二人は、村長・野鹿に連れられ、隣の家へと入った。そこには、人はいないようだった。
「どうやら、村の人間は皆隣にいるようだな。」
「その様 ですね」
野鹿は二人に向き直ると、勢いよく頭を下げるといった。
「お願いです、どうかこの村を救ってください。退魔師さま、妖術師さま。」
突然のことに驚くことなく、二人は尋ねた。
またか、とでも言うように。
「何の ことですか?」
「俺はただの旅人だ、退魔師だの妖術師だのじゃありませんぜ。」
「私は ただの薬売り です。 退魔師だの妖術師だのじゃ ありませんよ。」
二人は異口同音にそういった。
だが、村長は縋るように二人を見、否定するようにいった。
「そんなはずはありません。
薬売り様、貴方様のことは小田島様からお聞きしております。モノノ怪について様々な知識を持つ、退魔の剣の使い手だと。」
「退魔の剣?」
蘭剣は薬売りを横目に見やると、僅かばかり眉間に皺を寄せていた。
「余計なことを」
薬売りは、村長に聞こえないよう呟いた。
「小田島様が何を言ったかは知りませんが、私はただの薬売りですよ。」
今度は村長に向かいはっきり言い切った。
「ですが、」
「本人が違うといってるんだ、あんまり押し付けるもんじゃありまぜ。」
蘭剣が言葉を遮ると、村長は今度は彼に向かい懇願するようにいった。
「なら、どうか貴方様の力をお貸しください、妖術師さま。」
「それは俺のことかい?」
「はい」
「こいつのことは小田島という武士に聞いたとして、俺を妖術師と呼ぶ理由をお聞かせ願えませんかね。」
蘭剣は尋ねた。
声は怪訝深そうだったがその顔は無表情だった。
「それは」
「おっと、誰かに聞いたっというのは無しですぜ。
俺見たいな格好の奴は結構多いからな。」
薬売りもまた、村長をじっと見ている。
「噂で聞いたことがあるんですよ。蘭剣という名の妖術師がいると。」
「それは可笑しい。」
「俺たちは、あんたに対して名を名乗った覚えはない。」
蘭剣は楽しそうにいった。
「それは、貴方様方がお互いをそう呼んでいたから、」
「それこそ、可笑しいですね。」
それまで黙っていた薬売りもまた、いった。
「私はあなたの前で、彼の名を呼んだ覚えはありませんよ。」
その口には笑みが浮かんでいた。
「「詳しく教えては貰えはませんかね?」」
妖術師は楽しそうで、退魔師はゾッとするほど美しかった。
「「さあ、応えてもらいましょうか?」」
「何故、俺達のことを知っている?」
「何故、私達の名前を知っているんです。」
二人は交互に話す。
野鹿にはまるで、 二人が人形のように思えた。
何故かはわからない、たが一人は美しすぎるが故に。一人は、平凡すぎるが故に。
現実味が無さすぎるのだ。一度見たら忘れられないから、一度別れたら二度と逢えないような。
夢幻のように。
「「なぜ?」」
「・・・聞いたからです。」
「誰にです?」
退魔師が尋ねる?
「それは・・・」
「それは?」
妖術師が促す。
「童わらし様に。」
「「童様」」
「そうです」
「詳しく 教えてくれませんか ねぇ?」
野鹿は、溜め息を吐いたあと話し始めた。
あの方が何者なのか、それは誰も知りません。
気がついたらそこに居て、いつのまにか、そう呼ばれていました。
貴方たちのことは、あの方が言っていました。
モノノ怪を斬る退魔師。 他人の望みを叶える妖術師。
形は違えど、二人とも人為らざる力を持っている。
本当に困った事があったら頼るといい。
いや、探さなくとも現れるだろう。
その結果がいいにしろ悪いにしろ。
私達はその言葉を、物語のように聞いていました。
けれど、いつのまにか童様は消えていました。
現れた時と同じように。
それと入れ替わるように、ヤツラは現れました。
ヤツラは現れると、人々にいうのです。
「オマエハナガレヲケガシタ」
「ナガレハヨドミイキバヲナクシタ」
「ソノツミシヲモッテツグナエ」
と
私達にはどうすることもできない。
力が違いすぎる。
だから私達は待っていた。貴方たちなら何とかしてくれるのではないかと。
「最初は貴方たちは存在は、半信半疑でした。
けれど、小田島様に話を聞き確信を持てた。
そして、退魔師がいるのならば妖術師もと」
野鹿はそこで言葉を切ると、二人に向き合った。
その目には強い光があった。すがりつくような眼ではない。覚悟を決めた者の眼だった。
「貴方たちの力を私に貸していただきたい。村を守るために。
そして、童様を救うために。」
彼はそう言った。