問題児たちが異世界から来るそうですよ?箱庭超コラボ〜Chaos〜 作:エステバリス
五十嵐 七夕は死にたい気分だった。
修学旅行の最終日前日。皐、夜雷、修也、明に操られたように彼らに便乗して女子風呂を覗こうとしてしまった。
ここまでなら、まだいい。品行方正質実剛健な彼からすればこんなことはただ恥ずかしいだけのこと。
だが、しかし!まるで全然!そんな恥ずかしさすらほど遠くなる大事件がその事件と共に起きてしまっていた。
『最ッ低』
「………」←魂の抜ける音
花音に言われたあの一言。あれだけで彼は物理的に死にかけるほどの重症を背負ってしまった。修学旅行から帰ってくるなり部屋に1人閉じ籠り振り替え休日をフルに使って部屋から頑なに出ようとしたい辺りどれだけ重症なのか伺える。
もう何度自分にもう大丈夫と覚悟を決めてあの時後頭部に意図的に投げられた
そして少し前によくCMでもやってた落書きしても消せる壁を採用している郷土の寮の七夕の部屋には至る所に同じ文がびっしりと書き詰められていた。
『もし生まれ変われるのなら人間なんて厭だ。またあの時のような恥辱と共に全てを喪ったような気分に浸るくらいなら牛か馬になりたい。
……あゝ、でもそれじゃあまた酷い目に遭わされる。
どうしても生まれ変わらなければならないのなら……
いっそ、深い海の底の貝にでも……
貝だったら、深い海の底の岩にへばりついているだけだからなんの心配もいりません。
どうしても生まれ変わらなければならないのな……
私は貝になりたい……』※以下、同文の永続的繰り返し
如何に彼が精神を病んでいるのかがわかるレベルである。しかもチョイスがかなりアレだ。なぜに清水 豊松なのだろうか。
『ねぇ!七夕ー!起きてるんでしょー!いい加減出てきなよ!』
ああ……いつもは心配してすぐ駆けつけ、心強いアドバイスを贈ってくれる兄の存在でさえ鬱陶しい。ジョナサン流の強がりで完全論破された後に心配されるような気分。多分今の七夕はその心配に対し誰が相手であろうと「ほ゛っ゛どい゛でぐでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!」の一言で追い払ってしまう自信すらある。
「ねぇ七夕!開けてってば!」
「ほ゛っ゛どい゛でぐでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!」
「……これは、重症だ」
そう言うと五月雨の気配と足音が遠ざかっていった。ホントに追い返せた。これに関しては七夕も少しビックリ。
しかし少しするとまた五月雨の足音が聞こえてきた。
ドア越しに深呼吸するような声が聞こえたかと思うと、次の瞬間五月雨の叫び声が響く。
「みんな 丸太は持ったな!!行くぞォ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「уараааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааа!!!!」
「ハルトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「琉璃イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
「正直スマンかった!」
「土下座2%!」
「ふざけるなテメェら!」
「かっとビングだ!俺達ィーッ!」
バゴォン!という素晴らしいくらい豪快な音と共に七夕の部屋のドアは壊された。
「なっ……!?」
「お ま た せ」
彼の部屋に殴り込んで来たのはさっきのセリフを上から五月雨、立月、修也、鈴蘭、凍夜、明、夜雷、健太、皐。
