ムシウタに登場した人物が十人くらいディバインゲートの世界へと入ってきて、そのまま本編のストーリーを変えていく話になると思います。
キャラ崩壊はお許しください。あと、ディバゲストーリーの解釈については、個人的な見解に基づいてやらせていただきます。
Divine Gate
その世界では『聖なる扉』と呼ばれる、『テラスティア』『セレスティア』『ヘリスティア』の三界を統合した一つの扉。
それは時として、悪戯に、誰かを招き入れることがある。動物を、無機物を、別の世界から。世界と世界を繋げることで。
あらゆる世界線を統合する、その聖なる入り口にまた誰かが入り込んだ。
薬屋大助は目の前に広がる光景にただ困惑した。
自分はただ教室の扉を開き、欠伸を噛み殺しながらも教室内に足を踏み入れ、普段どおりに声をかけてくるであろう立花利菜をあしらおうととりとめのない思考を巡らせていただけだったはずだ。教室の扉の向こう側に待っているのは変わらない現実で、平和な現実だったはずだ。
だが、大助の目の前にあるのは教室で友人や女子が騒いでいる風景ではなく、無論、別の教室に入ってしまったなどと言うオチでもなく、美しい自然の広がる世界。今時田舎でも見られないほどに森の広がった風景。妖精の世界に迷い込んでしまったかのようだ、と大助はメルヘンチックに評価した。
柔らかな陽光が木漏れ日として差し込む、そんな森の中に大助は一人、学生服に上履きで、鼻の頭には絆創膏という格好で立っていた。はっきり言って、場違いというにも程がある姿だった。ビルの森の中では目立たなくとも、本物の森の中では目立つのである。
「……な、なんだ? これ? 俺は学校に……」
背後を振り返る、が、教室の扉は何処にも見受けられない。空を見ても、何者かが彼を連れてきたような痕跡はない。夢かと思いたくて頬を強く抓ったが、予想通り全くこの場所から教室に意識が戻る様子はない。夢、というのは否定されるしかないだろう。
「……虫憑きの攻撃か……? 精神攻撃……? こんな場所、実際に転移させるとすれば何キロメートル移動すればいいのかも分からないし、桜架市の傍には間違ってもこんなメルヘンチックな場所はないしな……」
大助の目つきが険しさを増す。その肩口に、森には似合う緑色のかっこう虫が飛来し、とまった。宿主は焦っていると言うのに暢気に長い触角を揺らし、頭を左右に回すその虫を睨み付け、だが僅かな安堵を込めて嘆息する。
「……夢を見るわけねぇか。お前はこんな場所でも、俺の夢を喰おうとしてやがるんだな」
なんのことだ、と答える虫がいるわけもない。大助の独り言にも全く反応せず、かっこう虫は羽を広げて大助の周囲を飛び始めた。ただ、それがどこか自分を急かしているようにも感じられ、大助は歩き出した。当て所もなく、ただ教室の扉を探して。
此処は常界『テラスティア』であった場所であり、
統合世界『ユナイティリア』であるということなど、今の大助には知る由もなく、また自分がどのような経緯をたどってこの世界へ来る羽目になったかなどどうやったところで分かるはずもなかった。
凡そ二十分ほど歩いたころ、ふと大助は足を止めた。同時に彼の耳に威勢の良い叫びが飛び込んだ。
「えぇい!!」
(……人の声、って、何だ!?)
急に周囲の木の葉が舞い、大助をぐらつかせるほどの強風が真っ向から吹きつけた。木々を丸裸にするような風に、反射的に大助は戦闘員である『かっこう』として臨戦態勢へと突入する。傍を飛ぶかっこう虫がその躯から幾本もの触手を出し、大助の体へと絡み付かせた。それが溶けるように大助の体へと飲み込まれた直後、彼の体に緑と黒の鮮やかな縞模様が浮かび上がった。
彼のような人間は『虫憑き』と呼ばれる。人間にして、虫に寄生され常に夢を喰われ続ける無常の存在。彼らは夢を与える代わり、虫より超常の力を与えられる。大助のかっこう虫と呼ばれる緑と黒の縞模様が鮮やかな虫もその一匹である。
ただ、大助は顔をしかめて懐で空を掴んだ手をにらんだ。
(……ちっ、装備全部、置いてきちまった……!!)
