【主人公】戦場駆動【喋らない】 外伝 作:アルファるふぁ/保利滝良
タナトスの目の前に、約4メートルほどの機体が接近する その右手には人型機動兵器のものとは規格が違う銃器が握られていた 縦は低く横は広いその、兵器と思わしき人の形をした機体は、タナトスと比べかなり小さいようだ 死神と並んで見ると、白雪姫の小人を彷彿とさせる もっとも、相手にとってはジャックと豆の木が思い浮かぶのだろうが
さらに不思議なのは、その機体がまるでボロボロなことだ 所々の装甲が歪み、まるで整備が行き届いていない
そんな機体が、若干引き気味でタナトスに接近する 足を踏み出し、突然叫ぶ
「そこの黒い機体!」
拡声器を通して聞こえた声は、恐らく戦場で最も聞くことの無いはずな、成人していない淑女特有の甲高い声
「何者なの!?」
あの機体に乗っているのは、少女であることは確実であろう ということは、タナトスが今いる地域はかなりの紛争地帯であることは疑いようもない なにせ、女の子が殺し合いに駆り出される場所なのだ
「応答しなさい!」
目の前の少女は、いったい何故この戦場に立っているのだろう どのような覚悟を持って戦っているのだろう その年齢で命のやり取りをするには、相当な精神を持ち主であることは想像に難くない
「さもなくば、攻撃するわ!」
粗悪な機体を駆り、泥沼になった悪夢の戦場で、その儚い命を輝かせる目の前のパイロット
無駄の無い動作でタナトスに銃を向ける勇ましさは、美しくすらある
戦いがこの少女の居るべき場所である事実から、世の中の非情さが読み取れる
死神の目の前、平和な世界にはない美しさが存在した
ユリンは驚愕した
彼女は戦闘の最中に突然現れた正体不明機の偵察のため、リョウトに敵の撃退を任せた
ユリンとリョウトは、統合政府と戦う組織に所属している 統合政府との戦闘は日常茶飯事だ
今回現れた正体不明機も、統合政府の新型だろうと、ユリンは鷹を括っていた
だが蓋を開けたらどうだ
「何あれ・・・死神・・・?」
彼女の抱いた第一印象が、この台詞だ
黒い色をした、不気味な雰囲気を醸し出す正体不明機は、非現実的なイメージをユリンに抱かせた
とりあえず近付いたが、気付いた事があった
でかいのだ
その機体は、目測でも10メートル程はある パワードールが玩具に見えるサイズだ
当然、その死神に装備されている武装も相当な物だろう 左手のガトリングは戦車砲を越えるか越えないかの口径を持ち、右手のバズーカらしき火器に至ってはもはや戦艦の主砲だ
ユリンがじろじろと黒い機体を観察していると、向こうもユリンの方を向いた 正体不明機の顔の正面、翠に光るカメラアイがアンタレスを捉える その両手に持つ武器を撃つのかと、ユリンはすぐさま戦闘体制に入る
「ッ!!・・・?」
だが、正体不明機はユリンの方を見るだけで特に何もしてこない
ユリンは通信機を使い、目の前の正体不明機に話しかけようとした
「あ、あれ・・・繋がらない!?」
しかし、相手の無線機と規格が違うのか、アンタレスの通信機からはノイズしか流れない
コクピットを弄り、拡声器を起動する
「そこの黒い機体!何者なの!?応答しなさい!さもなくば、攻撃するわ!」
必要最低限の警告を言ってはみたものの、いつまでたっても相手は何も言わない ただ、先程ユリンがそうしたように、アンタレスをじろじろ眺めてくるだけである
「無視してるって言うの?でも、それならあんな見ないわよね・・・」
数秒の静寂 本当なら今すぐにでもリョウトの援護に向かいたいが、目の前の死神モドキが意味不明過ぎてユリンは身動きが取れなくなってしまっていた
警告をされたのなら、何かしらのアクションを起こしても良いはずなのだが、あの黒い機体は応答もしなければ攻撃もしてこない
ただこちらを見てるだけ 不気味なことこの上ない
まさかこちらの隙を伺ってるのではないか、とユリンは考えた それならこちらをじろじろと眺めるのも納得だ 機体に反してなかなか用心深いパイロットなのだろう
いや、あれはなんらかの理由で喋ることが出来ないのではないか 本当は応答したいけど、それが出来ないのでは無かろうか
「一体、何者なの・・・?」
ユリンは疑心暗鬼の渦に巻き込まれた あまりにも正体不明機が正体不明過ぎて、どう対処していいか全くわからない
互いが互いを見つめて、数分が経つ
ユリンの緊張がピークに達しようとした、その時
アンタレスディザスターのレーダーに、新たな敵影が感知された それも二方向から
「こんなときに!」
タナトスを捨て置き、ユリンがその場から離れようとしたそのとき、
榴弾が、タナトスの頭部に直撃した