刀剣集成古今東西 with銀色の侍   作:ネイキッド無駄八

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今回は、銀魂本編でもお馴染みのアイツが登場します。
まぁもうタイトルで全力ネタバレしてますし、何も言わずに本文をどうぞ。


忘れ桜は二度咲く

 

 

 

 「はっ…はっ…! ぐうっ……! はっ…はっ…!!」

 

 

 

 

 

 

 鬱蒼とした林の中。

 断続的に響くのは、苦しげな吐息。

 点々と尾を曳くのは、零れ落ちる紅い血。

 

 

 

 「はあっ…! はあっ…はっ……ッ!!」

 

 

 

 ぽたぽたと、ぼたぼたと。

 後から後から血が滴り落ちる左腕を押さえ、顔を隠すようにかむられた白布の奥の端正なその面を苦痛に顔を歪ませながら、必死に木々の間を駆ける人影がひとつ。

 

 

 「ぐっ…はあっ……! はああっ……!!」

 

 

 見れば彼の総身は、あちこちが傷だらけ。

 本来はその身を守るはずの纏った鎧も、既にその役目を為さないほどに見る影もなく、ずたずたに切り裂かれ、否、引き裂かれていた。

 まるで、途方もなく巨大な獣の爪を受けたかのような。

 まるで、途轍もなく獰猛な、ケダモノの牙で喰いちぎられたかのような。

 

 ―――まるで、恐ろしく凶悪な、極大の刀で斬りつけられたかのような―――

 

 そんな傷痕をこさえて、それでもその青年は休むことなく、逃げるように走り続ける。

 

 

 「ぐうっ……! がっ…!?」

 

 

 不意に足をもつれさせ、青年は地面に対してなんの受身を取れないまま倒れ臥してしまった。

 手負いの身体は自由が利かないのだろう、身を起こすだけですらままならない様子だ。

 

 「くそっ……こんな、ところで……寝ている、暇、など……ッ!」

 

 動かない身体を無理やり引きずるように、這ってでも前に進まなければならないといったように。

 土に汚れ、泥に塗れても、決して歩みを止めるわけにはいかない。

 そんな鬼気迫る形相で、満身創痍の青年は必死で足掻き続けて、藻掻き続ける。

 

 「俺は……写しであっても、偽者なんかじゃ…ない……!」

 

 譫言(うわごと)然とした、誰へ向けたものでもない青年の言葉。

 息も絶え絶え、視界も靄がかかったように不鮮明で、それでもなお必死に前へ。ただ、前へ。

 進み続ける青年は、己を鼓舞するかの如く、祈りを捧げるかの如く、うわ言のように呟く。

 

 「ここで止まれば……俺は……! あの人に……報いることが……!!」

 

 

 

 

 

 

 「んっん~。残念だねェ、お兄ちゃん。そいつはちょっと、無理そうだなァ」

 

 「!!」

 

 

 

 

 

 不鮮明な青年の視界に、突然ぼんやりと映り込んだ影がひとつ。

 

 鼻歌でも歌うように、羽虫でも潰すように。

 命を嘲弄するかような軽薄で酷薄な、ぬめりとした声が青年の耳朶を打つ。

 

 「その傷でここまで逃げおおせられたのは、まァ大したもんだと思うがね? いかんせん俺ァ、ちっとばっかし鼻が利くもんでねェ。そんでもってお兄ちゃんのニオイ、追っかけさせてもらったってワケさね」

 「化け物が……。恐ろしく強い上に、鼻もご立派とは……いよいよもって、本当にケダモノじみてやがるな……」

 「お兄ちゃんにそれが言えた義理かィ? 見たところお兄ちゃんだって、ヒトじゃあ無いんだろう? まァもっとも、あんまり大したことは無かったみたいだがね」

 

 クックックッ、と喉の奥で愉しそうに笑い声を上げる影の主。

 青年は歯噛みして、なんとか立ち上がろうと全身に力を込めるが、とうに限界を超えていたその身体は、もはや青年の言うことを聞かなかった。

 

 「それにしても……くんくん。さっきからちょっと気になってることがあってね、お兄ちゃんのニオイなんだが……くんくん……どっかで嗅いだことあるような気がするねェ。さて、いったいなんだったっけか?」

 「……なんの、話だ。俺は貴様のような化け物の知り合いなど、全く覚えは無いが?」

 「うーん……くんくん……えーと、こいつァたしか……。あァ、なるほどね。分かったよォ」

 

 スンスンと鼻を鳴らしていた影の主は、にわかに合点が行ったような声を出した。

 倒れ伏す青年を睥睨した影は身を近づけ、青年の耳元、囁くように、嘲るように宣った。

 

 

 

 

 

 「こいつァ、偽物の香りだ。安っぽくて惨めったらしい、誰にも必要とされない哀れな紛い物のニオイだァ」

 

 「……………ッ!!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、青年の頭の中は真っ白になった。

 あらゆる思考が、あらゆる痛みが、全てまとめて消し飛んだ。

 

