やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー 作:kue
長い長い夏休みが終わり、学校が始まる日。俺は……寝坊しました。
疲れていたのかいつも以上に深い眠りに入ってしまい、起きて時計を見た瞬間に凄まじい衝撃が走ったがとりあえず、落ち着いて準備し、事故に遭わない様に気を付けて学校へ向かったところ、なんと1限目を大きく超えて3限目の始まりに到着ししてしまった。
まぁ、良いだろう……そう考えていた時期が俺にもありました。
「なん……だと」
教室に入った瞬間、黒板に驚愕のことが書かれていた。
『文化祭実行委員・比企谷八幡』
「あぁ~それなんだが授業が始まるというのにグダグダ決めていたのでな。私の独断で君を推薦した結果、満場一致の支持を受けて見事当選したのだよ」
恐らく先生も俺が通るはずはないと思っていたのだろう。
いったいどこのどいつが手を挙げたんだ……満場一致だから全員か。
平塚先生は申し訳なさそうな顔をしながら俺の耳に口を近づけてくる。
「すまないな。だが君も何らかの仕事につかねばクラスの反感を買うだろう」
「……はぁ。分かりました。やります」
確かに全員が文化祭の準備をしているさなか、俺だけ何もやっていないのであれば反感を買うのは間違いない。
「残りは放課後に決めたまえ。では授業を始める」
放課後の教室の空気は混濁していた。
文化祭実行委員の女子が決まらず、早く帰りたいという気持ちがイライラに変わり始めているのだ。
「このまま決まらないとじゃんけん」
「はぁ?」
ルーム長の言葉に三浦がいち早く反応するとルーム長はおろか周囲の奴らが女王の機嫌を損なってはいけないと判断したのか全員が三浦の方向から目を逸らした。
「……その委員って大変なの?」
「普通にやったら大変じゃないと思うけど……由比ヶ浜さんやってくれないかな?」
嘘をつくな。超大変だぞ。人と話さなきゃいけないし、グループ作ってメール連絡だってしなきゃいけないんだぞってこれは俺の大変さでした。てへっ★
「え~? 結衣ちゃんやるの~?」
「え?」
突然上がった声の方向には相模の姿があり、チラッと俺の方を見ると嘲笑の笑みを隠さない。
「仲良し同士でいい感じじゃん。きっと2人ならうまくいくよ~」
傍から見ればそれは文化祭実行委員の仕事についていっているのか、それともまた別のことについていっているのか、判断に困る言い方だ。
その証拠に相模の周りの女子たちはニヤニヤ、男子たちは俺に冷たい視線を送ってくる。
「うけるわ~。まじでうける」
ざわつく雰囲気を一閃する声。
「結衣はあーしと客呼び込みに行くっていうのにまじうけるわ~……どちらかといえば誰とは言わないけどそいつがやった方があーし的には良いわ~」
三浦はそんなことを言いながらチラッと相模を睨み付けて牽制し、相模はその牽制がクリーンヒットしたのか顔を俯かせている。
「ということはリーダーシップを発揮できる人がいるってことか?」
葉山の一言に三浦は頷き、ルーム長はもう何でも良くなったのか目をキラキラさせて葉山の言ったことにうんうんと強く頷いている。
中間管理職の人が精神的にやむことが多いって聞くけどなんとなく分かった気がする。
「相模とかいうやつがいいんじゃね? いつも周りにはべらしてるじゃん」
それを三浦が言ってはお終いなのだがその一言で一気に空気は相模が実行委員をやると言う事に染まり、ほとんどの視線が相模に集中する。
「えーうち? ぜっったいに無理だってぇぇぇ~」
表情や身振り手振りで否定はするが心の底からは否定していないことは誰の目から見ても明らかだ。
本当に女子が否定するときは雪ノ下の様に冷たく、そして冷静に”いや”という一言だけを言い、それからはその人物に近づかないのだ。
ソースは俺。体育のペアであまり者同士で組もうとしたら思いっきりそう言われた。
「そこを何とか頼めないかな?」
葉山のダメ押しの一言に相模は腕を組んで考え出した。
「……まあ、他に人がいないなら良いよ」
葉山に頼まれたリーダーシップがある私、どう!? って言いたげな空気だな……でも、どことな~く嫌な予感がバンバンするのは俺だけか?
「じゃ、じゃあ今日は解散で……はぁ」
ぐったりした様子のルーム長の一声で一気にクラスの連中が立ち上がり、帰っていく。
相模ははべらしているお仲間たちに激励を貰っているのか嬉しそうに笑みを浮かべ、三浦はその様子を鬱陶しそうに見ながら由比ヶ浜と帰っていく。
そして俺は今日から始まる実行委員会が行われる教室へと向かう。
にしても実行委員か……そう言う仕事につくのは比企谷家料理委員会の委員を務めた以来だな。
委員会に宛がわれた会議室に入ると何故かさっきまで教室にいた相模が早速3人を新たにはべらして雑談していた。
…………まあ、最近俺の歩幅に合わせてくれる奴らと歩いていたからな。仕方がないか。
「F組っていったら葉山君のクラスだよね?」
「そうなのー。私、葉山君から委員も頼まれちゃってさ」
「すっごいじゃん! みなみちゃん美人で敏腕なんだね!」
「遥の方が美人だよ~」
甘ったるすぎて吐きそうだ……はぁ。平塚先生……もっと別の役職に押し付けて欲しかったっす。
俺はできるだけ相模の方を見ずに教室に入り、出来るだけ遠くの席に座る。
会議室は教室2つ分の広さがあるので別に詰めずに座らなくとも実行委員全員が座れるほどの座席があるので俺にとってはありがたい。
徐々に人が集まっていき、緩やかな雑音はやがて激しい雑音へと変化する。
「………はぁ」
その時、全ての雑音が教室から消えた。
全員が視線を傾けている場所へ俺も視線を向けると入り口には雪ノ下雪乃の姿が見え、音もなく静かに教室に入ると静かに座席に座った。
その後にプリントを抱えた数人の生徒たちと体育教師の厚木と何故か平塚先生が入ってくる。
……また新米がどうのこうのとかで任されたのか?
