックというシグナーを巡る事件と……あれ? これってもしかしてあいつらが主役で俺は脇役か?

ライバルポジションには……遊戯には海馬、十代には万丈目やら明日香、遊星にはジャック。

……やっぱ俺の立ち位置なくね? ま、まさか俺も本田や三沢のような空気キャラに!?

いや待て大丈夫だ……バトルシティの時にはバクラに狙われまくってたし海馬からもライバル認定されてるし、アカデミアの時も十代に一番近しかったのは俺のはず。今は俺の状態的にあんまだけど、それでも遊星の相談役的ないいポジションには立てているはず。

 

「……俺の立ち位置ってなんだぁぁぁぁ!!!」

『いきなりうるさいよコナミ』

 

急に立ち上がって叫ぶ俺に、耳を押さえながらジト目を向けてくるマナ。いきなりなのは謝るけども……いや、変に考えすぎたな、うん。大丈夫だ、今の俺はアテムのライバルポジションだ、そうだ。

 

「悪い悪い……よっし! 夜までは何もなさそうだし、今のうちに仮眠でも取っておくかな」

『まだ起きてから1時間も経ってないが……』

「それを言っちゃおしまいだろ……夜中に動き回るかもだし、今の内に体力を蓄えておくのさ」

 

キリッて感じにキメ顔をしてアテムに言う。マナのジト目がさらに強くなった。

いやまあやることないし……寝るっしょ? おやすみ皆、夜になれば勝手に目覚めるさたぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……7時か」

 

朝の9時過ぎから二度寝をした俺であるが、少し重い頭となぜか重い太ももの感触に耐えながら時計を見る。ふむ、今の時間は7時。19時ではなく7時。夜の7時ではなく朝の7時。

つまりこれが意味するのは、

 

「俺は一日中寝てたってのかよ!?」

 

ほぼ24時間つまり一日中寝ていたということだ。

えー…自分でやったとはいえ寝過ぎだろ。首やら腰やらバキバキだし……って、こんなに寝てたらいつもならマナがキレてくるのに。

 

「スー…くぅ……」

「……お前まで寝てんのかよ」

 

起きてから頭が重いのは寝過ぎだからですんだが、太ももが重いのはこいつのせいか。なぜに俺の足を枕にしてるのか……しかも格好がいつものやつだから色々と見えそうでニヤニヤしてしまう。

安心しきって眠るマナに、今にも服から零れそうな胸、肉付きのいい太もも。これはまさか……!

 

「お触りのチャンスなのでは」

『何言ってんのさ』

「ぐはっ!」

 

起こさないように小さな声で呟いたはずなのに、なぜか目を閉じたままのマナの手が動きいつものステッキで頭を殴られる。

くっ、こやつまさか……

 

「寝たふりとかずりーぞ!」

『変態なコナミなら寝てる私を見たら襲うかなぁって思って試しただけだよ』

 

Vサインをしながら言ってくる。いやいや、俺が本気でそうしたらどうすんだこいつは……あ、できませんねヘタレなんで、てへっ。

 

「かわいくねぇ奴……あ、ヤベ。遊星から連絡きてんじゃないのか」

 

マナをどかしてテーブルの上に置いてるデュエルディスクを手に取る。

電話的な機能もついてるからあいつからの連絡はこれに来てるはず。

 

「うおっ!? な、なんだ着信か」

 

確認しようとした時に、いきなりディスクからピピピと着信を知らせる音が響く。タイミングが良いのか悪いのか……っと、遊星からか。

 

「はいはーい、こちらコナミだ」

「遊星だ、すまないコナミ。連絡が遅れた」

「いや大丈夫だぞ」

 

大丈夫すぎてます、なぜなら俺は寝過ごしているからな。

けど遊星が遅れるなんて珍しいな、何かあったんだろうか。

 

「今、サテライトに来ている」

「は? なんだ、もうあっちへ帰ったのか?」

「昨日、あの後色々あってな……すまないが、今から来れないか?」

「余裕で行けるぞ-、どの辺にいるんだ?」

 

5分もあれば用意はできるし、ポジションチェンジのカード何枚かで行けるだろうしな。

後はどの辺にいるか分かればすぐ行ける。

 

「今から俺のアジトへ行くつもりだ。そこで落ち合うか?」

「了解だ、じゃあ1時間もしない内にそっちに行くよ」

「分かった」

 

ピッという音と共に通話が終わる。さて、サテライトに行くためにちゃちゃっと準備するか。

 

 

 

 

 

「なんで俺が着いた場所がよりにもよってこういうことの起きてるところなんだ」

 

ポジションチェンジで移動し続けてサテライトへ無事帰還。今回は海にボチャンなんてこともなかった。

が、それよりも厄介な問題が目の前で起きてる。

 

「待てクロウ! 大人しくつかまれ!」

 

少し先から聞こえてくるDホイールの走る音。二台走ってるようだが…どう見ても、遊星と、昔の仲間の一人クロウという奴だ。

ちなみに俺は今、遊星とクロウは並走していて、その後ろから遠隔操作されてる小さい変な機械が追いかけていて、さらにその後ろを走ってる。ここならあの変な機械に俺の姿が写されることもないしな。というか、あれ絶対セキュリティのだろ……クロウの奴、また何か悪さしやがったのか。

