刀剣集成古今東西 with銀色の侍   作:ネイキッド無駄八

1 / 7
執筆動機は至って単純。
最近ドスこれ始めて、同じ時期に銀魂のアニメDVD見返したから。
では、スタートです。


天然パーマに悪い奴はいない

 

 

 「銀さーん、なんかお登勢さん来ましたよー。滞納してる家賃払えって。……ちょっと、銀さん? 聞こえてます?」

 

 「新八ィ、銀ちゃんならおねむの時間アル。新八が『お登勢さん』って言ったあたりで、急にジャンプ顔にひっ被せてぐ~ぐ~寝息立て始めたヨ。スゴイ早寝アル、まるでのび太くんアル」

 

 「そんなわけないでしょ。どう考えても狸寝入りだよそれ。銀さん、いい加減観念したらどうですか。家賃、先月だけじゃなくて先々月のも溜めてるんですよ。いつまでも放置してるわけにもいきませんって」

 

 「んだよ、うるせーメガネだな。今から俺ァ、あれだ、リンクスタートすんだよ。アインクラッドに行ってくるんだよ。ほら、もうナーヴギアもセットしてるし」

 

 「んなナーヴギアがあるかァァァァ!! そもそもソレ機械じゃないっていうか、紙だし!! 週刊少年ジャンプにフルダイブ機能がある訳ねぇだろ!!」

 

 「いやだって、ジャンプって読むと夢が膨らむし、ハートが燃えるだろ? もしかしたら異世界にダイブできるかもしれねぇじゃん」

 

 「今時小学生でもそんな安直な現実逃避しねぇよ!! だいたい、僕たち集英社じゃないですか! 電撃文庫に怒られますよ!」

 

 「分かってねぇなぁ、ぱっつぁんよぉ。いいか、俺たちが今からやっていかなきゃならないのは、どんな場所だ? 俺はな、さっそくハーメルンの読者諸君の心を掴むために、ここで人気のソードでアートなオンラインのネタをわざわざぶち込んだんだよ、お分かり?」

 

 「いや、にしても唐突すぎるでしょ。強引もいいとこですよコレ」

 

 「いちいち細かいメガネアル。どうせここ見てる奴なんか、最強チートやれやれ系イケメン主人公がハーレムする話読めればそれで満足するアル。多少文章汚くても展開雑でも、大枠とポイント押さえとけば全然大丈夫ネ。こんなにチョロイ仕事は無いヨ」

 

 「やめろォォォォ!! いきなりここのユーザー敵に回してどうすんだァァァァ!! てか、さりげなくさっきの強引なネタへの予防線張っただろ!! 読者と仕事を何だと思ってるんだ!!」

 

 「バッカ、お前声でけぇよ。こういうのはな、いわゆるお約束ってヤツなんだよ。通過儀礼ってやつなんだよ。お前だってあんだろ、最強チートやれやれ系イケメンメガネがハーレムメガネするメガネに憧れたことくらい」

 

 「ねぇよ!! ハーレムメガネするメガネってどんな状態!? ほぼメガネしかいねぇじゃねぇかそれ!! ただのメガネ屋じゃねぇか!!」

 

 「やかましいアル、最弱オタクだるだる系地味メガネは黙って弐萬円堂でも行ってろやクソが」

 

 「取り消せェェ!! 百歩譲ってメガネだとしても、そこまでダメガネ呼ばわりされるいわれがあってたまるかァァァ!!」

 

 「あーもう、うるせーうるせー。俺ァいっちょう厠でリンクスタートしてくるから、後のことは頼むわ。よろしく」

 

 「あ、逃げた! 待ってくださいよ銀さん! お登勢さんもう玄関乗り込んじゃってますって! いまさら隠れてもムダですよ! ちょっと、銀さん!!」

 

 「……ったく、ガタガタ騒がしいんだよ。せっかくオープニングなんだからさ、もうちょっとスタイリッシュに決めさせてくれよ。それがお前、家賃取り立てからスタートって、完全にいっつもの万事屋、グダグダパートじゃねぇか。やってられるかチクショー……」

