やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー   作:kue

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第30話  俺のボッチは不変である

 ここで突然ですが問題です。この世界には貯まれば貯まるほど人生が楽になるものはいっぱいありますが貯まれば貯まるほどうげぇ~と言いたくなるものはなんでしょう。

 …………正解は仕事だ、この野郎。

 翌日の放課後もいつものメンバーで仕事をこなしている。

 状況を察してか葉山もボランティアという形で委員会の運営をヘルプしてくれていることもあり、状況はさほど変わってはいないが気持ち的には楽だった。

 が、いつものメンバーに今日は雪ノ下がいない。

「雪ノ下さんいないね。ねえ、比企谷君」

「知りません……ていうか俺があいつと連絡とると思います?」

 そう言うとめぐり先輩は意外そうな顔をして俺の方を見てくる。

「2人って結構、親密そうに見えたんだけどな」

 あいつと親密になる=この世の終わりだ。

 それくらい、俺とあいつが親密な関係になることは無いと言う事だ。

「さっさと働けー!」

「それはお前のことじゃー」

 ノックもないドアの開閉と同時にそんな叫びが聞聞こえたのでノリよく傍にあった消しゴムを投げてやるがどこの最強キャラだと言いたくなるくらいに平塚先生は華麗に2本指だけで消しゴムをキャッチした。

「ふん!」

「おっふぅ」

 2本指でキャッチした消しゴムを凸ピンで飛ばすと何故か俺の凸にクリーンヒットした。

 あの人が凸ピンで飛ばすものは全て俺に当たるのか……いったいどこの悪魔の実の能力者だ。

「と、おふざけはここまでにして調子はどうだ」

「全身がピキピキひび割れてます」

「うむ。絶望一歩手前と言う事か」

 いや、だからなんで分かるんだよ。葉山なんかもう反応すらしてないんだぞ!

「で、どうかしたんすか?」

「あぁ、雪ノ下が休んでいる運営を少し手伝おうと思ってな」

「あいつ休んでるんすか?」

「あぁ。風邪をひいたらしい。本人から連絡を貰ったんだが……比企谷に後は任せろと言われたんだが」

 それを聞いて俺は昨日、あいつからコピーデータが入っているUSBを受け取ったことを思い出し、慌ててポケットから取り出して備品であるノートPCに差し込み、データを開けると彼女が打った全てのデータがそこには収められていた。

 ……補佐の補佐ってそう言う事か。

「一応、あいつが打ったデータはありますが」

「……よし。比企谷君!」

「は、はい」

 めぐり先輩から大きな声で名前を呼ばれ、思わずキョドりながら反応する。

「当分の間、君を運営雑務最高責任者(仮)に任命します!」

 ズビシィ! と音が出るんじゃないかと思うくらいに勢いよく指を刺された。

 ……ゲーム制作部(仮)が出てくるあのマンガ、俺結構好きだぜ……チャックボーンは1度、遭遇してみたいものだと思っているが……。

「はぁ? いやいやいや……おかしいでしょ」

「運営に必要なデータは君が持っているから君に動いてもらわないと困るんだよぉ~」

 ウルウルと涙目のめぐり先輩のスターライトシャワーをもろに食らい、俺のボッチ力は大幅に削られるだけでなく生徒会メンバーからの連続スターライトシャワー、さらには葉山からの「ま、頑張れよ。応援してるぜ!」的な感じのウインドブラスターソニックを食らい、俺の体力は尽きた。

 比企谷八幡の手持ちには戦える奴がいない! 目の前が真っ暗になった! お小遣いが半分になった!

