東京喰種√S   作:torachin

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長らくお待たせしました……体調はすこぶるーー悪いッス! 同僚にもこの作品を楽しみに読んでる方にもご迷惑をお掛けしました(何かちょこっと書いては休むって、某マンガの作者みたいだw)


堕討

ドイツ15:30

 

日本22:30

 

:reは閉店し店にいるのは四方1人、明日に向けての仕込みを淡々とこなす。コーヒー豆を挽いて紙のパックに詰め店の棚に並べていく。カネキやトーカが不在で、錦の当番が今日じゃないこの日は営業から明日の仕込みまで全て四方が行っていた。

 

そしてまた一つパックを棚に並べようとした時、四方は動きを止めた。棚にはもう尋常じゃ無い量のパックが並んでいたのである。後ろのミルをチラッと見ると、あと数回はパックに詰めれる程の豆がまだ残ってる。しかしそれは作業中に全く関係のないことを考えていた四方の配分ミスだった、普通ならこんな大量の豆を挽くことはないのである。

 

(…次で最後にするか)

 

らしくない自分のミスに表情にこそ表れないが疑問を抱きつつ、ミルに手をかける。しかしまたすぐに別のことを考え始めてしまう。

 

それはつい先日までここで楽しそうに働いていたカネキとトーカのことだった。

 

「………………!」

 

その時、四方の手が止まった。ミルの中で豆がつまったようだ。ミルが壊れない程度の力で無理やりハンドルを回していく。するとバキッと音を立ててたくさんの豆が飛び出た。そしてつまっていた豆は小さな破片を残してテーブルまで飛んでいった。

 

四方は溢れた豆をミルの中に戻し、飛んでいった豆を取りにテーブルまで歩み寄る。そして豆を拾い上げた時だった。

 

(……カネキ)

 

その豆は異様だった。他のような薄い茶色ではなく、エスプレッソに向いている焦げ茶色、そんな力強い色をしていながら豆の形は普通とは全く違う、少し力を込めれば粉々に砕けてしまいそうなそんな形。

 

そんな豆からは強い意志を持ちながらも背中はいつも寂しそうにしていたカネキの姿が想像できたのである。今のように1人で頑張りすぎるあまり身も心もボロボロになっていくカネキを。

 

四方は感じていた。あんていく襲撃戦の後、昏睡状態から目覚めたカネキ、あの時からしばらく経つがカネキの不安定な部分が少し目立つようになってきた、と。少し目を離した今、次に会う時はもうあの時のカネキではなくなっているかもしれないという不安が四方を襲っていた。

 

 

 

「ウラッ!」

 

「…………!」

 

赫子がぶつかり合った直後、何故か赫子が思い通りに動かず吹き飛ばされるカネキ。瓦礫の中へ突っ込んでいく。

 

「……立てよ」

 

その呼びかけに応じたわけではないが、カネキはすぐに立ち上がる。その時、もう1人のカネキは何かに気づいた。

 

「…………」

 

カネキも気づいたようで自分の髪を見つめる。赤黒い不気味な色の髪だった。

 

(……アイツが突っ込んだのは大量の喰種の死体が瓦礫によって埋もれていた場所、それでか)

 

もう1人のカネキは気にすることなく構える。そしてカネキも髪色を気にすることなく赫子を再び構える。

 

「いいのか、そんな髪で……イメチェンってやつ? そんなんで急に強くなって勝てると思ってんのか?」

 

と、もう1人のカネキの赫子が興奮のあまり唸りをあげたように見えた時だった。カネキの赫子が少しずつ肥大化していく。

 

「!」

 

もう1人のカネキが慌てて距離を取る判断をしている中、カネキは自分の赫子の動きを確認する。

 

(あぁ、こんな感じか……)

 

