二人の旅人   作:風蒼

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童様

「どう思う。」

二人は小屋を出て、森の入口まで来ていた。

 

「あなたは、どう思いますか?」

「さあな。

俺には妖怪はさっぱりなんでね。」

蘭剣は森に顔を向けながら応える。

だが、その視線はどこを見ているかはわからない。

薬売りはそれを一瞥したあと徐に説明を始める。

「童と付く妖怪は大勢いますが、その中でも有名なのは三つ。」

薬売りは淡々と言う。

 

「一つ、河に住み時に人を襲い尻小玉を抜くという河童。

一つ、山に住み時に人を襲うという山童。

一つ、古い家に住み時に幸運をもたらすという座敷童。」

 

「なら、そのなかでナガレに関わるのは?」ナガレ。

村長の話に出てきた鍵のひとつ。

薬売りは少し考え応える。

「全部ですね。」

「ほう。」

河童は河の童。

水妖、つまり水の流れに関わる。

 

山童は山の童。

山精、だが一説には河童のもうひとつの姿といわれる。

 

座敷童は家に憑くもの。

守り神、家と共に生き朽ちる。

時の流れに関わる。

「なら、そのナガレがナニかか。」

蘭剣は顎に手を当てると、うなった。

ナガレ、ナガレか。

ナガレ、水、川、滝、海、時。いや、風、か。

そういって、呟き考え込む。

―カタ、カタカタッ

―チリン、チリン

しばらくそうしていると、櫃が何かを警戒するように鳴り出した。

それと同時に鈴の音も。

茂みが揺れると、そこから何かが現れた。

 

子供のように見えるがその雰囲気は、けして子供のそれではない。

 

その子は蘭剣を見つけると一言だけ呟いた。

 

「助けて」

と。

 

 

 

「助けて」

子供は確かにそう言った。

蘭剣に向けて。

 

その格好はぼろぼろで、何かに襲われたとしか思えない。

 

「あの子は 一体?」

 

しばらく呆然としていたが、蘭剣は子供に近づくと声をかけた。

めったにないことに、焦りの色が見えている。

 

 

「森羅しんら!!」

 

子供、森羅は彼が駆け寄ると気が抜けたようにその場に倒れた。

 

「森羅。」

 

蘭剣は悔しそうに唇を噛み締めた。

血が出ないのが不思議なほどに。

 

 

「知り合い ですか?」

 

薬売りがきくと、彼は頷いた。

 

 

「俺をここに呼んだ奴だ。」

 

薬売りが何か言おうとすると、また鈴の音が響いた。

「蘭剣様。」

 

また、子供が表れた。

その子は蘭剣を見ると悲しげに言った。

 

 

「森羅をお願いします。」

そう言うと、また森の中へときえた。

 

「水羅すいら」

 

蘭剣は子供に呟いたがすでにその姿はなかった。

 

 

森羅と水羅。

彼等はなんのために妖術師を呼んだのか?

 

 

 

蘭剣と薬売りは森羅を近くの家に運ぶと、治療を始めた。

 

「悪いな、売りもんだろ。」

薬売りは首を横に振ると答えた。

 

「構いませんよ。

それに、この子が早く気がつけば情報を得ることができますしね。」

彼のものいいにため息を吐くと、蘭剣は独り言をいうように話始めた。

「俺は数年前、一度この村の近くまで来ている。」

来たといっても、麓の辺りまでだ。来た内にも入りゃしないだろう。

 

そこで森羅と出会った。

この村は、知っての通り山の中腹にある。険しくはないとはいえ、子供の足では相当きつい。

 

なのに、あいつはそこにいたんだ。

あいつは泣きそうな顔をしながら言った、助けてと。

何かあったのかと思って近づくと、森羅と同じくらいの子供がいた。

 

それが水羅だ。

水羅は斜面を転がり落ちたのか、全身傷だらけだった。

 

森羅は泣きながら、ただ助けてと繰り返した。

 

だが、水羅は死んでいた。

 

だから、俺はあいつの人形を作った。森羅は強く水羅を求めていた。

 

だから、水羅は人格だけじゃなく魂まで人形に宿ることができた。

 

その後、2人を村へ帰って行った。水羅に何か変わったことが会ったら知らせるように約束させて。

 

いくら、人そのものだとしても、その体は所詮は人形。定期的に点検しなくてはいけないんでね。

 

そういや、不思議なことに2人を見つけたとき、水羅のほうは全身傷だらけだったのに対して、森羅のほうは治療がしてあったな。

蘭剣の話を聞いていた薬売りは、最後の言葉を聞くと何かを思い出すように思案しだした。

そして、語り出した。

 

「そういえば、数年前、私もこの村の近くまで来たことがあります。目的地までの近道のつもりだったのですが。」

 あの時、どこからか子供の泣き声が聞こえました。不審に思い声を辿ると、そこには先程の水羅がいました。彼の傍には、傷だらけの森羅。

 このままでは死んでしまう。そう思った私は、彼の治療をしました。ですが、彼は死にました。そう、確かに死んだのです。

 「なのに、彼は今ここに存在している」

 「どういうことだい?こいつが死んでいるってのは」

 蘭剣は訝しげに薬売りに訊ねるが、彼は解らないと首を横に振った。

 「お前さんの話が本当だとするなら、あの時の順番はこうだ。まず、最初に傷を負ったのは森羅。」

 「ですが、森羅は治療の甲斐なく死亡。その後、何らかの原因により蘇生。そして、次に水羅が死んだ」

 「そこに、俺が通りかかった。そして、水羅の人形を創った」

 死んだはずの森羅と水羅。そのうちの1人は、人形。なら、もう1人は?

 「こいつがモノノ怪ってことか」

 「おそらくは」

 

 

 彼らこそが、この事件の犯人なのか。嵐は徐々にその姿を見せている。

 

 


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