なぜか9人全員やたらかっこいいポーズで丸太を両手でそれぞれの利き腕の肩の上あたりに持っていたり両手で支えながら小脇に抱えたりしている。
「っ………!?」
七夕は開いた口が塞がらない。普段から奇行ばかりしてるメンバーが何人かいるが、それよりも用務員の兄がドアをブチ破るという行動をしたことに驚きを隠せなかった。
「ふぅ、作戦大成功」
「な、何やってんですか!?皐さん達はともかく兄さんまで!」
「決まってる。人間として持ってて当然の感情一つ暴露しただけで部屋に閉じ籠る情けない弟を連れ出しに来たんだよ!」
「まー、俺達は先輩にこっぴどく怒られた上に一応責任は感じてるから付いて来たんだが」
「友達として僕はこういうことには手を貸すよ」
「そうそう。僕らもう家族みたいなものだろ?」
「私はみんなが楽しそーなことしてたから便乗しますた!」
1人だけ理由がおかしかったがそれはいつも通りなのでスルー。
「……でも僕はもう生きていける気がしないくらいに精神的ダメージを負ってしまったんだよ。あんな一言を言われた奇跡だけでもう息が止まりそうだよ」
七夕はらしくもなくヘタレている。やっぱりというかなんというか、この学園の常識人はみんな変なところで頑固だ。
そうとう参っている。だからこそ一同はなんとかしてやりたいと思い、彼の頑固さに頭を悩ませられる。
「……参ったなぁ。こんな状況じゃむしろ花音の方があんな事言ったことに引け目を感じてるなんて言っても信じてくれなさそうだ……」
「強引に連れ出しても下手すりゃ悪化するだけだからな……」
はぁ、と溜息をついて視点は少し移る。
◆◇◆
「なるほどね。つまり花音はあの日訳のわからない洗脳をされたとはいえ七夕に覗かれそうになったのにビックリしてあんな言葉を言って、それで落ち込んでると」
「うん……七夕絶対精神ダメージ来てるよ……レンレン、どうすればいいと思う?」
「どうって……ぶっちゃけた話例えどんな理由があろうとも覗いた方が悪いのよ。未遂でもね」
一方花音。一連の事件が起こってから暫く花音もどうしようどうしようと悩んでいたのだが、思い切って被害者の1人でありみんなの姐御華蓮に相談することにした。
が、流石は姐御と呼ばれるだけはあるか。帰ってくる答えは極めて客観的かつサバサバとしたモノだ。当事者なのに客観的に答えられるなんてそれはそれでスゴい。
「でもでも!あんな事言っちゃったし七夕に嫌われちゃいそうだし」
「自業自得で嫌うようじゃそこまでの男よ。そんなん私だったら自分からお断りよ。今までの関係全部なかったことにしたくなるわ」
確かにその通りなのだがそうではない。なにが違うのかは花音自身よく言葉にはできないが、そんな感じなので聞く相手を間違えたかなと少しだけ後悔した。
「……花音、アンタ七夕とどうしたいの?」
「へ?どうって、それは仲直りしたいに決まってるよ!」
「それよ。もっと突き詰めるとアンタはその仲直りしたいの部分に自分が悪いと思ってるかどうかよ」
華蓮のその指摘に対して花音は少しだけ考え、ぽつ、と述べる。
「……ちょっと、言いすぎたと思ってる」
「だったら、ちょっとでも自分が悪いと思ったのなら行動しなさい。客観的に誰が悪いかなんて関係ない。自分が悪いと思えば自分から謝りに行けばいいじゃない。……もし、それでアンタが悪いって言ってるような事を言うならば」
「……言うならば?」
「ひっぱたきなさい。その後から謝っても 彼がッ 泣いても 殴るのをやめないッ!すればいいわ」
華蓮は右手に
「……流石にそこまでは、ちょっと」
◆◇◆