「…………今度、ラーメン奢ってやろう」

 最後の平塚先生による静かの尾を使用され、俺のライフは復活した。

「…………な、何とか頑張ります」

「よーし! 頑張るぞー!」

『おー!』

 生徒会メンバー、および葉山達が声を上げながら拳を突き上げる中、俺だけ突き上げていないのでめぐり先輩のチラチラ見てくる視線が痛い。

「お、おぉ~」

 こうして実行委員会は類を見ない程活性化していくことになる。

「会計監査未処理事項です!」

「そんなもん数学の教師連れてきてやらすんだ! 宣伝広報の未処理事項は!?」

「たった今、連絡がつき、今すぐ来させます!」

「有志団体のまとめは!?」

「ヒキタニ君が今」

「(仮)!」

「今打ち終わりました」

 お前たちはどこの修造だと突っ込みたくなるほど、生徒会メンバーに火が付き、葉山もそれにつられてか腕まくりをし、右往左往忙しそうに動き回っている。

 俺は積み上げられていく雑務を淡々とこなし、入力が必要なものはキーボードをたたいて入力し、次々に終わらせられていない仕事を終わらせていく。

 それといつの間にか俺の名前が(仮)になっている……今、人生で一番酷いあだ名をつけられている気がする。

「遅れてすみませ~」

「次!」

「宣伝広報の責任者現着!」

「よし! やれ!」

 のほほんとやってきた責任者は見たことがないほどの熱気にあふれている委員会メンバーを見て一瞬硬直するがすぐに椅子に座らされ、未処理の仕事を渡された。

「収支報告ミスアリ!」

「ひきがやぁぁぁぁぁ!」

「や、やり直しますからダブル凸ピンだけは」

 平塚先生の叫びに肩をびくつかせながら新しい収支報告書を受け取り、最初から計算して修正し、メンバーに手渡すと同時に新たな仕事を受け取り、終わらせていく。

 …………あぁ。悲しきかな……悲しきかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わりました」

 エンターキーを叩き、保存を完了してUSBに移した瞬間、そう言うと会議室内はそれぞれの息切れによって変質者の会議かと突っ込みたくなるほど「ハァ、ハァ」という音に満たされた。

 結局、何故か全ての担当部署の責任者が集合したどころか数学の教師までもが引っ張ってこられ、初期の頃の会議室にいた人数の半分程度の人数が集まった。

 ふと時計を見てみると時間はまだ最終下校時刻の1時間前。

「終わった……いつも君たちはこんなことをやっていたんだね」

「こんなもん毎日やってたら全員倒れてるわ。今日がおかしかったんだ」

 グタァ~と背もたれにもたれ掛かり、葉山に突っ込んでいると急にガタッ! という音が聞こえ、そちらの方を向くとめぐり先輩がムンクの叫びみたいな顔をしていた。

「どうしたんすか」

「……文化祭のスローガン忘れてた」

―――――タララタラララ~ン。

 どっかの赤帽子を被った冒険者のゲームオーバーの効果音が教室内に響き渡った気がした。

「それって必須事項なんすか?」

「うん。毎年大々的に掲げてるからスローガンがないと……」

「葉山。相模呼んできてくれるか」

「あぁ、分かった」

 葉山に委員長を呼んできてもらうまでの間、ここにいる全部署の責任者にメンバー全員を呼んでもらうようにめぐり先輩に言ってもらい、俺達は全員が集まるまでの間、しばし休憩。

 こんな状態で頭働かねえぞ……ぐへぇ~。

 5分後、全員集合とはいかなかったがとりあえず委員長とその他部署のメンバーは大体集まった。

「じゃ、相模さん。よろしく」

「は、はい……じゃ、じゃあ委員会を始めます。今日の議題は文化祭のスローガンについてなんですが……何か意見のある人」

「相模さん。紙を回してくれるかな」

 さっきまでの暴走の影響か、ぐったりとしている会長にいつもの勢いがなく、雪ノ下という頼れる補佐がいない相模は少し戸惑いながらも委員会を進めていく。

 ちなみに俺は議事録作成をしなくてはいけないんだがそんなことできる余力など残されていないのでスマホで録音している。

 5分後、全ての紙を回収し、よさげなスローガンをホワイトボードに書いていく。

『ONE FOR ALL』

 1人はみんなのために、皆は1人のために……言い換えれば1人の責任はみんなの責任。皆は1人のために働きましょう……そんな感じだ。よく入学式初日などでこの言葉が出てくるがそれは良い面しか出していないものであり、卑屈で偏屈な奴からしたら厄介この上ないのである。

