また、アテムとコナミの表に出ている人格の話は「」、精霊状態の話は『』で表記してあります。
「なんじゃあ急にでかくでやがって…しかもデュエルしろだあ?」
「お前がオレに勝てれば、この店のカードは全部持っていきな!」
「なんじゃと!?」
アテムからの思いもよらぬ提案に高橋は驚きを隠せない。店にあるのは少し流行からは遅れてはいるが、どれも今でもかなりの価値があるカードばかりだからだ。
「だがオレが勝てば、罰ゲームを受けてもらうぜ…カードを傷つけた、罰をな!」
「ほおおっ、オモロイやないかい…ええやろ、そのデュエル、受けてたったるわ!」
「なら、表にでな」
高橋は外に出て行き、アテムもまた、コナミのデュエルディスクを腕に取り付けデッキをセットして外に出る。
『アテム、頼んだぜ。お前の時代とはカードプールは変わってるから厳しいだろうが…』
「大丈夫だぜコナミ。オレは、そんなもので負けない…必ず、じいちゃんの店を傷つけた罰を与えるぜ」
静かに怒りを放つアテム。そしてアテムには、もう一つの目的があった。
元々はコナミとする予定だったが、自分のデュエルを見せること。そうすれば、コナミにもまた、デュエルの楽しさを伝えれるのではないか…そう思っているアテムは、高橋とのデュエルに闘志を燃やしていた。もしかしたら、久しぶりのデュエルに燃えているだけかも知れないが。
外ではもうすでに、高橋はデッキをセットして準備万端という風だった。
「待たせたな高橋。さあやろうぜ!」
「わしにデュエル挑んだこと後悔させたらあ! いくぞわれええ!」
「「デュエル!」」
数十年の時を経て、サテライトの一角でアテムのデュエルが行われようとしていた。
「オレの先行、ドロー!」
『おっとアテム、忘れてた。そのデッキ、基本はあの時のままだが、禁止とか神、後は防御系で他に良いカードがあったら入れ替えてるぞ』
この感触も久しぶりだ…そう思いながら、アテムは手札を確認する。確かに、コナミの言うとおり三幻神を抜いてることやその分を他のカードで埋めたこと、それから禁止制限に対応させたこと以外はあの時と変わってないようだ。
「手札を1枚墓地に送り、《THE・トリッキー》を特殊召喚! さらにモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
《THE・トリッキー》ATK2000
「わしのターンじゃあ! ドロ-!」
さて、高橋とやらのデッキは何なのか…そう思いながらアテムは、相手の動きに眼を見やる。
「わしは《エーリアン・ソルジャー》を召喚じゃあ!」
《エーリアン・ソルジャー》ATK1900
「エーリアン…?」
『Aカウンターって言うカウンターを駆使して戦うデッキだよ』
コナミがエーリアンデッキの情報を教える。だがアテムが、相手の情報を知るのは不公平と思ってるのを知ってるのであまり深くは教えないが。
「ソルジャーでセットモンスターを攻撃じゃー!」
エーリアンソルジャーが手に持つ剣を振り下ろす。
「セットモンスターは、《翻弄するエルフの剣士》! このカードは、攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されないぜ!」
「ぐっ、また古いカードを…カードを二枚伏せてターンエンドじゃあ!」
アテム
LP:4000 手札2
場:《THE・トリッキー》《翻弄するエルフの剣士》
伏せ1
高橋秀行
LP:4000 手札3
場:《エーリアン・ソルジャー》
伏せ2
「悪いがオレは、最近のカードは知らなくてね。ドロー!」
場にはモンスターが2体。生け贄は揃っている。
「オレはフィールドの、トリッキーとエルフを生けに──」
『おっとアテム。この時代だと、生け贄はリリース、生け贄召喚はアドバンス召喚って言うんだぞ』
「そうなのか? …2体をリリースして現れろ、我が切り札にして最強のしもべ、《ブラック・マジシャン》!」
パラドックスと共に戦った遊星もその呼び方をしていたなと思い出しながら、アテムは手札から1枚のカードをディスクにセットする。
そして光と共に、アテムのデュエルの相棒とも呼べる、《ブラック・マジシャン》が姿を現した。
《ブラック・マジシャン》ATK2500
「ぶ、ぶ…《ブラック・マジシャン》じゃとおお!? お前みたいな奴がそんなレアカードを…!?」
「ふっ…オレは魔法カード《黒・魔・導(ブラック・マジック)》を発動! オレの場に《ブラック・マジシャン》が存在するとき、相手フィールドの魔法・トラップゾーンのカードを全て破壊する!」
「な、なんじゃとおお!?」
ブラックマジシャンの杖からとんでいった魔力の塊が、高橋の場の伏せカードを破壊した。破壊されたのはミラフォースとドレインシールドだ。
「くっ、わしのフィールドががら空きじゃ…」