 

 

 

 「………貴様ああああああああああ!!!!!!」 

 

 

 

 

 全身の血が、血という血が、液体窒素のように冷たく凍てつく感覚。

 ついで、それらが一瞬で沸騰し、狂おしいほどに熱く、全身を焼き尽くすような感覚。

 そんな感覚をどこかで覚えながら、青年はわけも分からずに咆え哮った。

 どこにそんな力が残っていたのか、轟然と身を跳ね上げ、衝動のままに執念のままに、握り締めた刀を凄まじい勢いで振るい放った。

 

 

 

 

 「ああああああああ…………!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ―――――ズパン――――――

 

 

 

 

 

 「………あ………」

 

 

 

 

 

 もはや光すら失い始めた視界の隅、青年は宙を舞う何かをその目に幽かに捉えた。

 

 質量を持って回転する、鮮やかな紅を撒き散らしながら宙を舞う、ナニカを。

 くるくると回転し、やがてぼとりと鈍い音を立て、地面に落ちてくの字を象る”ソレ”を。

 

 

 

 「……足りないねェ。全くもって足りないよ、兄ちゃん。それっぽっちじゃあ、俺には届きやしないよ。それっぽっちの憎しみじゃあ、俺には永遠に焼き付きやしない」

 

 「…………ある…………じ……」

 

 

 ドサッ、ゴドン。

 

 

 朦朧とする意識の中、再びゆっくりと地面に臥した青年は、何かに突き動かされるように言葉を紡ぐ。

 ここには居ない誰かへと、誰かのもとへと、届くようにと。

 

 

 「……す………ま………な………」

 

 

 「もう飽きちまったァ。いい加減去ねや、兄ちゃん」

 

 

 

 耳障りな蠅を叩き落とすような調子で、影の主はつまらなそうに言い放った。

 

 

 

 ―――――ザン――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 「はぁ? 稽古に付き合えだぁ?」

 

 

 心底面倒臭そうな調子で、銀時はうんざりと問い返した。

 

 本丸、正門前広場。

 昼飯後のおやつまでの時間を、さてどのように過ごしたものかと考えあぐねながらぷらぷらと邸内を散歩していた銀時は、そんな一声に呼び止められたのだった。

 銀時を引き止めたその男は、頷きと共に有無を言わせぬ口調で続ける。

 

 

 「そーだ。おたく、どうせ暇なんだろ? ここはひとつ、剣を通じて和睦を深めるとしようじゃねえか、なあ?」

 

 

 その男を一言で表すなら、『野太刀のような青年』。

 そう表現するのが、もっとも相応しいだろう。

 鋭く荒い攻撃的な双眸、眉間から左頬に大きく走る傷痕と、風貌からして武骨で荒削り。

 敵を叩き斬り捨てる以外に能のない、そして興味もない。

 そんな青年―――同田貫正国は、どうにもちゃらんぽらんとしてまるで掴み所の無い、この坂田銀時という新入りを、彼なりのやり方で見極めようとしていたのだった。

 

 「なに? 要するにコブシで語り合おうぜ的な? オメーいったい、いつの時代のスポ根ボーイだよ。今時そういう暑苦しいの、ジャンプでも流行らねーぜ?」

 「男は暑苦しくてナンボだろうが。それに、口でペラ回すしかできねぇような奴は、男の風上にも置けねぇタマ無しだろうよ、違うか? それともアンタ、もしやそういうクチだったか?」

 

 いまいち乗り気でない空気を醸し出す白髪パーマを、攻撃的な言動で挑発する同田貫。

 それを受けた銀時は特に気にした風もなく、ヘラリと余裕綽々にその挑発へと返す。

 

 「今の時代、口が回らない男はロクに出世できやしねーよ。万年係長で終わりだよ? だいたいテメー、昨日イノシシ大暴走してた時にあっさり跳ね飛ばされてた奴じゃねーか」

 「ぬ゛っ!? あ、いやぁ……あれは……そのう……」

 「たかがイノシシにすら届かないような軟弱な剣で、いったいおたく何を語るつもりだったのかなぁ? うん?」

 「テ、テメェ…! 言わせておけば…!!」

 「うっわダッサ! 実力が伴わないのに喧嘩ふっかけちゃってるよこの人! 超ダッサ! 噛ませ犬丸出しだよこの人! めっちゃダッサ!」

 「ぐああああ!! うるさいうるさい黙れ黙れ! もう決めた! 親睦なんてクソ喰らえだ! 今すぐこの場で叩っ斬ってやらぁ!!」

 「えー? なんて言ったっけぇ? 『五分も切り込みゃあ、猪も死ぬ……』だっけぇ?」

 「うわあああああああ!!!! 言うなあああ!!!! 忘れろおおおお!!!!」

 

 手をメガホンにして、昨日の同田貫の勇姿を本丸中に喧伝しようとする銀時を、茹でだこの如くに顔を真っ赤にしながら、抜き身の刀を手に悪鬼の形相で追い回す同田貫。

 そんな彼らへと向かって、やれやれと嘆息しながら歩み寄ってくる者がまたひとり。

 

