D.GrayMan~聖剣使いのエクソシスト~ 作:ファイター
バカ弟子にこの惨劇を見せたら、間違いなく発狂するだろう。右ひざに頭を乗せて眠る女、―確か名前はエリーとか言ったか―を優しくどけて立ち上がった。
「おっと」
寝たと言うのに、まだ酔いが醒めんのか。そろそろ歳かね。
「マスター、水」
「はいよ」
宴会を開いていた店の奥から出て、カウンターの厨房でコップを拭いていたマスターに水を貰う。
それを一気に煽り、飲み干す。美味い。
「昨晩は、えらく飲まれましたな」
「あぁ?」
「お連れの方は今朝、出て行かれましたよ」
「……なに?」
ノロノロと店の奥に戻りアーサーが寝て居た筈のソファーを見ると、女が寝ていた。彼女は確か、アーサーを接待していた筈なのに彼女自身の悩みをアーサーに解決してもらうなどの、接待業をしている女としてはありえない行為をしてしまった女だ。いやまぁ、彼女は一目惚れという奴だった。アイツの容姿は整っているし、何より雰囲気が普通の男とは違う。エクソシストなんて仕事をやってると、同期の仲間なんて殆ど死んでるし自分の班員のエクソシストの数も減る。
だから、自然と影のある、ミステリアスな雰囲気が出てくる。アーサーなんてのは、それに当てはまる。
アーサーはもう居ないのだし、俺にも任務がある。一応、アーサーに伝えてあるのだしコムイ辺りにも言ってくれるだろう。俺もそろそろ行くか、と思い壁に掛かってあるコートを取ろうとして眩暈がした。
「あー、クソ。飲み過ぎたか」
コートを持ち、もう一度カウンターの方で席に座った。今日はヤメだ。適当に宿でも取って寝よう。それに、まだ余裕がある。にしても、昨日のアーサーを見るからにアイツは戦闘狂かなにかか?
昨日の戦闘を思い出す。
残弾は一発。出血あり。敵は千年伯爵。リロードする隙も限りなく少ない。そんな絶体絶命の時に救援に来たアーサー。ここで初めてリロードが出来て、不利を悟った千年伯爵が撤退した。ここまではいい。むしろ、この展開が一番いいのだろう。だが、事もあろうことにアイツは
『俺は違うぞ』
と言い放ったのだ。さぁ、殺し合いをしようと言い放ったのだ。お前を殺すと言い放ったのだ。
止めてくれ。千年伯爵を殺すにしても被害が大きすぎる。ここら一帯が何もない大地に変わるところだった。俺も、もしかしたら死んでいたかもしれない。アーサーは、死なない。否、死ねない。
そういうイノセンスらしい。あの“剣”にそんな能力があるのかは疑問だが、何度も見てきた。アイツが死ぬ所を。
心臓を貫かれた。右半身が吹き飛んだ。頭を撃ち抜かれた。だが、その度にアイツは、アーサーは生き返った。イノセンスが遠くに吹き飛ばされている状態にも関わらずだ。意味が解らん。
「マスター、ここらで高い宿屋はないか?」
「そうですな。北にある宿なんかは高くていい女もおりますから、貴方のお目に叶うでしょう」
「そうか、助かる」
「あぁ、代金の方はどうしますか?」
「あー、俺の弟子が払いに来る」
「畏まりました」
一応、名前を書いてくれと言われたから書いて店を出る。表通りに面したこの酒場だ。店を一歩出ると、忌々しい太陽と人の喧騒が聞こえてきた。
「クソッ、飲み過ぎた」
江戸に行くまでの時間は、まだ十分にある。ゆっくりと酒を抜こう。あと、もう少し遊んでから行こう。