赤帽子と王の行く遊戯王5D's   作:ヒキヘッド

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コナミの救世主

「コナミさん……」

 

今は朝の8時頃。宮田ゆまの前には、ベッドで寝ているコナミがいた。

アカデミアも休みということでのんびり寝ていたところ、夢の中に《ブラック・マジシャン・ガール》のコスプレをした女の子が出てきて、

 

「ゆまちゃん! コナミが大変なの!」

 

と言われて、嫌な予感がしたゆまは慌ててコナミのアパートに来たら、こういう状況となっていた。

コナミの腹には包帯が巻かれていて、うっすらと血で滲んでいた。その夢に出てきたさっきの女の子、マナはコナミはDホイールを運転してて転んでお腹を怪我したと、ゆまには説明していた。ゆまからすれば、夢に出てきた人がコナミの家いて驚いたのだが。

既に治療はすんでいるが、マナが一人では看病をカバーできないのと、マナからゆまへの気遣いでもあった。

そのマナはというと、今包帯を買いに行っているため、部屋には眠るコナミとゆまの二人だ。

 

「うっ……」

「大丈夫ですか……?」

 

コナミが少し苦しそうに声を漏らした。それを見てゆまは、コナミの頭を帽子越しにだが、ゆっくりと撫でた。

そのおかげか、コナミの状態がまた落ち着いた。

 

「コナミさん、早く起きてくださいよぉ」

 

頭をなでながら、もう片方の手でコナミの手を握る。心配するゆまの目から涙がこぼれて、コナミの手の甲に雫が落ちる。

 

「ん……ゆ、ま……?」

「あ! コナミさん! 目が覚めましたか?」

 

ゆっくりと目を開けるコナミ。それに気づいたゆまは、涙を拭って彼を覗き込む。

 

「ここは……俺の部屋か?」

「そうですよ。コナミさん、夜中にDホイールでこけて怪我したらしいですね」

「夜中……! アテムは、うぐっ!?」

「ああ、駄目ですよぉ! コナミさんお腹を怪我してるんですから~」

 

意識が覚醒すると、夜中のことを思い出して飛び起きるが、腹の傷はまだ癒えていないため、コナミの体を痛みが走る。当然痛みに耐えきれず、ゆまに支えられながらまた寝転がる。

 

「……そうだ。さっき、アテムは……」

 

ギュッと、枕元にあった千年パズルを握りしめる。いつもならそうすればアテムが反応してくれるが、今はただのパズル。コナミの手にはただ冷たい感触が伝わるだけだった。

 

「くっ……俺に、デュエルができたら」

「コナミさん? コナミさんはデュエルできますよぉ?」

「違う……俺には、デュエルはできないんだ」

「え……どういう、ことですか?」

 

コナミからの言葉に、ゆまは驚きを隠せない。ゆまからすれば、コナミは救世主、ヒーローのようなものだ。そのヒーローの武器はデュエル。それで自分の危機に助けに来てくれたり、雪乃を元の状態に戻したりと、目の前でいくつものデュエルをしていた。たまに力ずくでやっていたときもあったのだが。

なのに、そのコナミが言うのは「自分にはデュエルはできない」というもの。

 

「ゆま……信じられないかもしれないけど、この話を聞いてくれ」

「……はい」

 

そうしてコナミは、ゆっくりと語りだした。

自分の心にいたもう一人の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、その千年パズルに、アテムさんの魂が存在していたってことですか?」

 

喋る前に、ゆまに何枚か回復系のカードを取ってもらって自分に使っておく。痛みも引いて傷もなくなったからもう大丈夫だが、さすがに血が不足して貧血気味なのはどうしようもない。《天使の生き血》は持ってないしなぁ。

と、それはいい。体はだいぶ楽になったので、ベッドに座りながら彼女に話したのは、千年パズルの中にアテムがいることと、そのアテムの正体は遠い昔のエジプトの王であること。それから、軽く二人でやったこととかを説明した。さすがに俺とアテムは昔からの仲良しなんだなんて言えないけど。

 

「そういうことだ。んで、俺とアテムは意図的にお互いの意識を入れ替えてたんだ。普段は俺だけど、デュエル中はアテム、みたいにな」

「な、なるほど~……確かにデュエル中のコナミさんって、いつもの阿保っぽい感じじゃなくなりますもんね! こう、キリッとしてる感じです!」

「ぐふっ……」

 