 「アンタら、ずいぶん見せつけてくれるじゃないのよ。真昼間からイチャイチャしちゃって、お姉さんも混ぜとくれよ」

 「「んなワケあるか!!」」

 

 おおう、と両手を挙げて身を退く素振りをする垂れ目の女、審神者・十束。

 フーフーと息を荒げ、射殺さんばかりの眼光を放つ同田貫と、余所見しながら鼻をほじる銀時へと、彼女は取りなすように語った。

 

 「あんまり、たぬきをイジメないでおくれよ銀さん。この子は純情だからすぐ本気にしちまうんだよ。絶対、女運が無いタイプだとアタシは見た」

 「ほっとけや! 斬るぞコラァ!」

 「それに銀さん、なんだかんだ言ってもやっぱり、口だけの男はみっともないと思うよ? ここはいっちょう、器のでかいところを見せたらどうかね?」

 「へっ、悪いがその手には乗らねーよ。なんだかんだ言って銀さんをその気にさせるつもりなんだろうが、そうは桑名の焼きハマグリってやつだぜ」

 「あらら、ひょっとして銀さん、ビビっちゃってるのかい? まー、いままでロクな活躍してこなかったしねぇ。”主人公”なのに」

 

 スタッカート付きでやたら強調され発音された『主人公』という単語に、ぴくりと反応する白髪パーマ。

 心なしか目が泳ぎ始めた銀時は、気持ち早口気味に弁を並べ立て始める。

 

 「バッカオメー、そいつはアレだ。ヒーローは遅れて来るとかよく言うじゃん? ジャンプのヒーロー銀さんは常にスロースタートなんだよ。レジギガスなんだよ。それに、四六時中バトってる銀魂なんて、銀魂じゃないからね? サンライズ版アニメ銀魂だからソレ」

 「素直にサンライズ様の御力と第四期放映に感謝しなよ。にしたってねぇ、いくら『いつもは不真面目だが、決めるときにはビシッと決める男』とか言われてても、この話もついに三話目だよ? 銀魂本編だって第一訓でそれなりに大立ち回りしてたっつーのに、この話に至っては今の今まで”主人公”らしいカッチョイイ画、一個も撮れて無いじゃないのさ」

 

 鋭く核心に迫りゆく十束の言葉に、もはや傍目からでも明らかなほどにしどろもどろの体を晒し始めた銀時は、鈍い汗をかきながらそれでも苦し紛れの言い訳を続けた。

 

 「え~、おっかしいなあ……。そんなはずは………あっ! あるじゃねーかほら! 第二話の最後あたり! あそこなんか、銀さんかなりの侍ソウルを見せてたんじゃないの!? 本物の侍録れ高、結構録れたんじゃねーの!?」

 「都合良く過去を捏造するんじゃないよ。だいたいあそこだって、結局役に立たなかったって長谷やんがオチつけてたじゃないのさ。あーあ、どうしよう? このままだと銀さん、完全に三枚目だよ、ぐーたらちゃらんぽらんだよ? 天下の”シュジンコウ”なのに!」

 「そうだそうだ。シュジンコウなのに」

 

 プククと小馬鹿にしたように意地悪く笑む垂れ目の女に、それに便乗して隣で勝ち誇ったような顔をする同田貫正国。

 それらを前に、俯いて肩をプルプルと震わせていた銀時は、もう我慢ならんといった調子でついに青筋を浮かべてブチ切れた。

 

 「うっせーぞテメーらァァァァァ!!! 上等だコラァァ!! 親睦でも新八でもなんでもやってやらァ!! オメーそこのツギハギフェイス! 侍に喧嘩売ったらどうなんのか、キッチリ教えてやるから覚悟しとけやボケェ!!」

 「へっ、ようやく闘る気になったかよ。いいぜ、テメェこそこっぴどく負けた後で、みっともねぇ吠え面なんか掻くなよ?」

 「あんだとぉ? イノシシに吹っ飛ばされたザコなんざ、一発でシメーだコラ。テメー、あんまり舐めたクチ利いてっとアレだかんな? 今度からお前のこと『間 黒男(はざま くろお)』って呼ぶからな?」

 「もしかしてツギハギフェイスから来てんのかソレ!? つーか誰がブラックジャックだコラァ!!」

 「ついでに、俺のことは『本間先生』と呼べ」

 「ヤダよお前みたいな命の恩人!」

 

 そんなこんなで、ギャアギャアと喚き散らしながら銀時と同田貫は、二人揃って正門から外へと繰り出して行った。

 バイバイと手を振ってそれを見送った女審神者も、特に外に居る理由もなかったのでそのまま執務に戻ろうと邸内に引っ込もうとした。

 

 ――した、のだが。

 

 

 「……おや? 誰か、来る?」

 