場所は更に移り、学園のある山から下りて少しの商店街。一応全国的に有名な桃水原の最寄りにあるということで商店街はそれなりに活気がある。まぁそれでも物件的に関東地首都圏寄りにしては少ないが。
そこで竜胆は両手にありったけの機材と木材、あとレポート用紙になにかの発注をするための"契約書類"と、小さく可憐(男)な身体に不釣り合いなほどの量を抱えていた。
理由は一つ。修学旅行から帰って2週間後という息をする間も無く行われる学園祭の資材を買いに来たのだ。所謂遠征とも。
「はぁっ……はぁっ……なんで生徒の俺が、こんな山を下りて資材を買ってまた山登らなきゃならないんだ……!こういうのは、学園側がやることだろっ……!」
そこにもちゃんとした……かは知らないが、理由がある。桃水原は緩い規則と自由で有名だが、その自由は生徒がやることの責任は生徒が請け負うという意味でもある。故にこういう買い出しも生徒がやることなのだ。流石に予算分は支払ってくれるが。
「アイツら……俺が買い出しに行くって言った瞬間にポンポン注文しやがって……絶対報復を受けさせてやる……!五臓六腑引き裂いてやる」
怒りが昂ぶっているのか竜胆は口調が彼らしからぬモノとなっており、溢れる不運オーラが凄まじい。
「やっぱりアレか……酸素魚雷食らわせるべきか。あ、いややっぱり下履きに味噌汁……ダメだ!そんな陰湿なことしたくないしなによりそんなことに味噌汁を使いたくない!」
訳のわからない葛藤をしながら結局は資材を根気よく運ぶ姿はまさに彼らしい。どこかの彼に似た誰かならツンデレの一言で済む。
「ってかそもそも1人に買い出し行かせるってどういうことなの……」
ぶつくさと女のように呟きながら運ぶ。ちょっとずつ運んでいるとある時、ふとあることを疑問に思った竜胆は後ろを振り向く。
「……あれ?ここどこ?」
本当にちょくちょくと面倒な方面に運を使っていると自分でも思いたくなる。道に迷うってどういうことなんだろうか。
が、彼は気づいていない。彼の不運は基本、不運の先に運命的ななにかがあることに。
「……───」
「──、─……」
「……ん?」
声は男のものだ。少しなんか……下卑ている声。
だが気になったのはそれではない。もう一つの方だ。耳に少し、声が聞こえてきた。少し耳に覚えのある、不思議と安心できる甘い声。そう、この声は数日前に聞いたことがあるような……
「……また面倒事かぁ。もう、なんで俺ばっかこんな貧乏クジ……」
竜胆は頭を掻きながら声のする方向に歩いていく。すると竜胆の予想通り、1人の少女を複数人で取り囲んでいる状況に立ち会った。
「最悪……急用で友達にドタキャンされたと思ったらこんなのに囲まれて……」
「仕事と恋愛の両立はキツいよなぁ。俺なら空いてるぜ?」
「いいえ結構」
「お宅にいい夢見せてやろってんだぜ?」
「……大声出すよ?」
「ケッ、アバズレが」
なんだかB級だけど中毒性の高いアメリカ映画を見せられているような気分だった。具体的には筋肉が弾けて汗が飛び散るような。
でもこんな光景見た以上、元々介入するつもりで足を運んだのだからなにかをしないわけにもいかない。竜胆はその複数人に見えるように姿を晒す。
「ちょっと待った」
「ん?新しいのが来やがった」
「なんでこんなことにまたノコノコ1人で」
「俺達になにか見せてぇんだろ?」
「ストリップかな?ぬへへ」
アメリカ風の独特なジョークを聞きながら竜胆は女扱いされたことにキレた。目が据わり、片方が誇張表現のように赤くギラギラ光り出す。
「俺は、男だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!」
