場所は公園。近くには大きなビルがいくつかあったり、住宅街もあったりとさすがシティと言った感じだ。
その中でも一際大きなビルがあるが……なんだろなあそこは。
「なあゆま、あのビルって何のビルなんだ?」
「はぁ、はぁ……ふえ?」
「っと、悪い悪い。少し休憩するか」
「は、はい!!」
忘れてた、ゆまには今腕立て伏せさせてるんだった。闇のデュエルははっきり言って肉体的にも強くないとやっていけないからな。ましてや相手は邪神の攻撃、パンピーじゃ一瞬でやられちまう。
ということでさっきからひたすら筋トレである。まあそろそろ休憩を入れなきゃゆまがデュエルの前に死んじゃうからちょうどいいか。
休憩をもらえるのを待ってたのか、嬉しそうに瞳を輝かせながら近くのベンチへ行って倒れこむ。
いきなりハードすぎたかなこれは。
「ほれ、これ飲んどけ」
「あっ、ありがとうございますぅ」
買っておいたスポドリを渡す。水分補給もしっかりしとかないといけないからな。
さて、さっきのことをもう一回聞いとくか。
「んでさゆま。あのビルって何のビルなんだ?」
「んく、んっ……はぁ。えーっと……あっ! アルカディアムーブメントって会社のビルですよぉ!」
相当のどが渇いてたのか、一気に半分近くを飲んでるぞ……まあそれはいいや。
アルカディアムーブメントってまた……横文字使えばかっこいいとか思いやがって。
「そこは何をするとこなんだ?」
「あんまりいい話は聞かないですよ。サイコデュエリストっていうのを研究してるらしいんです。確か、デュエルをすると痛みが実体化するらしいです」
「ほぉ……闇のデュエルの優しい版か」
にしてもサイコデュエリストなんて、そんな差別されそうな名前付けるなよな。デュエルの力を実体化できる人が時たま現れるのは仕方ないんだし、むしろ偉大なデュエリストたちは少なくとも精霊と心を通わせてるってのに。
「それで確か、トップの人の名前がディヴァインさんって人で……あっ! この前フォーチュンカップに出てた十六夜アキさんもそこのメンバーですよ!」
「なに?」
あの巨乳クール女……確か杏子や明日香に匹敵するナイスバディをしていたはず。クッ、近くで拝みたい!
こんなとき我がパートナー城之内ならどうするか……見ないか、否見に行く! なら俺も……
「よしゆま! 休憩がてらあのアルカディアムーブメントに行くぞ!」
「えっ!? どうしたんですか急に?」
「サイコデュエリストは痛みが実体化するんだろ? なら、軽めの力を持ってる人と戦えれば実践の中で鍛えれるだろ?」
「確かにそうですよぉ! でもそれって危険なんじゃ……あそこいい話ないんですよ?」
「それは大丈夫だって! いざとなれば俺が」
「あー! コナミだ!」
いるしなって言おうとしたら、男の子の声がした。この声……あ、龍亜か?
「コナミー! ゆま姉ちゃーん!」
「よっすー、龍亜。こんなとこでどうしたんだ? って……龍可に氷室にじいさんまで」
珍しい四人組だな……なぜか正装までしてるし。あ、俺まだ龍可と会ったことはないのか。
いきなり名前呼んじゃったけど大丈夫か?