 

 

 ガチャ、バタン。 

 

 

――――――――― 

 

 

 

 

 スッ、パタン。

 

 静かに障子を引く音に続き、落ち着いた調子の青年の声が参上の旨を告げた。

 

 

 

 「主よ。へし切長谷部、ただいま参上いたしました」

 

 

 

 麗らかな陽の光が心地よい、のどかな昼下がり。

 馳せ参じた青年の挨拶に、縁側に座り込んで日向ぼっこをしていた女が振り返る。

 

 化粧っ気の無い顔に、さっぱりと切られたショートヘアー。

 男物の羽織を肩に引っ掛け、その中にはワイシャツをルーズに着崩した、端的に言ってだらしのない服装の着こなし。

 気怠げな垂れ目が目を引く、総じて色気の無い、がさつそうな女性だ。

 

 おーう、と鷹揚に答え身を回した女は、参上を述べた青年に正面から向き合った。

 

 

 「急に呼び立てて悪かったねぇ。まぁ、楽にしなよ」

 

 「主の命とあらば。して、何の御用でしょうか」

 

 首肯したもののきっちりと正座は固持して畏まったまま、青年は女へと問いを投げる。

 

 物腰と同じく折り目正しい雰囲気の青年は、少々変わった出で立ちをしていた。

 濃紺のコートの上から胸板と大袖だけの簡素な鎧を身にまとったその姿はまるで武士のそれであり、佩かれた得物――打刀がそれに拍車をかける。

 端正な面立ちには、控えめながら揺るぎない自信を匂わせる不敵な眼が光る。

 ひと癖もふた癖もありそうな曲者、そんな印象を見る者に与える青年だった。

 

 そんな青年―――『へし切長谷部』の問いに、それがなぁと面倒事を仄めかす調子で女は口火を切った。

 

 「ついさっき、上の方から通達があってさ。なんか、とある時代の座標がイカレちまってるらしいんだよ」

 

 「イカレちまっている? 具体的に、どのような事態が起こっているのでしょうか」

 

 「そこの座標の観測値が、おかしな数値を叩き出してるらしいのさ。なんでも、アタシら審神者(さにわ)の時空転移の術式でもなく、ついでに遡行軍のモノでもない、全くの未知の数値が検出されたんだと」

 

 「ほう……それはまた、奇妙な話ですね」

 

 ふむ、と顎に手をやって唸る青年に、そうだろ、と頷く女。

 懐から取り出した書類に目を通しながら、女は話を続ける。

 

 「で、その時代のその座標に一番近いのがウチの支部だってことで、アタシのとこにお鉢が回ってきたってわけさ。面倒な話だねぇ。というわけで長谷やん、ここはひとつ、ちょっくら調査に行ってきてくれないかね?」

 

 突然仕事を押し付けられたからか、口ぶりからして露骨に面倒臭そうな女に対し、青年の応対は迅速だった。

 

 「主の命とあらば。すぐに行って参ります。調査隊の編成は如何様に?」

 

 「とりあえず、ウチらの役目は簡単な実地検分だ。詳しい調査は後から来る本隊の連中に任せればいいさ。機動力重視の少数精鋭で、ちゃちゃっと行って戻ってきてちょーだい」

 

 「分かりました。人選は俺が適当に見繕います。主は茶でも飲んで、ゆるりとお待ちください」

 

 女の指示を受けた青年は立ち上がって軽く一礼した後、来た時と同じように静かに障子を閉めてその場を辞していった。

 

 足音が遠く去っていき、再び日向ぼっこをする女だけが縁側に残された。

 しばらくぼけっと坐したままだった女は、ふと思い出したように傍らの急須をひょいと持ち上げた。

 

 「……んだよ、空かい。淹れてもらえば良かった……」

 

 ひとりごちて急須を置いた女は、代わりに菓子盆に手を伸ばして煎餅を拾い上げる。

 ばりばり音を立てて煎餅を食みながら、女は何とはなしに空を見上げた。

 青空に浮かんだちぎれ雲を肴に、誰に聞かせるでもない独白がひとつ、ぽつりと落とされる。

 