近くの鉄パイプを踏んで跳ねさせ、掴むとそれを集団に向けてぶん投げる。丁度壁際にいたヤツにぶっ刺さり「ゔぇえええええうううううううううううう…………………」という蒸気抜きされたような感じになる。
「地獄に堕ちろベネ……知らないヤツ!」
「な、なんだありゃ!?」
「なんだお!?」
その一発を皮切りに周囲に畏怖とざわめきが伝導する。今目の前にいるのは優しく可愛い竜胆ではなく、腕が片方千切れて腹部に風穴空いても敵を惨殺せんとするヤンデる竜胆だ。
「鉄パイプも機材も木材もいらねぇ……テメェらなんか怖かねぇ!ヤロウぶっ殺してやらぁぁぁああああ!!!」
竜胆はその一言と共に正に縦横無尽、理由もわからず襲われているナンパ側が可哀想に思えるくらいに殴り倒し、ブレーンバスターし、ゴッド目潰しフィンガーし、蹴り倒し、超野菜人真っ青な怒りのパワーアップを果たしている。
「こふぅうううううう……無事だった?」
一通り蹂躙し、一息ついた竜胆は何事もなかったように少女に向き直る。少女は当然唖然としていたが、すぐに持ち直す。
「あ、ありがと……不思議だね。この前沖縄で会ったのに、こんなところで会うなんて」
「そうだね、よく色んな人に巡り合わせがいいって言われるんだよね。巡り合わせ云々の前になんで変な出会い方しかしないのかな……」
資材を両手に持ち直した竜胆はそれじゃ、と立ち去ろうとした。が、そうは問屋が卸さない。
「待って。2度も助けられてなんにもできないのは嫌」
「え……いやいや、俺はただ好きでやってることだから」
「それでも、私の気が済まない。だから……少し付き合って」
「……へ?」
◆◇◆
所は変わって桃水原の屋上。様々な人が集まるこのスポットには不思議と人が全然いなかった。
その全然いない場所に、花音は1人でいた。
「……そーいえば、七夕と初めて会った場所もココだっけ」
花音は三年生だから七夕より一つ上。今更だが花音はそれを思い出す。彼女自身キメるときはキメるが、普段どこか抜けた性格をしているため不思議と七夕が同学年かそれより上に思えてしまうのだ。
「んー……そうそう。センパイの弟って知る前からどうも気にかけていた。まるでそうなることが元から決まっていたかのように。同学年の人に何人か聞いたんだけど、やっぱりイメージ通りの真面目な子だったんだよね」
不思議なものだ……としみじみ思いながらフェンスに背中をつける。そう、
全てはケジメをつけるべく。
で、その扉を一歩跨いだ先。
「行け行け行け行け七夕!お前がそんな奥手でどうする!どこまで花音が男勝りだとしても所詮は女!キメる時はビシッとキメるのが男の務めだろ!」
「無理無理無理無理!きっと色々言われて僕らの関係おしまいだよ!」
「うるせぇリア充!非リアはリア充をヤサいクセに大事なところでヘタレるから嫌ってんだよ!上◯さんや◯イルズのロ◯ドさんみたいに非リアにも好かれるリア充になるんだよ!」
「スッゴイカワイソ」
「そのロイドさんじゃねぇ!」
恐れのあまりうざい外国人みたいな喋り方をしてしまう。その後もあーだこーだと屁理屈じみた言い訳をするが、流石に痺れを切らした五月雨が七夕の頭を掴む。
「あーもー、そうやって逃げ続けてたら七夕も花音も損しかしない!いいからさっさと行ってくる!」
五月雨が扉を開くと、その手前に立たせられた七夕を背中から蹴り飛ばす。弟の軟弱な姿はどうしても見ていられなかったのだろう。
「うわわわっ!?」
七夕の悲鳴が聞こえると同時にドアはバタンと閉じられ、完全に鍵を閉められる。七夕に逃げ場などない。
「………」
「………」
「「あのっ」」
「………」
「………」
「……七夕から、いいよ」
「いや、花音からで」
完全に声が被る。まるで恋愛小説のようだ。おかしい、この小説はカオスな小説じゃなかったのか……?