「ようコナミ。昼間からアカデミアの子とデートか?」
「いいねぇ若いって!」
「で、デート!?」
「おいおい、変な事言うなよ。デュエルの特訓だよ」
氷室の発言にゆまが真っ赤になる。あらぬ誤解をかけないでもらいたいね全く。生徒と恋愛関係になんかなったらアカデミアを首になるし。
「えっと、あなたがコナミさん?」
「ああ、初めましてだよな龍可。俺はコナミだ」
「初めまして、龍亜の妹の龍可です。龍亜から、遊星と並んでよく話に聞いてます」
「へぇ、それは嬉しいな。あっ、別に無理して敬語にしなくていいぞ? 普段通り話してくれ」
「でも……」
「いいからいいから、俺は気にしないからさ」
「……ん、分かった」
仕事の話とかじゃない限りは敬語で話されるの苦手なんだよなぁ……それに龍可は子供なんだし、あんま俺の顔色とか窺わずに好きに話してもらう方が気が楽だしな。
かと言って若者に超ため口で話されるとイライラはする、何俺超面倒くさい奴じゃん。
「んで、なんできっちり正装してこんなとこにいるんだ?」
「俺らは今から、アルカディアムーブメントに行って十六夜の協力を仰ごうと思ってな」
「シグナーのアキ姉ちゃんが仲間になったら、最強だよ!」
「なるほど……なあ、それ、俺らも一緒に行っていいか?」
「いいけど……コナミとゆま姉ちゃん大丈夫なの?」
「私は大丈夫ですよぉ! ちょうど私たちも、そこに行くつもりでしたし!」
そうそう。むしろ龍亜たちが来てくれてラッキーだ。アポも何もとってないから、下手したら門前払いを食らってたかもだし。まさに渡りに船だ。
「そっかぁ! なら一緒に行こう! コナミがいたら、怖いものなしだよ!」
「ハッハッハ、そんなに褒めるな」
「あんちゃんがいれば、サイコデュエリストなんてのも怖くないねぇ」
『コナミが全員から頼りにされてるなんて珍しい……』
「えっ!? ブラック・マジシャン・ガール……?」
ったく失礼だなマナめ。いきなり出てきたかと思えばそれかよ。俺だって頼りにされてたし! デュエルアカデミアにいたときは十代からどれだけ頼られたか。
って、今龍可の奴なんて言った?
「……え?」
「うん……」
俺の横に浮かんでるマナを指さしながら龍可を見ると、しっかりと頷いた。
……龍可って、精霊見えるのね。
あ、確かに龍可の頭の上にクリボーみたいなモンスターがいるな……リボンがついてるから《クリボン》とかだったりして。
「なるほど……」
「どうしたのさコナミー、龍可のこと見つめちゃって」
「むぅ、コナミさん。そういうのはロリコンって言うんですよ?」
「はあっ!? それは冤罪だ! 今のはただボーっとしてただけだ!」
「へぇー」
ゆまが怪しいと言わんばかりに俺をじっと見てくる。
ろ、ロリコンなんて冤罪をかけられたままなのは激しく遺憾だ、何か言い訳を考えなくては。
「なんちゃって、冗談ですよ」
「へ?」
ペロッと舌を出しててへぺろっえ感じのポーズをとるゆま。
……一本取られたなこりゃ。可愛いから許す。
「ったく、先生をからかうなよ」
「えへへ、ごめんなさい。さっきの特訓の仕返しです」
「ほら、さっさと行くぞ。約束の時間まであんまないんだからな」
「おっと、悪い悪い。それじゃ、行くか」
「おぉー!」
龍亜とゆまが手を上にあげて声を上げる。なんだこの二人仲良いな……それかテンションとかノリが似てるのか?