 

 「なーんか、やな予感がするねぇ……」

 

 その一言を最後に、煎餅を砕く音だけがしばし縁側に響いた。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 『歴史修正主義者』

 

 

 正確にいつだと断じることは難しいが、とにかく彼らは唐突に顕れた。

 正体、規模、本拠地、戦力、一切不明。

 唐突に現れ台頭しだした彼らは、唐突に攻撃を開始した。

 彼らの攻撃の対象はひとつ。

 

 それは『過去』。

 

 彼らの目的は、『歴史の改変』だった。

 

 正体不明の彼らについて言える少ない事項のひとつに、彼らが備える能力である『時間遡行』が挙げられる。

 彼らはその力を使い過去に赴き、そこで破壊の限りを尽くすことで歴史の変革を目論んでいたのである。

 何のために、誰のために。動機の一切は不明。

 ただひとつ言えるのは、彼らの存在が、行いが、決して看過できる代物では無いということ。

 彼らがもたらした甚大なる被害に対し、政府は対処の策を講じる。

 

 それが、『審神者(さにわ)』と呼ばれる異能者たちによる、『歴史修正主義者』の討滅だった。

 

 

 

 

 

 「索敵、状況を報告しろ。何か異変は無いか?」

 

 見渡す限り、殺風景な荒野。

 その荒野を、土煙を上げながら駆ける馬が三頭。

 

 スリーマンセルの中心、調査隊の隊長である青年『へし切長谷部』の声に、先頭を行く小さな人影が振り向いて答える。

 

 「まだなーんにも見えてないよ。気が急きすぎじゃないの、た・い・ち・ょ?」

 

 舌足らずな口調で答えたのは、まるで少女と見まごうような可憐な面立ちの少年。

 少女のような少年はその出で立ちもミニスカートにフリル付きの軍服と、完全に女子のそれであり、華奢な手足と長い髪も相まって、言われなければ誰も男だとは分かりえないだろう。

 いわゆるひとつの男の娘―――その少年、『乱藤四郎』のウインクと共に放たれた言葉に、苦虫を噛み潰したかのような顔で長谷部は応じる。

 

 「やかましい、さっさと索敵に専念しろ。怠慢は許さんからな」

 

 「りょーかーい」

 

 ぺろっ、と舌を出して敬礼のポーズを取り、乱藤四郎は再び前に向き直る。

 どうにも小悪魔然とした少年の振る舞いに、長谷部はため息が口から零れるのを禁じ得なかった。

 これで中々優秀だから困る、という彼の内心の呟きを知ってか知らずか、まぁまぁと長谷部の左後方から諌めるような声が上がった。

 

 「いいじゃねぇか。あんまりお堅いのが過ぎると、退屈しちまうだけだぜ。常に驚きあれ、戦場でもそういうのはアリだと俺は思うけどな」

 

 愉快そうに言うのは、全身純白で固めたまるで鶴のような美しい青年。

 髪も、袴も、帯びた刀に至るまでもが真っ白で統一されたその青年は、ともすると薄幸で病弱なようにも見受けられる。それほどまでに、荒涼な荒野には似つかわしくない繊細な印象の青年だった。

 白き青年―――『鶴丸国永』の、上品な外見とは裏腹な、さながらイタズラ小僧のような言葉に長谷部はフンと鼻を鳴らす。

 

 「あれが緩み過ぎなだけだ。第一、お前とてあれに何か言えた義理では無いだろう。戦場で奇抜さは必要ない。奇手は凡手、基本に忠実であればそれで十分だ」

 

 「やれやれ。固い、全くもって堅いよアンタ。もうちょっと柔らかくいこうぜ。人生、楽しくなくっちゃやってらんねぇぞ」

 

 余計なお世話だと言わんばかりに、再度鼻を鳴らす長谷部。

 クククッと楽しげに笑声を上げ、鶴丸国永も周囲への警戒に注意を向け直した。

 