阿保っぽいに軽く傷つきかけたところで、ゆまがキリッて言いながらポーズを決めてその可愛さについ萌えてしまったぞ……なんだこの子は素晴らしいもっとやれー。

というか俺って普段は阿保っぽいのね、そうなんだ。

 

「こ、コナミさん?」

「なんでもない……うん。んでだ、ここからが大事な話だ。今、このパズルの中に、そのアテムの魂はない」

「えっ!? な、なんでですかぁ?」

「昨日の夜中から、俺はサテライトに行ってたんだ。昔の仲間と一緒にな? それで、夜中になーんか嫌な予感がして見回ると、案の定悪者がいたんだ」

「悪者、ですか? でもサテライトならそんな人いるんじゃないんですか?」

「まあな、言っちゃ悪いが落ちぶれた人の集まりだからな。でも、そんなちゃちなものじゃない。そいつは、アテムからしたら因縁の相手。ファラオとして君臨してた時に戦った盗賊王バクラって奴だったんだ」

「盗賊王バクラ……あっ! アカデミアの授業で聞いたことがありますよぉ! 確かとある王様の墓荒らしをしたり王宮に襲撃したとか!」

 

ほう、今のアカデミアじゃそんなことを勉強するのか。でも俺が実際に経験したのはバクラの作ったゲームの話だしなぁ……史実じゃあの時と全く違うだろうから、あんまあてにしたらダメだろうな。

 

「そうそう、そいつだよきっと。んで、闇の力が働いてバクラはダークシグナーとして甦ったんだ」

「ダーク、シグナー?」

 

ゆまが「なんですかそれは?」という感じに首を傾げる、可愛いからやめてください、アテムを失ったショックで軽く人に飢えてるんです。

って、ゆまにはダークシグナーの説明はしてなかったのか。

 

「ダークシグナーってのは、俺もよくわかってないんだが、冥界の王とかいう超悪者が、誰かに恨みを持って死んだ奴を甦らせて復讐させる奴のことを言うんだ。その特徴は、頬に紫色のラインに、瞳が黄色だ」

「それ……雪乃さんがそれでした! じゃあ雪乃さんも……?」

「いや、あの時の雪乃は単純に操られてた。ダークシグナーたちに良いように使われたんだ。きっと俺たちが見つけてなきゃ、手あたり次第誰かを襲ってただろうな」

 

でもあの時の雪乃は人体にダメージを与えるほどの力はなかったんだよなぁ……ゆまが熱さを感じてたから全くないということもないだろうが、きっと力そのものが軽いもんだったんだろうな。

 

「むむむ……」

 

珍しく、ゆまが俯きながら手をぎゅっと握って震えている。

基本元気なゆまの姿しか見てない俺からしたら違和感しかない。

 

「その悪い王様許せませんよぉ!」

「うおっ!?」

 

いきなり、顔を上げたかと思うと叫ぶ。興奮してるのかグイグイと俺に寄って来てさらに言葉をつづける。

 

「雪乃さんは私の大切な友達です、その人を操ってしかも誰かを襲うなんて……絶対許せないです!」

「わ、わかるぞ俺も。でもとりあえず、少し離れような?」

「え? ……あ、ご、ごごごめんなさい!」

 

気付けば俺とゆまの顔がものすごく接近してて、カップルならキスするレベルにまで来てる。俺がしたらビンタされてマナからは杖でしばかれるが。

指摘してやると、ゆまは顔を真っ赤にして離れる。まあゆまも思春期真っ只中の女の子なんだからその辺は気を付けてもらいたいな、うん。俺の理性的にも。

 

「いやいいよ別に。んでだ、話が逸れたがこれが一番大事だ。アテムがいないのは、そのバクラに昨日負けたからだ」

「負けたんですか!? アテムさんって、あんなに強かったのに……」

 

自分の前でいくつものデュエルを見事に勝ってきたアテムというデュエリストが負けたということにゆまは驚きを隠せてない。俺だって負けたとか信じられないしな……邪神が出て来るなんて予想外過ぎたんだ。

 

