東京喰種√S   作:torachin

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黒の剣士

「キリト、桐ヶ谷和人という少年ーーお前が《あの世界》で名乗っていた名だ」

 

 

CCGが最も欲してるもの。それは喰種を特定するための設備でも、喰種についてより詳しく知るための情報でも、SレートやSSレートの喰種から作られる高性能クインケでもない。

 

『CCG最強の男、有馬貴将を超える捜査官』それがCCGが最も欲してる戦力であった。

 

しかし有馬貴将のような天才を見つけ、その天才を短時間で育て上げることは非常に困難であった。ある人物が一つの方法を思いつくまではーー

 

『喰種と同等の脅威が蔓延る仮想空間を作り、そこに不特定多数の一般人をログインさせ、そこから有馬貴将を超えられる捜査官を見つけ出す』

 

こうして計画は始まった。普通の喰種のデータはもちろん、有馬貴将の戦闘データ、有馬貴将が倒した喰種のデータを収集し、それを基に人々の目の前に現れる敵を再現。

 

現実ではあり得ない強大な敵が現れる。しかしその世界に銃や魔法といったものは存在しない。その仮想空間に存在するのは剣・盾・斧といった防具や武器、その装備を扱うための技術など生きていくうえで必要な最低限の力だけだった。

 

それが……

 

 

「【Sword Art Online】通称SAOだった」

 

「…………」

 

桐ヶ谷は黙って俺の話を聞き続ける。

 

「多くの人々がそんな目的があるとも知らずにその世界に飛び込んでいった。何故ならそれが『仮想世界で行われる遊戯、すなわちゲーム』だと思い込んでいたからだ」

 

そう、これは有馬貴将に近い捜査官を探し出すための計画。もしそれが、ただ恐怖に満ちた敵が襲いかかってきて、そんな敵に対して必要最低限の装備のみで戦う実験プロジェクトだったら誰が参加したがるだろうか?

 

そこで思いついたのがゲームという発想だった。そんな世界をゲームとして再現できれば興味を持った多くのプレイヤーがこの計画に参加してくれる。多くの人々が世界中から仮想世界にログインすればその数は万に近い数になる。それだけ多くのデータが集まるということだ。

 

 

「そして計画は順調に進行していた。SAOというゲーム、もとい計画はβテストの段階で多くのプレイヤーが参加。その中に桐ヶ谷、お前もいた」

 

「……はい」

 

 

「その段階ですでにプレイヤーのデータも収集され始め、計画は順調と思えた。

 

が、その時点で計画が大きく歪んでることに世間はもちろん、CCG内部の人間も気づくことはなかった」

 

 

問題が発覚したのはSAOが正式に開始されたその日だった。SAOにログインした多くのプレイヤーがSAOという世界から脱出不可能に、そしてその世界での死は『仮想』ではなく『現実』となった。

 

当然、オンラインゲームには『ゲームの世界に入る、ログイン』があれば『ゲームの世界から抜け出す、ログアウト』というものが存在した。しかしこのゲームに存在したのは『ログイン』のみ、地獄への片道切符だけだった。

 

ただでさえ、仮想空間に囚われるという最悪な状況だというのにもう一つ最悪な問題が残っていた。それが『死』である。

この仮想空間内で死亡すると、仮想空間にログインするための機械に『仮想空間で死亡した』という情報が入力される。その情報が入力されると同時に『夢の仮想空間に誘う機械』は『死へと誘う殺人機械』へと変貌した。ナーヴギアと呼ばれるその機械はプレイヤーが仮装空間で死亡した信号を受信すると同時にプレイヤーの脳を破壊した。脱出不可能である恐怖の仮装空間からの解放、しかしそれは現実世界からのログアウトも意味する死刑宣告だった。

 

 

 

「当然、CCGもこれは予想外の出来事だった。まさかCCGきっての天才科学者でありSAOを作った人間がこんな細工をしているなんて誰も気づかなかったからな」

 

茅場晶彦、天才物理科学者にしてSAOを作り上げた天才ゲームデザイナー。CCGの計画を実行するためにそのゲーム、仮想空間を作る責任者となった彼はその世界をデスゲームへと変貌させた。

 

後に彼の研究室から見つかったある書類の裏にはこんな言葉が書かれていたという。

 

