連続投稿二十三話目。さっき書き上げましたが、なにか?
大妖精は、今日もチルノに振り回されている。元気のいい氷の妖精は、妖精らしいいたずら心のままに行動し、そして笑っていた。
大妖精もそれにつられて笑い、二人のいる場所には二人に惹かれて妖精たちが集まってくる。花の妖精、草の妖精、木の妖精、石の妖精……数多い妖精達はチルノと大妖精の二人を中心に遊び回り、チルノもそんな妖精達と一緒に遊び回る。
大妖精は、自分はこの上なく幸せな存在だと思っている。一緒に居たい相手と、ずっと仲良く過ごしていられる。それは大妖精自身にとって、ある意味では存在意義と同じような物だったからだ。
『大妖精』。無数に存在する妖精の中で、その名を冠する妖精は殆ど居ない。皆無、とは言えないが、全ての妖精の数から言えばいないと言ってもいい。彼女はそれだけ希少な存在であったし、同時に強力な存在でもあった。
そもそも、妖精とは一種の精霊である。平均して力は弱いが、数少ない強力な妖精は時に精霊王と同格、聖霊や神霊の域にまで達することがある。
それは古い精霊であればより顕著で、妖精から精霊、神霊へと成ったものも少ないが居る。
この地球上で最も古い妖精。地球という存在そのものの妖精。それが大妖精である。
星を司る妖精と言うだけあり、彼女は非常に強大な力を持っている。その気になれば世界各地から雨を奪って干魃を起こして多くの人間を死に至らしめることもできるし、逆に嵐で大陸間のあらゆる移動手段を絶つこともできる。
地表の熱を内側に引き込むことで意図的に氷河期を起こし、直後に熱によって溶けた溶岩を地表に噴出させて火山帯でもない場所に噴火を起こす。大昔の彼女には、そう言ったことを簡単に起こすだけの力があった。
……では、現在はどうなのか。博麗大結界の外では信仰や神秘が失われ、妖怪や神が力を失っている現代で、妖精である彼女にいったい何ができるのか。
───実のところ、彼女は何も変わっていない。
なぜ地球の精霊である彼女が大妖精などと言う中途半端な位置に収まっているのかを知る者は少ない。実に少ない。彼女自身と、すでにこの世にはいない者、この世に居ないも同然の者を含めても片手の指で余裕を残して数えられる程度の数である。
そのうちの一人……いや、『一体』と呼ぶべきだろうか。
ともかく、そのことを知る数少ない存在は彼女のそばにいる。
……そう、それが氷の妖精であるチルノであった。
しかしチルノはもうそのことを知らない。覚えていないわけではなく、本当に知らない。知らないからこそチルノと言うほんの少し力が強いだけの妖精が、地球の星霊と言う格の違い過ぎる相手と話すことができるのだ。
だが、なぜチルノがそのことを知っていた時期があるのか。それは、大妖精自身の記憶の中にしか存在しない。チルノ自身から記憶が失われた今、大妖精意外にそれを覚えていられる者などいない。
■
昔々。大妖精が地球の星霊として地上の精霊たちを統べていた頃。彼女は退屈していた。
何も変わらない日常。
生物などなにもおらず、そもそも自分たち以外に生物などと言うものがいることすら知らずに過ごしていた。
そんな大妖精たちの前に突然現れたのが、名も無き精霊。誰にも知られることなく生まれ、同格の存在を一つしか知らず、しかしその同格の存在には会えないまま生き続けてきた―――『世界』の精霊であった。
「つまんなそうだね。何をしてるか知らないけど、私も混ぜてもらうよ?」
名も無き『世界』の精霊は、そうして地球にやってきた。
それからだ。名も無き『世界』は灼熱の大地でしかなかった地球に水を作り出し、海を作り上げた。そこにいくつかの種を混ぜ込み、それは地球で初めての命の原型となってできたばかりの海を漂った。
命の原型は時間をかけて組み変わり、変質し、そしていつしか初めのそれとはまったく違った命となった。『世界』の悪戯に付き合いながらもそれを興味深く、楽しげに眺めていた地球の星霊とその配下となっていた多くの精霊・妖精たちは、彼女を新たにその星……地球の支配者として迎え入れたのだった。
無数の命が現れ、死に絶え、世代が変わり、進化と停滞を繰りかえし、時に地球の外からの影響に適応しきれず絶滅し、時に急激に変わる気候に適応して、初めは数種類しかなかった生物はどんどんと増えていく。
それを見ているのは楽しかったし、そんな風に移り変わっていく生命が地球を彩るのも楽しく見守っていた。
……そこに、ある日突然災厄が訪れた。
『不要龍』。世界を形作るに不必要とされた物が組み合わさって生まれた、世界と同じ大きさ、同じ重さを持つ龍。
その身に触れたものはたちどころに爆破されて死んでいく。かの星霊すら一度も見たことがないほどに強力なその爆発は、ただその竜がその場にいると言うそれだけのことで起きていた。