 

「仕方ない、どうせデュエルするだろうから……俺はセキュリティの人間が乗ってる車でも探すか」

 

遊星たちとは別の道へと変えて、適当に走ってセキュリティの奴らのいるところを探す。遠隔操作してるんだろうから、そう遠くにはいないはずだが……

 

「みーっけ」

 

ニヤッと口角を釣り上げる。

さぁて、しばらく動けなくなってもらおうかな。

都合の良いことに、今からデュエルをするようだ。セキュリティの男二人がデュエルディスクを構えたからな。

なら、まさか今セキュリティの車に悪戯をする奴がいるはずないと警戒心は薄いはずだから……

 

「ちょこっと、悪戯をさせてもらうぞ」

 

音を立てたらバレるためDホイールから降りて、小走りで車の前のタイヤのとこまで行く。しゃがめばここは死角だから見えないはずだ。

 

「後はこれを……」

 

俺のジャケットの内ポケから七つ道具の一つ、先の鋭く尖った針を取り出す。俺特製だから強度やら鋭利性は抜群である。

タイヤにプスッと差し込む。

……よしよし、空気は抜けてるな。

そして同じ行動を他の三つのタイヤにもやっていく。

 

「うっし、完璧だ」

 

一仕事終えて少しニヤニヤしてしまう。確実にデュエルはこいつらが負けるだろうし、そうなれば次は強攻策でこれで追っかけて捕まえるなんてしようとしても、生憎車は動かない。

動かないときの焦る顔が容易に想像できてニヤニヤが止まらない。

 

「っと、撤退撤退」

 

中から爆発音と叫び声が聞こえたから、恐らくデュエルが終わったんだろう。

なら俺は引き上げて遊星たちと合流だ。

 

 

 

 

 

 

「おーいゆうせー!」

「コナミ」

 

さっきの場所から少し走ってみると、瓦礫の上に二人分の人影が見えた。と言っても、あんな特徴的な髪型したのが二人もいたんじゃすぐに分かるけど。

聞こえるように声を張り上げて名前を呼ぶ。まあ遊星とクロウだな。

 

「ふぅ、やっと着いた」

「すまなかったなコナミ、いきなり呼んで」

「いや、問題ない。それよりも……クロウ!」

 

遊星が軽くわびてくるが気にするなという意味で手を軽く上げる。というか楽だったしな基本は。魔法カードを駆使してサテライトに来る簡単なお仕事です。

っと、それよりも、クロウだよな。

 

「コナミ! 久しぶりだなテメー」

「お前こそ、またマーカー増えたんじゃねぇか?」

「ちょっくら遊びすぎただけだぜ」

 

グータッチやらハイタッチやらなにやらしながら少し言葉を交わす。と言うかマジでマーカー増えてるなこいつ、また色々してたんだな。まあそれは後で聞こうかな。

 

「にしてもお前ら、なんでいきなりセキュリティに追われてるんだか」

「気づいていたか」

「まあな、着いたらDホイーラー二人が何かに追われてたからな。クロウが何かしたっぽいが……」

 

チラッとクロウの方を見て意地悪く笑う。

セキュリティがクロウという名前を呼んでたんだからそれしかないはずだし。

 

「ハハハ、ガキ共のためにカードをパクっててな。こいつのせいで、すぐに場所がバレちまう」

 

そう言って恨めしそうにマーカーを指さす。あー、確かマーカーにはGPS機能みたいなのがあるから、セキュリティがその気になれば居場所なんかすぐにバレるのか。まあ、それでも逃げてる辺りはさすがはクロウか。

 

「マーカーってのは厄介だねぇ本当に。……そういや遊星、いまからどこ行くんだ?」

「今からは、クロウのアジトに向かう。ラリーたちもそっちに向かってる」

「なるほどな。なら、さっさと行こうぜ」

「よっしゃ、ならコナミ! 久々に走ろうぜ!」

 

軽やかにDホイールに乗り込んで、ニヤリとしながら俺を挑発するように見てくる。

面白ぇ、俺に挑もうってか!

 

「受けてやるぞクロウ……俺の走りで振り切ってやる!」

「言ったなテメー……クロウ様のブラックバードには勝てねぇぜ!」

 

帽子型ヘルメット(つまりいつもの帽子)も被ってるから準備は万端。

後はここからスタートしてどちらが先に――

 

「先に行かせてもらう」

「なっ!?」

「卑怯だぞ遊星!!」

 

ゴールするのかって争いのはずが先に遊星に行かれる。

あんにゃろー……絶対抜いてやる!

 

「行くぞクロウ!」

「ああ! 待てやゆうせー!」

 

俺とクロウも少し遅れて出る。ここからならまだ巻き返せるはずだ。

 

「ひゃっはぁぁぁぁぁ!! ひやっはははは!!!」

「変な声出しながら走るんじゃねえよコナミ!」

「フッ……」

 

久々に三人で走ったら楽しいから仕方ないじゃないか、たまには叫びたくなるのさ。

 

「いえやっはぁぁぁぁ!!」

『はぁ、どうして男の子ってあんな暑苦しいのかなぁ』

 

マナの呆れたような声を背に、俺たちはDホイールを走らせた。

 


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