 ちょうど今出て行った銀時たちと入れ違いになるように、本丸の方へと接近してくる影が遠目にひとつ現れたのを、女審神者は見止めたのだった。

 はて、と首を傾げた彼女は、脳内に本日のタイムテーブルを広げてみる。

 第二から第四までの部隊は遠征に出かけているが、まだ帰還する予定の時刻ではない。

 控えの刀剣たちも皆、今日は邸内でくつろぐつもりだと言っていたし、外出の申し立ても特に届いていない。

 無断で出て行った者が居るならその限りでは無いが、そういったメンバーの行動は既に把握済みだ。具体的に言えば、泥酔して千鳥足のままふらふらと出歩く次郎太刀や、暇さえあれば本丸近くの林で鍛錬に勤しむ同田貫などである。

 ならばあれはいったい誰だろう、と佇んで見守る女審神者の元へ、ついに影はその姿を視認可能な範囲にまで到達していた。

 あらまぁ、と目を見張った垂れ目の女は、珍しいものを見たといった風な声を上げた。

 

 「キミは、たしか狭霧守(さぎりのかみ)審神者のところの……?」

 

 

 

 

 「はい! 二十八支部所属の、脇差系刀剣男子『鯰尾藤四郎』です! お久しぶりです!」

 

 

 

 その青年――否、いっそ少年といっていいほどに年若いなりをしたその黒髪の男の子は、一礼と共に元気よく、女審神者へと挨拶をした。

 

 「やっぱり。うんうん、久しぶりだねぇ。今日もホント……あぁ、いいショタだねぇ。じゅるり……」

 「目と口と声が若干以上に怖いですね! そちらもお元気そうでなによりです!」

 

 ゲヘゲヘと締まりのない笑みを浮かべてニヤケ始めた女審神者に、あくまで爛漫に返す鯰尾。

 彼女は自分の本丸には属していない見目麗しい美少年である鯰尾に対して、妙に熱っぽい視線を送っている。

 彼はこのどうにもがさつで色気のない女審神者に会うのは今回が初めてではなかったが、顔を合わせるその度に、いやに生々しい欲望の篭った彼女の舐め回すような視線に晒されていたのであった。

 オッサンかよ、と心の中で軽くツッコミを入れて、鯰尾は挨拶もそこそこに本題へと入った。

 

 「今日は、我が主より伝令を授かって参りました! 火急の報であるとのことです!」

 「ふ~ん、急ぎの用事~? キミ一人早馬で来たってことは、割とマジな用件なのかな~?」

 

 聞いているやらそうでないのやら、腑抜けた面とトーンで生返事をする女審神者へと、鯰尾はやや真面目な面持ちに改まって、その旨を告げる。

 

 「第一級の特例事態です。それも、かなりヤバイ話でして。人払いを、お願いします」

 「へぇ……?」

 

 さすがに事態の重要性を察したのか、女審神者は片眉を上げ、おもむろに真剣な面構えへと変じたのだった。

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 一方、そのころ。

 

 本丸からやや離れた場所にある、ひっそりとした竹林。

 林を拓いて造られた簡易的な修練場の中心で、竹刀を手にじっと睨み合う二人の男の姿があった。

 

 「ぜぇ……はぁ……。天パァ、アンタ、結構やれるじゃねぇか。見直してやるぜ……」

 「ケッ……ったりめーよ。オメーの方こそ、なかなかパワーあんじゃねーか……」

 

 どちらも既に息は上がっており、額にも汗が滲んでいる。もう何合か打ち終えた後なのだろう。

 構えを解いて首を鳴らしながら、同田貫は水筒を取りに行くため銀時へと背を向け、得意げに背中で語る。

 

 「あんなもん、まだまだ序の口だ。俺の本気は、そりゃもうスゲェぜ?」

 「なんだよ、勿体ぶりやがって。ひょっとしてなんか持ってたりすんの? 伝家の宝刀、必殺技的な?」

 「アンタなら、あるいはって話だ。俺の十八番を、アンタなら受けられるかもしれねぇ。ま、戦場で拝む機会があったら、せいぜい肝を落っことさねぇように覚悟しておくこったな」

 「え? マジであんの、必殺技? イターイ! イタイイタイイターイ! この子超イタイよー! ものっそい恥ずかしいよー!」

 「う、うるせえ! そんな軟弱な代物じゃねぇっつーの! 俺の血と汗、俺の存在そのものを体現した、渾身の一振りなんだよ俺のは!」

 「ウッソ、ひょっとして技名とか付けちゃってる感じ? †荒ぶる魂の一閃†、とか? うわー黒歴史絶賛生産中だよこの子!! 将来絶対身悶えするよー!!」

 「アンタの歴史を今ここで終わらせてやろうか!?」

 

 怒鳴りながらも、律儀に銀時の分も水筒をサーブする同田貫。

 しばし、喉を鳴らして水をがぶ飲む音だけが、閑静な林に響き渡る。

 

