D.GrayMan~聖剣使いのエクソシスト~ 作:ファイター
ヨーロッパ北部。高い断崖上に黒の教団の本部がある。ここまでの道のりは決して楽ではなかった。師匠に渡された下手くそな地図は、明らかに正規のルートでは無く、むしろ険しいルートを描いている。今度会ったら、どうしてくれようか。いや、どうにもできないか。むしろ、色々とナニかさせられるかもしれない。い、嫌だ。それだけは避けたい。どうしても避けたい!
手がプルプルと震える。そろそろ筋力の限界かもしれない。ていうか、何でこんな断崖上に建てたんだ。これじゃ、ここから出るときも入るときも一苦労どころじゃなくて、ありえないくらいの労力を必要とするんじゃないだろうか。例えば、ヤクザな人間が経営している娼館でバイトした時くらいの労力とか。
ていうか、もう本当に限界。現実逃避もこのくらいでいい。早く、速く登らないと落ちる!
最後の力を振り絞って平らな、崖の頂上に手を着けた。
「や、やっと着いた…」
地面に思わず座り込む。へろへろだ。着ていた一張羅もボロボロで、汗もかいている。うぅ、早くシャワー浴びたい。背負っているカバンの重さで食い込んだベルトで肩が痛い。ハンカチで汗を拭いて、顔を上げた。
「……こ、ここかなぁ?ここであってるのかなティムキャンピー」
小さなボールがパタパタと飛んでいる。よく見ると、小さな手が付いている。ティムはいいよな、翼があって。ここまで飛んでいただけだもんな。そう、これは僕にとって普通。だけど、目の前の建物はお伽噺に出てきた魔王の城じゃないかってくらい怖い。夜だからだろうか?けど、これからが大切だ。そう、人間は第一印象が大切なのだ。これだけゴーレムが飛んでいるのだから、僕は見られている筈。門の目の前まで移動して、一つのゴーレムに話しかけた。
「すいませーん。クロス・マリアン元帥の弟子のアレン・ウォーカーです。教団の幹部の方に謁見したいのですが……」
10秒が経って……30秒が経ってようやく返答が返ってきた。それは門番の身体検査を受けろというもの。これもゴーレムだ。いきなり門の彫られていた顔が伸びて光を発した。目から。暫くして、ゴーレムの目が×の印に変わった。
「こいつ、アウトー!」
「えぇ?」
「こいつはくせえーッ!ゲロ以下の匂いがプンプンするぜーッ!!こんなAKUMAには出会ったことがねえほどなァーッ!!」
「んなっ?!」
「こいつは千年伯爵のカモだー!」
恐ろしい程に誤解されている。しかも、凄い言いようだ。ふざけるな!ゲロ以下だって!?
そ、そりゃ汗もかいてるしシャワーもここ何日かは浴びてないけど……それにだって言いようがあるだろ!これでも匂いには気を付けているんだぞ!!
「よぉ。一匹で来るたぁ、いい度胸じゃねぇか」
首の後ろがチリチリする。これは、殺気!?
上を向くと、コートを全開に開けた男が門の上に立っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!なにか誤解されてェ゛!!?」
風切り音と共にデカい殺気が一瞬で背後に回り込んできた。前に前転する?ダメ。門が目の前にあって前転したとしてもヤられる。それにもう間合いに入られている!回避は間に合わない。なら、イノセンス発動!
「なっ」
「痛っ?」
相手が驚いているけど、こっちも驚いてる。僕のイノセンスが斬られた。ありえない。通常兵器も、AKUMAの砲弾ですら傷一つ着ける事の出来ないイノセンスに、深い傷を負わせたのだ。
「……お前、その腕は何だ?」
「耐アクマ武器ですよ。僕は、エクソシストです」
「何?……おい門番!」
門番と話し出した男。だが、その注意は僕に向けられている。それに、彼の持つ刀。あれは、一体なんだ?鈍痛が続く左手。待機状態に戻しても痛みは続いている。あぁ、こんな時に彼がいたら直ぐに治して貰えるのだけど。
「チッ。まぁいい。この六幻で斬ればわかることだ」
そう言って彼は短い距離を詰めてきた。ちょっ。いきなり大ピンチなんですけど師匠ー!
……ハッ!
「ぺ、ペンドラゴン元帥の紹介状!紹介状が送られている筈です!!」
目の前で刃が止まった。本当に目の前で。死ぬ。本当に死んじゃう。ていうか、怖い!この人怖いよ!
