『ざわざわざわざわ』
「ここが講演会の会場?」
アキラは来た道を振り返る。そして何かを考えているのか、エレベーターを凝視している。
「街の片隅にあるせいぜい12階程度だった建物の『管理室』にあったエレベーターで降りた『地下20階』が会場……この上も相当酷いことに使われているんだろうなぁ」
確かにおかしな話だ。建物に入った瞬間、同じマスクをつけた男性に言われるままに歩いていった先が関係者以外立ち入り禁止の管理室でそこにあったエレベーターで移動する。
「さしずめ、喰種の溜まり場だな」
「ここにいるの全部、喰種です?」
「いや、ドイツの捜査官もまぎれている。それに嘉納のように喰種の研究を行っている研究員……喰種側の人間もいるだろう」
「………………」
(桐ヶ谷……)
*
「…………」
「皆がホテルで話してる中、1人で食事か?」
「! 亜門さん…」
桐ヶ谷は近場の安いレストランで1人で黙々と食事をしていた。と、そこへ客だと勘違いしたのかすたすたと店員が近づいてきた。
「え? あ……こ、これください……」
日本人の悪い癖、そしてドイツ語が喋れないのが災いし、断りきれずメニューに載っていたボウルいっぱいのサラダを指差して頼んでしまった……
「で、お前は何を頼んだんだ?」
見てみると、バケットにコンソメスープにステーキに……
「!?」
「……桐ヶ谷、これは何だ?」
「え、ああ! カエルの日干しです。カリカリしててウマいんですよ、これが」
「カエル!?」
まさか今回の班の中で一番真面目そうなコイツがこんなゲテモノ好きだったとは……
「一口どうです?」
「いらん!」
「そういわずに、ゲテモノ程ウマいって言うじゃないですか」
「…………」
(これも部下とのコミュニケーションの1つか……)
覚悟を決めて、カエルを1つ摘む。
「おお、中々にこれは……」
「触った感想を言って、皿に戻そうとしてますね」
…バレた。これはもう食べる以外の選択肢はないな。
「い……いただきます」
「何故、こんな物がウマいんだ」
結果、これは相当うまい食べ物だった。甘くもあり塩辛くもある、決して普通の食べ物では体験できない味だった。
「だから、ゲテモノ程ウマい物はないんですって。これもスカベンジトードの肉によく……!」
「?」
スカベンジトード? 全く聞いたことのない動物の名前だぞ?
「……ごちそうさまでした」
すると、桐ヶ谷は急に元気をなくしてその場を立ち上がった。
「ま、待て! 桐ヶ谷」
「?」
「俺は元々、お前と話をしようとここに来たんだ。今日のカエルの話のとき、お前はいつも異常に元気だった。なのにお前は俺たちの前でそれを見せようとしない。それは何でなんだ?」
「俺が経験した2年が亜門さん達とは違う世界だからです」
「え?」
*
そのまま桐ヶ谷は立ち去ってしまった。あの時言った意味は一体?
「亜門准特等、どうする?」
「あ、ああ。なるべく上にあがろう」
「了解です」
「あー、什造。エレベーターに向かってるが、俺の言う上はこの階の上の所にある観客席のことだぞ」
そして俺は上にあがりながら、あることを思い出していた。ドイツの喰種捜査官に言われた(もちろん、通訳者経由だが)ことを
『調査によれば我々が嘉納を捕らえようとするように、喰種にもそんな動きが見られる。一応、注意しておけ』
(いや、そんなまさかな。そんなことする喰種がいるわけ……)
*
「準備は良いね、カネキくん?」
「うん、いつでも」