 「ぶはぁっ……。おーし、次いくぞ」

 「あ、俺パス。ちっと休むわ。てか、俺はもういーや。黒男くんはひとり遊びでもしてて」

 「ケッ、情けねぇ野郎だな。いいさ、俺は勝手にやってるぜ」

 

 先に水を飲み終えて喉を潤した同田貫が離れた場所で竹刀を振るうのを、ぼんやりと眺める銀時。

 

 「フッ……! ハッ……!」 

 

 仮想敵との打ち合いをしているのだろうか。

 連撃で竹刀を振り回すその合間に、時たま防御や回避の動作が入っている動きだ。

 

 (にしても、荒い剣だわな……)

 

 打ち合っていたその時にも感じていたことではあったが、彼――同田貫の振るう剣は、洗練さや上品さをかなぐり捨てた、どこまでも武骨で荒くれた剣だ。

 道場剣法のような型や作法を度外視した、戦場でただ相手を斬り伏せるための血生臭い野晒しの剣。

 まさに彼そのもの、彼の本質そのままをさらけ出したが如き剛の剣。

 そんな印象を、銀時は受けていた。

 

 (ま、野暮ったい喧嘩剣法ってのは、俺も人のことは言えねーか)

 

 思い出したくもない、屍山血河の忌まわしき記憶が脳裏に浮かび上がってくるのを、自嘲気味に銀時は打ち消した。

 一心に竹刀を振り続ける同田貫へと、銀時は何とはなしに話の水を向ける。

 

 「よぉ、お前さ、なんだってそんなに必死なワケ?」

 「あぁ? どういう意味だ?」

 

 意味が分からないといった感じで、稽古の動きを止めないまま同田貫は銀時へと聞き返す。

 なんて言ったもんか、と頭を掻き毟りながら、白髪は言葉を探すように続ける。

 

 「なんつーか、こう……必死さ? じゃねーや……焦り? みてーなのが、オメーからビンビンに発せられてるような気がしてさ。違う?」

 「……へっ、よく見てんじゃねぇか天パ。死んだ魚みてぇな目ん玉してるくせによぉ」

 「んだと、コラ」

 

 横薙ぎに一閃、飛び退いて竹刀を水平に構えて防御、軸をずらして袈裟懸け。

 あくまで動きは止めず、片頬だけで同田貫は笑んだ。

 そんなんじゃねぇよ、と彼は語り始める。

 

 「俺はただ、強く在りてぇ。ひたすらに、強い刀で在りてぇ。それだけだ」

 「オイオイ、まーたこじらせちゃってんの? 強くなりたい誰よりも強くってオメー、リュウさんかよ。波動拳でも出せるようになりてーの?」

 「……俺たちゃ、武器だ。どこまでいっても、武器でしかねぇ。喋って、息して、臓腑が動いちゃいるが、それでも、つまるところは武器なんだよ」

 「……”刀剣男子”、だっけか?」

 「あァ、そのとーりだ」

 

 鍔迫り合い、膂力で強引に圧し勝ち力ずくで相手の刀を跳ね上げ、そこから連撃、連撃、休むことなく連撃。

 だから、と彼は続ける。

 

 「武器である以上、強くなけりゃ話にならねえ。弱い武器に、意味なんぞねぇ。見た目だけの武器なんぞに、飾られてるだけの武器に、意義なんぞありゃしねぇ……」

 

 連撃、連撃、連撃、連撃。

 休むことなく、弛むことなく。実直に、愚直に。

 

 「刀はな、床の間に飾られた瞬間に死ぬんだよ。戦に出られなくなったら、敵をぶった斬れなくなったら、そこで死んじまうんだよ……!」

 

 だから、強く。もっと強く。

 飽きることなく強く。倦むことなく強く。

 強く、強く、強くなり続けるだけ。

 

 斬って、斬って、斬り続けるだけ。

 

 「俺は、強くなりてぇんだ……!!」

 

 天蓋から、地平へと。

 星をも落とせと、岩盤をも砕き割れと。

 荒々しく、猛々しく、一直線に大上段に。

 

 

 ―――兜割り。

 

 

 

 獰猛に歯を剥き、振り返った同田貫。

 

 「それが、この俺の存在理由。これが、この俺の、魂の………!!」

 

 

 

 

 

 

 「はどうけーん!!」

 

 

 

 

 

 同田貫が振りさけ見た先、銀時はあさっての方角を向いて、奇っ怪な構えを作っていた。

 足を前後に大きく開き、両の手首を合わせて掌を広げ、そこから何かを放とうとするかのような、そんな構えで、

 

 「はどうけん! 違うな、もっとこう……はどぉーうけーん!」

 「…………」

 「ダメだ、なんか違うな。これじゃケンの波動拳だ。使えねー方の波動拳だ。もっとこう、使える感じの勢いで……はどうけーん!!」

 「…………」

 「お、いい感じじゃね? はどうけん(弱)! はどうけん(中)! はどーうけーん(強)!」

 

 

 「昇龍拳ンンンンン(EX)!!!!」

 