 主である審神者の命を受け、人選を見繕って調査隊を編成し件の地へと馬を走らせること数刻。

 そろそろ目標の地点に着く頃合だろうと長谷部は自らも辺りを見晴かしてみるが、先の乱藤四郎の報告にもあったとおり、近辺に特段何か変わった様子は見受けられなかった。

 

 「妙だな……」

 

 場所を間違えたかと改めて資料を見直すも、やはりこのあたりで間違いは無い。

 念のため目や耳のみならず、感覚野を拡げて()()()方面への探知も試みたが、やはりこれといった反応は無かった。

 

 「ね、やっぱりなんにもないでしょ。機械の故障かナニかだったんだよ、きっと」

 

 「だなぁ。鬼が出るか蛇が出るかとワクワクしてたんだが、どうも驚くような事態にはならなそうだ。とんだ肩透かしだぜ」

 

 わざわざ馬を走らせた結果が無駄骨であったからか、乱と鶴は露骨に緊張を削がれたような声を上げ始める。

 

 「おい、まだ気を緩めるには早いぞ。何か見落としがあるのかもしれん。もう一度、ここいらの走査を徹底的に行うべきだ」

 

 「ええー。ボクもうヘトヘトだよぉ。早く帰ってお風呂に入りたいなぁ」

 

 「これ以上ほじくり回しても、もうなんにも出てこないと思うがねぇ。つまんない残業は御免こうむりたいね」

 

 長谷部の提案に、ぶーぶー不平を垂らし始める二人。

 元より彼らからしてみれば、急に呼び出されたかと思えばいきなり調査隊に任命されただけでも結構な貧乏くじだったのである。

 そもそも気乗りのしない仕事であったわけで、それもただの無駄足に終わったとなれば、彼らとしてはさっさと撤収してしまいたいところが本懐なのだ。

 

 「うるさい。黙って走査に励め。なに、簡単なことだ。早く終わったら終わっただけ、早く本丸に帰れるんだからな」

 

 二人の訴えを、しかしにべもなく撥ね付ける長谷部。

 彼の忠義に厚い性分からすれば、主命を受けた以上何らかの成果を持ち帰らなければ気が済まないわけで、ましてや手抜きをするなど言語道断なのである。

 無慈悲な隊長の指令に、げんなりとした様子で乱と鶴はそれぞれ持ち場を決め、嫌々調査を開始するのであった。

 

 「……鬼隊長」

 

 「なにか言ったか」

 

 「イヤだなぁ、ボクなんにも言ってないよ。きっと空耳だよ、そ・ら・み・み」

 

 「……まぁ、そういうことにしておくか。乱、次にまた何かふざけたことを抜かしたら、お前のそのご自慢の長い髪、俺がさっぱり散髪してやるからそのつもりでいるんだな」

 

 「こわっ……さすが第六天魔王の佩刀、魔王ぶりが堂に入りすぎだっちゅーの……」

 

 「……ひょっとして、わざと聞こえるように言っているのか。それは?」

 

 「おい、鬼隊長。ちょっといいか」

 

 「どうやら、貴様から先に斬られたいらしいな……鶴丸国永……」

 

 「そういうのは後にしてくれ。それより、見ろって。アレ」

 

 「なに……?」

 

 こめかみをヒクつかせた長谷部は、鶴丸が指さした方向に胡乱げな視線を送る。

 間を置かずして彼は、そこにあった光景に瞠目することとなった。

 

 「な……! あれは……!?」

 

 

 ―――扉。

 

 荒野のど真ん中に、ぽつんとひとつ。

 木製の扉がひとつ、そこに存在していた。

 

 「扉…? いったい、いつの間にこんなものが?」

 

 「分からねぇ。俺もたった今見つけたところだ。ていうか、ここってだいぶ前に一度攻略した場所だよな? その時はこんなん、絶対無かったぜ。間違いない」

 

 「あのさ。ボク思うんだけど、問題は『いつから』ってことじゃなくない?」

 

 「ふむ……」

 

 