大助が使うのは拳銃である。だが、学校に行く際に拳銃をもって行くのは余りやるべきではないと考えていたため、特別環境保全機関指定の黒い防弾コートも支給されるゴーグルも、ましてや拳銃など持っているはずもなかった。
とはいえ、ないものをほしがっても仕方ない。さっさと切り替え、大助は声の聞こえた方向へと走り出そうとした。
と、再び風が舞う。轟、と一つどころに集まっていく風が木の葉を散らす。先刻こそ身構えて耐えるだけで精一杯だった、が、かっこう虫と同化し身体能力が劇的に向上した大助は怯むことなくその風が集まるほうへと高速で地を蹴り急いだ。
再び声が通る。
「そぉい! ……これで全部かな、シルフ」
「いや、まだアル! 一人、とんでもなく強そうな奴が一人、来るアルよ! ミドリ!」
奇妙な語尾の声が終わるか終わらないかの内に大助は茂みから獣のように体を屈めて飛び出し、常人を遥かに超える速度で声の主へと手を伸ばす。
迷いなどない。状況から見て風を操ると言う能力がある人間は間違いなく虫憑きであり、大助が対処するには十分な相手である。
だが、伸ばした手から返ってきたのは少女の体の感触などではなく、冷たい金属の感覚。硬く重く、冷徹な冷たさを放つそれに触れて始めて攻撃が防御されたと気づき、すばやく大助は離脱した。一瞬で十メートル、対象から離れコンマ一秒の間合いを作り出す。
(……一筋縄では行かないか)
不意打ち、かつ殺意がなかったとは言え高速の一撃を受けられたことはそれだけで驚嘆に値する。
「ッつぅ! 重い、なぁ!!」
少女は凄まじい衝撃に痺れる手に喝を入れ、暴風に等しい風を背に受けて弾丸のように飛び出した。手に持った銀色の棍『アル:フォンシェン』の先端が緑色の輝きを宿し、そこから風が逆巻いた。
「誰だか知らないけど襲ってきたのはそっちなんだからね! 後悔しないでよ!」
「はっ、後悔なんざ知らないな」
しかし、まっすぐに大助へと振り下ろした棍は虚しく地に叩きつけられる。一瞬前にそこにいたはずの大助は既にダン! と虫と同化したことによって強化された脚力で地を蹴り、ミドリの死角へと潜り込んだ。ミドリの風に真っ向からぶつかりあい、それでも止まることはない。
(しかし、風ということは、恐らくあいつの虫は特殊型……。くっ、『C』がいれば……)
「余所見するなアル。挨拶なしでいきなり攻撃なんて、礼儀を弁えてないアルよ!」
「ぐっ!?」
再び暴風が、ミドリと呼ばれた少女が巻き起こした風以上に強く大助を巻き上げた。まるで竜巻のように荒れ狂う暴風に抗えず、遥か上空へと飛ばされる大助の顔面に、先刻までミドリの隣に立っていた少女の回し蹴りが炸裂した。
目の前に火花が散る。だが、その痛みも噛み締めて自分を蹴りつけた足を強引に掴む。少女が慌てたのがはっきりと分かった。
「……捕まえたぜ、虫憑き」
「虫憑き!? 私はシルフっていう名前アル! ってか離すアル!」
「『しるふ』か、『むしばね』の一員じゃあないだろうが、お前ら二人は同系統の虫憑きみたいだな……。来いよ、おとなしく特環に保護されるんだな」
特環というのは正式名称『特別環境保全事務局』という、虫憑きを名目上は保護する――飾らずに言えば捕縛し、管轄することが業務の組織である。属さない虫憑きからすればこの上なく忌むべき単語であり、どんな虫憑きであろうとも必ず一度は聞く名前。『むしばね』であれば間違いなく大助へと殺意を向けるだろう。
だが、
「だから……虫憑きって何アルかー!!」
シルフが絶叫すると同時、周囲の空気がダウンバーストとなって大助を勢い良く地面へと叩きつけようと吹きつける。それでも手は離さない。いや、離せば間違いなく逃げられる。離してはいけない。
「離すアル! この、精霊王の足を鷲掴みにしくさって……!!」
「離されたいなら今すぐ風を止めろ!! ちっ、答えるつもりもないってか……!!」
大助は強情さに辟易しつつも地面へと着地するために脚力を強化する、が。
「ちゃんと説明してよ魔物さん!!」
落ちる大助の顔面を狙って、金属製の棍が強く振りぬかれた。同時にシルフも空いている右足を強く振り上げて、脳天へと踵落しを叩きこむ。
ここで言っておこう。薬屋大助は虫憑きであり、その耐久力と頑強性は虫憑きの中でもかなり強大である。だがしかし、超人というわけではない。常人ではありえない速度で走り、跳ぶと言えど、一トントラックに勢いよく跳ね飛ばされれば死ぬし、虫の攻撃は『耐える』のではなく『避ける』ほうが遥かに多い。
だからこそ、何も守るもののない顔面に、前からも後ろからも打撃を加えられ、薬屋大助の意識はあっけなく途切れた。
シルフとミドリは同時に顔を見合わせ、瞬間的に『ヤバイ』と思考を同調させた。
後に大助はこのときのことをこう振り返る。
――死ななかっただけ幸運だった。
こうして、薬屋大助は特環最強の虫憑きとは思えないほどあっさりと二人の少女に敗北したのであった。
続く
気まぐれに更新して行こうと思います。無理のないペースを守りたいです。
感想出来ればお願いしたいです