「さあいくぜ! ブラックマジシャンで、エーリアンソルジャーを攻撃する! ブラックマジック!」
主人の命を受けて、ブラックマジシャンが再び杖を振りかぶる。杖の先から飛んでいった魔力の塊は、ソルジャーの剣ごと破壊した。
「ぐおお…!」
高橋秀行LP:4000→3400
「オレはこれで、ターンエンドだぜ」
「まさかそんなレアカードを出してくるとはのお…わしのターン!」
『このままブラマジで押し切れればいいんだが…』
「へっ、いいカードを引いた…《エーリアンモナイト》を召喚じゃあ!」
高橋の場に謎の塊のようなモンスターが現れる。
《エーリアンモナイト》ATK500
『っ! 引きやがったかクソ』
「なんだあのモンスターは…?」
「こいつでわしの最強モンスターの登場じゃー! 効果により《エーリアン・ソルジャー》を蘇生させる!」
「…? モンスターを2体並べてどうするつもりだ…守備表示じゃないから壁にもできない」
『アテム、今の時代には新しい召喚システムがあってな──』
「なんじゃわれ、シンクロを知らんのか!」
シンクロ。そのフレーズを聞くと、アテムの頭に一つの記憶が蘇る。パラドックスとの対決で、遊星とパラドックスの使っていた──
「──レベルを足して特殊召喚するシステムか」
『知ってるのか…?』
「その通りじゃあ! レベル4のエーリアンソルジャーにレベル1のエーリアンモナイトをチューニング!」
空中に浮いたソルジャーの周りを一つの輪っかのような物が取り囲む。
そしてソルジャーと輪が一つになり新たなモンスターを呼び覚ます。
「シンクロ召喚、《宇宙砦ゴルガー》!」
《宇宙砦ゴルガー》ATK2600
「攻撃力2600…ブラックマジシャンを超えたか」
「さらにわしは、装備魔法《団結の力》と《デーモンの斧》をゴルガーに装備!」
《宇宙砦ゴルガー》ATK2600→3400→4400
『なかなかの攻撃力になったな…さて、どうするアテム?』
「……」
「そしてゴルガーの効果を発動! 表側の魔法・罠を手札に戻し、ゴルガーにAカウンターを戻した数乗せる! 装備魔法2枚を手札に!」
『これは…マズいな』
「カウンターをのせて、どうするつもりだ?」
「見て驚けぇ! ここでさらにゴルガーの効果を発動! フィールドのAカウンターを2つ取り除くことで、相手のカードを1枚破壊する!」
ゴルガーの上に現れた気持ち悪い見た目のカウンター。それを食べたゴルガーは、力を得たようにその力をブラックマジシャンに叩きつける。
「くっ、ブラックマジシャン!」
「これでお前の場はがら空きじゃあ! 再び2枚の装備カードをゴルガーに!」
再び攻撃力を増すゴルガー。その攻撃力は、アテムの初期ライフを超えている。
『これをくらえばアテムの負けだが……』
「あっけない終わりじゃのお、いけゴルガー! コナミにダイレクトアタックじゃー!」
「リバースカードオープン、《ガード・ブロック》! これでオレへの戦闘ダメージは0、そして1枚ドローする」
『そう簡単にくらうわけないんだよねー』
アテムの周りにカードの壁ができてゴルガーの攻撃を防ぐ。
「まだ勝ちを確信するのが早いぜ?」
「ぐぐっ、だがお前のフィールドは何も無い。わしの優位は変わらん!」
「甘いな、デュエリストには手札の数だけ可能性があるんだぜ、ドロー!」
アテム
LP:4000 手札3
場:なし
高橋秀行
LP:3400 手札0
場:宇宙砦ゴルガー(団結の力・デーモンの斧装備)
伏せ1
アテムの手札は、さっきのガードブロックと合わせて3枚。フィールドは何も無いが、ここからどう巻き返すのか。
「いいカードを引いたぜ、魔法カード《思い出のブランコ》を発動!」
『お? それは俺が入れといたやつだな』
「これにより、墓地の通常モンスター──《ブラック・マジシャン》を復活させる! 現れろ、《ブラック・マジシャン》!」
場に現れたブランコが、キィキィと音を立てながら小さく揺れている。突然、不自然にブランコの揺れが止まる。ブランコを繋いでいる木の枝を見れば、そのうえに一人の男──《ブラック・マジシャン》がいた。
「変なとこから現れやがるのお…だが、そいつじゃわしのゴルガーに及ばない!」
「それはどうかな?」
「なに?」
(出ましたそれはどうかなー)
「手札よりさらに魔法カード、《千本ナイフ》を発動! オレの場にブラックマジシャンが存在するとき、相手モンスター一体を破壊する。やれ、ブラックマジシャン!」
ブラックマジシャンの後ろに大量のナイフが出現する。手で制して止めているが、アテムの合図を引き金にブラックマジシャンが杖をゴルガーに向ける。千本ものナイフがゴルガーに向かって飛んでいき、全てがゴルガーのあちこちに刺さる。
その痛みに耐えきれずか、ゴルガーは粉々に砕け散った。
「わしの最強モンスターがこうも簡単に…」
「さあ、今度はお前のピンチだな? いくぜ! ブラックマジシャンで直接攻撃! ブラックマジック!」