不要龍と呼ばれる竜の身体を構成するその肉は、反物質で出来ていた。反物質で出来た龍に物質で出来た何物かが接触すると言うそれだけのことで、かの大爆発は起きている。
それに気付いた世界の精霊はこちらからかの龍に触れることを禁じ、そしてかの龍にもこちらに触れぬよう頼みに行くと告げた。
「危険です!もしそれがあちらの狙いならばどうするのですか!?」
「それは無い。そもそも世界を壊したいなら外から叩けばいいだけのこと。それをしないのは自分がどういう状態かわかっていないか、あるいは意識の中にないかのどちらかだ」
「では私が行きます!」
「却下だ。あの龍にとっては君では自分と同格と思っては貰えない。最低でも私と同じだけの質量を持っていなければ、認識すらしてもらえない。……私以外には無理なのさ」
地球よりもはるかに大きく、宇宙全てよりもなお重い。世界と言う概念そのものの権化。彼女の言葉に逆らうことのできる存在など、文字通りにこの世界には存在しない。
だが、今回はその世界の内側でなく、世界の外側の出来事。世界が違う出来事に、小さな小さな星の精霊では太刀打ちなどできはしない。
そして、世界の化身はなお詰め寄ろうとする妖精たちを一言で押さえつける。
「『跪け』」
ガグン!と、そこにいた全ての妖精、精霊たちはその場に膝をつく。誰もが立ち上がり、飛び上がって世界の精霊を止めようと力を込めるが、しかし誰もがそれを実行できない。無数の星々の精霊も、銀河の精霊も、概念そのものであるはずの神霊ですら動ける者はいない。
それを見て、世界の化身は緩やかに唇に笑みを浮かべた。
「……その抑えは、私が消えたら簡単に解ける。もしも私が戻ってこなくても、それが解ければ普通に動けるようになる。その時は……自由にしてくれていいよ」
その声に、顔を上げることができたのは一人だけ。その身に無数の命を乗せた、地球の星霊である彼女だけであった。
声は出ず、口をパクパクさせるだけの彼女に気付いた世界の化身は、地球の星霊に近付いて囁いた。
「……多分、動けるとしたら君だと思っていたよ」
そして、その耳元で微かに音の羅列が産まれた。それに何かを返す前に――――――と言っても全く動けない以上返しようがないのだが――――――世界の化身は飛び立って行ってしまった。
そして、それからどれだけ時間が過ぎたのかはわからない。ずっとずっと長かったような気もするし、大した時間じゃなかったような気もする。
世界そのものが崩れ去るのではないかと思うほどの振動がその場にいた全員を襲い、ほぼ同時に精霊たちにかけられて呪縛が解かれた。
―――それは、彼女たちを今まで率いてきた世界の化身の消滅を表していたと、気付けない者はその場にはいなかった。
妖精たちは涙を流す。精霊たちは涙を流す。神霊たちは涙を流す。動けるようになったにもかかわらず身体を震わせるだけでそこから動こうとする者は一人としておらず、落ち着きなく遊びまわることこそ生きることだと言うような妖精たちすらも一人として掛けずにその場に跪いていた。
そんな中で、地球の星霊である彼女だけは前を向いていた。世界の化身が飛び立つ寸前まで立っていたそも場所を、じっと見つめ続けていた。
「――――――」
ざわり、と総身に怖気が走る。全身の毛穴が針のように細い氷で貫かれたような感覚と共に、それはその場に立っていた。
見た限り、性別は女に見える。
女にしては高く見える身長に、豊満と言えるだけのメリハリのある体。
彼女は何も着ていなかったが、まるで降ってきたばかりの雪を思わせる白い肌に、目に痛いほどの鮮やかな紅色が映える。
しかし、彼女たちにはわかる。その存在は、決してこの世界にあってはならない存在だと。
「『不要龍』……!」
ギリッ……と歯が軋む音をさせるが、誰一人として飛びかかって行こうとはしない。それは世界の顕現であった彼女の意志に逆らう事だったし、たとえ実行したとしても誰一人としてその相手に傷一つでも負わせることはできないと理解させられていたからでもあった。
多くの者は心を折られ、痴呆のように這いつくばることで崩壊を回避した。そうしなくとも心を保つことができる者は、しかし立ち上がることはできない。唯一立ち上がれたのは、地球の星霊である彼女だけであった。
「……何、用……か」
「………………」
じっ、と、竜の変化した姿であると思われる彼女は、目の前で立ち上がっている少女を見つめた。
本来の彼女から見れば、文字通りに塵芥にすら届くことのない小さく弱く微かな存在。それにこうして視線を向け、認識し、観察していると言う事自体が彼女の変化を如実に表している。世界の化身である彼女が命を張ったことは、決して無駄な事ではなかったと言う証が確かにそこにあった。
「……」
無言のまま、すっと彼女から差し出された物を受け取る。反射的に受け取ったそれは、見慣れた物の欠片であった。
ぼろぼろで、今にも崩れそうなほどに皹が入り、しかしなんとか形を保っているそれは―――
「ぁ―――」