「ペンドラゴン元帥から、紹介状?」
「後、クロス師匠からも……コムイって人宛てに」
冷たい風が身体を撫でた。
あの後、何とか門を通してもらえた。神田怖い。リナリー可愛い。
「到着。ここが室長の部屋だよ」
「あ、はい」
リナリーに、黒の教団にある設備について案内と説明をしてもらった。食堂、修練場、談話室。
幾つもの階層があって、その階層ごとに何かあるらしい。らしいというのは、まだ全部を見てないからだ。後日、リナリーが案内してくれるみたい。そして今、重厚な造りをした扉をリナリーが開けた。中に入ると、白いコートを着た人が出迎えてくれた。
「はいどーもぉ。科学班室長のコムイ・リーです!」
「あ、どうも。アレン・ウォーカーです」
「いやー、さっきは大変だったね~」
そう言いながらコムイさんは移動し始めた。どこにいくんだろう?リナリーは先に行っちゃったし。ていうか、リーって、この人はリナリーと兄妹なのかな?そして着いた部屋は、消毒液の匂いがした。医務室、だろうか。
「じゃ、腕診せてくれるかな?」
「え?」
「さっき神田に襲われて怪我してるでしょ?」
「はぁ」
左腕の袖を捲り上げて診察台の上に乗せた。うわ。捲り上げてからわかったけど、なにかに侵されたみたいに蚯蚓腫れになっていて気持ち悪い。
「やっぱり神経が侵されているね。リナリー麻酔持ってきてー!」
「はーい!」
先に行ったリナリーが奥の部屋から注射器を持って出てきた。そして注射器を僕の首に射して麻酔を注入した。局部麻酔と言われるもので、それなりに痛みになれているけど痛いものは痛い。
「発動できる?」
「あ、はい」
イノセンスを起動させる。そしたら、大きな腕と鋭い爪を持った僕の左腕が診察台の上を一杯に占領した。コムイさんはリナリーと入れ替わるように奥の部屋に入っていった。興味深そうに腕を見ているリナリーが、コーヒーを啜った。そう言えば、師匠もコーヒー好きだったなぁ。
「寄生型イノセンスかぁ。珍しいね」
「そうですか?」
「うん。教団でも、アレン君を入れて二人だけだから」
「へー。会ってみたいですね、僕以外の寄生型の人と」
「うーん。スーマンは中国に行ってるのかな。だから、当分先になっちゃうね」
「そうですか……ん?」
ビックリした。何がビックリしたって言うと、リナリーが左手を触っていることに僕が気づかなかったことをだ。そうか、もう麻酔が回ってきたんだ。所で、一体何のために麻酔を打ったんだろう。
「感触ある?」
「ないですね」
「じゃあ、目を閉じて」
「え?」
「兄さーん。アレン君の麻酔、効いたみたいだよー!」
「わかった。今いく!」
奥の部屋から出てきたコムイさんは、一抱えもあるドリルとナニかよくわからないものを手に持っていた。それからの事は、あまり語りたくもないし思い出したくもない。人の忠告は聞く物だと、身を持って学んだ。
あの悪夢から数十分後。僕はコムイさんに連れられてエレベータに乗って降りていた。左腕は吊ってあって動かせる状態じゃない。そもそも、麻酔が効いていてイノセンスを発動させたくても発動出来ないというのが今の僕だ。まぁ、教団内にいるのだから警戒しなくても大丈夫だろう。それにしても、もうだいぶ降りたというのに底には着いていない。エレベータから頭だけを出して底を見ると、そこには青白い光があるだけ。
「コムイさん。どこまで降りるんですか?」
「もう少しだよ。ここは、教団の中でも僕くらいの人間じゃないと入れない場所なんだ」
「え、じゃあ僕は?」
「それは後のお楽しみ。ほら、もう着いたよ」
「あ、ほんとだ」
緩やかに速度を落としたエレベータは停止した。青白い光が、下から射している。なかなか、幻想的な光景だった。隣に立っているコムイさんを見ると、何故か呆れた様に立っている。どうしたのだろうか。その答えは、直ぐにわかることになる。青白い光が、移動しているのだ。
も、もしかしてお化けだろうか!?
イノセンス発動出来ないよ!
でもエクソシストはこの場で僕一人だけ!
頬が引き攣っているのがわかる。そう。僕、実はお化け嫌いなんだ。大嫌いなんだ。あの人に話を聞かせてもらった時なんか、一人でトイレに行くのも怖かったくらいだ。いや、あの人の話は妙に現実味があるというかなんというか。人型の紙を千切って呪文を唱えたら恐怖の館に引き摺り込まれ、脱出の手段は千切った人型の紙が必要?なんだそれは。そんな紙なんか直ぐに捨てる。僕なら捨てる。しかも、生き残りはたったの三人。あぁ、駄目。思い出しただけでも怖くなってきた。
「なんだ…コムイ……か」
「やぁ、へブラスカ。新しい子なんだ。見て欲しい」
「少…し待ってろ」
「わかったよ」
青白く発光している大きな女性は、スルリと現れてスルリと消えた。
じゃ、なくて。
「な、なんなんですか今のは!?」
「彼女はへブラスカ。彼女もエクソシストなんだ」
「えっ!?」
驚いた。なんだか幽霊みたいな感じの人みたいな人なのに、エクソシストだなんて。それに、彼女って言っていたから人であり女性なんだろう。けど、なんで下に行ったんだろう?
「すまない…始めよう」
「うん。お願いね」
「うえッ!?」
へブラスカから伸びてきた触手が僕を絡め取った。ちょっ、何してんの!?
「その子は君の目にどう映る?」
「ぐっ……そ!」
「あぁ、麻酔が効いてるからイノセンスは発動できないよ」
「なんで、こんなッ」
身体を弄られている。気持ち悪い。触手が入ってくる。気持ち悪い。なんだ、体の中が、侵されているみたいだ。
「イノ……センス!」
発動しろ。発動しろ!発動しろ発動しろ発動しろ!!
次の瞬間、イノセンスは発動した。だが、それは鋼鉄の爪ではなく、見るモノを不快にさせるナニかだった。
「ぁ?」
「!!…無茶を……するな」
「痛い痛い痛い!」
身体が怠い。あぁ、暗闇が迫ってくる。最後に見たのは、綺麗で大きな顔だった。
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