D.GrayMan~聖剣使いのエクソシスト~   作:ファイター

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クラウド・ナイン

 

 

 

波風に揺られるプラチナ色の髪の毛は、彼が彼であると証明してくれるモノの一つだ。クロスとは違う、プラチナ色の髪。教団服から覗く白い肌は、どこか病的なものを感じさせるくらい白い。彼との出会いは、何時だっただろうか。私が入団した頃には、もう彼はAKUMAと戦っていた筈だ。だが、その体には傷は無く綺麗なものだ。

 

 

 

「アーサー、どうかしたのか?」

 

 

 

彼の後ろから近づいていくと、潮の匂いとは違う彼の匂いがする。男性特有の匂いでは無くて、彼だけが持つ匂い。太陽の匂いだろうか。とにかく、落ち着く匂いだ。

 

 

 

「いや、なんでもない」

 

 

アーサーがこう言うときは大抵、何かを深く考えている時だ。重要な案件だったり、上層部から頼まれた依頼の裏を確かめようとしたり。

 

 

 

 

「そうか?さっきから空なんて見つめて、まるで不良のようだぞ」

 

 

 

不良と言うのは、勿論クロスのことだ。あのバカは、エクソシストは体が命だと言うのに煙草を吸うし酒も浴びるように呑む。装備型のクロスならソレが解っているだろうに。

 

 

 

「クロスは、まぁいい人だよ」

「いや、アレは確実に駄目な人間の分類に入るな」

 

 

 

アーサーを引き摺りこみ、酒を飲むのに誘い煙草を吸うのに誘い……まったく。アーサーは、その、私の大切な人なんだぞ。それをクロスは横から掻っ攫う。こうして二人でいられる時間は限られている。元帥になってしまってからは何時もそうだ。

 

 

 

「ひぅい!?」

 

 

 

な、なななラウ!?驚かせるな!心臓が止まるかと思ったぞ?!

 

 

 

「……クド?」

「今の声は私じゃないぞ!?」

 

 

 

は、恥ずかしい。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

 

 

 

「キキッ」

「起きたのか、ラウ」

 

 

 

ラウと戯れているアーサーから、追い打ちの言葉が出た。

 

 

 

「それにしても、ずいぶんと可愛らしい声で鳴くのだな」

「なぁッ!?」

 

 

 

そ、それは私の声か!?聞こえていたのか!!?

 

 

 

「ラウ」

「え?」

「え?」

「キキッ」

 

 

 

何ともいえない空気。はぁ、もう三十歳なんだぞ、私。アーサーよりも年上なんだぞ、私。しっかりしなくては。いくら教団に入るのがアーサーよりも後だからと言っても、そろそろ年上の威厳と言う奴をな……。…………。ラウ、何を食べているんだ。

 

 

 

「んんっ、私にもくれないか?」

「はい」

 

 

 

差し出された袋からクッキーを取り出し、齧る。やはり、このクッキーは美味しいな。あの店主は元気にしているだろうか。

 

 

 

「アーサーの任務地は、ヨーロッパだったか?」

「少し、寒いらしい。そういうクドはアメリカだろう」

 

 

 

クド。クラウドだから、クド。呼びやすいように、そう呼ばれ始めた。気が付けば、二人だけの言葉になっていた。他意は、ない。

 

 

 

「はは、私は故郷に戻るのと同じだからな。何も心配はないさ」

「故郷……か」

 

 

 

その言葉にどれだけの意味が込められているのかは、私には解らない。彼の故郷は、存在しないのだから。否、存在はしていたのだろう。でなければ彼は生きてはいないし、ここでこうして私と喋ってもいない。

 

 

 

「ヨーロッパ、楽しみだ」

「お前はコーヒーが飲みたいだけだろう?」

「はは、バレてる」

 

 

 

彼女が出してくれるコーヒーは美味しい。可愛い子が出してくれる、と言うのもあるのだろうが、兄に長年淹れてきたコーヒーは本当に美味しかった。

 

 

 

「ん、風が気持ちいいな」

「そうだな」

 

 

 

少し間が空き、潮風を浴びた。横に居るアーサーは水平線の彼方を見ていた。それが、どこを見ているのかが怖くて声を掛けれなくて。

 

 

 

「クドは、さ」

「ん?」

 

 

な、なんだ。今なら何でもしてやるぞ?

 

 

 

「エクソシストじゃなかったら、どんな事をしていたの?」

 

 

 

くっ、そうだ。こういう男だったな、こいつは。

 

 

 

 

「私は……そうだな。ラウと共に世界を周っていただろうな。エクソシストでも同じことだがな」

「世界を巡るってのはいいな」

「あぁ、世界は見て回る価値があるからな」

 

 

 

サーカス団の皆と周った世界は面白かった。色んな人がいて、色んな動物がいて、色んな建物があって、色んな食べ物がある。それだけでも面白い。

 

 

 

「ペンドラゴン元帥、そろそろお時間です」

「わかった」

 

 

 

も、もうそんな時間か。知らせに来てくれたファインダーを帰し、アーサーの方に振り向くと彼は装備を確認していた。金色のコートの下には、軽装な騎士甲冑を纏っている。手甲、脚甲、胸甲。薄い装甲だが、ある方がよいとのことでコムイが作ったのだ。薄いと言っても、あの変態が作り上げたのだ。脆いわけがない。

 

 

 

「それじゃ、クド。また会おう」

「あぁ、また会おうアーサー」

「キキッ」

 

 

 

笑顔で解れる。これがアーサーと私のやり取り。また一年、彼とは会えないが問題は無い。コートのポケットに手を入れると、コツンと硬い感触が。ソレを取り出す。ソレは小さい本の様なサイズだが、中身は全く違う。

 

 

 

パカ

 

 

 

「フフ」

 

 

 

パタン

 

 

 

パカ

 

 

 

「フフフフ」

 

 

 

パタン

 

 

 

もう豆粒程に見えるくらい遠くにいるアーサー。何故か顔がにやけてくる。いや、原因は分かっている。当たり前だ。

 

 

 

「キキッ」

「ん、お前も写りたかったか?だが駄目だ。これは私とアーサーのものだ」

 

 

 

さて、少しでも任務を早く終わらせよう。アーサーに合流するのもいいかもしれない。いや、フロハが先に合流しているか……。早く終わらせるか。

 

 

 

「行くぞ、ラウ」

「キキッ」

 

 

 

最後にもう一度だけ開く。そこには、足を組んで笑っているアーサーと少し表情の硬い私が写っていた。




クラウド元帥。リトルバスターズを見ていまして、はい。こまりもいいけどクドもいいよね。

ふふふ

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