―――見間違えることなどありえない。世界の意志そのものの化身であった彼女がつけていた髪飾りであった。
「―――ぁぁぁぁぁああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!」
慟哭が周囲に響く。その場に集まっていた妖精たち、精霊たちは、自分たちの母ともいえる者を失った。世界が滅びていない以上、いつかは元に戻る日もやってくるだろう。
しかし、それは自分たちと過ごし続けてきた彼女ではないと言う事はわかっていた。この場にいる誰もが一度は死に、消滅した経験があったからわかる。
たとえ記憶が残っていても。たとえ姿が同じだったとしても。たとえあらゆる物が同じだったとしても。それでも、自分だけは自分がそれまでの自分手は違うものであると言う事がわかってしまう。それが、ほんの僅かずつ態度に出てしまい、最後には全く違うものになってしまうと言う事を。
彼女たちを率いる世界の化身は消えた。もういない。
それを、理解できる形で見せつけられてしまった彼女たちは、先ほどまでの静けさを放り棄てるように泣き叫んだ。
……声が嗄れ、涙が涸れた。悲しみだけが尽きないままに溢れ続け、無理矢理に声を出し続けていた喉はひりつくような痛みを伝えてくる。
無数の妖精が泣き続けてできた涙は、まるで海がそこに現れたかのような量になっていた。
「―――」
不意に、ある精霊が呟いた。
作ろう。これを忘れぬよう、力を磨く理由を忘れぬために、楔を作ろう。
そう言ってその精霊は、自らの力の半分を世界の化身の遺品へと込めた。
私も、俺も、と、次々に妖精が、精霊が、神霊が、その髪飾りに力を込めていく。
そして、その場にいる誰もが遺品に力を籠め終えた。最後の一人となった地球の星霊は、そうして集められた力の塊に、名前を付けた。
妖精が敬意を表し、精霊が敬愛し、神霊からの尊敬を集めた、世界の化身の名前から名を貰って。
「あなたは――――――」
■
紅魔館の門番、紅美鈴はじっと視線を合わせたまま動かずにいた。
本来の彼女からすれば矮小に過ぎる、小さな小さな星の精。かつて自分か初めて力の加減をしようと試み、初めて成功させたときにその場にいた、銀河系と言う小さな星系の、太陽系と言うさらに小さな星系の、地球と言う小さな星の精霊と、じっと視線を合わせていた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
互いに無言。ただ、じっと見つめあう。
その瞳に何が込められているのか。その思いは一体どこ向いているのか。それは本人たちしか知らぬことであった。
「…………■■■、■■■■■」
ぼそり、と、囁くように呟かれた大妖精のその言葉に、紅美鈴はにやりと龍らしい暴力的な笑みを浮かべた。
「…………■■■■■、■■■」
大精霊は、チルノに呼ばれてくるりと美鈴に背を向ける。美鈴も、その背を視線で追う。
だが、決して互いに触れ合おうとはしない。どちらも自分の実力と相手の実力の差をよく理解していたからだ。
今戦えば、大妖精は何もできずに美鈴に敗北するだろう。それは大妖精にとって許容できることではなかったし、竜である美鈴自身もせっかく自分が本気を出せるかもしれない希少な機会をこんな不完全燃焼な状況で無しにしたくはない。
二人の思惑が一致したからこそ、この幻想郷と言う小さな小さな場所において、この二人は同時に存在することができているのだった。
八雲紫ですら知らない、超古代からの二人の繋がり。これが未来でどのような形になるかは、神ですら知ることはできないだろう。
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人物紹介(超捏造)
【名無しの大星霊】
大妖精
本名不詳。本名を知ることができたものは地球を制することができると言うもっぱらの噂。事実かどうかは不明。
本人はけして話そうとはしないが地球の星霊である。同時に無数の精霊や妖精たちの力の結晶体であるチルノの守り手であり、いまだに復活しない世界の化身の形見でもあるチルノを守ることに全力である。
妖精、精霊の最強種であるが、その力の殆どをチルノの押さえに使っているため強く見えないが、本気で敵対するならば注意が必要。
なお、美鈴にはまだまだ届かない。
【究極種の後継】
チルノ
世界そのものの精霊の形見に、世界に存在していたあらゆる精霊から力を籠められて出来上がった万能の精霊。ただし、地球の星霊である大妖精の力だけは受けていないため、地球上での行動に大きなマイナス補正がかかる。ほぼすべての精霊の力を受けているのに使えないのはそれが原因。
地球上からいなくなれば、チルノは精霊の究極種にふさわしい力を振るうことができる。しかし、友人である大妖精が地球から離れられないため地球から離れることはまずないだろうと思われる。