 「ぬわんだとぉぉおうう(ベガ)!?」

 

 

 アッパーカットを振り抜いて跳び上がる同田貫と、天高く真上へ吹き飛ばされる銀時。

 ドシャッ、と汚い音を立てて地面に落ちた白髪天パへと、同田貫は青筋を立てて怒鳴り散らした。

 

 「聞けよお前!! 俺、結構カッコイイこと言ってたんだぞ今!!」

 「あだだ……いや、なんか悦に入っちゃってるとこワリィかなぁって、邪魔しないように隅っこの方で大人しく波動拳の練習でもしようかと思って」

 「なんで今このタイミングで波動拳の練習!? お前、人に話振っておいてソレはねぇだろ!! なんか一人で騒いじゃって、むっちゃ恥ずかしいじゃねぇか!!」

 「大丈夫だって、お前の強さへの飽く無き求道の心、見事なもんだと思うぜ。大丈夫だ、お前は立派なリュウだ。ケンみてーなチャラ男とは違う、武骨で味のある男だ!」

 「さりげなくケンdisってんじゃねぇよ! なんだよ! ケンに恨みでもあんのお前!?」

 

 尻を払って立ち上がった銀時は、どこか遠くを見るような調子で言う。

 

 「ケンってさ……勝ち組じゃん? イケメンだし、セレブだし、嫁さんも貰って子宝にも恵まれてやがる。めっちゃ羨ましいじゃねーかチクショー!!」

 「僻みすぎだろお前!!」

 「それに引き換えリュウときたら……。職なし、宿なし、イライザも無し。ケンが夜のストリートファイトしてる間に、リュウはどんどん魔法使いへの道を歩み続けてるんだよ? マスターズが夜の格闘王になってんのに、リュウはひとり寂しくマスター○ーションだよ? こんな酷い話は無いよな、リュウ?」

 「結局、俺に喧嘩を売りたいだけなんだろお前!! 上等だゴラァ!! 今すぐ兜割りだ腐れ天パァァァ!!」

 

 

 抜き身の刀を手に、悪鬼の如き形相で銀時を追い回す同田貫。

 竹林の中、荒々しい怒号が、むなしく辺りに広がるのを耳に入れた者は誰ひとり居なかった。

 

 

 

 

 ―――居なかった、はずだった。

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 「なんだって? 部隊が、壊滅させられた?」

 

 

 

 本丸、審神者執務室。

 その縁側。

 

 信じられないといった面持ちで、垂れ目の女審神者は眦を釣り上げて驚きを顕にした。

 驚愕冷めやらぬ調子で、問い詰めるように矢継ぎ早に言葉を投げかける。

 

 「冗談だろ? それも審神者の中でもやり手のアンタのとこの、更に選りすぐりが集まった第一部隊がかい? もうそこまで来ると、ちょっとしたホラーですらあるねぇ……」

 『信じがたいことだが、残念ながら全て真実なんだ。十束くん』

 

 彼女が語りかけている相手は、縁側に面した中庭、その一角にある小さな池、そこに映り込む風景。

 もっとも、その小池に映りこんでいるのは、垂れ目の女審神者でも、側に控えている黒髪の美少年でもない。

 

 「まぁアンタは、ここまで大層な仕掛けをして、盛大なドッキリでもかまそうってタマじゃあ無いわな。二十三支部付管理官、狭霧守(さぎりのかみ)審神者殿?」

 

 ”別の場所”、”別の次元”に位置する、ここではない本丸の風景。

 そこに居る、別の支部の男審神者へと向かって、垂れ目の女は皮肉るように問いかけた。

 それを受けて、弱ったなぁと頭を掻いた男は困ったように続ける。

 

 『分かっているなら、そう苛めないでくれないかな。秘匿性の高い、刀剣男子仲介の通信術式をわざわざ使ったのは、それ相応の事態だと踏んだからなんだよ。巫山戯ている場合じゃ無いんだ、真面目に聞いてくれ』

 「あいあい分かった分かった。もう茶々は入れないよ。まずは、状況を詳しく教えておくれよ」

 『うん、というのも……』

 

 男審神者、狭霧守は重々しく口を開いた。

 

 事の発端はなんということはない、いつもどおりの出撃中であった。

 彼お抱えの第一部隊は、いつものように目的地に向かい、いつものように敵である遡行軍と交戦し、いつものように危なげなく勝利して、いつものように本丸へと帰投する、そのはずだった。

 しかし、その中途、帰り道で事件は起こった。

 

 『圧倒的、そして、絶望的だったそうだ……』

 

 突如、何者かに襲撃を受けた第一部隊は、瞬く間に壊滅した。

 通信の記録から逆算すると、正体不明の敵と遭遇して、ものの数分の出来事。

 ものの数分で、腕利きの刀剣男子六振りで構成された部隊が、儘滅させられたのだ。

 通常では、到底ありえない出来事だ。

 だが、それに輪をかけて更に異常なのは、

 