この攻撃が通れば一転してアテムの優位になる。
伏せカードが1枚あるが、そんなものに臆するアテムではない。気にせずにブラックマジシャンの攻撃を仕掛ける。
「ぐおおおっ!」
高橋秀行LP:3400→900
「メインフェイズ2でオレは、ブラックマジシャンをリリースし──《ブラック・マジシャン・ガール》をアドバンス召喚!」
師匠の魂を糧とし、その弟子であるブラックマジシャンガールが現れる。
その可愛さからデュエルモンスターズの世界では不動の人気のアイドルカードだ。
「ぶ、ブラックマジシャンガールじゃとおお!? ブラックマジシャンだけじゃなくそのレアカードまでもっとるんか!?」
『うまい、これで思い出のブランコのデメリットも回避できたな』
「オレはこれでターンエンドだ」
代わって高橋のターン。だがすでに伏せが1枚だけと打って変わって不利の状況である。
「わ、わしのターンじゃー! ドロー! 伏せカードの《地割れ》を発動! これでブラックマジシャンガールは破壊じゃあ!」
『あぁあマナちゃん…』
地面が割れ、そこから伸びてきた手にガールは引っ張り込まれる。
何気にガールファンのコナミは、つい彼女の精霊としての名前を呼んで嘆いてしまった。
「そしてわしのドローした、《エーリアンモナイト》を召喚じゃあ!」
「チッ、またそいつか」
「これでまたエーリアンソルジャーを復活、シンクロ召喚じゃあ!」
三度現れたエーリアンソルジャー。そしてまた簡単にシンクロ召喚の素材になっていく。
「《宇宙砦ゴルガー》をシンクロ召喚じゃー! そしてダイレクトアタック!」
「ぐっ…!!?」
アテムLP:4000→1400
「ハハハハ!わしのターンは終わりじゃあ!」
またアテムが不利になり、高橋が有利になった。そのことに高橋は高笑いしながらもう勝ちを確信したかのような表情だ。
「どうしたコナミい! お前のターンじゃ…まあ、手札0じゃ何もできず終わるのがオチだろうがのお!」
「さっきも言ったはずだぜ? 勝ちを確信するのが早すぎるってな…オレのターン!」
ここで逆転のカードを引かなければ負ける……それは誰もが分かる状況だ。
だがここでコナミは、謎の安心感に包まれていた。アテムなら、ここで逆転のカード──恐らくこのデッキ最強の、コナミの仕込んだあのカードを引くだろうという、安心感に。
「……ふっ、ありがとうコナミ」
『……やっぱり引いたか、さすがだな』
「ああ! 高橋、オレの引いたカードは……《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》!」
「な、なんじゃとお!? ここでその…だ、だがお前の墓地に光属性はいないはず」
「それはどうかな?」
「っ!?」
「オレは墓地の闇属性、《ブラック・マジシャン》と光属性──《マジシャンズ・ヴァルキリア》を除外し──」
アテムのディスクのセメタリーゾーンが光り、そこから二枚のカードが飛び出てくる。
深い闇を表す黒と輝く光を表す白がフィールドで混ざり合い、1つの形になろうとしていた。
「降臨せよ、《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》!」
場に現れたのは、鎧に身を包んだ騎士。その姿と手に持つ剣から、その強さが伺える。
《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》ATK3000
「ば、バカな…光属性なんぞいつの間に……っ!? あの時か!」
「そうさ、オレは最初のターンのトリッキーのコストとして、マジシャンズヴァルキリアを捨てていたのさ」
「この土壇場で、そんなモンスターを出しやがるとは…」
「バトルだ! いけ、カオスソルジャー! 《宇宙砦ゴルガー》を殲滅しろ!」
その場から飛び上がったカオスソルジャーは、落ちてくる力も利用してゴルガーに剣を突き刺した。
刺さった場所からピキピキとひびが入り、ついには全てが砕けた。
「ぐおお…またわしのゴルガーをお!」
高橋秀行LP:900→500
「まだだ。このカオスソルジャーは、相手モンスターを破壊したとき追加攻撃できる!」
「な、なんじゃとおおお!!?」
『なんでカードは知ってるのに効果知らないんだよ…』
「覚悟しな高橋。カードが受けた痛み…お前の身体に受けてもらうぜ! 《カオス・ソルジャー─開闢の使者─》でダイレクトアタック!」
「ぐうううぬおおおっ!!」
高橋秀行LP:500→0
渾身の一撃と言ってもいい一発をくらった高橋は、ピィーというデュエル終了の音と共に吹き飛ばされた。
アテムの復活初デュエルは、アテムの勝利に終わった。
作中でとどめとなったカオス・ソルジャー─開闢の使者─はアテムは使用していませんが、コナミがアカデミア時代に神楽坂のデュエルを見て投入しました。