「……じゃあ、やっぱり僕から言うよ」
「……うん」
スゥー、と露骨なほど息を吸う。これから言う事を考え、最悪の回答を想像し、それをなんとか跳ね除ける。一連の動作を終えた七夕は改めて花音と向き直る。
「………………………ごめんなさい!!」
「………」
「変な事されたとはいえ、覗きを止められず、あまつさえ便乗してごめんなさい!許して欲しいなんて言わない!だけどみんなのことは許してやって欲しいんだ!やり方はどうあれ、真意がどうあれ、4人とも僕のためを思って誘って……一歩を踏み出すように促してくれたんだ!そんな彼らの優しさに感謝しているんだ!だから僕のことはなんて蔑んでくれても構わない!でも、謝罪だけはさせてほしい!ごめんなさい!」
誠心誠意、多分これまでで一番謝罪の気持ちを込めたその言葉。それはいかにも彼らしい、明らかに悪い4人を庇う言葉だった。
勿論、七夕自身こんな謝罪で自分達のやろうとしていたことが許されるなんて思っていない。だが謝る。それが五十嵐 七夕という人間だ。
「この通りだよ!だからっ……!」
「……七夕」
花音は七夕の頭の側面を両手で押さえ、自分の目と目を合わせる。
「……正直、最初あんなことになった時はビックリしたんだよ。そんなことしそうにない七夕が……その、変な事されたとはいえヤル気満々になってたんだから」
うっ……と七夕は視線を逸らす。だが、そんな彼にとっての予想外な言葉を花音は投げ掛けてきた。
「でも、全部終わった後に私も悩んだの。私こんな性格してるけど結局はオンナノコだから、オトコノコの気持ちなんてわかんないんだよ。だからしょうがなかったんじゃないかな、とも思った」
「え……?」
「だから私もごめんなさい。気が動転していたとはいえ人の気持ちを考えてなかった」
花音は腰を曲げたままの七夕に対して腰を曲げる。が、逆に謝られたことでフリーズしている七夕とは違い花音はすぐに体勢を元に戻すと、七夕に手を出してくる。
「えーと……こういう時なんて言えばいいのかな。その、人間ってさ。価値観が違うからこそ誰かと話ししてケンカして、それで仲直りして……同じ価値観を見つければ喜びを分かち合えるんだよね、きっと」
七夕が見上げた花音の表情は七夕も、花音本人すらも見たことがないくらいに照れていた。七夕は思わずその姿に見惚れてしまい、その目をじっと見ている。
「うーんと……だから、あぁぁぁぁ違う違う!私が言いたいのはこういうんじゃなくて、その!」
花音は差し伸べた手も使って自分の頬を思いっきり叩く。
「七夕!」
「は、はい!」
「つまり、私が言いたいのは!これからはこうやって違う価値観や同じ価値観を見つけていける仲になろう!要約すると私のカレシになれ!以上!」
「…………………はい?」
「に、2回も言わせないで!だから、その……
唖然、一言で言うならこの言葉しか見当たらない。事実七夕は花音が何を言ってるのか全ッ然理解できてなかった。なにせ誠心誠意、全ての感情を込めたスーパー謝罪タイムがなぜか告白タイムに変わっていたから当然だ。
「……えーと、その……」
「な、なに……早く言ってよっ……私が恥ずかしくなってくるじゃん!」
「え!いや……えっと……正直、謝ったら付き合ってくださいなんて返答が来るとは思ってなかったから……だから!ちょっとだけ、返事の仕方を考えさせて!」
七夕は何故か自分から気まずい空気を作りに行く。なんでこんな空気のまま考え事をしなければならないのか。
が、七夕は何故か考えると言ってからなにも考えてなかった。まるで考える前から答えでも出てたかのようにだ。
「……花音」
「……うん」
「僕、昔から兄さんが凄かったからよく比較対象にされてたんだよね」
「……え?」
「それでも僕は兄さんは凄いと思うし、憧れるし、困ってる人全てに手を差し伸べる。そんな兄さんが好きだよ。……でも、僕はそんな完璧超人の兄さんじゃなくて、その弟の七夕でしかない」
「……知ってる」
「だから僕は兄さんみたいに花音を護ってやれる保証なんてない。もしかしたら逆に護ってもらっちゃうかもしれない……それでもいいなら、僕は花音の気持ちに応えたい、と思う」
