「カァ!」
カネキの咆哮と共に赫子が槍の雨のようにもう一人のカネキを襲う。それを羽赫の加速を使って避け続けるが、いつの間にか数十本にも増えている赫子から逃げ切ることは不可能だ。
「ケハハハハハハ!! はい、あんよが上手! あんよが上手! 私を喜ばせてぇ! 私、俺に! 喰わせろおぉ!!!」
記憶の断片を再現するかのようにカネキの人格、態度が次々と変化していく。
「キチガイ野郎ォ……いい加減くたばれよ!!」
しかし、相手もただやられるだけの喰種ではなかった。地面に仕込んでおいた燐赫を突き出しカネキの無防備だった腹部を切り裂いた。
「あ」
カネキは呆然と傷を見つめる。その傷は瞬時に再生を始めた。効いていないという様子だ。かと、思うと…………
「ガハッ!」
「!」
今度は先ほどとは比べ物にならないほどの吐血をした。
「あ…あぁ……」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!」
「チッ! 何だコイツ、今更傷が痛んできたのか!?」
「駄目………いや、僕のからーー俺の! 私の! ……違う! 僕のだぁあああ!!!」
頭を抱えながらその場に倒れこんでしまう。数本の赫子がカネキの体を包み込んだ。依然、他の赫子は攻撃ーー否、破壊活動を続ける。一向にもう一人のカネキに攻撃は当たらないが、周りの壁や残った天井を破壊し瓦礫の雨を降り注がせる。
「肉、にく、ニクニクウウゥ!!」
カネキはある匂いを察して駆け出した。
*
「……結局、自分を見失ったのかよ」
残されたもう一人のカネキはカネキの破壊した後を見つめながら考える。
(もうカネキの意識は残されていない。残っているのは『自分が喰種ではなく人間の金木でありたい』という感情のみだ。それがかろうじてカネキという人格の一部を残している、がーー)
(もがき苦しんでいるあの人格(カネキ)以外は、全て他の何かだ。さしずめ移植されたリゼやこれまで自分が喰ってきた喰種をコントロール出来てなかったんだろう。それが守るべき人を傷つけるトリガーになっちまうとはな、皮肉だな『劣化版』よ)
*やがてカネキがたどり着いた場所は……
「アンタ……カネキ…なの?」
さっきまで死闘を繰り広げ倒れていたトーカの元だった。もちろん亜門もその場にいるが気を失って倒れている。カネキの眼中にはトーカしかいない。
「…………」
「何、どうしたの?」
カネキはそっとトーカに赫子を向けた。
「え!? どうしたんだよ、カネキ!?」
「無駄さ」
「!」
その時、後を追ってきたもう一人のカネキが話し始めた。
「コイツはもうあんたの知ってるカネキじゃない。秘めた力…っていうの? それを解放した結果がこれさ。皮肉だよな、誰かを守ろうと手に入れた力がこんなことになるなんてさ」
カネキに同情するような口ぶり、だが悲しんでいるわけではない。不敵な笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいるようにも見える。
「なるほど…喰うのね、私を」
トーカは納得した様子でカネキを改めて見つめる。その表情は怒りに満ちている。
「それがアンタの望んだ道で、力になれるならいいけど……」
「あの日、泣きながら私に救いを求めて『喰種』になることを拒んだテメェがそんな似合わないことすんじゃねぇよ!!」
トーカの言葉はカネキの動きを止めた。しかしカネキの表情は引きつったように動かないままだ。そして……
「……そんな『夢』もう置いてきた」
「……え?」
次の瞬間、カネキはーー
*
遡ること数分前、
『な……で』
カネキの意識の中でカネキを乗っ取ったはずのリゼが誰かに赫子で締め上げられていた。力が少し緩まった瞬間、その人物は尋ねた。
『ハァハァ……あなた本当に『カネキ』…くん?』
「さぁ、どうですかね?」
*
さらに遡り……
『母さん、見てみて!!』
『あら、綺麗に描けたわね』
小さい頃のカネキが花の絵を描いて母親に自慢げに見せていた。その光景を優しい笑顔で見つめる一人の少年。赫子が暴走していたその頃、カネキは意識の奥底で昔の自分を見ていた。しかしやがてその表情は憎悪の表情へと変わり、自分の腕でその思い出を振り払った。思い出は霧のように消えてしまった。
(休めば頭がスッキリとしてくる。不鮮明だった記憶もハッキリしたものになる)
(僕が見てきたものは偽りだらけだった)
カネキが次に見たものはーー
『お母さん、ごめんね、ごめんね』
自分の母親に何度も何度も殴られている幼い頃の自分自身の姿。カネキはそれをただジッと見ていた。
(理想の母親、僕の記憶がそう『上書き』していたこと自体が僕の失敗だった)
トーカに話しかけたのは誰? そして『夢』とは? カネキの『失敗』とは?
次回カネキの生い立ちが明らかに、そしてもう後戻りはできなくなる……
次回、章は終わりませんが物語としては大きな節目を迎えます!