幸成と凛子はため息を吐いた。
2人にとって“2人目”となる父親が最初に怒鳴り声を上げながら母を勢い良くぶん殴るところを目撃した幸成が凛子を起こし、かれこれ3時間、彼らの喧嘩を麩の隙間から見ていた。
そして顔を真っ赤にしながら、父親から他人に姿を変えて出ていく男の背中が完全に見えなくなった後で、彼らはまるで疲れきったオトナのようなため息を吐いた。
また母が離婚したのである。
一歳になる末っ子の妹の寝息と、自分達が完全に眠っていると思い込んでいる母さんの泣く声が、まるで感動物のドラマの一番盛り上がるシーンの様に共鳴している。
「また離婚、か。ママは男運無いよな」
凛子はため息の後、小さな声で幸成に言う。
青いアザのできた腕を気だるそうに掻きながら、まるで何事も無かったかのように彼女は脱ぎ散らかした服とゴミを足で乱暴にどかし、いつものイライラした顔のまま布団の中に入った。
そして布団に入り、末の妹よりもすこし早いペースの寝息が聞こえ始めるのと同時に俺は麩を、わざと音を立てて開いた。
母さんは驚いて目を見開きながらこっちに振り向くが、すぐに顔をあっちの方に向けてしまった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
俺は少しムッとした顔を作りながら、泣き崩れていた母さんの横に立ち、背中を軽くポンポンと背中を叩いた。
「今まで、お疲れさん」
「・・・・・・・・・・」
「ちょっと休も?明日仕事休みにしてもらってさ」
「・・・・・・・・・・」
心にもない言葉・・・・・いや、音がどんどんと、心を通らず、喉から直接流れ出してくる。
まるでラジカセや音楽を流すスピーカーの様に、“慰め”という行為を遂行するためにである。
いつもの母さんなら、いつもの強い母さんなら、「馬鹿にすなよ!!」とでも叫びながら頭をバチンと叩いてくるタイミングなのだろうが・・・・・今日はないようだ。
それからも、俺はまるで馬鹿にするかの様に、頭の中で別の事を考えながらただひたすらに慰め続けた。
だが、今はそれで充分である。
精神的にも肉体的にも疲れきっていた母さんは、長男である俺の小さな慰めを耳に入れながら、ただひたすらに涙を流し続けた。
「ほな、おやすみ。また明日」
そしてある程度話し終わった後、俺はまるで何事も無かったかのように、いつもの様に音を立てずに麩を開け、何事も無かったかのように並べられた布団のの中に入った。
・・・・・明日は友達の家に遊びに行こう。
・・・・・来週の月曜日はテストや。
・・・・・友達にゲーム借りっぱなしや。
俺の頭の中は、少しずつ、“オトナ”へと成長していた。
どうも、俺です。
半分は実話です。
よろしく。