いい加減誰か貰ってやってくれ……そうすればあの人も新米という言葉に一喜一憂する必要はない。
プリントを抱えた数人の生徒が各人に配り始め、それを終えると1人の女生徒の方を見た。
「はい。じゃあ文化祭実行委員会を始めたいと思います」
肩まであるミディアムヘアーは前髪がピンでとめられており、見えているお凸は綺麗だ。
「生徒会長の城廻めぐりです。今年もみんなのおかげで文化祭が開けること、嬉しく思ってます。今年も楽しい文化祭にしましょー」
ほんわかしたあいさつの後、すかさずプリントを配っていた生徒たちが拍手し、それにつられて教室に拍手が沸き起こる。
「それではさっそくなんだけど文化祭実行委員長の選出に移りましょうか。誰かやってくれる人はいないかな~?」
誰も手を挙げない。
そりゃそうだ。あんな責任の塊みたいな役職を誰が好き好んでやるか。好き好んでやる奴は大体、スクールカースト上位者っていう相場があるんだ。パッと見、この教室に葉山や三浦のようなスクールカースト上位者っぽい奴は見受けられない。
「あ、あれ? 委員長をやると後々役に立つよ? 指定校推薦だったり、評定とかに書かれるからお得だと思うんだけどな~」
評価を餌にして釣れるのは中学生までだ。高校生になると変なプライドや羞恥心が出来上がってしまい、たとえ評価に繋がることだとしても自分から行くやつは少ない。
というよりも自分から行くやつは大体、クラスの催しの準備リーダーしてるからな。
ちなみにうちのクラスは演劇をするらしい。俺は出ないけど。
「えっと……ど、どうかな?」
チラッと城廻会長は雪ノ下を見た。
雪ノ下の優秀ぶりは上の人達にも通っているらしい。
とはいっても彼女も前に出るのはあまり得意じゃないらしく、その表情は芳しくない。
「あ、あの」
漂っていた静寂を切り裂くのは自信無さげな声。
「みんなやりたがらないなら私、やっても良いです」
声の主は俺とは少し離れた場所に座っている相模南。
「おぉ! じゃあさっそく自己紹介をどうぞ」
「え、えっと2年F組の相模南です。あたしこういう人前に立つことはあんまり得意じゃなくてみんなに迷惑をかけるかもですけどスキルアップというか自分を変えたいのでよろしくお願いします」
「いいよいいよ。自分磨きは必要だもんね」
自分を変えたければまずはクラスのルーム長をするべきだ。相模のようなことを言うやつは大体、今まで他人に押し付けてきたものは自分ではしたことがない奴が多い。
いきなりこんな責任が大きいことをすれば自滅する可能性が高い。ソースは俺。相模と全く同じ理由でとある行事の委員長に就任した……が、失敗に失敗を重ね、遂には解雇となった。
「委員長も決まったし、次は役職を決めようか。5分ほど時間をあげるから議事録の方に目を通しておいてね」
配られた議事録を開くと宣伝広報、有志統制、会計監査、記録雑務……などなど目を覆いたくなるほどの多くの役職の名前が書かれており、その頂点に実行委員長がある。
一番簡単そうなのは記録雑務だろう。宣伝広報はコミュニケーションスキルがないとだめだからバツ。
有志統制は指揮統制能力がないとだめだからバツ、会計監査は予算などの計算だろう。計算は得意だが問題が起きれば即、俺に責任の目を向けられるのでバツ。お金の恨みは怖い物さ。特にこういう行事でお金が足りない、不足したなどの問題が起これば運営にも影響する。
やはりここは無難な記録雑務だろう。
「じゃあ、ここからは委員長・相模さんに任せます」
「ええぇ~。もうですか?」
「うん。頑張ってね」
会長に言われ、渋り顔の相模が教卓に立つ。
「……え、えっとじゃあ役職を決めたいんですけど希望はありますか」
……こんな大人数の前で希望を募っていたら夜の6時までかかるぞ。
「相模さん。まずは役職ごとで決めようか」
「あ、はい。え、えっとじゃあ宣伝広報したい人」
ドンドン穴が開いた風船のようにしぼんでいく声に最後は聞き取れなかったんか誰一人として手を挙げない。
「宣伝だよ? いろんなところに行けちゃうよ? ラジオだったりテレビだったり」
めぐり先輩の助け舟もあってかチラホラと手が上がりだし、人数を確認して次の役職へと行く。
「つ、次は有志統制が良い人」
その瞬間、今まで猫を被っていたのかと言わざるを得ない程連中が勢い良く手を挙げる。
そのあまりの多さに相模は慌てふためく。
「多いな~。じゃんけんしようか、じゃんけん!」
めぐり先輩の指示の下、教室の後ろの方に集められた希望者がジャンケンを行い、その間に次の役職へと進んでいく。