D.GrayMan~聖剣使いのエクソシスト~ 作:ファイター
歌詞等々、前後の文も少々弄りました。これで大丈夫かな?
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――リナリー・リー――
コーヒーが入ったステンレス製のポットと、兎と剣の絵が描かれたマグカップを二つ持ち廊下を歩く。目的地はアーサーの部屋。まだ暫くの間は本部に留まるとの事で、久しぶりに二人で話がしたかった。アレンちゃんは、嫌な顔をした神田と任務に往ってしまった。本部には最低でも一人の動けるエクソシストが常駐することが決まり。だからアーサーがいるのだろう。教団の中でも最強戦力の一角を担っているから、彼がいるだけで本部は安心できる場所になる。元々、安心できるのだけど雰囲気が違う。看護班の皆は何時もより雰囲気がやわらかい。女性が中心な班だけに、そういうことなのだろうと思うけれど、一番の原因は班長の婦長が原因だろう。厳格であり年齢もある女性だけど、何時も背筋がしっかりとしていて私達とは違う第一線で戦う人だ。そんな婦長が、笑っているのだ。何時もより雰囲気が幾分か柔らかいと言った方がいい。婦長がそんなのだから看護班の空気は柔らかかった。
「ふんふ~ん」
私も人の事は言えないのだけど。なによりの証拠が両手にあるポットとマグカップだった。それに鼻歌も歌っているし、心なしか歩くスピードも速い。何を話そうかな。コムイ兄さんの愚痴?アレンちゃんの事?それとも仕事の事?とにかく、早く行こう。そうして歩くスピードを上げてアーサーの部屋に辿り着いた。深呼吸をして扉をノックしようとした所で、声が聞こえてきた。これは、歌?
驚いた。なんの歌だろう。アーサーが歌うものは、誰も知らない。珍しさもあって私たちは教えて貰ったりしているけれど、これは聞いたこともない歌だった。少し悪い気もするけど、扉の前で歌を聴き続きたいと思ってしまった。
そして後悔した。私からしたら、これは送る歌に聞こえてしまう。死者を送る歌。昔を思い出す歌。アーサーと同期のエクソシストは、いない。いないと言う事は、死んだか行方不明になったということだ。「闇の時代」孤立無援で、戦い続けた。そんな話を聞いたか、見たことがある。あれは確か、どこかの丘だったか。白銀に輝いていた鎧は砕け散り、剣にも罅が入っていたらしい。敵は強大で群。アーサーが倒れれば、後ろにいた誰かが死んでいたらしい。逃げればよかったのに、アーサーは逃げなかった。
「戦友は死をも恐れず」戦友が隣にいたのだろうか。熱いナニカが胸から込み上げてきた。今でこそ、アーサーは強力無比な力を誇っているが、昔は違う。誰だってそうだ。比べる事が烏滸がましいけど、あのクロス元帥も昔は無茶をしていたらしい。一緒に風呂に入ったアーサーが言っていた。服の下には傷があるらしい。大きな傷も、小さな傷も。
気付けば、私はアーサーの部屋から離れていた。どうしてかは、わかっている。けど、それを言葉にすることはない。無粋だ。失礼だ。記憶に留めておけばいい。覚えておけばいい。そして、時が来れば弔ってやればいい。それを今、アーサーがしているのだろう。私はそれを知らないから。誰を弔っているのか知らないから。
「あ~あ。無駄になっちゃた」
厨房に戻って、マグカップにコーヒーを淹れて飲む。うん、おいしい。けど、どうしようかな。アーサーの部屋には行けなくなちゃたし、コムイ兄さんは忙しそうにしている。……。あ、そうだ。パイでも作ろう。唐突に。任務に行くらしいから、その道程で食べて貰えばいいだろう。よく食べる人だし。
――地下用水路――
作ったアップルパイを、神田から貰った風呂敷を使って包んだ。久しぶりに作ったから味は保証できないけど、美味くできたと思う。隣に立つ兄さんも、鼻をひくひくさせていた。
「それ、一口くれない?」
