「ま…だ…!」
「無駄にあがくな……内臓を潰したうえに肋骨も砕いたんだ。呼吸すらままならねぇよ」
「ハァハァ、ハァ…ハァハッ」
滝澤の言う通り、桐ヶ谷の呼吸は徐々に乱れていく。視界がぼやけ、色が失われていく。しかし桐ヶ谷はある一点を見続けその方向に手を伸ばし続けた。
「ア…キラ…さ……す…や……さ…ん」
全く聞き取れない2人の名前。
『………………アスナ』
言葉に出すことは出来なかったもののその人物の名前を心の中で呟いて桐ヶ谷は静かに目を閉じた。
*
「ぐっ…………」
アキラは倒れた什造の体を抱えて外に逃げ出そうとする。しかしこのホールの広さはかなりのもので会場はおろか部屋から逃げ出すのも困難であった。
その時、什造の手に力が入る。アキラは什造の顔を覗き込んだ。視点が定まってないが意識はなんとか取り戻した様だ。
「……置いて…」
什造は薄れいく意識の中でポツリと呟いた。
「! 馬鹿なことを言うな!!」
什造はアキラの手を振りほどこうとするも傷を負った体ではそれすらも不可能であった。
滝澤は自分の傷の具合を見ながらケタケタと笑い出す。
「へへ……傷が癒えるまであと30秒ってとこか?」
「! クソッ!」
アキラは歩調を早めるが、少しくらい速くなったところでどうにもならない。滝澤はあがいている小動物を見るかの如く不敵な笑みを浮かべる。
「あと10秒♪」
するとアキラは足を止めずに滝澤を見た。
「この数ヶ月でお前の身に何があったかは知らない……が、お前の顔を見ればどれだけ辛い目にあったか分かる」
「……………………」
「だけどこの数ヶ月……いや、出会ってから数年間ーー」
「私は……本当に……今までお前のことを"かけがえのない仲間"だと思ってた!!!!!!」
アキラは大粒の涙をこぼしながらそう叫んだ。滝澤は無表情でそれを眺める。
「……お前が人前で涙を流すとこなんて見たことねぇな。俺もお前を仲間だと思ってたし今でもお前は俺の中で特別な存在だ」
「だから喰われろよ」
滝澤は無慈悲な言葉をぶつけ、アキラに向かっていった。
*
「これは……報いなのか?『あの世界』なら俺は最強の勇者ーー皆を……『君』を自分の力で助け出せると思い込んでーー俺には何の力もないのに…………」
心の中で懺悔する桐ヶ谷。意識を失っている桐ヶ谷の目から涙がこぼれる。
気づけば桐ヶ谷はある部屋にいた。誰もが持つ心の中の世界だ。桐ヶ谷はその部屋で充塞する後悔、自分の無力さを呪う感情に押しつぶされていた。
再び立ち上がろうとするとその感情が邪魔をする。刃物で貫かれた様な痛みが全身に走る。それは心の傷だった。
(……逃げ出すのか?)
「!」
その時、誰かが桐ヶ谷に語りかけた。
(逃げ出すのか?)
「そうじゃない、現実を認識するんだ」
(屈服するのか?)
「仕方ないじゃないか……俺はただの人間でアイツは喰種だ。俺と奴の力の差は歴然としている」
「それは《あの戦い》を汚す言葉だ」
すると語りかけていた人物が桐ヶ谷の前に現れた。
「え?」
「私に定められたシステムーー常識を上回る人間の意志の力を知らしめ、未来の可能性を悟らせた我々の戦いを……」
「! お前!」
(立ちたまえ……キリトくん!)
そしてその人物は再び桐ヶ谷の前から姿を消した。気づけば心の中で桐ヶ谷を縛るものは消えていた。
桐ヶ谷の頭の中に過去の出来事がーー失われた2年間が思い浮かぶ。
(キリト…キリトよぉ! お前は…お前は生きろよ! 最後まで生きろよ、生きてくれ!!)
(……私にとって君は暗い向こうでいつも私を照らしてくれた星みたいなものだったよ。じゃあね、キリト。君とあえて、一緒にいられてほんとによかった。ありがとう。さようなら)
(わたしは帰りたい。だって、あっちでやり残したこと、いっぱいあるから
帰る時は二人一緒だよ
…わたしも。わたしも、絶対に君を守る。これから永遠に守り続けるから
わたし、幸せだった。和人君と会えて、一緒に暮らせて、今まで生きてきた中で一番幸せだったよ。ありがとう……愛しています……)
「くっ!」
負けられない、皆のためにも! 皆の意志が俺を支えてくれる限り…この命がある限り!!!