 「下手人は、たったひとりだったってのかい?」

 『ああ……』  

 

 その凶行を成し遂げた正体不明の戦力は、たった一人のバケモノであったこと。

 それも、今まで確認されていない、全くの未知の存在であるということ。

 敵の正体、理由。その他諸々のあらゆる事項は、何一つ不明。

 残ったのは、壊滅させられた第一部隊の亡骸のみ。

 全てが、不気味。全てが、不条理な事件だった。

 

 「どうにも、ぞっとしないねぇ……あまりにも、気味が悪すぎる」

 「はい、おそろしい話です……」

 

 顔をしかめて思案顔になる女審神者と、傍らで通信術式を手繰っている鯰尾藤四郎。

 そんな彼らに、水面の向こうの狭霧守が嘆息と共に続ける。

 

 『不幸中の幸いは、壊滅した第一部隊の生き残りをどうにか回収できたことだけだ。本当に大したものだよ、彼の生存能力は』

 「ああ。たった一人だけ、逃げ帰ってこれたっていう子のことかい?」

 『うん。彼――山姥切国広は、こちらの本丸で集中治療を行っている。危ない状態だが、なんとか一命は取り留められるだろう……』

 

 そう言って、深く、深く息を吐き出す男審神者。

 よくぞ帰ってきてくれたと、そういった面持ちだ。

 十束もまた、本当に良かったと心から安堵していた。

 そんな修羅場にあって、生きて帰ってきてくれたこと。

 刀剣男子たちを預かる審神者である以上、十束には彼の心情が他人事とは思えないほどに、ひしひしと伝わっていた。

 そんな感慨を、ひとまず脇に追いやって、女審神者は努めて冷静に話を再開した。

 

 「詳しい事情は、彼が快復してから聞いてみるとして……。狭霧守さんよ。いい加減、話しちゃあくれないかね?」 

 『……何かな?』

 「アタシんとこに、この話を持ち込んだ理由について、だよ」

 

 眼光鋭く、垂れ目の女審神者は有無を言わさぬ調子で問いかけた。

 確かに、事は異常中の異常。緊急中の緊急事態だ。

 であればこそ、こんなホットラインを用いるより先に、やるべきことがあるはずなのだ。

 

 「こういう話は、まずは大本営に上奏するのが筋ってもんじゃないのかい? そう、『御前会議』でも、なんなら内閣府を通したって構わんだろうさ。それを、アタシらみたいな窓際支部にいの一番に伝えた理由は、いったいなんだってんだ?」

 

 細められた垂れ目の奥、ぎらりと鋭い眼光に、水面の向こうの男は動じることなく静かに答えを返した。

 

 『……”御前会議”には、追って僕の方から話を通しておくつもりだ。でも、なにより優先すべきは、そういうことじゃない。そういうことじゃ、ないだろう?』

 「……何が言いたいってのさ?」

 『僕たちが何より優先すべきは、僕たちを信じて仕えてくれる彼ら、刀剣男子の安全についてだ。僕は、そう考えている。君は、そうじゃないのかい?』

 

 それは、これまでにも何度か聞いたことのある、彼のモットーだった。

 ”彼らは、刀剣男子はモノなんかじゃない。モノとして、扱うべきでは断じてない”

 例え他の審神者たちからどれだけ弱腰だと、偽善者だと揶揄されても、そう公言してやまない彼のモットーが、それであった。

 そんな彼が、何より優先させたいもの。

 

 

 

 「………まさか………!!」

 

 

 

 そこまで考えて、十束は愕然とした思いに駆られた。

 頭が真っ白になり、心拍が急速に躍り出す。

 頭では理解できていても、心がそれに追いつかなかった。

 不快な動悸を抑えながら、もはや呆れるほどに明確な答え合わせを、彼女は試みた。

 

 「狭霧守……アンタが言いたいことってのは、つまり………」

 

 

 

 

 

 

 

 『………君の部下が、君の刀剣男子たちが、危ない………!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 ――――ザリッ。

  

 ザッ、ザッ、ザッ。

 

 

 

 「………ん?」

 「なんだよ黒男くん。いきなり真顔になって立ち止まるから、お漏らしでもしちまったのかと思ったぜ。だから水がぶ飲みすんなって言ったじゃねーか。言わんこっちゃねー」

 「馬鹿、そんなんじゃねぇ。………天パ、お前気づいてるか?」

 「あ?」

 

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 ザリッ、ザリッ、ザリッ、ザリッ。

 

 「………いや、特になんも。なに、何か居んの?」

 「……じゃあ、もひとつ確認だ。天パ、お前ここに来ること、誰か他の奴に言ったか?」

 「そんな暇あるわけねーだろ。来るまでずっと、テメーと休みなく口喧嘩してたんだからよ」

 「………だよなぁ。だったら、残る可能性は、たったひとつだ……」

 

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……!

 ザリッ、ザリッ、ザリッ、ザリッ……!