「だ~め。あげないもん」
「ちょ、ちょっとだけ」
「ふ~ん、だ。もっと前に言ってくれればよかったのに」
「僕だって今日の朝に手紙を見せてもらったんだよ!」
「む~~」
実は、アーサーの部屋に行く前にコムイ兄さんの部屋に行っていてアーサーが任務に行くと言う事を知っていたのだ。だからアーサーの部屋に向かったのだけど、彼があんな状態だったからお喋りすることも出来なかった。それがコムイ兄さんが原因じゃないけど、少しこういうのが楽しい。あぁ、兄さん。後で作ってあげるから落ち込まないで。自然と笑みがこぼれる。
「それ、何持ってるの?」
「これかい?」
コムイ兄さんの持つメモを覗き込む。掌サイズのメモに、所狭しと挨拶する人の名前が書いてあった。……。そういえば、アーサーは自分から積極的に動く人じゃなかったなぁ。近くに居れば会話を繰り広げるけど、遠くの、わざわざ自分で動いて行かないとなればアーサーは動かない。面倒とか、そういうのが大半で後はただ単純に嫌と言っていた。知らない人間とわざわざ喋るなんて意味があるのかと。
「中央庁に行くからね。少しくらいはあいさつしないと」
「中央庁って、今度はアーサーなの?」
「今回はアーサーだね。何回か前にも行ったことがあるみたいだけど、ね」
「兄さんは知らないの?」
「僕の所に直接手紙が来たのは初めてなんだよ」
その時、誰かが階段から降りてきた。アーサーだ。時計を見ると、予定時間の五分前。性格が表れている。真新しい金色の装飾が施された団服。その団服から覗く磨き上げられた白銀の鎧は、騎士の様だ。肩から吊り下げたカバンには、恐らくアルコールの類が入っている筈だ。アーサーの部屋には珍しいワインセラーがあって、その中身も珍しいみたい。私は、お酒を嗜む程度にしか飲まないからわからないけど、クロス元帥も珍しがっていたくらいだ。あのお酒の大好きなクロス元帥が、だ。
「時間通りですね、ペンドラゴン元帥」
「遅れたら彼女に何て言われるかわからないからな」
「ははは。そういう事なら、船でこれを読んでおいて下さい。予定表です」
「ありがとう」
兄さんから受け取ったメモを見てうんざりした様な表情をした後、私を見て顔を綻ばせた。ううん。きっと、パイの匂いで笑ったんだ。そうに違いない。
「これ、私が作ったの。船で食べてね」
「うん。ありがとう」
少し恥ずかしいけれど、ちゃんと受け取ってくれた。隣で兄さんが歯ぎしりしているけど、知らない。ちょ、アーサーもそんなに私を見ないで。あぁ、私の顔、ちゃんとしてるかな?真っ赤になってたりしないよね。アーサーが一度、何かに頷くとゴンドラに乗り込んだ。殆ど水面は揺れる事はない。
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ、ペンドラゴン元帥」
「行ってらっしゃい、アーサー」
兄さんが頭を下げている横で、私は手を振る。それにアーサーも応えてくれた。これから、また一年は会えないのだと思うと少し寂しい気もするけど、それもまたいい機会かもしれない。次の模擬戦は負けないんだから。それから、もっとお喋りもしたい。あぁ、どこかに買い物に行くのもいいかもしれない。そんな事を考えながら、アーサーが見えなくなるまで手を振り続けた。
――厨房にて――
「ジェリー、リナリーがパイ作ってくれないんだよぅ!」
「あぁ、そう。それは残念ねん」
「ジェリー、冷たくない?」
「温めて欲しいのなら、ここに逃げ込まないでちょうだい!リーバーちゃんが探してるわよ!」
「わー、ジェリー最高ー」
さて中央丁。妄想が爆発するけど、時間のかかるいい仕事になるはずだ。あぁ、趣味でもあるね。
「ブラックナイブス05よりCP。これより糞BETA共に吶喊をかける」
「CP了解。■■中尉。GoodLuck!」
「さぁて。海兵隊の意地を見せてやらァー!」
こういうのもいいかもな。