そしてカネキは上半身だけをダランと下に垂らす体制に変える。体から力を抜いた態勢で視線だけはもう1人のカネキをジッと見ている。

「何なんだ……!」

それを見て苛立つもう1人のカネキ。しかし苛立ちの対象はカネキにではなく自分自身だった。

(全身から力を抜いているアイツは格好の的のはず……だがーー)

 

(アイツの視線、気迫から分かる。一歩でも動けば……殺られる)

 

もう1人のカネキは見逃すはずがなかった。カネキの背後で不気味に蠢く赫子を。赫子からは紫色の蒸気のようなものが発生している。それが幻覚であればよいが、この空間から感じる空気からその蒸気が赫子から発生してる異常な何かというのは間違いなかった。

 

肌がヒリヒリと痛む。間違いなくこの気体のせいだが、だとしたらあの気体は一体何か? 疑問が、戦いから生まれる緊張感がもう1人のカネキを襲う。そのプレッシャーから一歩も動けない。

 

「……分かったでしょ? 君は僕に勝てない。どんなに暗示したとしても君は僕になれないんだよ」

「う……るせぇ!」

怒り、その場の勢い、恐怖に任せて地を蹴る。そんな単調な攻撃は容易に回避される。

 

しかし彼はカネキに不敵な笑みを浮かべた。鱗赫でカネキを締め上げ、羽赫をカネキに向けて構える。赫者《梟》の赫子、その威力はもう知っている。それを全弾命中する形で受けた場合……最悪、死ぬ可能性がある。

 

絶体絶命のピンチ、もう1人のカネキは笑顔を見せていたがその表情はすぐに恐怖へと一変する。

 

カネキは泣き喚きも、諦めの表情も、困惑もしなかった。さっきと変わらぬ無表情で彼を見つめ続けた。しかしその赫眼は鋭い目つきをしていたのだ。しかも彼を見ているようで見ていない。

 

死ぬつもりはない、死ぬわけがない、そう確信した目。そして何かをやり遂げようとする意志のある目だった。

 

「……その目がムカつくんだよ! 余裕かました様なその目がッ!!!」

 

(何が違う! むしろ俺の方が凄いハズ……なのに俺はコイツにーー)

 

苛立ちを力へと変える。カネキを締め上げてた鱗赫に力が入る。しかしピクリとも動かない。カネキは苦しそうにする素振りを見せるどころかさっきと全く変わらぬ様子だ。もう1人のカネキに焦りの色が見え始める。ならば、と羽赫を発射態勢にした時だった。

 

カネキの赫子が爆発する様な勢いで展開した。もう1人のカネキの鱗赫は破壊されるほどの勢いで吹き飛んだ。

 

「クソが…!」

 

羽赫を勢い任せに全て発射、その範囲・スピードは流石としか言いようがないものだった。そして土煙で見えないものの確実に命中したと認識できる音が聞こえてきた。

 

今度こそ勝利を確信し勝ち誇る様な笑顔を見せる。しかし土煙から躍り出る様に現れたのは狐の尾ーーと見間違うほどしっかりした形を持つ赫子、鱗赫。カネキはその赫子に足を乗せる形で現れた。

 

(なのに……何でコイツに勝てない!)

 

「あの赫子で防いだのか……『俺』の羽赫を…しかも1本で……」

 

 

「君のじゃない」

 

 

「ッ!」

 

「どれだけ自分に言い聞かせようが、それは嘉納に与えられた力に過ぎない。いい加減認めたら? 嘘つき野郎」

 

「るせぇ!」

 

もう1人のカネキは羽赫のブーストで動き続け撹乱する様に仕向ける。が、カネキは見切っていた。

 

「嘘が明るみになった時、それは人の動きを鈍らせる。例えそれが相手ではなく自分への嘘でも」

 

「なっ!?」

 

飛んでいた彼の下に潜り込みバク転する勢いで宙返り、赫子で腹部を貫いた。胸より下、即死する部位ではないが十分なダメージを与えられる攻撃。

 

カネキは赫子を収め、トーカそして亜門を抱えて脱出しようとする。それを見て激怒するもう1人のカネキ。

 

