村へと続く一本道を、一人の青年が歩いている。
藤色の頭巾に、同色の紅。目の周りを隈とる赤い紅。鼻筋にもスッと一筋。
歌舞伎役者のような化粧にも関わらず、その面立ちは老若男女関わらず頬を染めるほど。
服装は、青を基調とした女物に、黒の履き物。
足には高下駄を履いている。
間違っても旅をするような格好ではない。
だが、青年の背には身長の半分はあるかと思われる背負いタンス。
そうは見えないが、物売りだろう。
「こちらで あって いるんで?」
青年は、誰かに問いかけるように呟いた。
途中途中で切るように話すしゃべり方は独特で、のんびりとした雰囲気を醸し出している。
−カタン
青年に応えるように、背負いから音がひとつ。
肯定か否定かは解らない。だが、青年にはそれで充分だったようだ。
青年の足取りは、問いの前も後も変わらない。
歩き続け、ようやく村が眼下にみえる所まで来たとき後ろから声が聞こえた。
「あれが江無村えなむらか。」
青年が、驚いて振り返ると男立っている。
背には鎧唐櫃を背負い、顔は網代笠に隠れてよくは見えない。
声からして二十代後半から三十代前半といったとこだろう。
服装は黒を基調とした旅装だ。
だが、見た目は問題ではない。
(気配が しなかった)
そこが、青年が驚いた理由だった。
今のご時世、一人旅は危険が付きまとう。
それが男でもだ。
最低でも、近くにいる人間の気配を感じられなくては。
「ああ、驚かせちまいましたか?すいませんね。」
男は青年をみて頭を下げた。
「いえ、謝って いただか なくても。
気が 付かなかった 私も 悪かったん ですし。」
青年もまた、頭を下げる。
「そういってもらえてよかった。
あんたも、あの村に?」
男が聞く。
「ええ。」
青年は少し警戒しながら短く答える。
「なら、一緒に行かないかい?
見たところ行商人のようだし。」
村は近いとはいえ、まだ半日以上はかかる。
一人でも問題はないが、同行者がいても問題はない。
(それに、面白い)
気配を全く感じさせなかったことが。
「いい ですよ。」
「そうかい。
俺はからくり師の蘭剣。
あんたは。」
男は、蘭剣は言った。
笠から覗いた口元には笑みが浮かんでいる。
「ただの 薬売り ですよ。」
青年、薬売りもまた笑みを浮かべながら答える。
さく、さく
道を踏みしめる音が辺りに響く。
一刻ほども歩いたとき、不意に道が途切れた。
「どう しますか。」
薬売りは、聞いた。
「そうだな。」
蘭剣は、少し考える素振りをしたが、
「なら、少し休まないかい?」
そう言った。
「いい ですよ。」
二人は、道から少し外れ腰を下ろした。
辺りには何もいない。
ただ木々が繁っている。
「ところで、あの村に 何の ようで?」
薬売りは訊ねた。
江無村は、山に囲まれた小さな村で、とても排他的な村。
好き好んで近づくものはいない。
「ああ、頼まれたのさ。」
「どういう ことで?」
「そういうアンタこそ、どうなんだい?」
蘭剣は問いには応えず、逆に聞き返した。
その口元にはうっすらと笑みが見える。
それを見た薬売りもまた、うっすらと笑みを浮かべ、
「私も 頼まれたん ですよ。」
そういった。
抗議するように背負いが動いたが、どちらも何もいわなかった。
「行きますか。」
「ああ」
頭上では、陽が西へと傾き始めている。
村へ着く前に夜になるかもしれない。
だが、二人はまた、歩き出した。どちらも休む前と足取りは変わらない。
汗さえもかいてはいない。
誰に、何に頼まれたのか。それを知るのはただ己のみ。
彼らは一体何をなすのか。嵐が徐々に近づいている。
村人まだ気付かない