 三人は、遠目からしげしげと扉を観察する。

 長谷部の言の通りいつからそこにあったものか、その扉はあまりにも異質な存在感を放っていた。

 こんな屋外に扉がひとつだけあるのも、無論異常以外の何物でも無いが、さらに気がかりなことには、

 

 「俺の見当違いかもしれねぇが、なんかあれ、外に建ってるにしてはちとキレイすぎやしないか?」

 

 「あ、鶴にもそう見える? ボクもちょうどおんなじコト考えてたんだ。あーでも、キレイとはちょっと違うかも。よく見ると割と小汚いみたいだし」

 

 

 そう。不自然なのはそこに尽きる。

 屋外に在る以上、風雨に少なからず晒されていたはずのその扉には、そういった類の痕跡が全くと言って良いほど見受けられないのだ。

 かといって、全くの新築新品なのかといえばそれもまた違うように見える。

 例えて言うなら、築何年かの建物――それもビルなどではなく、一般的な貸家の――に設えれらた扉をひとつ、引っペがして無造作にそこに置いたかのような、そんな場違いな感覚をその扉は想起させるのである。

 

 「何であるにせよ、不審であることに変わりは無い。早速、検分を……」

 

 長谷部が扉へと馬を進めようとした、その時。

 

 

 

 「……待って!」

 

 

 

 先程までの能天気な調子とは打って変わった真剣な声音で、乱藤四郎は進み出ようとした長谷部の動きを制した。

 滅多に耳にすることがないその真剣な声に、長谷部は少し驚いて彼の方を見る。

 鋭く周囲を見回した後、背後の林を指差して乱は叫ぶ。

 

 「あそこに隠れて! はやく!」

 

 「お? どしたよ、乱?」

 

 「いいから! 急いでったら!!」

 

 

 頓狂な声を上げた鶴丸を押しやるように、乱は木立へ向かって馬を走らせる。

 長谷部も周囲を警戒しながらそれに続き、三人は近場の林の中へと身を潜めることとなった。

 

 「乱、いったい何に気づいた。いい加減教えたらどうだ」

 

 叢から頭を少しだけ覗かせて、件の扉を注視している乱に長谷部は問いをぶつけた。

 視線は扉から切ることなく、えーっとねと鈴を転がすような声で乱は答える。

 

 「遡行軍っぽい気配。ここに近づいてるみたい」

 

 「……!」

 

 「おいおい、マジかよ。こいつは驚きだな」

 

 

 瞠目する長谷部に、目を丸くして仰け反る鶴丸。

 彼らが敵対する歴史修正主義者の尖兵、『遡行軍』の襲来。

 乱の言が意味するところは、そういうものだった。

 

 「やっぱ、あちらさんの目当ても”アレ”だったりするのかね?」

 

 「分からんが、我々が掴んだ座標の変調を奴らもまた把握していたとして、それに何ら不思議は無いだろう。どういう意味があるにせよ、これで事態の重要性はハッキリしたわけだ」

 

 鶴丸の問いに、重々しく首肯して長谷部は応じた。

 とある時空の、座標の狂い。

 それを嗅ぎつけて集まった、審神者側と歴史修正主義者側両方の戦力。

 何か、途轍もない出来事が起こる。

 そんな予感を、ひしひしと長谷部は覚えていた。

 意図せずして佩刀の柄に手を置いていた彼の手には、いつしか緊迫の汗が滲んでいた。

 身を切るような緊張の中、哨戒を続けていた乱が不意に鋭い声を上げる。

 

 

 

 「来た! 敵影、数は五つ!」

 

 

 

 叫びと時を同じくして、彼らの眼前で唐突に()()()は現れた。

 

 墨を垂らしたかのような黒い揺らめきの中から、這い出るように現出したそれら。

 音もなくぬるりと降り立ったそれらは、骨と骸で形作られた死の尖兵。

 審神者の、そして、全人類の敵。

 

 

 歴史修正主義者。

 遡行軍の兵士たちが、そこに現れたのだ。

 

 

