20区
「…………」
「おい、『あんていく』って知ってるか? あそこ喰種がやっていた店らしいぜ」
「マジで!? それでそいつらは駆逐されたのか?」
「いや、何か行方不明らしいぜ」
「隻眼じゃない《梟》、あの隻眼の梟にさらわれたんだとよ」
「えー! 梟ってどっちも強いよね? 戦ったら目立つよね。いつそんなことが?」
「いや、この間の……」
情報を調べに色んな所に行ったけど、古間さんと入見さんの行方は結局分からなかった。だけど、どこでもあんていくの話題や店長が隻眼の梟にさらわれた話題で持ち切りだった。
こんな筈じゃなかった。もちろん、店長を助ける事は簡単じゃないと分かっていた。でも、ここまでたくさんの仲間を失うとは……誰一人助けられないとは思わなかった。
僕は…僕はこれからどうすれば……
急に目の前の景色がボンヤリとし始めた。何も考えられない……ただ大切なものを失ったことによる喪失感だけが僕の中で満たされていく。
「カネキ!」
「!」
振り返るとトーカちゃんがいた。……同じだ。あの日と同じ横断橋、あの日と同じ夕暮れ、この前と全く同じ状況だ。
「………………」
「………………」
無言の状態が続く。どう話しかけようか考えてしまう。
…違う。……違う違う。
頭の中で思いつくだけの話しかけ方を挙げてみるがどれも違う。なんて言えばいいか……分からなかった。
『……トーカちゃん。…《あんていく》で店長と話したよ』
あの時はこう言ったんだったな。その後、店長が自分の過去を話してくれたこと、戻ってこいと言われたことをトーカちゃんに伝えた。「それで?」と聞かれて「分からない」と答えた。
同じだ。どうすればいいか僕はもう……
「……あんたはこれからどうするの?」
そう考え込んでいるとトーカちゃんが僕の悩みを見透かしたかのようにそう質問した。答えはーー
「……分からない。だけど店長についての情報をもっと集めて、もっと力をつけて、そして……」
「店長のために戦う?」
「うん。僕はもう誰も失いたくないから」
もう僕にはこれしかなかった。そんな僕の答えを聞いてトーカちゃんの顔が歪んだ。
「でも……」
「分かってる。これは店長のためじゃない。僕の……ただの自己満足にすぎないよ。だからこそ、誰にも僕は止められない」
親指で人差し指の関節を鳴らす。
バキッ
この時の音は心無しか、いつもより不気味に聞こえた。
「……四方さんに伝えておいて。ホテルで淹れてくれたコーヒー、美味しかったですって」
僕はこの場を立ち去ろうとした。けど、
「!?」
トーカちゃんが僕の腕を強くつかんで放さなかった。
「トーカちゃん……?」
「……もう戦わなくていいよ」
「!」
その時、僕は気づいた。トーカちゃんが泣いている事に。
「もうやめてよ。全部どうにかしなくていいから、自分を追いつめなくていいから、私を……皆を見てよ」
「!!!」
僕はなんてことを……皆を助けているようで、僕は皆を見ていなかった。トーカちゃんを一人にしないって言ったのに、ヒデとは顔すら会わせなかったし、あんていくの皆に会って話す事もしなかったし、ヒナミちゃんをよく一人にして寂しい思いにさせたし、万丈さんたちと一緒に暮らしながらもいつも話す事はアオギリの事ばかりで……
僕は皆の事なんて気にしていなかったんだ……
そう、母さんが僕の事を見ているようで、実際には仕事ばかりで僕の事を見なかったように。
「あんたは一体……どうしたいの?」
僕は…僕は…………
「僕は皆と一緒にいたい。皆とこれから色んな事をして思い出を作って、あの頃の……何でもなかった頃のあんていくの頃の僕に戻りたい……もう、戦いたくない」
気づけば僕も一緒になって泣いていた。その時流した涙は僕の心を洗い流していった。
「……そうか」
「はい、しばらくは四方さんが新しく始める喫茶店で色んな人と関わっていきたいと思います」
「ああ、それがいい」
僕がこれからの事を四方さんに伝えると、四方さんは笑顔で僕の意見に賛成してくれた。四方さんにこの事を伝えてからホテルを出るとそこにはトーカちゃんがいた。
「話は終わったの?」
「うん。四方さんも賛成してくれたよ。ま、というわけで早速、あのときの僕に戻ってみよう! ウタさんのマスクの店もいいけど今日は他の所にも行ってみたいな」
「……案内はウチかよ」
「ハハ………(汗)、よろしく」
「フフッ」
「?」
その時、トーカちゃんは急に笑い始めた。
「いや、あんたがそうやって笑うの『あんていく』以来だなって……」
ああ、そういえばそうっだけ。誰かの前でこうやって笑う事は滅多になかったもんな。
「うん、そうだね」
「じゃあ、行くか。アンタのおごりで」
「……………………………」
この感じも久しぶりだな。
トーカちゃん、これからは絶対に君を一人にしないよ。
序章終了!
次回から日常編を交えつつ、戦闘シーンも入れていきたいと思います。
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