最後は少しだけ自信なさ気に言ったが、これが七夕の答えだ。受け身な感じのする返答だが、その言葉には自分は五月雨じゃないからなんでもできるわけじゃない。迷惑をかけるだろうからやめるなら今のうちだ。という旨の警告でもある。
その想い全てを汲みとった花音は七夕の胸に彼女自身の頭を預ける。それはもう、一つの答えをこれでもかというほどに示していた。
「ばーか。七夕だからいいんだよ。五月雨先輩じゃダメ……私は七夕のそういう生真面目で周りに流されがちで、先輩と自分を比べて自分を低く見ちゃって、それが陰になってるとこ……全部全部ひっくるめて付き合ってほしいって言ったんだよ?それに七夕は先輩じゃないから、先輩は七夕の代わりになんかなれないんだよ……さっき七夕が自分は兄さんじゃないって言ったようにね」
「………」
「だからもう1回だけ……言わせて。私は五十嵐 五月雨じゃない、五十嵐 七夕のことが好き。七夕のことを知ってることから知らないことまでいっぱい知りたい……あと遺伝子も欲しい」
「!?ちょちょちょちょ!?」
「今のはじょーだん。そういう風に驚いてる七夕がいつか本気になった時の顔も知りたいから……ね?」
「……うん。僕も僕の知らない花音が沢山知りたい。だから僕も」
その日の夕暮れはよく光っていた。赤く、橙に、燦々と。
いつの間にか閉められていた鍵は開けられており、そのドアの向こうには誰もいなかった。もう見守る必要はない。彼らはもう既に、互いを見守ってくれる人となったのだから。
「いつか、花音の音を聴いてみたい。花の揺らめくような、そんなキミの音を」
「いつか、七夕の愛を見せて欲しい。他の全てを投げ捨てるような、そんな貴方の愛を」
今の2人の価値観は間違いなく、違うモノを共有していた。
今回もかなり深夜のテンションを解放して書きました。僕の中にいるもう一つの魂が「小説で……みんなに笑顔を……」なんて言ってくるんですよ。ヤバい方向に笑顔にさせてしまいそうなんですがそれは。
それとカップリング云々のことなんですが、作者様全員から意見をいただいていないので現状まだ決められません。できるだけ早めに答えてほしいです……いや、なんかアンケートみたいなのに答えてくれると嬉しいものもあるので。
次回予告コーナー
五月雨「ふっ……どうやらもう僕らの出番はないようだ」
皐「そっすね、先輩」
立月「いやーよかったよかった。僕らも手伝っただけの価値はあったよ」
華蓮「今回の主人公は間違いなくあの2人ね。私達はあくまで背中を押しただけ」
明「そうだな。……ん?アレって、奏じゃないか?」
奏「あ、みんな。今日僕スタジオ帰りなんだ」
修也「なるほど。その途中で偶然この次回予告ロケを見たと」
奏「そうだね。……あ、もしよかったら次回予告僕に言わせてくれないかな?」
五月雨「奏が?珍しいね」
奏「いえいえ、歌手特有の出しゃばりってヤツかもですよ。それじゃ……」
奏「次回、『アイドルってなんでこんな酷いくらい格差あるんだろうな』。Don't miss it!」
修也「……普通だな。で、今の英語の意味はなんなんだ?」
奏「え?あれ?あれの意味は『見逃すと損するよ』かな。わかりやすく言うと」
次回の主役……天歌 奏(箱庭に流れる旋律)
出張コラム
ラストエンブリオ編キャラクター設定
前書き
本当に孤独の狐のラストエンブリオ編の新キャラ設定なのできょーみない人は飛ばしてくれてかまいません。なにも言わなきゃ飛ばしたことなんて本人以外気づかないしね……
名前:ブルーム=ネームレス
種族:人間(女)
年齢:不明(多分10代半ばくらい)
身体設定:身長165cm、体重47kg、上から74、58、85の貧乳が眩しいプリケツ。
プチ概要:ある日突然ラピュタばりに落ちてきた少女。一人称は僕。自分の本当の名前と彼女が憧れている"彼"とその関係者の名前に関する全ての記憶を失っている。
過去に彼女の命を救ったという"彼"には憧れを通り越して一方的な恋慕のような感情を抱いており"彼"の話題になると盲目的に彼について語り出す。
彼女はとてつもない幸運体質であり、やる事なす事全てに幸運という結果が集約する。何故か本人はこの幸運体質を毛嫌いしているのだがその理由は不明。性のネームレスは文字通り名前に関する記憶を失っていることに起因し、性がないと不便な部分があるという配慮の元つけられた。