まあいいか……なんにしても、運よくアルカディアムーブメントに入れるんだ。サイコデュエリストとかいうのに関しても、少し調べてみるか。
「ナイフとフォークは外側からだったかな?」
「飯食いに来たんじゃないぞじいさん」
「けど帽子のあんちゃんは……」
「ああ?」
アルカディアムーブメントに着くと、応接間のような部屋に案内されてそこで豪華なご飯にありつけてる。
金持ちの家にある部屋みたいだなここ……広いしテーブルも椅子も豪華。何よりも……
「うまい! ゆましっかり食えよ? こんな豪華な飯そうそう食べれないぞ!」
「……コナミさん」
フォークとかの使い方のマナーなんて知らん、とりあえず小奇麗なレベルで肉を切って食べる。ついでにバンも放り込む。うめぇ……たまにはこういう高価なものも食べないとな。
ゆまから俺の食いっぷりに呆れたような声が聞こえるがこんなに美味しい飯が悪い。
「面白い話ですねぇ。そのダークシグナーと呼ばれる連中がこの童実野シティを狙ってると」
「そうそう!」
そんな中、龍亜はここのトップのディヴァインという男にさっきからシグナーとダークシグナーの事を元気に話してる。せっかくのご飯を食べずにもったいない……。
ってか、この男この前のあいつだな。フォーチュンカップで十六夜が負けたときにコートをかけて連れて行った奴。つまりは十六夜がよほど心を許してる男ということか。
「そのダークシグナーと戦うのがシグナーなんだ! だから、アキ姉ちゃんの力を貸してほしいんだ! 同じシグナーの姉ちゃんなら、遊星を助けられるよ!」
「なるほど……それで、遊星君からの連絡は?」
「まだだ」
遊星”君”ねぇ……やっぱなーんか胡散臭いんだよなぁこいつ。さっきから物腰の柔らかい紳士って感じを装ってるが、何となく感じ取れる。こいつの中にある深い闇が……。
「うーん……いいでしょう。我々の力を全面的にお貸ししましょう」
「ほんと!?」
「やりましたよコナミさん!」
あっさりとオッケーしてくれたか。まあ面倒な交渉をする手間が省けたからいいけど、何か裏があるような気がしてならない。
会った時に一瞬、龍可を舐めるように見たのも引っかかるし。昔からの経験上怪しい奴はとことん疑うからな俺は……悪いが、腹の内ではまだディヴァインは信じられないな。
「ええ。アルカディアムーブメントは純粋にサイコデュエルの研究を行っているのですが、最近はよくない噂をたくさん立てられて困っていたんです。我々が皆さんのお力になれるなら、喜んで!」
「やった!」
「よかった」
「そうだ、彼女を呼んできます。すぐに戻ります、失礼」
十六夜を呼んでくる、そう言ってディヴァインは部屋を出ていく。
……ということはついにあの人を近くで拝めるのか!?キタキタこれは来てる……城之内、お前の分まで俺はナイスバディを拝むぜ!
「やりましたねコナミさん! えへへ」
「え、ああ、そうだな。よし、今の内に食べとこ」
「コナミさんはさっきから食べてますよぉ」
それは言ったらダメだよゆまさん。
……うめぇ。冷めても美味いとか持って帰りたいぞこれ。ちょっ、誰かタッパー持ってきてください。
「へっへーん、どうよ! やっぱりあの人悪い人じゃないんだよ!」
「こんなにとんとん拍子話が進むとはのぅ」
「意外だな。だが、油断しない方がいいかもしれない」
「氷室の言うとおりだ。言っちゃ悪いが、あいつは怪しいぞ」
「あーやだやだ。大人は疑い深くって。さぁて! 俺も料理食べるぞー!」
龍亜君、大人になると人間の汚い部分ばかり目につくからそうなっちゃうんだよ……俺なんか昔から人間観察してるから人の表情とかからすぐ読み取ろうとしちゃうし。
ん?なんだこの変な音……天井からか?うっすらと空気の漏れるような……!