 「兵種は……短刀が二騎、打刀一騎に、太刀が一騎か……!」

 

 「まとってる瘴気の感じからして、ちょっと強めの奴らかな……?」

 

 「参ったな……数が多いぜ。不意討ちをかけるにしても、こっちも無傷では済まないな。どうする、隊長?」 

 

 「………俺たちの役目は、先行調査だ。無理な深入りをするのは得策とは言えないだろう。ここは、撤退して本丸に情報を持ち帰るべきだ」 

 

 鶴丸の問いに、しばし黙考した後、撤退の旨を長谷部は返した。

 彼が受けた命に交戦の必要性は無く、その上この少ない手勢で戦いを仕掛けるのは、どう考慮しても無謀としか言えまい。

 そう判断して、下した結論だった。

 頷く鶴丸と乱の二人にも異論は無いようだった。

 それならばと、敵方に気づかれずにこの場を撤収する算段を立て始めた長谷部に、乱の驚いたような声が再三飛んだ。

 

 

 

 「ちょっと、たいちょ! あれ、見て! あれ!」

 

 

 

 ―――霊格の片鱗。

 目を見張って驚いている乱が指し示した先、遡行軍たちが取り囲んでいた件の扉。

 それが、急速に強大な霊気を発し始めていたのだ。

 つい先程まで何の霊力も感じられなかった扉が、突如として発し始めた尋常ならざる気配。

 

 

 

 

 

 ――――何かが、途方もない何かが、次元を越えてここに……!!――――

 

 

 

 

 

 長谷部も、鶴丸も、乱も。

 彼らだけではない。扉を囲む、遡行軍の兵士たちも。

 この場に居合わせた誰もが、その予兆を痛いほどに感じていた。

 

 「おいおい、マジかよ! 扉が……!」

 

 彼全員が見守る中、ついに扉は目も眩まんばかりの凄まじい光を放ち始めた。

 扉の、次元の隙間から、霊気を帯びた白煙が染み出る。

 光は膨張し、今や視界の全てを覆い尽くさんばかりの光量までに強まっていった。

 

 「……来る………!!」

 

 たまらず目を覆った、長谷部の声。

 重苦しい音と共に、ついにその扉はこちらの次元へと開かれた―――――

 

 

 

 

 

 ガチャ、バタン。

 

 

 

 

 

 「………やってられるか、チクショー……こうなったらいっそ、第一回は斬新に厠談義から始めるっつーのも、それはそれでアリなんじゃ……」

 

 

 

 

 

  

 ぼやきながら頭をばりばりと掻き毟り、扉を開けて男が一人。

 

 

 

 「いや待て。そんな第一回、読者はおろか俺だって嫌だ。そもそもよく考えたら、俺ら割と厠関連の話やってるじゃねぇか。柳生編だって、俺ほとんど尻拭く紙の話して終わったし。マヨ方と逆立ちしながらアクロバティックトイレしたりしたことだって………やべぇ、ヤな事思い出しちまった……」

 

 

 

 誰もが言葉を失う中で響く、緊張感ゼロの声。

 

 

 

 「あーもう、くだらねぇメモリー掘り起こしちまったぜ。ヤダヤダ、こういうのはウ○コと一緒に下水へバイバイしちまうに限るぜ。全力でバイバイしてやる。もう帰ってこれないくらい遠く、そう、ガミラス星あたりまで、波動砲ばりにバイバイしてやる」

 

 

 水色がかった銀髪の天然パーマに、死んだ魚のような目をした無気力な男。

 

 

 「さらば~地球よ~、旅立~つ船は~、宇宙~、せんか……………アレ? なんか、厠広くね? ガミラス星ばりに広くね? アレ? 俺、いつの間にワープ航行した? アレ?」

 

 

 

 

 ――――――万事屋、坂田銀時。

 

 無気力天パ侍、銀さんが、刀剣乱舞の世界へとリンクスタートしたのであった。

 

 

 

 

 

 




全く関係ないけど、へしってなんかムッツリっぽいよね。
ではまた次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。