 

 

 

 

 

 「そこのテメェ!! いったいどこのどいつだ!! コソコソ隠れてねぇで、大人しく面ァ見せやがれ!!」

 

 

 

 

 ジャキリ、と刀の切っ先を藪の一角へと向けて突きつけ、同田貫は荒々しく一喝した。

 

 「嘘っ!? マジで!? どこ、どこ!?」

 

 彼に遅れる形で、慌てて木刀の柄に手をかけながら、銀時もまた周囲を警戒するかのように見回した。

 銀時の目には、別段どこにも異常のない先程までと変わらない竹林にしか見えなかったが、真剣を構える同田貫には、きっと違う光景が見えているのだろう。

 同田貫が見据えている先を、銀時もそれに倣って目を凝らした。

 そんな彼らの前で、不意に竹林がざわつき始める。

 ざわり、ざわりと。

 

 

 

 ―――ぞわり、ぞわりと――― 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 「おいおいおいおい、冗談じゃないよ洒落にならないよ……よりにもよって、何だってこの次元に……!?」 

 

 頭を抱えたくなる衝動を必死に鎮めて、女審神者は己に冷静であることを強いた。

 ここで自分ひとり狼狽えたところで、事態は何も変わりはしない。

 落ち着いて、ひとつずつ不安の種を潰していくだけだ。そう、自分に言い聞かせる。

 

 「さすがに本丸までは近寄っては来ないだろうから、待機組は大丈夫だろう……。心配なのは遠征部隊だけども、とりあえず今のところ安全だっていうのは、ビーコンで分かってる。あの子らには、急いで帰投するように命じるしかないか……」

 

 縁側をうろうろしながら、十束は指折りしながら懸案事項を処理していく。

 そんな彼女に、横で控える鯰尾が遠慮がちに問いかける。

 

 「あのう………俺、ちょっと気になってることがあるんですけど」

 「え? なんだい? お姉さんのスリーサイズ? もー、こんな時にお盛んなんだから! いいとも、上から順に………」

 「いや、それはまたの機会に……えーっと、俺、ここに来る途中ですれ違った人たちが居るんですけど、その人たちってもしかして……」

 「あ……」

 

 鯰尾の指摘に、脳天をガツンと一撃やられたような衝撃を十束は覚えた。

 彼らのことを、すっかり忘れていた。

 そして現状、彼らが最も危ういポジションにあることを、同時に彼女は悟った。

 

 「やーばいぞ……超ド級に、ヤバイよこりゃあ………!」

 

 やおらに懐から取り出した携帯端末を凄まじいスピードで操作しながら、女審神者は水面に映り込む男へと怒鳴るように問いをぶつけた。

 

 「正体不明の襲撃者! 下手人について、何かもっと分かってることはないのかい!?」

 『……見た目が、山姥切の情報から、見た目が判明しているんだ』

 「詳しく! そんでもって、早く!!」

 

 がなり立てる垂れ目の女へと、片腕を無くして帰ってきた彼の部下が、決死の思いで掴んできた情報を、狭霧守は伝えた。

 

 『そいつは―――そのケダモノは、巨大な刀を操っていたそうだ。結ばれた両の瞳は決して開くことなく、それでも全てを把握しているかのように、全てを嗅ぎ分けるように、執念深く追いすがってきたそいつは、そいつの刀は――――』

 

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 「紅、色………?」

 

 

 

 

 

 同田貫は、眼前にずるりと現れ出でたその人影に、そんな感想を覚えた。

 巨大な、刀。

 生きているかのような、長大な刀。

 生きているかのように、ドクンドクンと奇妙に蠢く、右腕の極大の刀。

 紅色に鳴動する、その邪悪で醜悪な刀――――

 

 

 

 

 「”紅桜”……!?」

 

 

 

 

 呻くように、この世のものでは無い代物を目にしたかのように、銀時はくぐもった声でそう絞り出した。

 それは、彼にとって因縁とも言える”刀”。

 断ち切った筈の、因果の”刀”。

 そして、斬り伏せた筈の―――――

 

 

 

 「テメー……どうして、生きてやがる………!?」

 

 

 

 斬り捨てた筈の、宿業の”(かたな)”。

 散り去っていった筈の、紅色の桜(バケモノ)

 

 

 ニタリと妄執満面の笑みを浮かべた桜は、待ちわびたとばかりに声を震わせて、歓喜を高らかに謳った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「久しぶりじゃあないかィ………白夜叉の旦那ァ………!!!」

 

 

 

 「岡田、似蔵………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに、運命の歯車は軋みを上げて動き出す。

 噛み合わなかった筈の、切り結ぶ筈の無かった刀たちが。

 今、この場において、出逢ってしまったのだった。

 

 

 死合って、しまったのだった。

 

 

 




そもそも、刀剣乱舞と銀魂を絡ませる前から、『紅桜って妖刀だし、刀剣乱舞に出てもおかしくなくなくない?』などと考えていたことがありました。
紅桜篇は結構好きなので、気合が今から漲る思いです。
では、また次回。
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