「えっ!? こ、コナミさん?」
「しっ。そのまま息を止めて寝たふりをしてろ」
「は、はい……っすぅ」
横に座るゆまを後ろから押して机に突っ伏すようにさせる。周りからゆまだけを見れば、寝てるように見える状態だ。
ゆまが思いっきり息を吸い込む。さて、早めに来てくれないとヤバいな……。
「コナミ-、いきなりどうした……の、あれ? なんだか眠く……」
「ちょっと龍亜……はれ、わたし、も……?」
龍亜と龍可が急に机に倒れて、龍亜からはいびきも聞こえてくる。
「おい! 二人ともどうした!」
「わしもなんだか眠く……」
「じいさん! うっ……」
続いて氷室とじいさんも倒れる。二人からも、すぐにいびきが聞こえてくる。
やっぱり、睡眠ガスをまいてやがったな。いくら警戒してるとはいえ呼吸はしてなきゃならないからな、無力化するには最適だ。まあ水中で5分以上息を止めれる俺には効かんわ。
っと、俺も倒れておかないとな。俺だけぴんぴんしてたら怪しまれる。
「すぅ……んん」
え?ちょっ、ゆまさん寝てますやん……さすがに息が続かなかったか。
まあ仕方ない、俺は起きてるし皆に何かしようとしてたら止めればいいか。
「……眠ったか」
部屋の入り口の自動ドアの開く音がする。今の声はディヴァインか……それに足音からして、5人のモブか。
なるほど、眠らしてどっかに連れていく気だな。
「龍可。君はいずれアルカディアムーブメントに入れようと思っていた……まさに君は、飛んで火にいる夏の虫、だな」
「それはどうかな?」
「なにっ!?」
部屋に入るなりぶつぶつと何かを言っているが、気持ち悪いし俺は寝たふりをやめて声を出す。
それはどうかな?とかデュエル以外で使うとか思わなかったぞ。
立ち上がってディヴァインに向かい合う。やっぱりモブは5人か。
「俺たちを眠らしてどうするつもりかな、この野郎」
「この部屋の中で眠らないなんてな……ならば、力でやるまでだ。やれ」
脇にいた5人の手にいきなり剣が出て来る。あれは……《サイコ・ソード》か。
へぇ、サイコデュエリストってこんな風に力を出せるのか。俺や十代の力と同じようなもんじゃないか。ただその力を周りからは恐れられて正しく使えてないから、こんな風にぐれちまってるのかね。
「おいおい、そんな物騒なもんで何をする気だ? そっちがその気なら俺も……」
「デュエルディスクを構えてどうするつもりだ? 我々サイコデュエリストと違って、お前のような一般人がカードの力をつかえると?」
「悪いが俺は、一般人なんてものとはかけ離れた存在なんだよ! 出番だぞマナ!」
『はいはーい! ブラック・バーニング!』
俺の前にぼんっという音と共にマナ、《ブラック・マジシャン・ガール》が出て来る。
というかいきなりそんな攻撃するのかよ!? あ、威力は小さいな。
「バカな!? あの《ブラック・マジシャン・ガール》が実体化しているだと!?」
「今の内に皆を……うおっ!?」
「……」
まずは軽い子供二人を助けようとしたが、横から剣が振り下ろされてくる。
チッ、さすがにマナ一人で全員を相手にするのは無理か。仕方ない、こいつぐらいは俺がやってやるか。
「ほれ、かかってこいや」
「……!」
「甘いぞー、ほれ」
「うぐっ!」
またまた剣を振り下ろしてくるが、あんな単調な攻撃避けれるに決まってる。さくっと避けて鳩尾に拳を一発。
これで解決だ。さて、今の内に……って!
「ずりーぞお前ら!」
気付けば全員外に運ばれてる。チッ、さすがに攻めながら守るなんて技はできないな。向こうは数はいくらでもいるだろうし。
「仕方ないか……マナ! 一旦逃げるぞ!」
『うええ!? でも皆がまだ』
「今は無理だ……お前はちゃんと逃げとけよ。《ポジションチェンジ》!」
毎度おなじみの魔法カードを使ってこの場を逃げる。
悪いな皆……またすぐに助けるから少しの間待っててくれ。
「コナミ……何者だあいつは」
遊戯王の小説と思えないぐらいデュエルがない……デュエル担当さんがいないため、もうしばらくデュエルなしとなります。本格的にシグナーとダグナー対決が始まれば入れれるはず……!