「どんな強い奴も負けるときはあるからな。そして、そのデュエルでは負けた者の魂は消える。だからアテムは、ここから消えたんだ」

「そんな……でも、アテムさんを取り戻すことはできないんですか?」

 

アテムを取り戻す。それはできる、バクラが言うことが本当ならだが。

まあ過去の経験から言って、恐らく本当だろう。闇のデュエルの特徴は、負けたらその姿を奪われたり死へと直結するが、その元凶を倒せば奪われた者は戻ってくることだ。千年アイテムや光の結社やダークネスやら。ただ問題は……俺にはそれができない、ということか。

 

「あることにはあるぞ。ただ、今のバクラを相手に勝てるのかが問題だけどな」

「つまり……デュエル、ですか?」

「そういうことだな」

 

デュエルでバクラに、つまり邪神に勝つ。あのカードに勝とうとなると、恐らく遊星やジャックでも厳しいだろう。そうなると、アテムが消えた今、誰があいつを倒せるのか……。

 

「……やります。私が、そのバクラって人と戦います!」

「なっ!? バカなこと言うな! ただのアカデミア生が、闇のデュエルをするなんて危険すぎる!」

「でも! コナミさんの大事な人を、助けてあげたいんです……それに、私の友達の雪乃さんもいいように使われかけたんです。私、許せません!」

「ゆま……」

 

いつものふんわりとした雰囲気と違って、今のゆまの顔は気迫迫るものがある。こいつも、こんな顔できるんだな……やる気が漲ってるぞ。

でも、ゆまは単なるアカデミアの生徒、一般人だ。闇のデュエルなんてものとは無縁の生活を送ってきてるんだ。そんなこの子を、こんなことに巻き込んでいいのか……。

 

「……」

 

ジッと俺を見つめるゆま。

……そうだよな、ゆまはこんなにも真剣なんだ。なら、俺がこいつにかけてやる言葉は一つ。

 

「任せたぞゆま。バクラを、倒してくれ」

「っ! ……は、はい!」

「ただし!」

 

俺に認められてうれしそうに返事をするゆま。その後に、少し大きめの声を出すと、ビクッと肩を揺らす。

 

「デュエルは俺もサポートさせてもらう。それから、しばらくは俺からのデュエルの特訓だ」

「わかりました! でも、特訓ですか?」

「そうだ。確かにお前のデュエルの腕は高い。だがそれは、所詮アカデミアという小さな枠の中でだ。外に出ればお前以上のデェエリストはゴロゴロいるんだ」

「……はい。それは分かってます」

「そこでだ。かつてアカデミア四天王の1人と謳われた俺が指導してやろう!」

「アカデミア四天王?」

 

任せておけとばかりに胸を張って言ったが、一つ失言だなこりゃ。

アカデミア四天王とか遥か昔なのにおかしな話になっちまう、とりあえず誤魔化すか。

 

「な、なんてな。この前アカデミアの図書館で見たフレーズを使ってみただけだ。まあ、付け焼刃になるけど、できる限り闇のデュエルへの準備とかいろんなテクニックを教えていくぞ」

「冗談ですよね、びっくりしたじゃないですかー。はい! よろしくお願いしますコナミ先生!」

 

こうして、俺とゆまの師弟関係が生まれた。元から教師と生徒なのにまさかの個別授業的なのまでスタートだな。

だが、ゆまに全部任せるなんてできない……闇のデュエルへの耐性もない普通の女の子なんだ。俺も、できる限りのことはしていかないとな。

 

「さあコナミさん! 時間が惜しいですよぉ! 今から特訓しましょう!」

「おいおい、俺はまだ病み上がりだぞ。まっ、もう動けるからいいか……っし! 特訓といこうぜゆま」

「はい!」

 

ベッドから立ち上がり、黒のTシャツを着て椅子に掛けられたいつもの赤ジャケットに腕を通す。

帽子はしっかり被ってるし、用意は完璧だな。

特訓が楽しみなのか、ニコニコしてウキウキのゆまはすでに玄関で「コナミさーん」って俺を呼びながら手招きしてる。

フッフッフ……俺の特訓を甘く見てるなゆまめ。終わるころには笑っていられるかな?

少し意地悪な笑みを零しながら、玄関で待つゆまの元へと行った。

 


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