「ざけんな! 何も言わずに消えるのかよ。勝ち誇りやがって。こんな傷すぐに……」

 

そこで口を閉ざす。そしてゆっくりと自分の腹部を見つめる。

 

ーー治っていない

 

貫かれた傷跡には紫色の血の様なものが付着している。

 

「な…で……ゴハァ!」

 

「僕のRc細胞は他の人とは違う。日々の食事を《共喰い》のみで過ごしてきた僕の身体はある時から大きく変わってしまった。自分自身さえも蝕んでしまう厄介なものに」

 

「?」

 

「赫紋、Rc細胞を別のものに形質変化させる……僕のは少し変わってるけど」

 

「触れたもの全てを蝕む《侵食》それが僕の赫紋だよ」

 

 

「な……」(俺はコイツの足下にも及んでなかった、というのかよ)

 

毒のように体を蝕むRc細胞。もう1人のカネキの意識はどんどん薄れていく。しかしそこで何か思い出したように、もう1人のカネキは力を振り絞り倒れまいとする。

 

「待て! その前! 最初に戦った時から暴走してお前は急激に力をつけた……それはこの戦いの最中に赫紋を身につけたというこーー」

 

「何言ってるの?」

 

「?」

 

 

「侵食、それが僕の力と言ったよね?」

 

 

今度はカネキが不気味な笑みを浮かべてそう言った。顔にも血が付着し、髪色が赤黒いカネキ。その赤黒い髪は血が付着したにしては綺麗に染まった髪色だった。

 

(まさか……自分を…………?)

 

 

「リゼさんが僕の中に現れるたびに僕は強くなれた……自分を犠牲にして。でももうリゼさんは僕の中にはいない。精神(こころ)が蝕まれた僕だけが残った」

 

 

「強くなるには……邪魔な芽を摘むには躊躇しない非情な心が必要だ」

 

 

「何でだろう……もう君の前でも非情になれそうだ」

 

もう1人のカネキは全身が麻痺するような恐怖に襲われる。しかし自分を見つめる少年は先ほどと同じ何も感じない冷たい瞳のままだ。

 

「でもーーくだらない嘘つきを1人殺したところで何にもならない。もう2度とその名前で僕の前に現れるな」

 

(コイツ……蝕まれていたのか自分の力にーーだがコイツはその力さえも喰ったんだ。全てを犠牲にして……今まで培ったものを蝕んで…………)

 

ようやく気付いたカネキの強さ、狂気。そこで彼は力尽きた。

 

 

 

 

カネキは建物を脱出しながら、自分の髪を撫でた。〈血〉ではない、地毛が赤黒く染まっている。強すぎるRc細胞の影響だった。

 

(芳村さん……僕はあなたの言うような立派な存在として生きたかった)

 

カネキはトーカを見つめながら歩みを止めない。

 

(残念ながら僕はそうじゃなかったみたいです。店長、世の中は綺麗事では通らない。

 

僕は最低ですか? クズ野郎ですか?

 

 

それでも構わない……僕の目的が果たせるのなら)

 

 

良くか悪くか、この戦いで目的・自分の存在意義・力に飲まれ、自分の弱さであり強さでもあった《人間》を失ったカネキだった。

 

 

 

???

「まさか……君が私を助けてくれるとは、ね。てっきり殺されるのかとーー」

 

「ハハハ、つまらない冗談を……殺してやりたいさ今すぐにでも。でもそうはいかないからこうやって生かしてやってるんですよ」

 

「……どんな気持ちだい?

 

喰種を生み出した我々《嘉納》を利用しなければならない今の心境は?」

 

「我々? あなたは人工の喰種を造ることに成功したに過ぎない、あなたもクズ野郎だが『あんな奴ら』に比べたらカワイイもんだ」

 

「……こんな状況だが君のことが心配だよ、カネキくんにどう誤魔化す気だねーー

 

 

神山くん?」

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