 何か失敗したら皆が責任を取らされる。するとみんなからバッシングを受ける……ふぅ。

「ん~。良さそうなのはこれくらいかな」

 相模を連れてきてくれた葉山も良さそうな表情をしている。

「じゃあ、うちの方からも一つ」

『絆~ともに助け合う文化祭~』

「うわぁ~」

 思わず声に出してしまい、慌てて口を瞑んで周りを見てみるが全ての視線がこちらへ向けられている。

「何? 何かおかしな場所でもある?」

 自分が出された案にそんな批判が出るとは思っていなかったみたいで相模は頬をヒクヒクさせながらこちらをジーッと睨みつけてくる。

「文句があるなら言ってよ」

 チラッと平塚先生の方を見ると目でさっさと言えと訴えかけられた。

「いやさ……どの口が言ってんだよって」

「どういう意味」

 相模はあからさまに怒りを露わにし、俺にぶつかってくる。

「お前、実行委員長の癖に委員会に来てないこと多かったし」

「それはクラスの方に顔を出していたからで」

「じゃあお前はクラスで先頭に立って準備してたのかよ」

「それは……あ、あんただって」

「俺はこの足だから委員会でしか頑張れない。別にクラスに顔出すなって言ってるんじゃなくて委員会に全く顔を出さないのはどうかって言ってんだよ」

「いや、お前がいうなよ」

 そんな声がポツリと小さく聞こえたかと思えばそれは徐々に教室中に広まっていき、全員の視線が俺に一気に集中しだす。

「委員長の仕事しながらクラスのことも手伝ってるんだから別にいいだろ。委員会のことしかしてないお前が言えるしかくないと思うけど」

「そうだよね。片足しかなくてもやれることいくらでもあるよね」

 全員のそんな冷たい視線と言葉が俺に突き刺さり、過去のトラウマがフラッシュバックし、心臓の鼓動が早くなるのが自分でもわかり、額から嫌な汗がドンドン出てきて手も震えてくる。

 ……落ち着け……落ち着くんだ。

「委員長気にしなくて良いぞ~」

「そうだよ。さがみんは頑張ってるよ~」

 そんな応援がかけられていき、相模の体力が回復していくのに比べて俺の体力はまるで毒に犯されているかのように少しずつなくなっていくと同時に手の震え、汗、動悸がどんどん上がっていく。

 大多数からの批判、冷たい目線がある中で攻撃…………あれはもう過去だって割り切ったはずだろ。

「こらこら。みんなそんなこと言わないの! 彼だって何もしてないわけじゃないんだから」

「謝った方がいいんじゃね~の」

 めぐり先輩が止めに入る中、その言葉が俺の胸に深く突き刺さり、由比ヶ浜のプレゼントを買いに行ったあの時の出来事と過去の出来事が同時に頭の中で再生されていく。

「謝れよ~」

 男子の面白そうに煽る声の跡からクスクスと小さな笑みが俺に覆い被さってくる。

 落ち着いていた呼吸が嘘の様に乱れに乱れ、呼吸が小刻みになるのが自分でもわかる。

 なんとかしようにも余計に過去のことがフラッシュバックする。

「おい、いい加減にしろ! お前たちはここに」

「ごめ……んなさい」

 平塚先生の怒鳴り声が発せられた直後、俺のか細い声が教室に響き、クスクスと俺を卑下する汚い笑いがそこらから噴出する。

 会議室の空気はドロドロとした嫌なものへと変わり、時計の針が動く音が大きく教室に響くほどの静けさに変化している。

「はいはい! スローガンについては各自考えてきて明日、また話し合おう。今日は解散」

 そんな空気を打ち破るめぐり先輩の声により、ようやく椅子が動く音が聞こえ。次々に会議室から出ていくがその間に誰も喋る人はいない……数人を除いて。

「ねえ、さっきの聞いた?」

「聞いた聞いた。謝るくらいなら調子乗るなって話だよね」

「さがみん、気にしなくていいよ」

「う、うん」

 わざと聞こえるように喋っているのかはたまた違うのか、それは分からないがあいつらの声だけが異様に会議室に反響する。

 教室から人が減っていく度に俺の体調は元に戻っていき、先生が心配して近づいてきてくれるころには既に本調子に近いものに戻った。

「比企谷、大丈夫か。顔色が悪いぞ」

「……大丈夫です」

 袖で額の汗を拭きながら平塚先生にそう言う。

「雪ノ下は風邪っすよね?」

「あ、あぁそうだが」

「……見舞いでも行ってきます。由比ヶ浜と一緒に」

「あ、おい比企谷!」

 先生の静止を聞かずに教室を出て少し離れた所で壁に寄りかかる。

 ………何俺は調子乗ってんだか……優秀な雪ノ下とリア充な由比ヶ浜の近くにいすぎたせいで俺がボッチであることを忘れたのか……ボッチ失格だな。人と関わらない、人と付き合わない、人に毒されない……俺が掲げたボッチ三原則を忘れるなんてな。

 そんなことを思いながら由比ヶ浜に連絡をする。1コール、2コール……もう切ろうかとした時。

『も、もしもし』

「あぁ、由比ヶ浜か。俺だ」

『ど、どうしたの? そっちから連絡くれるなんて』

「今日、雪ノ下が風邪で休んでるって知ってるか」

『……知らなかった』

「お見舞い……行くか」

『オッケー! 校門前で待ってて! すぐそっち行くから!』

 そう言うと通話は切れ、プー・プーという無機質な音だけが向こうから聞こえてくる。

 ……そう言えばあいつ、雪ノ下の家知ってんのかな……まぁ、俺の知らないところで交流してるみたいだし知ってるだろう。

 そう結論付け、俺は校門へと歩いていく。


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