『やり直しが効く、絶望から簡単に抜け出せる、死という恐怖が存在しない世界などリアルとはいえない』

 

 

彼は自分の作っていた異世界に、あろうことかその世界を現実に近づける理想を抱いてしまっており、その異世界を私物化し、恐怖に満ちた世界に自分ごと人々を閉じ込めたのだった。

 

 

「これが数年前に世界中でニュースとなったSAO事件の語られることのない真相だ」

 

「ええ、CCGはあくまでデータの提供のみ。事件の元凶はそのゲームメーカー『アーガス』のゲームデザイナー茅場晶彦ということで処理され、アーガスは賠償金など莫大な負債を抱えて解散。事件の元凶である茅場晶彦は未だに行方不明」

 

「ああ、だが茅場晶彦はとうの昔に死んでいる。SAO事件を解決させたキリトいう少年の手によって」

 

 

このデスゲームから脱出する方法はただ一つ。死ぬかゲームをクリアする、すなわちラスボスを倒すことであった。そしてそのラスボスこそ茅場晶彦本人であった。ゲームの攻略を進め、そのラスボスと一騎討ちで勝負を挑み、彼を倒した人物こそキリトであった。

 

総プレイヤー人数1万超え、死者4000人以上という大事件は終焉を迎えた。

 

「が、全ての人間がハッピーエンドでは終わらなかった」

 

「………………」

 

「絶望に満ちたゲーム内で心の許せるパートナーと出会った人数も少なくない。キリトと呼ばれるプレイヤーもその1人だった。彼はゲーム内である人物とゲームのシステム上の話ではあるが『結婚』をしている。その人物が『アスナ』」

 

「…………ッ!」

 

「そしてアスナと呼ばれる少女はゲームクリア後、仮想空間に囚われている間に収容されていた病室から他のプレイヤーと共に行方不明となった。プレイヤーが仮想空間に囚われていた期間は数年にも及ぶ。その間、現実の体はピクリとも動かない。当然、筋肉はマトモに歩くこともままならないほどに衰える。そこを狙った集団拉致事件。

 

そして違う病院に収容されていたキリトはこの事件に巻き込まれることはなかった。そしてお前は……」

 

「確かに」

 

桐ヶ谷は突然口を開いた。

 

「?」

 

「………確かにあの世界は偽物だったのかもしれない。あの世界で食べた物、戦った敵、美しい景色ーー全部この世界に存在しないもの。だけど、あの世界で出会った人との繋がり、あの世界で得た経験だけは偽物じゃない」

 

「…………」

 

「今も覚えてる。俺の隣で浮かべてくれたあの笑顔、俺を満足させてくれたあの料理……2人で一緒に笑ったり泣いたりした。……顔は知ってるのに……まだ現実で会ったこともないんですよね」

 

涙を堪えながら亜門に見せたぎこちない苦笑い。その顔はすぐに任務開始前と同じ、またはそれ以上に引き締まった表情となった。

 

 

「俺はまだあの世界に囚われたままだ。もう1度アスナに会って、あの世界で過ごした日々について語り合う。仮想空間じゃなくてこの世界で。その時ようやく俺は現実に帰ってこれる。

 

あの世界に忘れたものを取り戻してから」




最近、小説投稿していなくて気づかなかったのですがこの作品の1〜3話のアクセス数が1万を突破しました!!本当にありがとうございます。

またこの作品の評価をしてくれる方もいてくれて嬉しかったです! 高い評価をしてくれてる中に3以下で評価されている方もいます。そう評価された方の中でプロフィールに『文章が下手くそだと思う人は3以下の評価をする』と書かれてあり、これはまだまだ自分の執筆力が拙すぎる良い証拠だと思っています。何がいけないのか気づかせてくれるとてもいいアドバイスでした。高く評価してくれた方、厳しく評価されてくれた方、ありがとうございます! 楽しんでくれてる方もどんどん「この文章こうした方がいい」とアドバイスしてくれると励みになります
もっと色んな方に出来るだけ楽しんで読んでいただけるようレベルアップしていきたいと思います。と、言いながら投稿頻度がかなり少なくて申し訳ありません。これからも「アップできる時にアップしていく」スタイルをとっていきたいと思うのでよろしくお願いします

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