なぞの感情
「言葉遣いが変わった?」
「はい……」
この日、トーカは四方にある相談をしていた。
「あの……おかしな事言うと思うんですけど、カネキに対する言葉が変わったなって。自分でも無意識のうちに……『てめえ』って言葉も使わなくなったし……あいつといる時だけ…………」
本当に訳が分からない。こうなる前兆はなかったし、最近カネキと何かあったわけでもないのに……
「で、それの何がいけないんだ?」
「え?」
「別に言葉遣いが変わっただけならそれでいいだろ」
「で……でも………………」
四方さんはそこで話を中途半端に切り上げて、新しい喫茶店の経営予定を立てに部屋に戻っていった。
「え〜〜〜〜〜!? それ、絶対アレだよ!」
「だから、あれって何だよ!」
トーカはその後、依子に電話で同じ相談をしたら何やら興奮しているようだ。依子……携帯電話で連絡先を交換していたこともあり、あの戦いの後で再び連絡を取り合うことができたのだ。
って、というか依子の言う『あれ』が分かれば苦労しないんだけど……
「そっか〜、トーカちゃん前から怪しかったもんね〜」
「な……何だよ、依子!」
「トーカちゃん! これからも応援してるからね! 彼氏さんとうまくやってね!」
………………………………………は?
「はああああああああああ!? イヤイヤイヤイヤ、何で私があんな奴!」
「ごまかさなくていいのに……あ、バイトの時間じゃん! ゴメンねトーカちゃん、また連絡するから!」
「お……おい!」
…………彼氏!? あいつが!?
その後、トーカは一人で部屋に戻り勉強を始めた。ホテルでの生活はもう終わり、今はカネキが昔、月山経由で手に入れた物件で暮らしている。当のカネキは未だにホテル生活らしいが……
(って、何で私はあいつの事考えてんだ!?)
「誰がカネキと……」
「僕がどうかした?」
後ろから急に気配がするのと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…………んな!」
反射的に右手でカネキを殴ろうとしてしまう。が、「おっと。危ないなぁ」と容易く避けられてしまう。昔は弱々しかったくせに……少し悲しくなってしまう。
「……あんた、いつの間に!?」
「今さっきだよ。ここのスペアキーは持ってるし。ここどうかな? 気に入った?」
「う……うん」
カネキは「そっか」と笑顔を浮かべた。
急に現れたかと思うとコイツは……調子狂うな。
そして私が再び勉強をし始めると、何故かカネキは私の勉強している様子を後ろから観察し始めた。
「何したんだよ!?」
「え……勉強してるかどうか見てるだけだけど?」
「そんなの見りゃ分かる! 用が済んだなら帰れよ!」
「帰っても何もすることないし……来たばかりだしゆっくりさせてもらえないかな」
……ホント調子狂う。
「……もう好きにしなよ」
「ありがとう。じゃあ何もしないのもアレだしコーヒーでも淹れてあげ…………ん? ここ出来ないの?」
カネキは後ろから問題集のある問題を指さしてきた。
「え?」
カネキが言った問題は上井大学の数学の過去問だった。数学Ⅱの……ナンタラ法を使って解く問題だっけ。
「これは……分かんないからとばした。依子も分かんないって言うし」
「……僕で良ければ教えようか?」
「え?」
「分かんなかったら困るでしょ?」
「それはそうだけど……」
「でしょ? 僕、時間ならあるから。これはまず、この式をxで……」
と、勝手に解説を始めるカネキ。とはいえ、大学の合否がかかっているのだ。私も思わず聞き逃すまいと慌ててペンを握る。
流石、元上井大学生というべきか、カネキの説明は本当に分かりやすかった。ちなみにこの問題は『ナンタラ法』ではなく『微分法』を使って解く物だったらしい。
「……で、こうなる」
「アンタ、偉いんだね」
「……いやまぁ、上井大学には合格したしね」
「自分で言うな」
カネキは「ハハハ(汗)」と笑っていた。
コイツが彼氏なら受験勉強も楽で……って、私は何考えてんだ!?
勝手な想像をして、勝手に動揺して、ペンを握りつぶしてしまう。
「ト…トーカちゃん?」
「! もうあんたも帰れ!!!!」
*
カネキは何がなんだか分からないまま夜空を見上げる。
「…………怒らせちゃったかな?」
この時、トーカは知らなかった。自分の身に危険が迫りつつあることを……