【主人公】戦場駆動【喋らない】 外伝 作:アルファるふぁ/保利滝良
【邂逅】
故郷を離れ、ミシェルはヨーロッパに来ていた
観光などではない そもそも、父が信じられない額の借金を残して失踪した彼女には、そんな余裕はない
今から、その借金を手早く返すためにある人物を訪ねるのだ
バスから降りたミシェルは、バス停でベンチに座る人物に声をかけた
「ケンさん、お久しぶりです!ご無沙汰してます!」
その可愛らしい声を聞き、新聞紙から顔を上げた男は微笑む
「やあミシェルちゃん、待ってたよ」
バス停からケンの車に乗り、ミシェルは物々しい施設にたどり着いた
風にブロンドをたなびかせ、ミシェルは呟く
「大きい・・・」
愛車の日本製品のキーを閉めながら、ケンはその呟きに答える
「なんせ、最新の兵器工場だからね あの『大陸』の外で人型機動兵器を開発している、数少ない場所さ」
「人型機動兵器・・・まさか!?」
にやけながらケンは顎髭を撫でた
「仮に可愛いミシェルちゃんが売春してもあの借金は返せる額じゃない 国家予算以上だからね だけども、傭兵ならあの額を・・・長く見積もって5年以内には返せる」
借金を返せるとは言われたものの、具体的にどう返済するか聞かされていなかったミシェルは目を見開いた
確かに、危険だがかなり早い段階で借金を返済することはできる だが、ミシェルは小さい頃から体が少し弱かった 今も中学の頃からそこまで身長が伸びたわけではない 彼女が大陸で人型機動兵器に乗って戦うなど無理だ
だが、その対策を、組織相手に大活動を敢行しようとしたジョー・レイクの友人は備えていないわけはなかった
「僕はこの会社の株主総会の主要メンバーでね、なんとか傭兵チームを作り上げて大陸に送れるようにしたよ」
「傭兵チーム?」
「整備士やパイロット、オペレーターのグループで仕事に取り組むのさ ミシェルちゃんが戦う必要はない」
「な、なるほど 私はそれに同行すれば良いのですね?」
「仕事はしてもらうけどねぇ~ ま、その傭兵チームのメンバーに会いに行くかい?」
「いるんですか?」
「今、会社に待機してるよ さ、行こう!」
そう言ってケンは、ウインクした
「どーだった?」
「なかなか、個性的な人達ばかりでしたね」
数時間後、ケンの言っていた傭兵チームのメンバーに一通り挨拶をしたミシェルは、ケンの用意した宿で食事をとっていた
今は、甘いクリームのケーキに舌づつみを打っている
舌先でミルクの香りが溶けるような感触が、ミシェルが好きなものだった
電話の向こうで、ケンはミシェルの発言に笑う
「ごめんね、集められたのはあの人たちだけなんだ」
「大丈夫ですよ それに、あんな素敵な人達を集めてくれたケンさんに感謝したいくらいです」
そこでミシェルは、ある疑問を抱いた
ケーキのフォークが止まる
「そう言えば、パイロットの方は?」
「ああ、あいつがまだだったね 色々手続きしてるのさ」
「手続き?」
一呼吸置いてケンは言った
「実は・・・そいつが、君を助けるべく僕にこの事を頼んだのさ 自分が殺し会いすることを良く理解した上でね」
フォークがミシェルの手から落ちる 金属が落ちたとき特有の甲高い音が響く
ミシェルの心臓の鼓動が早まる
「ま、さか そんな、優しい方が・・・?」
「僕の遠縁だけどね、彼 君の借金保証人は明日から彼になるよ」
それが意味するのは、そのパイロットが聖人君子であるということ
彼女のために、戦うということ 彼女のために、わざわざ自分から死地に赴くということ
ミシェルのために、命を張った ということ
「そ、その人は・・・」
「なんだい?」
「その人は・・・私に、何か言っていましたか・・・?」
ミシェルの父の元借金保証人はにやけながら答える
「何も 彼はそう言う者だ」
この日から、未だ会っていないパイロットに、ミシェルは甘酸っぱい気持ちを抱いていたのかも、知れない
この時彼女は、その12時間後に悲劇が起きることを知らない