*
「う……おおおおおおおッ!!!」
「「!?」」
桐ヶ谷の叫びに驚く2人。滝澤は思わず足を止めてしまう。
「うおっ! 凄ぇ! 生きてやがったぜ!!」
桐ヶ谷は背中のクインケ《リパルサー》を抜く。
(もうアレを使うしか……)
桐ヶ谷は肩の高さでクインケを構える。剣を担ぐ様なそのモーションでクインケを持つ右腕をグッと引き締める。左手は前にかざし、右手を弓のように引く。その初期モーションをクインケが検知し異様な音を発する。地行博士の言葉が頭の中で流れる。
『君のクインケ《エリュシオン》と《リパルサー》はハッキリ言って他のクインケと比べると何の特徴もないただの剣の様な形状だ。だけどこのクインケには他にはないギミックを加えてある。
それは使用者の準備動作(初期モーション)を検知することで決められた攻撃動作を発動するというものだ。その際に瞬間Rc値をコントロールすることで他のクインケではなし得ない一撃必殺と言ってもいい威力を持つ攻撃を可能とする。瞬間Rc値の量に従ってクインケは様々な色に輝く。まさに必殺技だ。
ただ二つ、注意しておくよ。一つはこのギミックは発動することでクインケが自動操作になる。君はクインケの動きに合わせて体を動かす、というより体を振り回される形になる。その速度、威力は普通にクインケを振るより大きく上回る。つまり人間では不可能な動きを可能とする、使えばそのリスクはデカい。多用は避けてくれ。
そしてもう一つ。知っての通り、このシステムは『君がこの二年間で経験した技』を基に作られている。ただ……その中に再現は出来たもののとても実戦で使える様なものじゃないのが含まれてるんだ。その『3つの技』は絶対に使わないこと!! 使えば五体満足でいられるか分からないよ。そのうちの1つがーー』
戦況を一撃で決め得る威力、刀身の長さが1m弱のクインケとは思えない程のリーチの長さを持つ片手剣単発技、《ヴォーパル・ストライク》
大型のクインケでも鳴らない様なジェットエンジンじみた金属質の轟音が発生する。そしてクインケは劫火よりもずっと深い深紅の閃光を放つ。
前後に大きく開いた両足で、思いっきり地面を蹴る。その加速を回転力に変え、右腕を大きく突き出した。
(なっ!? 馬鹿か! 距離は数十メートルはある。届くはずがない!)
アキラは驚愕の表情で桐ヶ谷を見た。滝澤も余裕の表情で「終わったな」と呟く。
が…………
「オオオオオオオッ!!!!」
桐ヶ谷の全力の雄叫びに応えるように深紅の輝きが爆発したかのように光量を増した。それと同時にクインケの動きも加速する。
「なっ!?」
距離約40メートル。それをレースカーと見間違う程のスピードで滝澤に迫ってくる。先に見た2つの技、西洋の剣術がベースなのか動きに華麗さがあった。しかしこの技にそんなものはない。ただただ人を貫くためだけに鍛え上げられた残虐な技だった。今までとは違う様子に興奮する滝澤。
「オッほぉぉ!!! マジかッッ!!!!」
滝澤は赫子を展開、羽赫の力を利用したブーストで桐ヶ谷を迎え撃つ。そして羽赫を硬化、ブレード化してクインケに叩き付けた。
ぶつかり合い火花が散ると、あっけなく滝澤の赫子は破壊され左胸を大きく貫かれた。
「おじゃああああああああああ!!!!!!!!!!」
滝澤は大きく転がっていき動かなくなる。しかし桐ヶ谷は悔しそうな表情を浮かべた。
(! 軌道を逸らされたっ!!)
とどめを刺し損ねた後悔を胸に抱きながら、再び目を閉じる。アキラは什造を床に寝かせ、桐ヶ谷の元に駆け寄る。そして彼の腹部のダメージを見て思わず口を押さえる。まるで萎んだ風船のように腹部が陥没してしまっている。肋骨はおろか内臓すらも危険な状態だ。アキラは近くで倒れていた捜査官の無線機を奪い取るように手に取る。
「だ……誰か医療班を!! 急げ!!!!」
アキラがそう叫んでいたときだった。
「いたいよいたいよ〜」
「!」
滝澤は起き上がり傷の再生を始めた。恐ろしいその再生力は瞬く間に組織を再生する。
(わ…私がトドメを……今ならーー)
「はああああああああああ!!!!!!」
「!?」
すると今度は頭を地面に思いっきり叩き付け始めた。何がどうなっているか分からないアキラは怯えて滝澤から離れる。
「ハぐがが..もどれもどれ…もういいってヴぁ……がががが」
そして
「俺は喰ってない!!俺は喰ってないいいい!!!」
そう言い残して滝澤は天井をぶち破りどこかへと消えていった。
(滝澤……お前は………………)
決着!
ということで何やら重い過去がある桐ヶ谷さんの話はまた今度!
あとはEND、カネキ(改)、亜門ですねw さてまだ書くことたくさんあるな……